ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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第二十七話 破った約束と守る約束

 

「希の事なんだ」

 

 俺は横に座る絵里とまっすぐに見つめ合った。これからする話はとても大事なもの。俺と、彼女両方に関係する大切な女性の話題。希、という名前を口にするだけで喉元に焼けるような熱さを感じる。そして自然と頬が熱を持ち、意図せず視線が揺れた。

 

 どうしたの?

 

 絵里は視線で問いかけてくる。

 不意に出た親友の名に驚いているのか、大きな瞳をより一層見開いていた。見慣れたサファイアに、見慣れない自分の表情が写り込んでいるのを見る。ったく、なんて顔してんだろうな、俺は。

 

 

――希が俺のことを好きかもしれない。

 

 

 二十文字にも満たない、口にすれば五秒で済む一言。

 

 しかし、上手く口が開かない。唇は乾き、声を発すること無く俺は静かに奥歯を噛み締めた。

 

「…………?」

 

 小首を傾げる動作が目に入る。

 ごめん、絵里。チョットだけ待ってくれ。

 軽く頭を下げて目線を膝下に向ける。俺自身のシワの寄ったジャージと、暖かそうな生地で出来た絵里の部屋着がぼんやりと揺れた。

 

 頭で考えることと、誰かに向けた言葉にするのとで、これほどまでに差があるとは……。俺は新たな発見を脳内に刻み込んで、溜息すら吐けず口を閉ざす自分に狼狽していた。

 

 でも、それだけ大きな出来事なんだろう。

 客観的に自分を見つめる俺が思う。

 

 『考える』と『口にする』との差。それは確信を明確に持つか否かの差だ。考える、というのは可能性を模索するということ。あらゆる候補を頭に浮かべて吟味する。それはとても大切な行為で、俺はそれを欠かさないように心がけていた。

 そして、今。結果導き出した答えを口にしようとしている。アイデアを言葉に変える行為は、その内容に自身を持ち形に変えるということ。

 

 今、絵里に話せば、俺は確信することになる。

 

――希が俺のことを好きだって予測を。

 

 きっとそれは何事にも代えがたい重要なもので。

 

 脳裏を過る。

 

 彼女の笑顔。

 俺のくだらない言葉に、いつも反応してくれる。

 

 拗ねた表情。

 意外に子供っぽいトコもあって。

 

 泣き顔も。

 それはきっと、お互いの姿を曝け出せる信頼の証。

 

 照れた顔も。

 夏祭りの時も、もしかしたらもっと前も見せていてくれたのかもしれない。

 

 俺にとって、本当に大切な女性。

 

 

 

 

「希が俺のこと……好きになってくれたのかもしれないんだ」

 

 

 

 

 漸く言の葉が零れ落ちた。

 大切な人だからこそ、俺はこの言葉を口にしなくちゃいけない。きちんと事実と向き合って、答えを探さなくちゃいけない。そして、きっとこの悩みを解決するためには彼女が必要だ。俺と、希二人をよく知る幼馴染の力が。

 

 不思議と、絵里は驚いた様子を見せなかった。

 

 俺が告げた確信に、彼女は眉一つ動かさない。

 ただただ、僅かに口の端を上げて……笑った。

 

「……そうね」

 

 返ってきたのはどうとも取れる曖昧な返事。肯定なのか、否定なのか。それとも他の意志が込められているのか。俺には分からなかったけれど、なんとなく絵里は全てを分かっていたんじゃないかと思う。確証はないけれど、不思議とそんな気がした。

 

「そうねって……リアクション薄いな。驚かないのか?」

「驚いてるわよ。でも、別に大声を上げる内容でもないし……多少は予想してた事でもあるしね」

「予想?」

「えぇ。どうして綺羅さんの話をしたのか、その理由はμ'sの女の子に深く関係があることは今聞いたわ。だったら、自ずと選択肢は限られてくるでしょう」

 

 確かにその通りかも。

 μ'sの誰かが俺に好意を持つ可能性を無視したって話をした後だ。別に予想自体は難しくない。

 

 でも、親友と幼馴染の話だぞ?

