処女作ではありますが、少しでも楽しんで読んでもらえたら幸いです。
では、どうぞ!
*加筆して旧一話二話をまとめました。あまりにひどい出来だったので……。
*時間が出来たら大幅に修正いたします
友人が挿絵をかいてくれました。
随時追加予定です。彼のピクシブのページは私のマイページにアドレスを張っておきますので興味がある方は是非! 随時追加予定でございます。
第一&二話 プロローグ
『アイドル』は好きか、なんて話は幾度となく繰り返された他愛もない世間話ではあるが、もし仮にそう聞かれたらなんと答えるだろう。
好き!大好き!!なんて一切の曇りのない瞳で自己主張する友人もいれば、全く興味のない友達もいる。少なくとも【彼女たち】と出会う前の俺は迷わず「No」と言い切っていたのではないだろうか。
別段アイドルを嫌っていたわけじゃない。人気アイドルグループの歌う流行りの曲を口ずさんだりもするしTVの音楽番組だって好んで見たりもする。
プロモーションビデオを見て可愛いなあなんて思ったりもするし少年誌のグラビアだって一通り目を通す。それでもどこか苦手意識を持っていたのは、多分、なにも分からなかったし知らなかったからなのだと思う。
彼らは、彼女らはなぜ。
なぜ笑う。
なぜ踊る。
なぜ惹きつける。
その笑顔はどこから。
その元気はどこから。
その魅力はどこから。
何も知らなかった俺は得体のしれないそれに、すこしばかりの嫌悪感をいだいていた。もっとも今でもアイドル全般が好きってわけではないけれど……。
でももし仮に今この瞬間同じ質問を問いかけられたとしたら俺は自信をもってこう答えるだろう!
『俺は……μ’sが、だーーーいすきだ!!!!』
***
季節は春。まだ少し肌寒いこの季節の夜。今日も今日とて作戦会議が開かれていた。
目の前にいるのは二人の女の子。表情といい容姿といい対極的だ。
向かって左手に行儀よく正座しているのは絢瀬絵里。
日本人離れしたプロポーションに(実際ロシア人のクォーターであるのだが)目鼻立ちのくっきり整った顔、意志の強そうな大きくて蒼く澄んだ目を長いまつげが縁取っている。薄桃色の唇を固く引き結び、悩みごとの多い彼女らしく眉根を寄せて真剣な顔をしていた。
もっと愛想よくしてれば可愛いのに……もったいないの一言に尽きるよな。
そして、その横にちょこんと女の子座りしているのは東條希。
スレンダーで凛々しい印象を受ける絵里とは対照的に彼女からは柔らかな、女の子らしい印象をうける。目じりは優しげに下がり、アメジスト色の瞳はまるで妖精のようだ。彼女もかなりの美少女であるが特筆すべきはその胸! 胸!!
ニット越しでもわかる大きなバストに知らず知らずのうちに目がいってしまうのは仕方のないことだろう。不可抗力って言葉の意味を、この子の前に立てば実感できるはずだ。
「……」
「どこみてるん~?」
「あなたねぇ……」
突き刺さる非難の視線。希はからかうように、絵里は呆れたように口を開く。
はっ、いかんいかん。ふっつうに凝視してたわ!
「ごめんごめん。で、何の話だっけ?」
「もう真面目な話の途中なんだから集中してよ」
いわゆるジト目でこちらを見つつトントンっと机を叩き注意を促す絵里。
「だから、音ノ木坂廃校を阻止するために何をすればいいのかって話」
そうだった。ここ連日三人で議論し続けているのはこの話題だ。
国立音ノ木坂学院。絵里と希の通う女子高である。近年少子化などの影響に加えUTXなどの素敵私立高校の台頭によって著しく新入生が減少しているらしい。
二人は音ノ木坂の生徒会長と副会長であり、その立場ゆえなんとか廃校を阻止するため日々頭を悩ませているのだ。
もっとも――彼女らとは別の高校に通う俺にはあまり関係のない話なのだが。
「うーん、結構考えてはみたんだけどなぁ。半年程度で翌年の受験者を増やすとなるとなかなか難しいものがあるだろ。なにかしらの方法で音ノ木坂の知名度を上げるのが手っ取り早いけど別段他の学校より飛び抜けてる部分があるわけじゃないし……」
「それはそうだけど……」
音ノ木坂学院は歴史の長い学校でありそれゆえ良くも悪くもあまりにありふれた学校であったのだ。一応進学校ではあるが最高レベルでもなく、自主性を重んじる校風ゆえか厳しい部活などもなくそれらの成績もふるわない。
しょーみ無理やん!!
