ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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皆さんの応援のおかげで少しずつではありますがこの物語も前へ進むことが出来ています^^
たまには少し真面目にお礼をば……

題名は『希の恋心』です。前回の記念回同様希と海菜の過去の話を少々。

それでは、どうぞ


 ◆ Nozomi's love.

 初めての場所

 

 初めて通う学校

 

 初めて出会うお友達

 

 初めての生活

 

 

 そしてまた訪れる終わりの時

 繰り返される出会いと別れ。

 

 

 私の歩いて来た道には人よりも多くの初めてがあって、そして人よりも多くの最後があった。いつしかそれが当たり前になり、気付いた頃には再三訪れる【別れ】に抵抗がなくなっていて。

 

 

 ここに来た時だってそう。

 

 いつか。それも遠くない未来、私は必ずこの音ノ木坂から離れる時が来るハズだ。ほかの誰よりも早く。こんなことを頭の片隅で考えていた。

 

 

 そんな時、私はエリチと。

 そして……

 

 

 

 キミ(古雪海菜)と出会った。

 

 

 

***

 

 

 出会いのきっかけはエリチの紹介だった。

 高校一年生の、そうやね……六月ごろだったかな?

 

 初めて彼女の家に遊びに行った時、偶然古雪くん。キミがやってきたんだよね。片手に『初夏のホラー大全』って真っ赤な文字で書かれたDVDを持ちながらなんとも形容しがたい笑顔でノック一つせずエリチの部屋に入って来たのを今でもしっかり覚えてるよ。

 

 最初は兄妹かと思ったんだけど話を聞く限り違うようだ。当然、自然な流れで恋人やんな?なんて聞いてはみたけどどうやらそれも違ったみたい。

 それでも傍から見て仲が良いというか、目には見えない絆の様なものが二人の間にはあるように思えて、凄く羨ましかったなぁ。実は最初のころは少しだけキミに嫉妬してたんだよ?エリチと一番の仲良しはウチやと思ってたのに、なんて。笑っちゃうよね?

 

 呆れた顔をして見せながらキミの事を紹介するエリチの表情は、もちろん恥ずかしさのような感情も混ざっていたけれど、どこか誇らしげな気持ちも含まれていた気がした。

 

 だからその時、少しキミに興味を持ったんよ。

 

 

 この子がここまで信頼してる男の子。

 この人は一体どんな人なんだろう?……なんて。

 

 

 

 

 第一印象は……そうやね、人との距離の取り方が絶妙な人だなって感じた。

 

 親の都合でいろんな場所でいろんな人と会って、話してきた私は同年代の子達と比べて【人を見る目】が発達してた。この人はどんな人なのか。それがなんとなく分かっちゃうの。

 

 今目の前で私に話しかけてくれている人は一体何が目的なのか。

 例えば私と仲良くなりたがっているのか、はたまたただの社交辞令なのか、……男の子なら下心からなのか。結構そういうのに敏感になってたん。

 だって、……変な勘違いをして嫌な思いするのは辛いから。

 

 

 キミと初めて話したときの事、私きっと一生忘れないと思うよ?

 

「初めまして。俺は古雪海菜。よろしくね」

 

 そう言いながら私を見つめたその瞳は今まで見たこともないほど深くて、それでいて少しだけ鋭い色をしてた。まるで逆に私の心の中が見透かされていくようで、少し焦って視線を外しちゃったのを覚えてる。

 きっと私じゃなきゃ気付けないその瞳の色。

 

 あの時キミがどうしてあんな目をしていたのか今なら分かるよ。

 きっと自分と違う学校、音ノ木坂学院でエリチが仲良くなった友達がどんな人なのか確かめようとしてたんだよね。

 

 ホント、私たち似た者同士なのかも。

 違ったのは私は自分のために、古雪くんはエリチのためにお互いを推し量ろうとしてたところかな。

 

 

 

 人との距離の取り方が絶妙って感じたのはそれからのこと。エリチと仲良くなっていくにつれて必然的にキミと会うことが多くなっていったよね。

 

 

 それでもなぜか私とキミの距離は縮まなかった。

 

 

 縮まなかったっていうのは少し語弊があるかな?正しくいうと、キミはある一定のラインから先へは決して踏み込んで来なかったし、同時にキミ自身の本当の姿も決して見せようとはしてなかった。

 【付かず離れず】これが一番良い表現かもしれないね。

 

 

 当時の私はやっぱりまだ男の子に対しては少し警戒心を持っていたから、……言ってしまえばすごく心地の良い距離感だった。きっとキミは私が自分に対してまだ心を開いてないってことが分かってたんだと思う。

 それは君の優しさであり、同時に厳しさだったのかな。歩み寄る意志の無い奴にわざわざこちらから手を差し伸べる必要なんてないだろ?なんて言いそうだもん、古雪くんは。悪い人じゃないけど、なんというか……主人公タイプではないやんね?

