桜の雲 ミッドナイトの超常   作:十二の子

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ハクタク零号計画/蒐集物第一九二〇番

計画名 ハクタク零号計画

 

立案年 大正元年

 

立案者 加藤大尉

 

目的 

 

 帝国の隆盛は先年の対露戦勝、朝鮮半島併合により増々のものとなっている。しかし昨今の情勢は不安定であり、バルカン半島での紛争は愈々西洋列強の勢力図に影響を与えしめんとしている。極東超常世界に於いても、青島への独逸帝國異常事例調査局の進出、中華異学会の衰退及び関東軍による満州放逐とツァーリの賢人団侵入など、情勢は予断を許さない。

 

   本計画は、時空遡行機械の開発により、日本本土、台湾、朝鮮に続く帝国の版図として移ろいゆく情勢の変動すなわち時間軸そのものを帝国の支配下に置き、帝国の隆盛を永遠のモノとするとともに、超常世界に存在する過去改変・現実改変能力に対抗せんとするものである。

 

 時間遡行は時間軸から見れば現実改変でもあるため、現実性による修正力が働く。此を回避するため、激甚なる人災を発生させるとともに特殊紙幣に依り帝国経済を支配、時間軸をハクタク零号計画に依存するように結び付ける。

 

資産 

 

 ・浅草公園地下、及び近傍の桜大樹。

 

 ・発明家伏倉万斎(当人は超常専門家ではないが、ハクタク零号計画の遂行過程に超常の知識は不要であり、騒動の原因とならない民間発明家でありながら先入観なく高度な発明を行える得難い人材である)。

 

 ・地熱発電所 別府向ケ原の地で買収せしめたる地熱発電所により地底のマグマ、断層を刺激、大震災を誘発させる。

 

 ・偽札数億円。

 

 ・憲兵数百名。

 

 ・時空遡行装置開発に必要な人員、物資および資金。

 

 多分に非合法非倫理的であり帝都の破壊を含む本計画に、当然ながら異常事例調査局は紛糾し、加藤憲兵大尉の処刑論まで出る有様であった。しかし、「時空遡行技術の開発が可能である以上、帝国が時空遡行技術の開発を行わなければ、早晩帝国の敵対勢力が時空遡行に依り過去改変を行い帝国を崩壊させないとも限らない」という観点を鑑み、計画は実行されることとなった。

 

結果

 

 ハクタク零号計画は成功したものと思われる。何故ならば帝都に突如現れた青年風見司は百年後の人間であり、彼の証言は百年後に於いて浅草の地で我々の時空遡行装置が機能している証拠となるからである。ただし彼は異常事例調査局局員ではなく非超常世界の一般人であること、「アララギ」を名乗る時空遡行装置疑似人格が時間軸の修正を試みて出現していることから、百年後の帝国の盤石は保証されておらず、時空遡行装置の改良及び未来への介入が必須である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風見司、チェリィ探偵事務所、不知出財閥、蒐集院の工作活動に依り、時空遡行装置独立型タイムマシン4号乙型は破壊され多くは焼失した。残骸の大部分は蒐集院に、一部は財団、世界隠秘学連合に流出したものと思われる。加藤大尉の消滅と大尉の工作機関の崩壊、そして開発者である伏倉万斎の士気低下(当人の頭脳は常人には理解不能であり、強制や懐柔は不可能とみられる)に依り、時空遡行装置の再開発は困難である。

 

 加藤大尉の消滅の原因は時空遡行に伴う矛盾(パラドックス)であるとの報告が不知出財閥から神椥一族を通じてなされたため、彼らの計画破壊は時空遡行の副作用を案じた義挙であると判断し、追及を禁止する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「独立型タイムマシン4号乙型」(蒐集物覚書帳目録第一九二〇番)

 一九二〇年捕捉。研儀官真霧影虎発見。所在地は浅草であり封鎖は困難だが、現状を鑑みるに無力化している可能性高し。

 

 此は、桜の樹を固定座標として用いるタイムマシンなり。形状は一般の桜であり樹齢は数百年を超える。また「アララギ」という名前の疑似人格を持つものなり。

 

 桜に触れし者を時間跳躍させしむることが可能。詳しい原理に関しては開発者伏倉万斎から押収せる論文の解読を急ぐものの、極めて斬新な仮説かつ難読なる速記文字のため理解は現実的にあらず。

 

 当該蒐集物は大日本帝国異常事例調査局加藤機関の開発せるもので、原型は二一一二年より「魔人加藤」とともに到来せり。捕捉時にはすでにチェリィ探偵事務所及び未来人風見司に依り破壊され、現在蒐集しているものは桜の樹及び破片なり。事件経緯については、別紙にて添付の異常事例調査局文書を参照のこと。

 

 大正九年 風見司の未来帰還を確認、完封を宣言す。

 

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