 自意識過剰と言われるかもしれないが、仮に俺が絵里の立場ならみっともなく慌てていたと思う。一番と言っていいくらい親しい人間同士の関係性が変わるかも知れない瞬間に、あれほど冷静で達観した態度を取れるなんて……きっと絵里にも出来ないはずだ。

 

 だからこそ、俺は悟る。

 

「でも、君があんまり驚かなかったのは……たった今予想を立てて話を聞けたからじゃないだろ」

「……どういうこと?」

「もしかして……ずっと前から俺が今言った事について考えたりしてたんじゃないの?」

 

 疑問形にしてはみたものの、まず間違いないだろう。絵里は以前から希と俺の関係について何かしらの考えを持っていたと思う。だからこそ、今のようにすんなりと俺の台詞を受け止めることが出来たはず。

 

 彼女は僅かに大きく目を開くと、諦めたように頷いた。

 

「えぇ、そうね。その通りよ」

 

 そして続ける。

 

「海菜が今言った話は私自身ずっと考えていたことで、特に驚きはないわ。一つだけ、ビックリしたことは」

 

 じぃ。

 と、俺を見つめる瞳に僅かな同情と心配の色が混じった。

 

 

 

「貴方がその事実に気がついちゃったことかしら」

 

 

 

 耳鳴りのような静寂が満ちた。

 

――あぁ、やっぱりそうなんだ。

 

 俺が最初に持ったのは至極単純な感想だった。

 

 予想、してたからな。

 嬉しいような、むず痒いような。

 疑いが確信に変わった瞬間。

 不思議と、暖かな感覚を胸の奥で感じたことを覚えてる。

 

 

 俺と絵里は見つめ合う、どう話を続けて良いのかお互いに分からず、かと言って視線を外すことも出来ず。ただただ、お互いの脳内で様々な考えを巡らせていた。

 

 言っておくけれど……。

 

 そんな前置きとともに、絵里が改めて口を開いた。

 

「事実、とは言ったけどあくまで私の予想に過ぎないわ」

「予想?」

 

 幼馴染の綺麗な金髪がさらりと揺れた。

 

「希とは、殆ど恋とか好きな人について話したことが無いもの」

「まぁ、確かにそんなイメージは無いけど……」

 

 ふと、二人の姿を思い浮かべてみた。俺を含め三人で居る時は当たり前のようにくだらない話しかしていないけれど、彼女たちだけの時はどうしてるのだろう? 見たことはないけれど、何となく想像はできる。

 希が真面目な絵里をからかったり、絵里が少し遊びが過ぎる希を注意したり。きっと、当たらずとも遠からず、といった所だろう。少なくともイマドキの女子高生のように、好きな男や他所のカップルの話題で盛り上がっては居ないと思う。

 

「当然、希の口から貴方が好きだって言葉は聞いたことが無いわ」

 

 少しだけ、寂しそうに絵里は言った。

 瞳に僅かな哀愁が宿る。

 

「じゃあ、なんでそんな確信を……」

 

 先ほどの絵里の言葉は、あたかも事実を口にするような表現だった。今の話を聞くと、彼女の意見は何かの事実に裏付けされたものでは無いように感じる。根拠はあるのだろうか。

 しかし、俺の質問は質問で返された。

 

「逆に、海菜はどうしてそんな予想をたてたの?」

 

 この娘からすれば不思議でならないのだろう。真っ直ぐに俺を見つめてくる。これまで、一切恋愛に対して興味を持たなかった、話題にすらしてこなかった幼馴染が目の前に座っているのだ。その理由を聞きたいと想うのは当然かも知れない。

 

「綺羅さんの影響で、μ'sの女の子達にきちんと視線をやるようになったのは分かったわ。でもね」

 

 真剣な表情。

 

「女の子は綺羅さんみたいに自分の気持ちを表現することも出来るけれど、同時に――隠すことだって得意なの」

 