経営陣今まで何しとったんや!!
なんて希ばりのエセ関西弁で叫びたくて仕方がない。
が、しかし。
絵里にはどうしても音ノ木坂学院を守りたい理由がある。
それはOGである祖母のためであり、音ノ木坂への入学を希望している妹の亜里沙ちゃんのためであり、そして生徒会長としての義務感でもあり……。
すくなくとも誰かのために頑張っている幼馴染が苦しんでいる所をほっとくわけにもいかないだろう? だから微力ながらこうして連日相談に乗っている訳なんだけど。
むろんあまり結果は芳しくない。というよりかは考えれば考えるほど現実の厳しさを突きつけられるんだよな! 人事を尽くしたところでどうにかなる問題じゃないのではないかと思い始めたほどだ。
口に出しては言わないけれどね。怒られるし。
「よしよし、そんなに落ち込まんといてエリチ」
希がポンポンっと絵里の頭をなでる。
「そうだぞ、元気出せ。かしこい可愛いエリーチカ」
とりあえず俺もうなだれて悲しそうな顔をする幼馴染を気にかけ、労いの言葉をかけた。
「もう!その呼び方はやめてって言ったでしょ海菜(かいな)!」
「そうだよ、古雪君。エリーチカ嫌がってるやん?」
おお、天丼。やるな希。
「もう! 希まで!」
「了解チカ。希はなんかいいアイデアあるチカ? ……痛い痛い! わかったごめんて絵里!」
生真面目な絵里が本気で怒り出す前に話を元に戻す。
「せやね~、……アイデアというより面白い子達がいるんよ」
「面白い子達?」
何やら嬉しそうに、いたずらっぽく瞳を輝かせながら話し始める希。
相変わらずこの娘は妙に余裕があるよな。などと少し関心しつつ続きを促した。
「そう。二年生の三人組でね、私たちと同じで廃校を防ごうと頑張ってくれているみたい」
「へえ、どんな方法で?」
一体どんな手段でもって現状を打開しようとしているのだろう?
純粋な興味と、そんなうまい話なんてあるわけないなんていう疑いの両方を込めて聞いてみた。が、返ってきた答えは予想すらしないものだった。
「スクールアイドル、よ」
希の口から飛び出した聞きなれない単語に少々面食らう。
「なんそれ?いや、なんとなく想像できるけども」
言葉面だけ見て判断するとしたら学校のアイドル、ってことになるから……。
いや、うん。学園祭の出し物みたいなイメージしか出来ないわ。よくある、お世辞にもうまくないダンスを祭テンションでステージ上で披露する感じのアレでしょ。友達が観客席からめっちゃ大声で名前呼んであげる奴ね! なんだかんだ盛り上がって楽しいといえば楽しいんだけどさ……。
だけど、どう考えても廃校寸前の学校を救う手段にはなりそうにない。むしろ踊ってる暇があるなら劣ってる部分を改善すべきじゃないのかな
あ、今軽く韻踏めてたよね、踊ってると劣ってる。
……
「UTXに所属しているA-RISEってきいたことない? 最近有名になってきたし名前くらいは聞いたことあるとおもうんやけど」
ニヤニヤしている俺を不思議そうに見て小首を傾げつつも相変わらずのエセ関西弁で聞いてきた。
体つきはグラビアアイドル顔負けのプロポーションなのに仕草は小動物系なんて、反則だろ。
取り留めもないことを考えつつも脳内検索をはじめる。
「あぁ、名前だけなら知ってる。クラスの連中が話してるの聞いたことあるし。そのA-RISEがどうかしたのか?」
「これを見ればわかるよ」
といって希は自分のスマホを少し操作した後、机の上に置いた。どうやら動画を再生するらしい。よく見ようと身を乗り出そうとしたとき、ふと絵里の様子が気にかかった。不機嫌そうにそっぽを向き、眉に深い皺を寄せている。こちらに近寄る気も見る気も全くないようだ。