 

 

 

 

 それでも一人の友人として次第に仲良くなっていった。

 少しづつだけど私もキミに心を開いていって、そしてその分だけキミも距離を縮めてくれて。

 

 そして月日が流れ、ある事件が起こった。

 

 

 

***

 

 

「え!?古雪くんがバスケを?」

「……そうなの」

 

 確か二年生の……五月ごろだったかな。結構深刻な顔のエリチに家に呼び出された私は驚きから大きい声をあげてしまい、慌てて口を塞いだ。

 

 

 キミが本気でバスケットボールに打ち込んでいたことは私もよく知っていた。何度も練習帰りでへとへとのキミと会ったこともあるし、内緒でエリチと一緒に試合を見に行った事もあったから。

 エリチ、なんだかんだ言いながら結構キミのバスケをしている姿がお気に入りだったんだよ?でも試合見に行って騒いじゃうと後で海菜に怒られるから……なんて言いながらしょんぼりとして、見に行くの諦めるわなんていったりして。

 結局見かねた私が内緒で行けば大丈夫やん?って説得して引っ張って行ったんだけど。

 

 古雪くんも古雪くんだよ!照れくさいのかもしれないけどそのぐらい許してあげなよ。全く、反抗期の息子じゃあるまいし……。

 

 でも結局、見に来てるのがばれて怒られちゃうんよね、エリチは。

 あの子、子供みたいに騒ぐものだから隣にいる私も少し恥ずかしかった。あんなエリチ珍しいから面白くもあったけどね。

 

 

 まぁそれは置いといて……。

 実際私も初めて試合中のキミの姿を見て凄いなって思ったんよ。

 

 エリチや私といる時のキミはいつもいたずらっぽい笑顔を浮かべていたから、あれだけ真剣で鬼気迫る顔つきの古雪くんを見るのは初めてだった。一年生なのにレギュラーで、ほぼ最初から最後まで懸命に走り続ける姿に不覚にもカッコイイなって思ってしまったのは内緒。

 

 古雪くんの通う学校は進学校で、そこまでチームとしては強くないからか一回戦はなんとか抜けるけど、次の試合で負けちゃって。みたいな感じだったかな?

 

 

 こんな言い方するのは間違っているのかもしれないけど……優勝が出来ないってことは分かってるんやんな?そのはずなのに必死で努力して、懸命に勝利を求めるキミを私は尊敬してた。

 

 そんな君がバスケをやめるってエリチから聞いたとき、本当に驚いたんよ?

 

 

「なんで?古雪くんはなんて言ってたん?」

「『バスケはやめる、勉強に集中する』……だって。それだけよ」

 

 

 たしか丁度その頃キミが国体選手の候補に選ばれたって話を聞いたばっかりだったから、驚きはより大きかった。だってそうでしょ?自分の努力が認められて、もっと高い、彼に見合ったレベルのバスケが出来るチャンスが与えられたわけなんやから。

 

 よりにもよってそんな時にやめなくても……。普通そう思うよね?

 

 

 でもエリチは違ったみたい。

 

「あのバカ……しんどい時くらい私に相談しなさいよ。……ばか」

 

 呟くようなその声。

 

 

 バスケがどうこうなんていう即物的な部分にしか目がいかなかった私と、きっとつらい選択をしたであろうキミの心配を一番にしたエリチ。

 

 

 

 

 

 そんな私とエリチの違いに自分で気が付いた時。

 胸にチクリとした痛みが走った。

 

 

 

 

 

 一体なんだろうこの気持ちは?

 

 

 今思えばもうこの時からキミに惹かれていたんだろうね。

 私にはない強さを持つキミに惹かれて、そしてそんな君を私なんかよりずっと深くまで理解しているエリチを。二人のそんな関係を……羨ましく思ってたんよ。きっと。

 

 

 

 

 

 

 私は、古雪くんが好き。

 そのことにはっきりと気が付いたのはもう少し後の事だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 キミが部活をやめて半年ほど経った頃だから……大体九月か十月ごろ。

 音ノ木坂学院では次期生徒会メンバーを決める選挙があった。

 

 私はこれっぽっちも生徒会には興味が無くて、正直自分には関係のない話だと思っていた。……いたんだけど。

 

 

「希、私生徒会長に立候補するわ」

 

 

 そう親友が言い出した時、もちろん驚きはしたけれど心のどこかでそうなるだろうな、と納得した自分がいた。誰よりもエリチがこの学校を愛しているのも知っていたし、元来真面目すぎる部分はあるもののリーダー気質のみんなを引っ張っていける力のある子やったから……素直に応援したいと思ったんよ。

