ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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第十五&十六話 あこがれ

 土曜日の、現在午後一時。

 動画のアップロードが終わり、絵里が帰った後、俺は秋葉原に向かった。純粋に欲しいものがあったので来てみたのだが……人が多い!普段は平日に来ることが多いせいかここまで休日になると人が増えるとは思わなかった。

 うんざりしながら歩みを進めていると、一際人口密度の高い場所が目に入る。あそこは……CDショップか?なにかしらのキャンペーンをしているのだろう。3列に別れ、店頭の特別販売施設に人が大勢群がっている。

 

「……」

 

 ちょっと気になる。

 

 俺の性格ゆえか、それとも皆そうなのかは分からないが行列を見ると興味が湧く。一体なんのイベントやってるんだろう?

 

 ふらふらっと行列の方へ歩いていくと、聞き覚えのある音声が聞こえてきた。これはたしか……A-RISE?ライブで聞いた声と同じだったのですぐに判別することができた。

 どうやら彼女たちのCDの販売を行っているらしい。

 

 それにしてもすごいなぁ、ホンモノのアイドル顔負けの集客力だ。同い年、もしくは一つ二つ下の高校生がここまで世間を賑わせているなんてにわかには信じがたい。改めてスクールアイドルの最近の認知度と影響力を実感した。

 

 

 てかCDの発売位でこれほど賑わうものかなぁ。

 流石になにか限定品の販売とかを合わせてやっているんじゃないのだろうか?

 

 

 この俺の疑問は意外な人物によって解消されることになる。

 

 

***

 

 

「げっ、アンタなんでここに……」

「……」

 

 俺は人目をはばからず、CDショップ前の人混みの中から抜け出してきた美少女(あくまで客観的にみて)と睨み合う。げっ、じゃねえよ……

 

 髪の毛をツインテールにまとめ、気の強そうな顔つきでこちらをじろっと見てくるのは矢澤にこ。ほんとにコイツとは約束無しでの遭遇率がヤバい気がする。この子もしかして俺のストーキングとかしてるんじゃないの?うわっ、きもっ。

 

「古雪、アンタもしかして私をストーカーしてるんじゃないでしょうね……。キモイわよ」

「あぁ?」

 

 腹立つことにまた同じ思考回路を辿っていたらしい。容赦なくジト目を向けてくるにこは、妙に大量の荷物を抱えている。大きな紙袋からはカツラ?のようなものがはみ出し、背負ったリュックはパンパンに膨らんでいた。

 

「……キモイのはお前の荷物の量だよ。なにそれ」

「これ?決まってるじゃない、変装用よ」

 

 まるで当たり前だといわんばかりの声色。何言ってんだこの子。

 

「変装?……なんで?」

「なんでって……CDの特別版全3種類コンプリートするために決まってるじゃない!」

「とくべつばん、さんしゅるい、コンプリート?」

 

 えっと、さっき予想してたようになにやら限定商品が売られているのは確かなようだ。でもなんで変装が必要なんだ?

 俺の戸惑っている様子を見てにこは呆れた様子で口を開く。

 

「アンタ今回も何も知らずにココに来たわけ?」

「あぁ、全く分からん!教えろ!」

「なんで上からなのよ!」

 

 憤慨したように言い返してくるにこ。

 なんかこの子いっつも怒ってる気がする。まぁ、原因が俺にある可能性は否めないけど。

 

「立場が上だからな。恩を忘れたわけではないだろ?」

「それはそうだけど……。はぁ、仕方ないわね」

「それに身長も上だしな」

「いつもいつも一言多いのよアンタは!!」

 

 てへ、よく言われる。

 にこはぷりぷり怒りながらも疑問に答えてくれた。

 

「今日はA-RISEの新曲発売日なのは知ってるわよね?そのCDの初回限定版が三種類発売されたのよ」

「三種類ってことは……メンバーそれぞれの何か、とか?」

「そうよ、『ツバサver』みたいに三つそれぞれ別の特典がついてくるの。でも一人が三種類買っていったらすぐに売り切れちゃうでしょ?だから一人一枚しか買えないルールがつくられてて……」

「なるほど、それでお前はわざわざ変装して三回並んで全種コンプリートした訳か」

「その通り!」

 

