ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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第四&五話 ファーストコンタクト1

 スッスッスッ。

 

 黒板の前に気だるげに立ち、呪文のようにただひたすらに教科書を読み上げる国語教師にばれないよう、前の席に座る友達の背中の陰で手早くスマホを操作する。

もし返信がきたら向こうは自習なんだろうけど・・・。アイツ真面目だし。

 

 あっ、返信来た。

 

 

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《to希:おっす。希がバイトしてる神社の場所忘れたから教えて。おら。はよ。》

 

《to古雪くん:なになに~ウチに会いに来てくれるん?(*^ワ^*)》

 

《to希:( ´゚,_」゚):;*.’:;ブハッ!!!!!!!!!》

 

《to古雪くん:あれ?うちお願いされてるんやんな?こら!人にものを頼むときは態度をあらためなさい!》

 

《to希:たとえば?》

 

《to古雪くん:うーん。もっとこう、教えてあげたくなるようなまっすぐな態度とかかなあ》

 

《to希:お》

 

《to希:ね》

 

《to希:が》

 

《to希:い》

 

《to希:し》

 

《to希:ま》

 

《to古雪くん:まっすぐってそういう意味じゃないよ~!!もっと下手に出た態度をみせなさいってこと!!》

 

《to希:あのさー、いや、おれは別にいいんだけどさー。友達がさー、知りたいっていってるんだよォ。だから教えてほしいんだけどよ。お前ってか希・・・のんたんがさ、バイトしてる。あ、バイトっていっても~~~~~~長いので割愛。》

 

《to古雪くん:頼み事下手すぎ!あとそれは下手(したて)じゃなくて下手(へた)の方やん!もう。一応MAP情報貼っておくから・・・。》

 

《to希:そんなことより人にものを頼むときの態度をもっと教えてください。お願いします。》

 

《to古雪くん:ただボケたいだけやん!あと、ちゃんと頼めてるよ~!聞くまでもなくお願いしますって言えてるよ!》

 

《to希:ほんまや(驚愕)・・・さんきゅ!じゃ!またあとで。》

 

 

 

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 うん。希は結構ツッコミのセンスあるな。すこし声に張りがないから普段の会話の中でのツッコミは、的確ではあるけどキレはないからなぁ。ラインならめっちゃかみ合う。楽しい。

 

 なんてことを思いながらニヤニヤしているとふと画面が暗くなる。

 ん?陰にはいったのか。前の人が動いたのかな。

 

 スッと顔を上げると目の前に仁王立ちした国語教師がいた。

 眉間に皺が尋常じゃないほど寄っている。怖え。

 

 

 俺は悟ったように目を閉じ、その時を待つ。

 

 

 静寂。直後に破裂音。

 

 

 ……全く。あんな本気で出席簿使って殴らんでもいいのにね。

 

 

 

 

***

 

 

 少しひりひりと痛む頭を撫でながら神社へと向かう。

 

「うわぁ、久しぶりに来たけど相変わらず長い階段だな」

 

 境内へと続く妙に長く急な階段を見上げながら一人呟く。やばい、心折れそう。神様なんてなんぼのもんじゃい。わざわざ祈りに来てやってるっていうのによ!こんな階段上ってられっか。などと罰当たりなことを考えつつ当初の目的を半ば忘れかけ、これからしなければならない肉体労働のつらさを想像していたところ。

 

 純白の小袖としわひとつない緋袴、いわゆる巫女装束を着こなした希が現れた。

 

 

 うわぁ……ホントによく似合ってる。

 

 

 前見たときも思ったが、相変わらず同じ感想しか出てこない。黒髪を綺麗に束ね、優しげな面持ちで竹ぼうきを持って歩く彼女は、普段のとっつきやすい感じと異なり、神々しい印象さえ受けてしまう。

 

 反則なのはその胸。ゆったりとした小袖からはみ出さんばかりに盛り上がった双丘。

 思わずそこに目がいってしまうのは仕方がないことだろ?誰も俺を責められはしないって。

 

「わざわざ来てくれたんやね」

 

 そう言って大人っぽくほほ笑む希に少しどぎまぎしつつも努めて冷静に答える。

 コイツ本当に高校生、もとい同い年かよ。

 

「まぁ、部活やめて暇だしな」

 

 

 

