ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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ことりちゃん誕生日おめでとう!!
いつか君にスポットを当てた話も書いてみたいです!!

普通に本編ですが、期待せずゆっくりと読んでいってくださると幸いです。
それではどうぞ


第二十六話 じこぴーあーる

「PV撮影?」

 

 俺自身の少し上ずった声が静かな自室に響き渡った。

 矢澤にこがμ’sに無事参加したという知らせを聞いた丁度一週間後、何の脈絡もなく急に彼女から電話がかかって来た。一体何の用だと思えば、PVの撮影を手伝ってほしいとの事。なんだよPVの撮影って。彼女が入ったことによって具体的な活動が増えてきたのは良いことなんだろうけど……俺を巻き込まないでほしい。

 

 

『そうなの。PVには全員でなきゃいけないからカメラを持つ役が必要でしょ?固定カメラだと味気ないし』

「別に俺じゃなくて学校の友達に頼めばいいじゃん。どうせ音ノ木坂学院で撮るんだろ?」

『バカね、納得するまで取り直すモノだしあんまり関係ない人を拘束し続ける訳にはいかないでしょ?迷惑じゃない』

「俺の迷惑は!?てか、俺も無関係と言えば無関係じゃん」

『アンタこの後に及んでまだそんなこと言ってるの?

 にこをハメたの忘れたんじゃないでしょうね……』

「はぁ……」

 

 

 ハメるだなんてまたエロいことを……という軽口はギリギリのところで飲み込み、俺は諦めてため息をついた。まぁ確かにもう完全にのっかかった船だしな。その位なら別に付き合ってやらんこともない。もっとも絵里あたりにばれると少し厄介なことになりそうだけど……まぁばれたらばれたで話をするいい機会にもなるしそれもアリだな。

 最近は彼女なりに方法を探っている途中なのか、登校中も考え事をしていることが多くなってきた。まぁでもまだ見た感じ完全に追い詰められている訳ではないし、しばらく好きにさせておいても大丈夫だろう。

 

 

「分かったよ、じゃあ授業終わり次第そっち行くわ。希へは君から先に話通しておけよ。なんか面倒なことになると嫌だし」

『はいはい。放課後はみんな部活行ったり帰ったりしちゃって変に目立つことはないと思うから安心しなさい。そもそも野次馬になる生徒自体が少ないんだから、うちの学校は……』

「それもそうか……」

 

 

 事実とはいえ改めて聞くと少し寂しくなるな。

 まぁいい、とりあえずは明日の話だ!PV撮影かぁ……。

 

 

「ところでPV撮影ってなにやんの?」

『今の所予定してるのは……メンバー全員の自己紹介と一曲ダンスかしら』

「自己紹介……おっけ!考えていく!!」

『え?別にアンタは撮影だけしてくれれ……』

 

 

 ブチッ

 

 

 特にこれ以上用はなさそうなので速攻で通話終了ボタンをおした。それにしても自己紹介ねぇ……やりようによっては楽しくなりそうだな。くっくっく。

 

 

 

 

 

 

  ~自己紹介『西木野真姫』の場合~

 

 

「はい、ではこれからPV撮影を始めたいと思います」

「おぉ~!結構本格的なカメラだにゃー!」

「うわぁ、しかも海菜さんに撮って貰うなんて緊張する!」

 

 良いリアクションを返してくれたのは星空凛と高坂穂乃果。緊張するとは言いながらも目が爛々と輝いている所が穂乃果らしい。

 

「やってもらうことは簡単。名前とか色々聞いていくからそれに答えてくれればおっけ。ただし見た人の印象に残るものじゃなければやり直しだからね」

「印象に残るもの!?……ちょっと難しすぎやしませんか!?」

「む、無理ですぅ……」

「いや、お前ら仮にもアイドル目指してるんだろ?そのぐらい頑張れよ……」

 

 途端弱音を吐き始める海未と花陽。

 もうすこし自覚を持ってくれるとありがたいんだけど……まぁこの子達は少し考える時間をあげて後に回そうか。えっとじゃあトップバッターは誰にしようかな。

 

「……真姫。君からで」

「うえぇ!?なんで私からなのよ!?」

「今さらっと逃げようとしてただろ。逃がす訳ないじゃん、おおっぴらに後輩をいじめ……面倒見れる機会なんてそうそうないんだから」

「今完全にいじめるっていったわよね!嫌よ、アンタなんかに撮られるの」

「うん。とりあえずこれから先、敬語抜けたら執拗に君の鼻の穴だけカメラに映し続けるからな」

「うぐっ……スミマセン」

 