 どーよ!と言わんばかりに、にこは腰に手を当てて得意げに胸をそらして見せる。いや、全然羨ましくもないしすごくもないし。ぶっちゃけ、上体を反らしてなお自己主張のない胸への同情の念の方が大きい。

 

「そのエネルギーはどこからくるんだよ……」

「仕方ないじゃない、憧れなんだから」

 

 にこは間髪入れずシンプルな答えを返す。

 ふーん。

 

 

 【憧れ】

 

 

 かぁ。

 好きだから、とかファンだから。という理由ではなく、憧れ。

 本当に何気ない、いたって普通の会話ではあったけど、なぜかその言葉だけは印象深く俺の記憶に残った気がした。

 

 

「それじゃ、私は行くわね」

 

 いかにも重そうなカバンを背負いなおしながら言う。

 

「あぁ、引き留めて悪かったな。……間違えた。引き留めて下さってありがとうございます、と言え、おら」

「着々と態度がでかくなっていくわね、アンタ……」

「でかいもん立場も、身長も」

 

 やれやれ、と首を振り歩き出したにこだったが、いたずらっぽい笑みを浮かべて振り向いた。不覚にも可愛いと思ってしまう。甘やかされた愛らしい少女のような、引っ掛かりのない可愛らしさとでも言うのだろうか。

 

 

 なんだろう、ちょっと悔しい。

 

 

「あ、私これから時間空いてるしデートしてあげてもいいわよ?」

「ばーか、タダ飯食いたいだけだろ。帰れ帰れ!」

 

 

 

 

***

 

 

 にこを追い払ったあと、俺は行列を前に葛藤していた。

 買うべきか、それとも買わざるべきか。別にファンって訳ではないけど個人的にA-RISEは好きだし、なにより『限定版』と言われたら惹かれてしまうのが俺、古雪海菜の性格だ。だって限定版だよ!?なんか買わなきゃいけない、みたいな感じするじゃん!

 

 しかしシングルのCD一枚すぐさまは買えないあたりが一般高校生の財力の無さを如実に表している。ぐぬぬ、どうしようかな。

 

 

「えぇ!一人一枚しか買えないのぉ?」

「うわー、すごい行列だにゃーー!」

 

 

 一人頭を抱え、迷っていると近くでどこかで聞いたようなことのある声が耳に入った。少しこもりがちで鼻にかかるような、それでいて可愛らしいものと、後から聞こえた鈴を転がすような可憐で明るい声。

 振り返ると音ノ木坂に行った時に会った一年生の二人がそこにいた。

 お互い名前もよく知らないし顔くらいしか知らない関係なので、俺から率先して話しかけに行く度胸もなくとりあえず見守ることにした。

 

「ん?かよちんどうしたの?」

「うぅ、どうしよう、折角三種類コンプリートできるかと思ってきたのに……」

 

 そういえばあの……花陽って子アイドル好きなんだっけ?眼鏡の奥の大きな瞳を早くも涙が覆い始めている。いやいや、泣くほどのことか!?

 買い物の付き添いに来たのか横の……たしか凛?は慣れた口調で彼女を慰める。

 

「まぁまぁかよちん、元気出すにゃ。二人で買えば二枚は揃うよ。もう一枚は明日また買いにこよう?」

「明日には絶対売り切れてるよぉ……我慢するしかないのかなぁ」

 

 よっぽどコンプリートしたかったのか、ガクリとうなだれる花陽と彼女を困ったように見つめる凛。やっぱりこういうの好きな子は本当に好きなんだなぁ。この子にせよ、にこにせよ、その情熱は目を見張るものがある。

 

 しかし、当たり前だけど変装は普通じゃないみたいだ。あのバカが特別アホなだけらしい。ファンは変装して当然みたいなノリだったしな、あのツインテール。さすがというべきか……別に見習いはしないけど。

 

 三枚きっちり一人で買い占めていったにこの姿を思い出し、苦笑していると何を思ったのかきょろきょろしていた凛と目があった。

 

「あ……」

「……」

 

 凛は驚きの声をあげた後、少し注意深くこちらを観察してきた。……顔は見覚えあるけど、ホントにこの人会ったことある人なのかな?などと考えながら記憶の中の俺の顔と目の前の高校生とを照らし合わせているのだろう。

 

 どうやら一致したらしい。ぴょんぴょんと跳ねるようにこちらに近づいてきた。

 本当元気のいい子だな

 