 真に迫る言葉だった。

 伝わってくる、彼女が自身の台詞に込めた気持ちが。

 無形の迫力が、力が内包されているような……そんな感覚。

 なぜだろう。

 

 しかし、俺がそのワケを問う前に絵里は続ける。

 

 

「希は無器用な娘だけど、私と同じくらい海菜の目標を応援してる。……そんな彼女が、自分の気持ちを悟らせるような直接的な行動を取るなんて事は無いでしょう? だから、どうして海菜は……」

 

 

 心底不思議そうに彼女は首を傾げた。

 

 そして、俺は気がつく。

 確かに、希から好意を直接向けられたことは無い。今思えば、俺に対する気持ちの表れ……かもしれない言動や表情の変化はあったけれど、一度足りともある一定のラインから先に踏み込んで来ては居なかった。

 

『古雪くんは体調大丈夫?』

 

 今日の出来事、迎えに行った俺にかけてくれた言葉。

 いつだって、希は俺の目標を大切にしてくれた。

 

――女の子は好意を隠すことも得意。

 

 俺が偶然見つけた希の部屋の写真は、確かに誰にも見られないところに隠してあった。一人暮らしの広くない部屋の、意図的に引っぱり出さなければ見られない場所に置かれたツーショット。

 あれがなければきっと気がついていなかったと思う。

 

 皆で歌詞を出し合っている際に彼女が口にした『好き』って言葉も、一瞬しか視線は交錯していなかった。あらかじめ意識してなくちゃ気が付けないほどの時間。だから、絵里の言わんとしていることは良く分かった。

 

「偶然、かな……。希の部屋で、隠してあった写真を見つけた」

「……もしかして、歌詞を皆で決めた日?」

「あぁ」

「道理で……、だからあの日から様子がおかしかったのね」

 

 少し非難の混じった視線が飛んで来る。

 確かにやってることは人としてどうかと思うよなぁ。親しい間柄とはいえ、人の部屋の隠してあった何かを引っ張りだしたんだから。あの時の俺は本当にどうかしていたのかもしれない。

 自分でもどうしてあんな事をしてしまったのか分からない。無意識のうちに、彼女のことをもっと知りたいと思っていたからなのか。それとも本当にただの出来心だったのか。

 

「本当、いつまでたっても悪ガキなんだから」

「言い返せない……」

「普通、女の子の部屋の物にホイホイ触れないわよ」

「う……。でも、それは君にも責任があるだろ!」

「どういうことよっ」

「君が居たせいで女の子の部屋を荒らすクセが……」

「そもそも、私の部屋のモノは触っていいって考えを改めなさい!」

 

 ちょっとの間、いつもと同じ二人に戻る。

 

「というか、まだ絵里の話を聞いてないぞ」

 

 俺は話を戻した。

 彼女は何故希の件に関して確信を持っているのだろう? 今までの流れなら、希は絵里に対しても自分の気持ちを告げていないハズ。だとしたら、なぜ絵里は――そんな疑問に彼女はシンプルに答えた。

 

「分かるわよ、親友だもの」

 

 どうやら、絵里もうまく説明は出来ないらしい。

 

「聞かれても上手く説明できないのよ……いつの間にか気が付いちゃってたから」

 

 言って微笑む。

 

「私と海菜の関係、海菜と希の関係が似ているようで全然違うように……私と希の関係はきっと海菜には想像できないと思うわ」

「むぅ。これでも君らとかなり深く関わってきたつもりなんだけど」

「言っておくけれど、海菜は意外と色んな事に気付けてないわよ」

 

 ちょっとした抵抗。

 しかし、バッサリと切り捨てられた。

 

「そんなもんかなぁ……」

 

 不服な様子を示してみせたものの、確かにその通りかもしれない。俺は俺で一生懸命彼女達と接して来たつもりではあるけれど、二人の関係性は端から見た俺が全て理解できるほど単純なものでは無いのかもな。

 

「そんなものよ。私は海菜よりちょっと前から知ってたわ。希が海菜に惹かれている事。私のも今の海菜と同じ、恋愛について考えなおす機会があったから」

 

 あの娘は言ってくれなかったけどね?