 後輩にこれほどまでにナチュラルにタメ口きかれたことにプチキレつつもカメラを真姫の方に向け、起動させる。うむうむ、身長は高くもなく低くもなく。胸は丁度膨らみかけで将来性に期待。容姿は言わずもがな端麗でつり目によって少しだけキツめの印象を受けるものの持ち前のお嬢様オーラと相まってむしろしっくりきている。

 ドМなら喜んで蔑んで貰いたくなるタイプかな。俺はそのタイプではないのでむしろあの気の強そうな鼻っ柱を叩き折って従順な召使にしてこき使ってやりたい。逆に燃えるそのシチュエーション!

 

「はい。じゃあお名前は?」

「……西木野真姫よ」

「趣味は?」

「ピアノ」

「好きな音楽は?」

「……クラシックかしら」

「はい。全然ダメ。ボツ」

「もう!じゃあどうすればいいのよ!?」

 

 流石にアイドルの自己紹介がこんなにも愛想のないものだとファンもなかなか出来ないだろう。塩対応が許されるのは大きなバックボーンのあるグループの一員位だ。

 

「おっけ、じゃあ俺が台本用意してきたからそれ覚えて!」

「何よその嬉しそうな顔……というか台本わざわざ作ってきてるのね」

 

 戸惑う真姫に半ば強引に台本を押し付け、撮影を再開する。

 

「じゃ、いくよ。お名前は?」

「西木野真姫よ……絶対覚えなさいよね!

 あと、真姫って呼ぶこと!別に深い意味なんてないわ、名字より呼ばれたことが分かりやすくていいの。え?他の人はみんな西木野さんって呼んでるって?うるさいわね!いいから名前で呼びなさい!」

「趣味は?」

「ピアノよ。えっと……放課後音楽室に来てくれたら聞かせてあげるけど?ただし、一人で来ること!いいわね?」

「じゃあ好きな音楽は?」

「クラシックだけど……なによ、えっ?アナタも聞きたいの?そんなこと言われてもスピーカーなんてないし……って、イヤホン片耳だけ貸せって!?ちょ、近いわよばかぁ!」

「はい、おっけーです!!!!!」

 

 

 カメラの撮影モードをオフにして全力でサムズアップする。いやぁ、いいものが撮れた!思わずドキドキしてしまったわ。

 

「ちょっと待ちなさい!!何なのよコレ!!」

「コンセプトはツンデレ。時間押してるし君の番は終わり、さっさとはけろ一年生。はい次はことり!準備して!」

「こ、この人完全に私たちで遊んで帰るつもりだわ!目が本気だもの……」

 

 

 

 

  ~自己紹介『南ことり』の場合~

 

 

「準備できた?よし。お名前は?」

「南ことり、16歳!チャームポイントは……たれ目かな?」

「キタコレ!たれ目可愛いよたれ目!個人的にむっちゃ好み!垂れるよー、俺のことりちゃんへの思いが心の中から垂れ出てくるよぉ!

……ところで趣味は?」

「洋服を作ることです!実はμ’sの衣装も私がデザインしてるんですよっ」

「えぇ!そうなんですか!ほんとに可愛らしい衣装でドキドキヌルヌルします。今度は是非もうちょっと際どい奴、お願いしますね!膝上一メートル位で。

それでは最後に一言どうぞ」

「えぇっと……私たちの事、応援してねっ」

「あぁ~~~~~~~脳がとろけるんじゃぁ~~~~~~~~~~」

 

 バシンッ

 

 叫ぶ俺の脳天にかなり強め……というか多分本気のツッコミが入った。

はっ!俺は一体何を!?

 

「いちいちうるさいのよアンタは!!!インタビュアーが一番喋ってどうするのよこの変態!!!」

 

 すごい剣幕でにこに怒られてしまった。

 だってしょうがないじゃん、無意識だったんだから。

 

 よし、次いこ次。

 

 

 

 

  ~自己紹介『高坂穂乃果』の場合~

 

 

「よっしゃ、さくさく行くよ!お名前は?」

「高坂穂乃果16歳!元気と笑顔は誰にも負けません!」

「好きな食べ物は?」

「えっと、これを言っちゃうといつもお母さんに怒られちゃうんだけど、私パンが大好物なんです。えっとえっと、でもお饅頭も好きですよ?ぜひ穂むらにも足を運んでくださいね!」

「最後に一言どうぞ」

「歌も踊りもあんまりうまくないけど、一生懸命頑張ります!!皆、応援してね!!」

 