 

 あくまでその時は直接生徒会の活動に関わろうなんておもっていなかった。

 もちろんポスター貼ったり、決意表明を聞いてアドバイスするなど影のお手伝いはしてあげようと思っていたけどね。

 

 

 ところで。

 

 この学校の生徒会メンバーを決めるシステムは少し独特で、まず生徒会長を選挙で一人決定して、その二週間後。今度は副会長を再び選挙で選出するというものになっていた。その年の生徒会長をあらかじめ見て、副会長になりたい。その人の下で補佐として働きたいと思った人間が副会長候補として立候補する仕組みらしい。

 

 

 宣言通り生徒会長に立候補したエリチはライバル達に大差をつけ、当選を果たした。

 

 彼女のその同性から見ても魅力的な容姿と、凛々しい立ち振る舞いから彼女の校内の人気は高いようで、副会長候補は例年よりかなり多いらしいことを耳にした。

 

 私はエリチのことちゃんと助けてくれる子が当選したらいいなぁ、なんてお気楽に思っていたのだけど……そんな時、キミから急に連絡がきた。

 

 

 二人で会いたい、っていう初めてのキミからの頼み事。

 珍しく真剣なキミの声に不思議に思いながら私は待ち合わせ場所に向かった。

 

 たしかこの時初めて『二人きり』で話したんだよね?少しづつ距離は縮まっていたものの結局会うときはいつも三人で。少しだけ私は緊張してたの。

 

 

「ごめんね希、急に呼び出して」

「んーん、別にええよ。……もしかして、告白?」

「ばーか。んな負け確定の愉快な自殺するほど俺もアホじゃないっつの」

 

 私の冗談を軽く流して、古雪くんは今までに無い真面目な様子で話し始めた。

 

「絵里が……生徒会長に立候補して、昨日当選したよね?」

「うん。文句なしの一番やったよ?流石エリチやね……それがどうかしたの?」

「……それに関してだけど。頼みごとがあるんだ」

「……頼み事?」

 

 古雪くんが、私に?一体何を?

 大量の疑問符が私の頭を埋め尽くす。

 

 キミは私の目をまっすぐに見つめて、口を開く。

 

「副会長になって、絵里を助けてやって欲しい。……きっと君にしか出来ないことだから」

 

 飛び出したのは予想だにしない言葉。

 副会長を私が?

 

「えっと……その。確かに生徒会長の仕事は楽やないけど、これから立候補して副会長になる人はちゃんとエリチの力になってくれる人ばかりだよ?むしろウチより優秀な人ばかりやと思うし」

「たしかにその通りかもしれないけど……。でも、助けて欲しいって言うのは仕事の事じゃないんだよ」

 

 そう言ってキミは一度言葉を切り、すぐに続ける。

 

「君も分かってると思うけど、絵里は……真面目すぎるんだよ。いい意味でも、悪い意味でも。もちろん例年通り何事もなく生徒会長の仕事が終わるならいいけど……そうとは限らないだろ?

 もし……もし仮にあの子だけの力じゃどうにもならない事が起きた時、絶対アイツは自分自身を追い詰めて、傷ついてしまう。くやしいけど俺はもうあの子の近くにいないから、きっとそれを止められない。今一番絵里の近くにいるのは紛れもなく君なんだよ

 

 だからお願い。あの子を、そばで助けてやってくれないかな?」

 

 言い切ると同時に頭を下げるキミ。

 私は凄く驚いた。まさかそんなこと言われるなんて思ってもみなかったから。そしてキミがそんなことを言う人だなんて知らなかったから。

 

 私から見た古雪くんは、誰よりも自分に厳しくて他人の事は構わず自分自身の夢に向かってひたすらに邁進し続けることが出来る人だった。

 だから私はそんなキミをエリチが支えているのとばかり思っていたんだけど、本当は逆。私がエリチと知り合うずっと前からキミがエリチを支えてあげてたんだね。

 

 

 

 

 キミは本当は誰よりも優しい人。

 

 

 

 

 

 そのことに私はやっと気が付いて……そして静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 キミが私のその返事を聞いた後、顔をほころばせながら私の手をとってありがとって言ってくれたその時初めて。私と古雪くんの心の距離が近づいて……繋がった気がした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 これがきっと私の初めての恋の始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふふっ、エリチのために一生懸命頑張るキミが好き。なんて……我ながらおかしな恋だよね?でも今は、今だけは。この初めて生まれた暖かいこの気持ちを大事にしていたい。

 

 

 

 

 

 今はエリチの方しか向いてくれていないけど、いつか。

 いつの日か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の方を向いてくれる日が来ますようにっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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