 僅かに強張った表情で絵里は笑う。

 

 しかし、俺はその表情の変化よりも、彼女の言った『機会』とやらが気になってしまった。

 

「えっと、何の話?」

「…………?」

「いや、その恋愛について考えなおす機会とかなんとか言う」

「……気になる?」

「そう言われると……」

 

 絵里は何故か少しだけ嬉しそうな表情を浮かべていたずらっぽく笑った。

 

 なんだよ、一体……。問いただすのはなんだか格好悪くてイヤだけど、気にならないと言ったら嘘になる。

 だって、こう言ったらなんだけど絵里もかなり恋愛に対しては鈍感、というか興味を持っていないタイプだった。映画とか小説とかの恋には多少興味を示していた記憶はあるけれど、中学の頃も高校に入ってからも自分の具体的な恋愛に関しては何も考えていなかった。……多分。

 

 だからこそ気がかりだった。

 俺も、ツバサの件があったからこそ恋愛というフィルターを通して周りの女の子を見ることが出来るようになったわけで。俺と似たタイプの絵里が希の様子に気が付いたということは、それ相応の何かがあったのかもしれない。

 

 も、もしかしてファンの男と何か……?

 

 あり得ないことじゃない。

 HPの管理は俺がやってるから、ファンからいろんなメールが来ていることは知ってるし、当然その中には男も沢山いる。それに、絵里達はスクールアイドルであって決して恋愛を禁止されているわけではない。

 中学の頃ですら絵里はモテてたし、成長した今となっては街に出れば毎回と言って良いほどナンパされている。冷静に男どもがこの幼馴染を放っておくわけもないし、何かしらの事件が起こっていても不思議ではないというか……。

 

 ど、どうしよう……?

 

「き、気になる……」

 

 結局、俺はちょっとしたプライドと興味や心配や諸々の気持ちを天秤にかけた結果、素直に負けを認めることにした。

 し、仕方ないだろ! 

 

「うふふ。そっか、気になるのね?」

 

 心底おかしそうに絵里は手のひらを口元に当てて肩を震わせる。

 先ほどまでの真面目な表情とは打って変わって、可愛らしい子供みたいな笑顔。俺にとっては見慣れた、でも実は俺以外はあまり見たことのない彼女の表情。不覚にも見惚れてしまい、さっさと教えろよ! と先を促すことを忘れてしまった。

 

「良かった。海菜、希と綺羅さんの事しか頭に無いのかと思ってたから」

「はぁ? それとこれとは別だろ……」

「別なの?」

「そりゃ、絵里のことはいつでも気になるというか……スルー出来ないというか。……いいから教えろって! なんかあったの!? 男が出来たとか、なんかファンとあったとか!」

 

 絵里は一瞬照れたように頬を染めた後、軽く唇を尖らせる。

 

「彼氏も出来てないし、ファンとも何もないわ。……あるわけ無いでしょう、ばか海菜」

「何で急に不機嫌に……」

 

 と、そこで会話が途切れた。

 

 何故か絵里は急に真面目な表情に戻り、何やら逡巡している。

 

 俺は特に掛ける言葉もなく、彼女の様子を見守っていた。どうやら男に言い寄られてるとかじゃないみたいだし、一応安心。これ以上は聞いても教えてくれそうに無いから黙っておこう。もしかしたら、今彼女はその出来事を俺に話すか否かを考えているのかもしれないから。

 

「あの、ね? 海菜」

 

 迷いがちな絵里の声。

 俺は表情で、どうした? と、問う。

 

「私はずっと思ってきたの。海菜が受験を終えるまでは、貴方に恋愛のことを考えて欲しくないって」

「あぁ。……ありがとな」

「でも、もう遅いのよね」

 

 小さく頷いた。

 優しい幼馴染は俺が何事も無く、受験だけに集中できる事を願ってくれていた。だけど、それはもう無理。ツバサの告白を受け取って、希の気持ちに気がついてしまった以上恋愛の事を考えずに残りの日々を過ごすことなんて出来ない。

 

 何が言いたいのだろう?