 これはこれは、なかなかどうして様になってるじゃんか。ここら辺を自然にこなせるあたりがさすがと言うべきか……わざわざ穂乃果のヤンデレバージョンの台本作って来たのに完全に無駄になったな。

 穂乃果だけ見てくれなきゃ……ダ・メ・ダ・ゾ?みたいなセリフも結構しっくりくると思ったんだけどな、意外に。

 

「どうでしたか?」

 

 おずおずと言った感じで上目使いになりながらこちらを伺う穂乃果。この子完全に天然でやってるんだなぁ……これを計算で出来たらいいのにね。もっともそれじゃ穂乃果らしくないか。

 

「ん。完璧!さすがリーダー!」

「ホントですか?やった!……あ、別に私がリーダーって訳じゃないんですけど」

「え?君がリーダーじゃないの?」

「はい。……アレ?そういえばμ’sのリーダーって誰だっけ」

 

 どう考えても穂乃果一択な気がするけどなぁ。まぁそこらへんの話し合いはまた彼女達にして貰うとして……次、行こうか。誰がいいかな……よし!決めた!

 

 

 

 

  ~自己紹介『星空凛』の場合~

 

「凛も問題なく行けそうだなぁ。お名前は?」

「星空凛、高校一年生!凛の事、みんな覚えてね!」

「得意なことは?」

「凛はスポーツが大好き!ダンスはまだまだ練習中だけど、頑張って練習していっちばん上手くなるから見ていて欲しいにゃ!」

「どんなアイドルを目指しているの?」

「へっ?どんな?え~っと、え~っと……」

「はいストップ」

 

 おしい所まで言ってたんだけどな、返答に詰まってしまったみたいなので仕方なくカメラを止める。別にそれほど難しい質問じゃなかったよな?凛の様子を見る感じ答えが浮かばなかったというよりかは答えるのに躊躇ってるような印象を受けたけど……。

 

 仕方ない、これは俺の台本の出番だな!

 

 わざわざ家からワードで字に起こしてプリントアウトしてきた台本を凛に手渡した。その台本を無言で読んだ後、ポンッという効果音が付きそうなほどの勢いで顔を真っ赤に染める凛。

 

「にゃ、にゃにゃ!かいな先輩!こんなの凛には無理だにゃ!そもそもキャラじゃないですし!」

「無理じゃない大丈夫。いっぺんやってみよ!やってみてから考えよ!」

「うう~」

「それじゃスタート!」

 

 露骨に嫌がる凛を半ば強引に撮影位置に立たせ、録画を始めた。

 凛バージョンの台本で重要なのは台詞より仕草だからな、ぜひ全力でやって貰いたい。

 

「お名前は?」

「星空凛。高校一年生です」

 

 そう俯きがちに声を出し、不慣れな様子で笑顔を浮かべ腰のあたりで手を組んで頬を朱に染めながらこちらを伺う凛。よしよし、いい調子。

 

「趣味は?」

「最近は高校生になって初めてお化粧を覚えたので……少しずつ可愛くなれるよう努力します」

「最近興味のあるものは?」

「えっと、その……女の子らしく恋とか、してみたいかな?

 ……って何言わせるにゃーーーーーー!!!!!シャーーーーーー!!!!」

 

 凛は我慢しきれなくなったのかまるで猫のように唸りながら俺に向かってとびかかって来た。いってぇ!顔をひっかくな!コンセプトは初心な女の子、だったのだがどうやら凛には難しかったらしい。

 意外に女の子っぽい仕草も似あってたと思うんだけどなぁ。これからの調教もとい教育次第で新たな道が開けるかもしれない。

 

 

 

 

  ~自己紹介『矢澤にこ』の場合~

 

「……はぁ」

「そこ!なんでにこの番になった途端ため息つくわけ!?」

 

 なぜか一人だけ自信ありげに意気揚々と俺の前までやってきたアホ同級生を見て、思わずため息がこぼれてしまった。なんだよその顔、絶対私はうまくやれるから見ときなさい!とでも言わんばかりの表情。嫌な予感しかしないんだけど……。

 

「そろそろ飽きて……いや、時間も押してきたしさっさと撮るか。不本意ながら」

「アンタ今飽きたって言ったわね……遊び疲れただけじゃない。まぁいいわ、はやく質問しなさいよ」

「……チッ。お名前は?」

「にっこにっこにー!アナタの元気ににこにこにーの矢澤にこでーす!」

「ブッ○すぞ」

「シンプルかつこれ以上ない暴言!?カットカットカット!!!」

 