 ため息を一つつき、階段の記念すべき第一段目に足を開けた刹那。ふと視線を感じる。

 

 

 バッと振り向くと制服姿の女の子と目があった。

 肩にかかる程度の朱色のかかった、よく手入れのされた艶やかな髪に、フランス人形のように整った顔立ち。少しつり目な所が気の強そうな雰囲気を醸し出している。

 

 

 あの制服は・・・音ノ木坂のものだ。絵里たちのそれとリボンの色は違っているから下級生だろうか。

 俺が見つめているからなのか、困惑したような様子でこちらを見返してくる。あれ?別に俺を見ていたわけじゃないよな?知らん子だし。だとしたら希か、と判断し横を見ると、巨乳巫女の姿が忽然と消えていた。

 

 

 どこ行ったんだ。と、周りをぐるりと見渡し、女の子の方に視線を戻すと件の巨乳美少女はその子の後ろにいつの間にか移動していた。俺にいぶかしげな視線を送るのに集中しているのかその子はまだ後ろの希に気づいていない。

 

 何するつもりだアイツ・・・。

 

 

 

 

 

 と、思った瞬間。

 いきなり希はその子の胸を全力で揉み始めた!!

 

「え?キャアアアアアア!!何すんのよーー!!」

 

 驚きと羞恥からか、頬を上気させながらその子が叫ぶ。

 

「あ、あれは!!!希の必殺技、WASHIWASHI!!!」

 

 俺もたまらず叫ぶ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 くうぅ!高校入ってからだから、希とはそれこそ2年以上の付き合いだがこの技を見たのはたった一度きり!!あの時はそれを俺に見られた絵里が一週間口をきいてくれなくなったので止む無く禁じ手としたはずなのだが・・・。再びこの秘奥義と会いまみえる日がこようとは。

 

 

 

 眼福!!

 

 

 

 とりあえず鳥居に一礼し、この情景に立ち会えたことを神に感謝した。

 

「ちょっとそこのアナタ!祈ってないで助けなさいよ!!!この女の知り合いなんでしょーーー!」

 

 

 

 神も捨てたものではない。

 こんな幸運が訪れるならこの階段を登るのも悪くないな。

 などと考えつつ叫ぶその子をこぼれんばかりの笑顔で見続ける俺であった。

 

 

 

 

 

 なんか言われてる?知ったことか!!!

 

 

***

 

 

 

「もう、一体何なのよ……」

 

 希の呪縛から解き放たれ、軽く息を切らしながらこちらを睨みつけてくる女の子。いや、俺別に何もしてないんだけど。全く事情が呑み込めないため、満足そうに腰に手をあてながら笑顔でうなずく巫女さんにアイコンタクトを送った。こころなしか頬のツヤが増してる気がする。

 

 再び希はその子の後ろにまわり、ポンッと肩に手をのせ、疑問に答えてくれた。

 

「この子は西木野真姫ちゃん。一年生で、そうやね……いわば未来の作曲家ってところやな~」

「何勝手なこと言ってるのよー!私は絶対あの人たちの手伝いなんてしないから!」

「わざわざ練習見に来ておいて素直やないな~。今日はまだ3人は来てへんよ?しばらくまっとき」

「イ、イミワカンナイ。こ、ここが帰り道なだけよ。ただ通りすがっただけ!」

 

 

 ぽつんと取り残された俺の前でやいのやいのと二人で勝手に会話を進めていく。え、なにこれ、寂しいんだけど。……まぁ会話を聞く限り、スクールアイドルを目指す3人に曲を作ってくれるのがこの西木野真姫って子のようだ。なんか本人は嫌がってるようなそぶりを見せているが、初対面の俺でもわかる。ただのツンデレだろう。

 

「えっと、メモメモ。西木野真姫はツンデレ……っと」

「ちょっと!何勝手なメモとってるのよ!」

 

 きちんとメモ帳を取り出して書き足すふりをする。さすがに残したって仕方ないからな。

 ちなみにこのメモ帳はネタ帳も兼ねており、中身には恥ずかしい試行錯誤の後がくっきりと残されている。中を見られたら恥ずかしさで死ねると思うわ。

 

 それはともかくとして、間髪入れずツッコんでくる真姫。一年生なのに、出来る!気を良くした俺は同じ調子で続けた。

 

「え~っと、追記事項……胸は、小ぶり、っと」

「うぇええぇ……」

 

