無事にバクレツアロワナを釣り上げることが出来て、アークは現在、泡立つ滑液を探している。
泡立つ滑液を持つのは、泡狐竜ことタマミツネという海竜。雄は桃色の錦のような持つ、妖艶で美しい竜だ。
海竜種であることもあり、主食を魚としている。イフウ村近くの川は主にサシミウオとバクレツアロワナが生息しているため、必然的にその二種が主な食糧となる。
「……ん、居た居た」
川に沿って上流へ向かい歩けば、少し開けた場所がへと出る。そこでは、1匹の雄のタマミツネが悠々と魚を食んでいた。
周囲は泡にまみれている。ここがそのタマミツネの縄張りであることがよく分かる。
アークは空きビンを片手に、あまりタマミツネを驚かさないように静かにそばへと寄った。
タマミツネはアークに気がついたのか、のそっとアークのことを見つめている。
アークはしばらくタマミツネと見つめあった。
『………』
「………」
無言で見つめ合う。川でサシミウオが跳ねたのを、タマミツネはノールックでパシッと爪で捕らえた。器用な奴である。
しばらくの無言の後、アークのほうが口を開く。
「あー……オマエの泡を少し貰っていくだけだ。僕はオマエに危害は加えない」
若干上から目線がちな口調だが、恐る恐るそう尋ねる。
『………キュウ』
すると、タマミツネは小さく返事した。そのまま先程爪で捕らえたサシミウオを食みだした。
「そうか、分けてくれるか。ありがとう」
まるで言葉がわかったかのように礼を言うと───いや、実際分かっているのだが───アークは滑液を汲んだ。
このタマミツネ、というよりもイフウ村近くの泡狐竜たちが人慣れしているためか、元々の温厚さも相まってとてものんびりとしている。
少なくともイフウ村の者なら、起きてぼんやりしている泡狐竜の尾を子供が1人で撫でても何も問題ないくらいには温厚だ。
さてこれで、あとは怪鳥の鱗のみとなる。怪鳥ことイヤンクックはタマミツネのように温厚では無い。
いや他の地域と比べると遥かに温厚な気質だが、流石に近寄って触るなどすると軽く唸られる。
ボーンホルンこそ持っているが、装備は標準的な見習い用のもの。ユウが『イノカゼ装備』と言ったその装備は、どちらかと言えば耐水性に長けている。そのため、火に対する耐性は並程度。もしもイヤンクックに火炎をかけられてはたまったものではない。
そもそも、アーク自身が火はあまり好きではない。闇に無理やり光を灯すそれが、自分では無い光が、なんとなく好きになれなかった。
「……なあ、怪鳥を知らないか」
何を思ったか、アークはタマミツネへと尋ねる。
それはヒトの言葉なのだから、普通、竜に通じることはそうそうない。それこそ、絆で繋がった乗り人と供である竜出なければ。
だが、アークはかつて天廻龍だったモノだ。真白の龍により人の生を与えられたものだから、純粋な人間なのかは分からない。
その声には、竜や獣のみ聞き取れるような音がある。それが、竜の耳へと届くのだ。
『クゥ……キュウイ』
泡狐竜は「最近見ていないな」と答えた。それにアークは「そうか」と言い、仕方がなく、怪鳥の好物である盾虫がよくいる方へ行くことにした。
青空に、鳥のような啼き声が響いていた。