「お兄さん!こないだ音ノ木坂でお会いしましたよね?」

「うん。……どうかした?」

「いえ、聞きたいことがあって。もうここで売ってるCD買いましたかにゃ?」

「いや、買ってないよ」

「よかったにゃーーー!!」

 

 凛は俺の答えを聞いた途端嬉しそうにくるくる回りながら花陽のところに戻り、こちらに彼女をひっぱってきた。急な出来事に、花陽はふええぇぇと、涙目のままか細い悲鳴をあげている。

 

「かよちん、これで三人揃ったよ!」

「凛ちゃん、一体どういう……!あ、あの、……お久しぶりです」

「あ、ご丁寧にどうも」

 

 俺に気が付き、緊張を顔にありありと浮かべながら挨拶してくれた花陽に答えた。

 凛はにこにこしながら自分のアイデアを花陽に伝える。

 なんとなく言わんとしていることは察しが付いた。

 

「えぇえ!この人に三枚目を買ってもらうの!?」

「そうにゃ!これでかよちんの欲しがってたCD全種類そろうよ?」

「でも……」

「別にいいよ、ここに来たのは偶然で、CDが欲しかった訳じゃないし」

 

 申し訳なさそうにこちらの様子をうかがう花陽に了承の旨を伝える。後輩のためだしそのくらいならやってあげてもいいだろう。あの行列に並ぶのは面倒だけどね。

 

「すみません……、あの、お代はちゃんと払いますので!」

「おっけ!それじゃ売り切れないうちに買いにいこうか」

「よーっし、行っくにゃー!」

 

 

***

 

「ふああぁ、幸せです……」

「良かったね、かよちん!」

 

 三枚のCDを大事そうに胸に抱え、嬉しそうに顔を輝かせ息を弾ませる花陽。みているこっちも幸せな気分になってくるような、そんな笑顔だ。凛も同じことを考えているのだろう、花陽の方を見てニコニコと楽しそうに笑っている。

 行列に並んでモノ買うだけでこんな幸せな気持ちになれるなら安いもんだな、ホント。

 

 一人ふわふわと幸せをかみしめていた花陽はようやく我に返り、ぺこぺことこちらに頭を下げてきた。別にそんなにかしこまらなくていいのに

 

「あ、あの……どうもありがとうございました!」

「ありがとうございましたにゃ!」

 

 隣にいた凛も礼儀正しくお礼の言葉をくれる。

 

「いいよいいよ、……ほんとに好きなんだねアイドルが」

「はい!大好きです!」

 

 まるで花が咲くかのような無邪気で楽しげな笑顔。本当に可愛らしい子だと思う、引っ込み思案な性格なのか少し俺を前にして緊張している感じはあるけれど。あ、ホラ、目逸らされた……。

 

 くいっくいっ

 

 ん、なんだ?

左腕の袖口を誰かに引っ張られるのを感じ、そちらを振り向くと凛がすぐ横に移動してきていた。そのまま、身長差ゆえ見上げるような形で俺の顔を見つめながら口を開く。

 

「お兄さん、お名前はなんですか?」

「古雪海菜、だよ。高校三年生。君たちは?」

 

 なにかと思えば名前が知りたかったらしい。まぁずっとお兄さんなんて呼ぶの大変だろうしな。俺も本当にこの子達の名前が凛と花陽なのか曖昧なので助かる。他の人がこの子達を呼んでるのを横から聞いてただけだし。

 

「星空凛です!」

「あ、あの……小泉花陽です。よろしくお願いします……」

 

 凛は元気よくハキハキと、花陽は消え入りそうな声で自己紹介してくれた。これまた対照的なコンビだなぁ。

 

「そういえば気になってたんですけど、かいな先輩はなんでこの前音ノ木坂にいたんですか?」

「あー、実はμ’sのメンバーや希、あ、君らの学校の副会長ね。その子達と知り合いでライブ見に来るよう頼まれたから、あの日音ノ木坂にお邪魔させてもらってたんよ」

「μ’sの先輩方とお友達なんですか!?」

「まぁ、一応……」

 

 驚きの声をあげる凛に頷きを返す。友達……と言ってもいいよな?うん、知り合いよりは親密になったと思うし、大丈夫だろう。

 花陽はきょとんとしながらこちらをうかがっている。

 