 真姫は顔を朱色に染め、胸を隠しながら座り込んでしまった。なんだその声。てか、しまった!さすがに初対面でセクハラは早かったか。申し訳なさを感じつつ、慌ててごまかすように自己紹介を始めた。

 

「ごめんごめん、初めまして。俺はそこにいる希の友達の古雪海菜。えっと、……よろしく」

 

 カバンを頭の上に被せ、完全に顔を隠してしまった真姫をできるだけ刺激しないよう優しく話かけた。そりゃ初対面の男に胸わしわしされるとこ見られたら恥ずかしいわな。

 

「古雪……さん?」

 

 やっと落ち着いたのか顔を上げて俺の名字をリピートして何かしら考え込むような素振りを見せる。偽名かと思われてるのか?もしくは俺の名字に聞き覚えがあるとか……。

 

「何か気になることでもある?」

 

 そう聞きながら真姫の方をむくと……。

 

 

 

 脱兎のごとく全力で逃げていた。はっや!!

 

 

 

 なんで逃げる必要があるんだ?

 訳も分からず首を傾げながら立ちすくんでいると襟首を思いっきりひっぱられ、階段の陰に引き込まれた。うぇええ!変な声でた変な!

 

 いきなりひっぱられたせいで手に持っていた手帳を落としてしまう。

 

「のっ希!何しやがる!」

「しっ!ほら。噂の3人がやってきたよ。」

 

 希が指さす方向を眺めると3人の女の子達が歩いてくるのが見えた。

 なるほど、あの子たちが。

 

「ああ、なるほど。……よし、しばらく物陰から観察することにしよう。」

 

 そう言って身を潜めて待つこと一分ほど。

 なにやら楽しげに会話をしている。よしよし、このまま通り過ぎていってくれれば……。

 

「あれ?手帳が落ちてるよ~、誰のかな?」

「中を見て確認してみてはどうですか?」

「ことりもそれがいいと思うな」

 

 大事な手帳を取り戻すため……。

 

 

 

 

 俺は音速を超えるスピードで、飛び出した。

 

 

 

 

 一陣の風のごとく颯爽と登場し、半ば強引に真ん中の快活そうな女の子からマイ手帳を奪い取る。危ねぇえ!まだ見せてないネタや、すべること間違いなしの一発芸が世の中に晒されるところだった。

 

 いきなり登場して必死の形相で手帳をひったくっていく俺に三人とも目をぱちくりさせている。まあそりゃびっくりするわな。無理もない。

 

 

 

 ……

 

 

 

 ……し、しまったああああァァ!!!!!

 

 

 初めはこっそり物陰からどんな子達なのか観察する予定だったのに、なんだこれ。モロバレじゃん!当初のシュミレーションをわずか一分足らずで無に帰した自分自身をできることならぶん殴りたい。初対面の女の子3人と仲良くお話出来るビジョンが浮かばない。ただでさえ女子高生なんて男に対して警戒心を人並み以上に持つ人種だ。彼女らの中ではおそらく俺は現在、ただの不審者だろう。

 

 どどどど、どうすればいい?

 そ、そうだ!希がいてくれればなんとかなる!

 

 そう思い立ち助けを求めようと希を探す。

 

 

 ……いた。

 

 

 階段の陰からこっそりとこちらをうかがいながら、笑顔でサムズアップしている。

 

 

 

 ……助ける気、ねええええェェ!!!!!

 

 

 

 本日何度目かわからない心の中での絶叫。だ、だめだ。アイツが助けてくれないなら一人でなんとかしないと。とりあえずなんか言わなきゃ。そうだ!お礼。まずお礼を言って、何とか不審人物じゃないって所をアピールしよう。

 内心テンパりながらも努めて冷静に、優しく話しかける。

 

「あ、俺の手帳拾ってくれてありがとうね」

 

 リアクションは見事に三者三様。

 

 先ほど自らをことり、と呼んでいた、希とは別種の柔らかさを感じさせる女の子はにっこりと微笑み返してくれている。また、黒髪を腰まで伸ばし姿勢よく立つ、真面目な印象をうける女の子は顔に警戒心をありありと顔に浮かべながらこちらの様子をうかがってきた。

 

 そして、手帳を拾ってくれた女の子は俺の顔を凝視している。漫画なら『ジーーーーー』といった効果音がつけられそうなほどこっちを見てくる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 え?え?何。なんでこんなに見られてんの?