「絵里、こっちきて一緒に見ないのか?」
「……見ないわよ。そんな下らないモノ」
うむ。
なにやら彼女はえらくご立腹らしい。割と冗談抜きで。
「古雪くん、再生するよ~」
希も俺同様机の上に乗り出してくる。彼女の髪からもしくは体からごく薄い香水のようなよい香りが広がり、鼻腔をくすぐる。なんというか、うまく言えないけど女の子って……反則だよな。まじスピリチュアル。
目を閉じたくなるような感覚に抗いながら画面のほうに視線を落とす。絵里のことも気になるが、希がそれを気にしていないということはおそらく彼女の不機嫌さの要因はこの動画にあるのだろう。ひとまず目の前の電子媒体に集中することにする。
再生ボタンを彼女の指が押した途端、それは始まった。
画面に三人の高校生くらいの女の子が現れる。
向かって左はゆるくパーマのかかったセミロングの、お嬢様風の美少女。
栗色の前髪の下から除く笑みの溢れる、いい意味で甘ったるい眼差し。
悩ましいまでに柔らかく女らしい彼女の表情。スタイルも希とおなじくらい。つまりボッキュッボーンだ。最高。
いうなればドストライク。
向かって右は長い黒髪と切れ長の目を持ちクールな雰囲気を漂わせる女の子。
美少女というよりは美人と表現したほうが適切だろうか。冬の空の星の瞬きのような優しくてそれでいて鋭い、そんな視線を湛えている。目元にある泣きぼくろも彼女のセクシーさを際立たせていて……前に述べた子を妹とするなら是非俺はこの子を姉にしたいと思った。
切に。
Yes。ドストライク。
そして最後はセンターのショートヘア、デコだしルックの活動的そうな女の子。彼女の存在感は3人の中でも群を抜いていた。背も一番小さく、特別な恰好をしているわけでもなく、奇抜なポーズなどで目立っているわけでもない。彼女は画面の、ステージの、俺の視界の真ん中(センター)にただ……立っていた。
その表情に浮かぶのは『自信』のみ。
見るものすべてを魅了するような……。
わざわざ言葉に出す必要もない……そう。ドストライクだ。
と、まあ動画が始まって数秒位はこんなふうにふざけた感想を頭の中で走らせ楽しむ余裕があった俺だが、彼女らが踊り始めたとき、歌い始めたとき、視覚が、聴覚が、思考のすべてが。
彼女ら【A-RISE】に奪われた。
結論を言ってしまおう。
『圧巻』
の一言に尽きる。
彼女らの歌声が、ダンスが、表情が、そして視線が。すべてが力をもって俺の中の何かを刺激していく。いいようのない高揚感が体を包み込んでいった。
***
「すっげえな」
動画の時間にしてたった五分。やっとのことで絞り出せたのはまるで幼稚園児のような感想だけ。でも実際本当にすごいと思ったんだよな。
「そう、これが今話題の『スクールアイドル』の頂点に立つグループ『A-RISE』なんよ」
なるほど、やっと希の、というよりかは彼女の言う【面白い三人の子達】がやろうとしてることがわかった。スクールアイドルとは学校ごとに結成したアイドルグループ。その名前を世の中に知らしめることで音ノ木坂の宣伝に利用しようといったところだろう。
「言わんとしていることは分かった……。いや、わかるけども!」
そこで少し一呼吸置き、純粋な感想を口にする。
「さすがに安直すぎないか?」
「え~、そうかな~?」
希はころころと楽しそうに笑っている。
「……でも、面白い」
うん! 面白い! すっげえ面白い!!