「凛ちゃん?どうしたの?」

「どうしたのって、かよちん!そんなの、決まってるにゃ!」

「え?えぇ?」

 

 なぜか嬉しそうに笑顔を浮かべる凛を見つめながら、花陽は彼女の意図が読めないのか戸惑った様子であたふたしている。

 

「かいな先輩に頼んで、μ’sの先輩方にかよちんを紹介してもらお!」

「え、凛ちゃんそれどういうこと!?」

 

 ……。なにやら二人で盛り上がってるみたいだがぶっちゃけ何を言わんとしているのか全く分からない。もっとも盛り上がってるのは凛だけで花陽の方は終始焦ってるだけなのだが。

 

「あの、どういうことか俺にも説明してくれる?」

 

 凛はこちらを振り向くと予想だにしない一言を口にした。

 

 

 

「かいな先輩、かよちんをアイドルにしてあげてください!」

 

 

 

「……は?」

「え……、えええええええええぇぇ!!!???」

 

 

 

 真昼間の秋葉原に花陽の叫び声が響き渡る。

 

 ……な、何の話でしょうか?

 

 凛の予想だにしない言葉に俺は思わず言葉を飲み込み、目を丸くした。いやいや、……全く話が読めないんだが。俺をアイドルのプロデューサーか何かと勘違いしてるなんてことはないよな? 

 花陽は驚きからか涙声で悲鳴をあげている。話声は小さいけれどこういう時は声でるんだね。なんか俺が悪いことしたんじゃないのか、みたいな周りの視線が痛いので勘弁してほしい。

 

「り、凛ちゃん!?急に何言ってるの!」

「えぇー、だってかよちんアイドルするの夢だったんでしょ。凛知ってるよ?」

「うぅ……そうだけど。私は……」

 

 ……。

 

 完全に俺が放置されてしまっていることはまあ置いておこう。今聞いた話から考えると、花陽はどうやらアイドルになりたがっている……らしい。だから凛は【μ’s】と知り合いの俺に花陽の紹介を頼みたいのだろう。

 もっとも、穂乃果達が新メンバーを募集しているかどうかは分からないのだが。

 

 別に俺が口出しできることは何もないので話の成り行きを見守る。

 

「私には無理だよぉ……」

「そんなことないにゃ!かよちんこんなに可愛いのに!」

 

 うんうん。実際かなり可愛い部類に入ると思う。

 

「可愛くなんてないよ!それに声だって小さいし……」

「凛はかよちんの綺麗な声、好きだよ?」

 

 せやな、可愛らしい声してるね。

 

「それをいうなら、凛ちゃんの方が可愛いよ!運動だって得意だし。凛ちゃんのほうがアイドル向いてるよ!」

「……え?む、むりむり!凛にはアイドルなんて出来ないよ。髪だってこんなに短いし」

 

 確かに凛もボーイッシュな見た目とは裏腹に、雰囲気はすごく女の子っぽい。意外とアイドルやっててもしっくりくるかもな。

 

「そうかなぁ……」

「そうだよ!やっぱりかよちんがアイドルやるべきにゃ!ほら、海菜さんにお願いしよ?」

 

 ……。

 

「いや、でも……」

「凛は絶対絶対、今が夢をかなえる一番のチャンスだとおもうな」

 

 ……。

 

「うう……。でも、私なんかが……」

「もう!かよちん!」

 

 ……。

 

「あの、そろそろちゃんと俺に説明してくれるかな?」

 

 長いわ!!

 二人の会話は放っておいたらいつまでも続きそうだったのでやんわりとこちらに注意を促す。さすがに年下には優しくしないとな。『なげーーーんだよ!』みたいにノリノリでツッコんだら怖がられそうだし。

 

「あ、ごめんなさいにゃ」

「別にいいけど……で、結局どうしてあげればいいの?」

「先輩たちにかよちんを紹介して欲しかったんですけど……」

「……見た感じ無理っぽくないか?」

 

 ちらりと花陽の方を向くと首をぶんぶん振りながら拒否の意志を示している。

 うーん、どうしてあげればいいんだろう……。

 

「……なら、俺の連絡先教えておくから意見が固まったら連絡しておいで。まぁ直接学校で穂乃果達と話すのが一番だとは思うけど、紹介位はしてほしいならするし」

「はい!ありがとうございます!」

 