 自分の心臓が焦りから早鐘のように打つのがわかる。

 

「あ、あの。俺の顔に何か?」

 

 おそるおそる聞いてみる。他の二人も友達の様子が気にかかったのか、その子に不思議そうにはなしかけていた。

 

「穂乃果、どうかしましたか?」

「穂乃果ちゃん、どうかしたの?」

 

 穂乃果、と呼ばれた女の子はしばし考え込む仕草を見せた後いきなり俺の顔を指さして大声をあげた。なんだ、初対面なのに失礼な子だな。俺も言える立場じゃないけれど。てかむしろ俺の方が失礼か。

 

 

 

「私!!この人お店で見たことある!!!」

 

 

 

 どうやら顔見知りだったらしい。

 もっとも、全然思い出せないが。

 

***

 

 

 この穂乃果、という子は俺をどこかのお店で見たことあるらしい。改めてじっくりと観察してみよう。茶色がかった髪の毛を肩のあたりまで伸ばし、いわゆるサイドテールと呼ばれる髪型をしている。片側に分けられた前髪から除く瞳は綺麗な空色。まるで子犬のようにきらきらと目を輝かせている。ま、まぶしい。

 

 よく張る声といい、この明るい表情といい、おそらくこの3人のなかのリーダーポジションを務めていそうな子である。……うーん。かなり可愛いらしい子だし、あったことあるなら忘れないと思うんだけどなあ。

 

「穂乃果、だっけ?あったことあるってホントに俺かな。人違いじゃない?」

「ううん、違うと思います!会ったというより見ていただけなんですけど、かなり印象に残ってますし。『穂むら』っていう和菓子店に来たことありませんか!?」

 

 何やら確信をもったように身を乗り出して聞いてくる。あ、ああ!穂むらなら知っている。値段も手ごろで美味しいし、割とよく行くお店だけど……。

 

「知ってる知ってる。お気に入りのお店だし……。でも、それがどうかした?」

「私の家がやってるお店なんですよそこ!」

「うぇええ!?マジ?いや、雪穂ちゃんなら知ってるよ」

 

 また変な声でちゃったよ変な声が。真姫か。

 ……

 

「雪穂は私の妹です!雪穂からよく話を聞くから一度お話したかったんだー!!毎回私が手伝いじゃない時に来るらしいから。えっと、たしか海菜さんですよね?」

「お、おお。そうだけど……」

 

 ヤバい。展開の速さについていけてないぞ俺。ただでさえイレギュラー続きで頭こんがらがっているのに。でも、うれしい誤算だ。少なくとも不利な状況になったわけではないだろう。

 

 というか、雪穂ちゃんが俺の話をしてくれているのか。雪穂ちゃんっていうのは穂むらという和菓子店でよく手伝いをしている女の子で、それこそ、ここ一年ほど交流がある。もっともお店で少し話をする程度のものだが。

 一体どんな話をされているのだろう。もしかしてかっこいいお客さんがいるとか?素敵な先輩と知り合っちゃったとか??

 

 

 いよっしゃーーーー!もしや、もしやこれはモテ期か!!さすがに3歳違うから守備範囲ではないけれど。もしそうならかなりうれしい。

 

「ちなみにどんな話を聞いてるの?」

 

 

 ドキドキ。

 

 

 冷静さを表面上は保ちながら、別に興味ないようなふりをしながら聞いてみる。

 

 

 

 わくわく。

 

 

「毎回来るたび何か一つしょうもないネタをやって帰っていく面白い人がいるっていってました!」

 

 

 

 はい!はい!!

 勘違い甚だしいやつ!恥ずかしいやつ!!!

 

 まあそんなことだろうと思ったよ。

 

 でも、面白い人って思われているのなら本望だ。

 日ごろから腕に磨きをかけているかいがある。

 

「あと、たまにすべって悲しそうに帰っていく可愛らしい人だって言っていましたよ」

 

 あれ?これ俺面白い人というより寒い人って思われてない?