普通そんなこと考えないし考えたとしても実行に移す学生なんかいるわけない。でもこの話を希が持ってきたと言うことはおそらく、そんなばかげた夢を語る女の子が本当にいるのだろう。俄然その子に会いたくなってきた!
なんて、内心テンションが凄まじい勢いで上昇していたその瞬間。
幼馴染がめったに見せない暗く冷たい表情でいい放った。
「面白い?どこがよ。あんな子供騙しのダンスなんかで音ノ木坂を救えるわけない」
一気に部屋の空気が凍り付く。
……
「エリチ」
心配そうに自分を見つめる親友をよそに、絵里は俺たちのどちらとも目を合わせずに自分のカバンを持って立ち上がった。
「ごめんなさい。今日はもう帰るわ」
言い終わるが早いか、絵里は俺がとめる間もなく部屋から出ていってしまう。一階でお袋が絵里を呼び止める声が聞こえたが、それと同時に玄関のドアの閉まる音が聞こえた。あの礼儀正しい堅物生徒会長があそこまで腹をたてるなんて。
うーん。不機嫌さの理由はなんとなく想像はつく。
いわゆる絵里はダンスのプロだ。俺だってだてに幼馴染やっていないし、彼女が幼い時からバレエを習っておりその実力が国内でもトップレベルなことくらいよく知っている。おそらく絵里から見れば高校生の少しかじった程度のダンスなど、とるに足らないものであり稚拙に見えてしまうのだろう。
あるいは学校を救おうと一生懸命であるからこそ、自分の価値観にはない『アイドルとして有名になって学校を救おう』なんていう夢物語に反発してしまっているのかもしれない。
「はあ、あの生真面目さは相変わらずだな」
「ほんとエリチはめんどうくさいんやから」
辛辣な言葉とは裏腹に優しく希は笑っている。全く、エリーチカには出来すぎた友達やで。
「それで、一体俺は何すればいいわけ?」
「古雪くんならもうわかってるやろ?」
もちろん。分かっている。ちょっと言ってみただけだよ。俺のやるべきことは……
たった一つ。
『絵里の味方でいてやること』
それだけだ。
きっと希は絵里にそのスクールアイドルとやらになって欲しいのだろう。
これからはそうなるようにアクションを起こしていくだろうし上手くいけばそれでいい。
でもそれは絵里にとっては親友が自分とは違う意見をもってしまうという事実に他ならない。ただでさえ自分一人で抱え込むことの多いあいつのパンクしそうな石頭を隣で小突いて緩めてやる人間が一人は必要だ。
もちろん希が頑張ってくれているのにただ絵里の相手をするだけで、それ以外なにもしないってわけにはいかない。
いずれにせよ学校を救う手段が『スクールアイドル』という奇跡でしかかなわないのなら、そいつに携わるのも悪くないとも思うし……。
「まあ、わかってるけどね。てか絵里がスクールアイドルになりたがってる、もしくはなるなんてよく分かるな。女同士にしかわからないこともあるのかな?」
ちょっとだけ真剣に聞いてみる。
俺はそれが本当に不思議でならない。
希は絵里が本当に嫌がることをやらせようとはしないはずだ。でも今はまだ本当にスクールアイドルが嫌いなのか、もしくは反発しているだけなのか判断はつかない。
だとしたら、決めつけて行動するのは気がひけるんだけど……。
そう問いかけると彼女は得意げな顔でこう答えた。
「カードがそう言ってるんや!」
はぁ。
思わずでっかいため息をついてしまった。
「へいへい。スピリチュアルやね」
「あ~!古雪くん信じてへんやろ~」
不満そうに唇を尖らせる。
容姿大人っぽいのに仕草が子供っぽいって……卑怯よね。
「信じれるか! ま、いっか。 ……その、なんていうか」
「うん?」
「……うちの幼馴染が世話になるな」
希は少しの間驚いたように目をぱちくりさせ
こぼれんばかりの笑顔とともに口を開いた。
「ええんよ、親友やからね!」