 礼儀正しくぺこりとお辞儀する凛。花陽もそれにつられておずおずと頭を下げた。

 

 見た感じアイドルを『やりたくない』ではなくて『やる勇気が出ない』というのが正解かな?もっとも、俺には関係ないけどね……。

 

 

 関係ないけど……。

 

 

「まぁ、なんというかその……」

 

 凛とのアドレス交換を終え、少し話すことがなくなり妙な間があいたので思わず口を開いてしまった。

 

 

 

 

「やりたいことならやるべきだと思うよ?……うん。あとで後悔するのはしんどいからね」

 

 

 

 

 思わず口に出してしまったその言葉は他でもない、自分自身に突き刺さった。

 

 ……自分がやりたいって思ったことは迷わず挑戦したほうがいい。

 チャンスは二度と訪れないから。

 

 

 

***

 

 凛たちと別れてから、数十分後。俺は和菓子店『穂むら』にやってきていた。

 純粋に甘いものが食べたかったのと、ついでに新メンバーの募集とかやっているのか穂乃果に確認するためだ。

 さすがにいざ紹介するときになって新メンバーはいりません、なんてことになったら目も当てられないし。

 

 ガラガラ

 

 年季が入っているのにも関わらずよく手入れされているのか、スムーズに入口の戸が開く。

 

「いらっしゃいませー!……って、海菜さんですか」

「なんで少し残念そうなんだよ」

「冗談ですよ!えっと、二週間ぶりくらいですか?お店に来てくれるのは」

 

 和菓子店らしく着物風の服をまとった雪穂ちゃんはいたずらっぽい笑顔で俺を迎えてくれると、てくてくとショーケースの向こうから俺の前まで歩いて出てきてくれた。

 

「うん、大体そのくらいかな?」

「ええ、たしかそのくらいですよ」

「よく覚えてるね」

「えへへ、お待ちしてましたから」

 

 理由は分からないが少し嬉しそうににこにこと笑う雪穂ちゃん。いつも会うときは大体この子が店番をこなしている時ばかりなので大人びた印象ばかり受けていたが……。こうしてみると年相応の女の子だ。

 屈託のない笑顔が可愛らしい。

 

「よしよし、今日も店番ごくろうさん!受験もあるのに大変だね」

「ふぇっ?う、うん、普段から結構真面目に勉強してるし、お母さんがご飯作ってる間だけだから……」

 

 労いの意味もこめて頭を撫でると少し顔を赤らめながら俯いてしまった。……しまった、さすがに年上からいきなりこんなことされるとびっくりするか。亜里沙ちゃんはむしろせがんでくる位だが、あの子の場合は……付き合いの長さや性格のせいもあるのかもしれない。

 

「そかそか。ところで、穂乃果は帰ってる?」

「お姉ちゃんですか?えぇ、帰ってますよ。さっきまではお父さんの手伝いをしてたと思うんですけど……呼びましょうか?」

「うん。よろしく」

 

 雪穂ちゃんはすぅっと大きく息を吸いこんだ

 

「おねーーちゃーん!!お客さんだよーー!」

「はーーい!ちょっと待っててー」

 

 どうやら近くにいたらしく、すぐに返事が帰って来る。

どたどたと廊下を走る音と共に白い割烹着らしき作業服を着た穂乃果が姿を現した。

 

「雪穂ー?どうしたの……って海菜さん?」

「やっほ、ライブぶり」

「はい!まさか本当に来てくれるとは思いませんでしたよ!ありがとうございました。……えっと、今日は私に何か用ですか?」

「うん、少し話したいことがあって。」

 

 何の話だろう?と少し戸惑った様子の穂乃果だったが、急に何かを思い出したように顔を輝かせて俺の袖口を引っ張る。

 

「そうだ、私も海菜さんに報告したいことがあったんです!どうぞどうぞ、あがってください」

「え?家に?それじゃあ……お邪魔します」

「二階の私の部屋で待っててくれますか?海未ちゃんがいると思います。私はこれ着替えてからいくので」

「お、おう」

 

 なぜか流れで高坂家にお邪魔することになったけど、いいのかな?別に俺の用事は時間かかるものではないんだけど……。

 とりあえず店番が残っている雪穂ちゃんに手を振って二階に上がった。

 

 

 途端、早速問題が発生する。

  

 私の部屋って言われてもどこかわかんねえよ!