 思わずこぼれてしまった俺の声に反応して撮影中止を告げるにこ。……なんだ今の?よく分からないけど自分のものとは思えない殺意が体の奥底から沸々と湧き出るのを感じた。ガンジーも眼鏡を放り出してもろ手をあげて逃げるくらい温厚で知られる俺が、暴言吐く所まで追いつめられるとは流石矢澤にこ。一筋縄ではいきそうにない。

 

「いいからやり直しなさい。アイドルにはこういう部分が大事なの。キャラづくりよキャラづくり!」

「キャラってか俺がキラーになりそうなんだが」

「誰が上手い事言えっていったのよ!ごちゃごちゃ言わずにカメラ役に徹しなさいまだまだ先があるの」

「まだまだってか俺がマーダーになりそうなんだけど……。分かったからそんなに睨むなって……じゃ、趣味は?」

「え?普段の趣味ですか?……えっと、私プライベートではいつもテレビで見せる私とは違って少しだけ大人しいんです。だから一日中ずっと自分のお部屋で読書、なんて日もあるんですよ」

「へぇ、意外ですね」

「意外だなんて……実は男の人とお話するのも苦手で、今だって心臓がドキドキしてて」

「その心臓を今ここで止めてやろうか」

「カットカットカット!!だからアンタが必要以上に喋ってどうすんのよ!!!」

 

 

 

 

  ~自己紹介『小泉花陽』の場合~

 

 

「た、助けてぇ……」

「いや、あの。別に取って食おうとしてる訳じゃないからそんなに恐がらなくてもいいよ……」

 

 俺が思っていた以上に緊張した面持ちで前に出た花陽。さすがにここまで緊張している子で遊ぶことはできないなぁ。真面目にやろう。

 

「お名前は?」

「小泉……花陽です」

「それじゃ、花陽好きな食べ物は?」

「食べ物……えっと、炊き立ての白いごはんが大好きです」

「へぇ、そうなんだ。スタイルの秘訣はやっぱりそのごはん?」

「スタイルだなんて!その、全然よくないですけど……頑張って練習した後はご飯も美味しく食べられるし、スクールアイドルを始める前よりも健康な体になってると思います」

「はいカット。おっけー、上手くできてたよ!」

 

 一度カメラを止め、労いの言葉をかける。たどたどしくはあるものの質問に対してなんとか一言でも多く答えようとしてる姿勢が伝わって来ていいと思う。もっともテンパっている様子自体が微笑ましくて絵になってるんだけど。

 

 しかし花陽自身はあまり上手くいった気がしないのか不安そうにこちらを見ていた。

 

「なんて顔してんの、うまく出来てたよ?ほんとに」

「そうですか?うぅ……自信ないです」

「君らしくて良かったと思うけどね、俺は。それに君の可愛い所もちゃんと出てたし」

「かっ、可愛い所ですか!?」

「うん。花陽は君自身が思ってるよりずっと魅力的で可愛いよ、俺が保証する」

「は、はわわ……」

 

 顔を真っ赤に染め、逃げるように凛の後ろに隠れる花陽。あの恥ずかしがりな部分だけは少しずつ直して言ってもらわなきゃな。かといって恥じらいがなくなっても魅力としてはイマイチになるし……難しい所だ。

 

「どう見たって私の時と扱いが違うんだけど……」

 

 真姫。お前はまず俺に対する敬語をマスターして来い。話はそれからだ。

 

 

 

  ~自己紹介『園田海未』の場合~

 

「海菜さん!私には印象に残る自己紹介なんて無理です!」

「開口一番それかよ……折角最後まで考える時間あげたのに。それなら仕方ないな、俺のアドバイスに従う?」

「うぅ……自分じゃ考えつかないので」

 

 了承をもらったので台本を手渡した。まだ中身を見てすらいないのに苦渋の表情を浮かべる海未。いったいこの子の中で俺は一体どんな人間として認識されているのか。

 わざわざ代わりに自己紹介の台詞を考えてくれる先輩なんてそうそういないと思うけどなぁ。感謝をしろ感謝を。

 

「お名前は?」

「園田海未です」

「得意なことは?」

「アイドル研究部と弓道部を掛け持ちしているので、弓道が特技でしょうか……」

「それでは最後に一言お願いします」

 

 

 

 

「ら、……ラブアローシュートォーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 ここに新たな園田海未の黒歴史が、刻まれた。

 もとい、からかうネタが増えた。ニヤリ。

 

 

 

 

 


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