 

 俺は続く言葉を待つ。

 こんな真面目な雰囲気で、切羽詰まった表情で、躊躇いがちに。

 絵里は何を伝えたいのだろう?

 

 と、彼女の高く澄んだ声が俺の部屋に溶けた。

 

 

 

「勉強は……大丈夫?」

 

 

 

――何を言い出すのかと思ったら……。絵里のヤツ。

 

 まるで自分のことのように心配そうに訊いてくる。

 優しい、何処までも絵里らしい問いかけ。

 俺はそれがたまらなく嬉しくて、思わず声に出して笑っていた。

 

「ははっ」

 

 絵里はポカンと口を開けた後、軽く俺を睨みつけてきた。

 

「もぅ、どうして笑うのよっ」

「いや、あまりに真剣に訊いてくるから」

「な! 真剣にもなるわよ! 海菜、私がどれだけ貴方をしんぱ……」

 

 こつん。

 

「あぅ」

 

 俺は軽く絵里の額にデコピンを決めた。

 そして、いつの間にか頭一つ小さくなっていた幼馴染の頭に手を乗せて……ワシワシと乱暴に撫でてみた。細く滑らかな金髪が俺のせいで盛大に乱れていく。

 絵里は怒っていいのか困っていいのか分からないのだろう、頬に朱を差しながらなんとか俺の手を遠ざけようと両手で俺の手首あたりを掴んだ。ちょっと冷たい彼女の手のひらを感じる。

 

「な、何? 離しなさい! もうっ! 海菜っ!」

 

 慌てる絵里を他所に、俺はふざけながらもちょっとだけしんみりとしていた。幼馴染の思いやりが嬉しくて、どうしようもなく嬉しくて。

 

 

 

「大丈夫だよ、ありがとな。絵里」

 

 

 

 だから、俺は精一杯笑ってみせた。

 

 心配無いよ。今までやってきた勉強は嘘をつかない。今日だって数学の問題ちゃんと解けたし、心配事の一つや二つ増えたところで落ちるようなヤワな勉強はしてないから大丈夫。俺は、絵里がそこまで気にするほど弱くはないよ。

 言いたい言葉や説明はたくさんあったけど、口にはしない。

 きっと、伝わると思うから。

 

 そして。

 

「そう。良かったわ」

 

 彼女は笑った。

 

 

「なら、海菜、私の……さっき貴方が気にしてた言いたいことの話。しても良いかしら?」

 

 

 あぁ。ほんの数分前彼女が見せた珍しい態度。明らかに俺に何か隠し事があると気が付いて、追求して、それでも教えてくれなかった話。

 

 俺は特に何も考えずに頷いた。

 だってそうだろう、幼馴染の話を聞くのに理由なんて要らないから。

 

 彼女は呟く。

 

 

 

「ここまで来たら、隠す意味も無いものね」

 

 

 

 初めてだった。

 幼馴染のそんな表情を見るのは。

 

 

 

「昔の約束覚えてる?」

 

 

 

 初めてだった。

 幼馴染のそんな声を聞くのは。

 

 

 

「好きな人が出来たら教え合うって約束。……ごめんね、私、破ってた」

 

 

 

 初めてだった。

 幼馴染の顔をこんな近くに見るのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから、その約束……守るから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頬に感じたのは、驚くほど柔らかい唇の感触で。

 

 

 

 

「困らせちゃってごめんなさい」

 

 

 

 申し訳無さそうに、でもどこかすっきりとした表情で笑う絵里は――この十三年で見た、どの絵里よりも魅力的だった。

 

 

 

 全てが変わった。

 俺の役目は、答えを探すこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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