 

 ドアの前にネームプレートがかかってるのを期待してたんだがそれらしきものは見当たらない。これ、しらみつぶしに開けていっていいんだよな?あとで誰かに怒られたりしないだろうか。

 女の子の家なので色々気を使ってしまうが、さすがに廊下で穂乃果が来るのを待つのもどうかと思うので適当に近くにあったドアを開いた。

 

 

「ららららーーーん♪……じゃーーん!!みんなーありがとーー!!」

 

 

ビシッ左手を高らかに天井へと伸ばし、おもちゃのマイクをもった右手をこれまたズビシィっと丁度ドアを開けて固まる俺の方へ伸ばした海未と目が合う。うわぁ、めっちゃいい笑顔……。

 

「……」

「……」

 

 たっぷり見つめあうこと数十秒。次第に海未の額に汗が滲み始めた。

 

「忘れて……」

「え?」

 

 だらりと腕をたらし、俯いてしまった海未は唐突にぼそりと口を開いたかと思うと、ゆらりとこちらの方へ歩みよって来た。

 な、なんか怖い!そのゆっくりな歩き方がより怖い!バイオハザードかよ

 俺の目の前までたどり着いた海未はいきなり俺の肩を掴み、ガックンガックンと揺らし始めた。

 

 

「忘れてくださいいいいい!!!」

「ちょ!海未!落ち着け!おちつけええええ!!!」

 

 

 

***

 

 

「ぷっ、くっくっくっくっく」

「もう海菜さん!いいかげん笑うのやめてください!」

 

 顔を真っ赤にしてぽかぽかと肩を叩いてくる海未を片手であやしながら、俺はひたすら爆笑していた。いや、実際めちゃくちゃおもしろいだろ。はじめ見た時は面白さよりも驚きが勝っていたせいで凍り付くほかなかったが。

 

「いやいや、海未。すごくかわいかったよ、ほんとのアイドルみたいだった。……ぶはッ」

「海菜さん!」

 

 なにより恥ずかしがって抗議してくる海未がかなり可愛い。普段しっかりもののイメージが強いせいか、顔を朱色に染めてなんとか笑うのをやめさせようとアクションを起こしてくる姿が愛らしくてたまらない。

 もっといじめたくなる感じっていえば分かるかな?

 

 じゅるり。

 

「ていうか、そもそもなんで海菜さんが穂乃果の家に来てるんですか!」

 

 なんとか話題をそらそうと質問を投げかけてくる。

 口調的には投げかけるどころか投げつけるぐらいの勢いだが。

 

「ちょっと用事があって、走って来たんだよね」

「急ぎの用事、ですか?」

「そういう訳でもないんだけど。ていうか奇遇だね、お互いに同じことしてたなんて」

「同じこと……?」

「俺はさっきまで走って……間違えた。ダッシュしてたんだけど、海未もダッシュしてたじゃん」

「え?……そんなことしてませんよ?」

「いや、あの、《START:DASH!》してたよね」

「――――――!」

 

 本人は上手く話題を変えたつもりだっただろうが、こその程度で追撃をやめるほど古雪海菜は甘くないぞ!

 はじめは俺が何を言いたいのか分からずきょとんとしていた海未だが、ふたたび耳まで赤く染めて自らの座っていたクッションでぽふぽふと攻撃を仕掛けてきた。

 

「こらこら落ち着け落ち着け!」

「海菜さんがからかうからですよ!」

「わかった!ごめんて」

 

 なんとかなだめて落ち着かせる。さっきから煽ってなだめて、の繰り返しだ。もっとも絵里で遊ぶ時も似たような感じなのでお手の物なのだが。うん、長年の経験が生きてる!

 

「うぅ、こんなにイジワルな人だったなんて……なんとなく想像は出来ましたけど」

 

 攻撃に使っていたクッションを今度は抱き寄せて顔をうずめ、小声でなにやら呟く海未。

 

「え?聞こえないからもっかい言ってくれる?」

「別になんでもないです……」

「そうか……あ。大声出すのがしんどいなら、これとか使ったらどう?」

 

 

 そういいながら先ほど彼女が握っていたマイクを差し出した。

 

 

「これ使うの得意でしょ。知ってる知ってる。だってさっき見……うわっ!」

「海菜さんなんかキライですキライですキライですーーーー!」

 

 