 あんまりウケなくて落ち込んでたのばれてるし。……穴があったら入りたい。

 

「なるほど、穂乃果の知り合いだったのですね」

 

 少しばかり警戒心の薄れた顔でほっとした顔で口を開いたのは真面目そうな女の子。

 

 

 

 良かった。一応警戒は解いてもらえたようだ。

 

 

 よし、そろそろおふざけはここまでにして本題に入ろうか。

 

 今日の目的は、この子達が一体どれほど本気でスクールアイドルを目指しているのか。……いや違う。どれほど本気で音ノ木坂を救いたいと思っているのか。

 

 それを確認することにある。もちろんちょっと会って話す程度で『うまくいく』かどうか分かるなんてことはないと理解はしている。でも、『絶対うまくいかない』という判断はすぐに下せるものだろう。希は彼女たちを信用しているみたいだが、俺も自分の目で見て耳で聞いて、その上で判断をしたいと思う。

 

 

 ザッザッザ。誰かの近寄ってくる足音が聞こえた。

 

『あ、副会長さん!』

「今日も練習するん?精がでるね。・・・あ、古雪くんこんな所で会うなんて奇遇やね?」

 

 3人が同時に驚きの声を上げる。いつの間にか希が傍にやってきていたみたいだ。少し微笑みながら、あたかも偶然会ったかのように話しかけられた。相変わらず空気の読める女です。

 

「お二人は知り合いなんですか?」

 

 驚いたように穂乃果が聞いてきた。

 

「そうだよ。てか君らもコイツと知り合い?」

 

 少し考え込む素振りを見せた後ポンっと手を叩く。

 

「・・・ああ!希と君らは学校一緒なのか!道理でその制服に見覚えがあるわけだ。」

 

 希のフォローに感謝し、言葉をつづける。

 

「そういえば聞いたよ。音ノ木坂、いまピンチなんだってね。廃校寸前って話じゃない?」

 

 

 俺のその言葉を聞いた途端暗い表情になり俯く3人。何も言わず成り行きを見守る希。

本当に心苦しいが、容赦なく続きのセリフを吐かせてもらおう。

 

 

 

 

 

「でももう手遅れだよね。どうしようもない」

 

 

 

 

 

 きっとこれは彼女達が聞く初めての【見知らぬ部外者】から聞く非情な言葉。

 悪意のない誰もが抱く純粋な感想。

 

 

 

「聞くところによると一年生は一クラスなんだって?そりゃもうどう考えてもダメでしょ。何をどうしたって廃校は免れないだろうね。気の毒に……」

 

 

 

 あくまで本当に心配しているように3人に話しかける。

 

 どんよりと重い空気。誰も言葉を発さない。

 さすがに追い詰めすぎてしまったかなと思い冗談でも言おうと口を開きかけたまさにその時。

 

 

 

 穂乃果が顔を上げた。

 

 

 

 

「そんなこと……」

 

 

 

 ……

 

 

 

 

「そんなこと、ないです!!!!!」

 

 

 

 

 

 いつの間にかうつむいていた他の2人も顔をあげ、俺の方を凛とした表情で見つめている。

 

 

 

 

 

「わたしが、いや、私たちが!絶対になんとかしてみせます!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言い切った穂乃果のその力強い声に、表情に、瞳に。

 

 俺は期待を抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________________________________

おまけ~しょうもないネタ~

 

雪穂「いらっしゃいませ。あ、海菜さん!」

古雪「よ。久しぶり」

雪「ほんとですよー。ところで今日は何にします?」

古「いやー、最近あんこに凝ってるんだよね」

雪「あんこですか?」

古「うん。もう気に入りすぎて持ち歩いてるくらいでさー」

雪「ほんとですか?そんな人普通いませんよ」

古「ほんとほんと。見てくれる?」

雪「……?いいですけど」

 

 

アンコウの刺身を取り出す。

 

 

古「……」

雪「……」

古「……」

雪「……」

古「って、それ魚のアンコウやないかーい!!」

雪「……」

古「……」

雪「わざわざ買ってきたんですか?」

古「うん」

雪「この間はお酒すきになった~とかいいつつ鮭だして『酒じゃなくて鮭やないかーい!』ってやってましたよね。……天丼ならいけると思ったんですか?」

古「うん」

雪「……」

古「……」

雪「20点です」

古「……。帰る」

雪「あ、ちょっと待ってください!ごめんなさい、おもしろかったですよーー!!」

雪「……行っちゃった」

雪「……アンコウおいて帰ってるし」

 

 

雪「クスッ」

 


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