 今度は手に持ったクッションを俺に投げつけたかと思うと飛びついてぺしんぺしんとやたらめったら叩いてきた。あれ?少しやりすぎたかな……。

 全く痛くはないのだがいかんせん体が密着する形になっているので下手に引き離すこともできない。一方海未のほうは完全に冷静さを失っているのか、涙目でこちらに体重をかけてきている。

 海未は可愛いし別に俺に害があるわけでもなし。このまま穂乃果が来るの待つか……などと妙に冷静に考えていると(年下に欲情するほど落ちぶれてないわ!……一応)丁度ドアが開き、三人の女の子が入ってきた。

 

 

***

 

 

「よしよし、海未ちゃん。よしよし」

「ふえぇ、ことりぃ……」

 

 やってきたことりに慰められている海未を横目に見ながら目の前に座る二人に声をかける。もうちょっと海未が回復してからまたいじろう。

 

「改めてお邪魔します、穂乃果。花陽はなんでここに?」

「いいですよ。くつろいでいってください。……花陽ちゃんはさっきお店で会ったので折角だからあがっていってもらおうかなって」

 

 そう答える穂乃果の横で花陽は先輩だらけのこの状況に緊張しているのか、カチコチに固まってしまっている。かなり内気な子みたいだからなぁ。無理もないか。

 

「ことりは新メンバーが増えるのかなって思ったんだけど、違うのかな?」

「え?あ、はい。私なんかがアイドルなんて……」

 

 ことりは顔だけ花陽の方に向けて、相変わらずふわふわした声で話しかける。

 おっと。わざわざ話題を出して聞くまでもなく知りたい情報が手に入ったようだ。μ’sは絶賛新メンバー募集中らしい。

 

 なんというか、こんなところで花陽と再開するとは夢にも思わなかったが。

 

 ことりの問いかけに対して、さっきの今で決心がついている訳もなく彼女は消極的な答えを返していた。

 

「あ!そうだ!ことりちゃん、パソコン持ってきてくれた?」

「うん!持ってきたよー」

 

 穂乃果に返事をしながら、持ってきた鞄からノートパソコンを取り出すことり。

 一体何をするつもりなんだろう。

 

「実は海菜さんに報告したいことってこのことなんです」

 

 そう言いながら穂乃果は画面を俺に見せてきた。

 これは……。

 

「……君らの動画?」

「はい、だれかが投稿してくれたみたいで。今日友達が言ってるのを聞いてみんなで見ようって話になったんです」

「一体誰が撮影してくれてたのでしょうね」

 

 不思議そうに呟く海未。

 割と早く穂乃果達にも情報が回ってきたらしい。俺と絵里が動画をあげたっていうのは……今は言わない方がいいかな。

 

「へぇ、結構再生数伸びてるみたいだね」

 

 良かった良かった。

 結構好評らしい。……絵里の心中はあまり穏やかではないだろうが。

 

「はい!それじゃ、再生しますね……。あ、花陽ちゃんもっとこっちによって来ていいよ」

「あ、はい。失礼します……」

 

 

 自分の上げた動画なので特に見る必要もないと思い、そっと各々の顔をうかがってみた。

 穂乃果は凄くうれしそうに自分たちのダンスを見守り、時折ここ難しかったよねーなどと他の二人に話しかけたりしている。ことりもにこにこしながら動画をみて、穂乃果に返事を返したりしているようだ。海未は少し真剣な表情で画面を見つめている。

 

 まったく、トラウマになっても仕方ないような出来事だったのにすごい子達だなぁ。普通こんなに楽しそうにあるいは向上心をもってあのライブの撮影動画なんて見れないだろう。

 それだけこの子達が純粋にアイドルという活動を楽しんでいるということだろうか。

 

 

 

 一方、花陽は。

 

 

 

 誰よりも真剣な顔でライブの様子を見守っていた。

 その瞳の力強さはさきほど自信なさげに困ったような笑みを浮かべていた彼女からは想像できないほどの迫力を秘めており、穂乃果もなにか感じるものがあったのかじっと花陽の方をみつめ始める。

 

 

 そして、動画が終わるや否や。

 穂乃果はまっすぐに花陽の目を見て、よくとおる声で彼女に問いかけた。

 

 

 

 

「ねぇ、花陽ちゃん。

 

 本気でスクールアイドル、やってみない?」

 

 

 

 

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