ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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第三十九&四十話 ファーストコンタクト4

 初夏の風がふわりとカーテンを揺らし、少しだけ強くなってきた日差しが勉強机に降り注ぐ。カリカリと計算用紙に数式を刻み続ける左手が陽に照らされて熱を帯び、俺はそれにつられて窓の外を眺めた。

 どうしようもなくいい天気だ。雲一つなくて気温も心地よくて……、なにより心配事が一つもない。こんなにも心安らぐ休日は久しぶりで、思わず手を止めて立ち上がった。

最近以前にも増して酷くなっている猫背をググッと伸ばして、大きく深呼吸。

 

「平和だなぁ……」

 

 別に誰に聞かせるつもりでもない独り言を零す。

 絵里たちは今頃ダンスの練習に勤しんでいるころだろう。時刻は午前十一時。もしかしたら練習を終えて昼飯にでも向かってる時間かもしれない。俺の方も朝からずっと勉強していたので少し集中力も切れていた所だ。

 んー、受験生だからとはいえ、この天気の中ずっと部屋に籠りっきりっていうのも寂しいなぁ。午後から参考書でも買いに出かけてみようかな。

 

 午前の勉強はこれまで。こなした教科やその内容をノートに書き留めてからスウェットを脱いで外出用の格好に着替えるためにクローゼットを空けた。お気に入りのクロップドパンツに適当なポロシャツを選んでわずかに防腐剤の香りのするそれを着込む。

 割とこの匂い好きなんだけど……俺だけかな?

 

 誰に会うか分からないので一応整髪剤で髪型を整えて部屋を出た。

 気を抜いてジャージ、ボサボサヘアーで出かけた時に限って知り合い。それも女の子とあってしまうのは一体なんなんだろうね?ホント。

 

 俺はゆっくりと階段を下りてリビングに入り、真昼間からケツをかきながらイビキかいて寝てるオカンを文字通り叩き起こした。

 

「おかん起きろ!」

「……はっ!寝てた?」

「よくもまぁ、息子が頑張って勉強してる中気持ちよさそうに寝れるな。

 ……これから参考書買いに行ってくるからお金ちょーだい」

「起きててもうるさいって文句言うじゃない、アンタ。はいはい。昼ご飯は?」

「起きてたら執拗に掃除機かけるじゃん……。セパタクローでもしに出かけて欲しいんだけどな、理想は。外で食べるから一万円くらい頂戴」

「お釣りネコババする気満々ね……後でレシート見せなさいよ」

「多分無くす」

 

 全く、お金の事となると目ざとい女だなあ。流石キャリアウーマン。家計の財布を握っているだけはある。……まぁ、参考書買うっていうとお金を惜しまず出してくれるあたりは普通のおかんと変わりないけれど。

 がさごそと自分のカバンを漁って財布を取り出すとそれほど惜しみなく札を取り出して渡してくる母親。なんだかんだいいつつ、理解のあるいい母親なのかもしれない。

 

「お釣りは絵里ちゃんに貢ぐのよ!」

 

 前言撤回。

 うるせぇぞババア!

 

 

 

***

 

 電車を乗り継いで、都内でも有数の俺のお気に入りであるでっかい書店に来ていた。店内の参考書コーナーには学生らしき人達が、思い思いに本棚を漁っては気に入る本を探している。

 俺の趣味の一つに良い参考書探し、がある。

 最近は本当に多種多様な参考書が発売されていて、よいものもあればダメなものも。そしておもしろいものもあれば全く面白くないものもある。それらを自分の目で見て判断して選ぶのが意外に楽しいのだ。

 掘り出し物が見つかればラッキーだし、自分の意思で選んだものだとモチベーションも違ってくる。先生とか先輩に聞くのも一つの手だけどそれじゃ面白味がないしな。

 

 そんなわけで息抜きがてら手当たり次第に気になった書籍をぺらぺらと眺め続けること三十分ほど。買おうと思えるような参考書はなかなかなく、見つかるのはあまりよくない物ばかり。

 

 ふう。

 

 一息ついてふと横を眺めるとマスクをつけた紫がかった黒髪の女性が、今しがた俺が物色し終えた本棚の前に立っていた。よく手入れされているのだろう、触らなくても分かるほど細くて絹糸のように滑らかな長髪がさらさらと頭の動きに合わせて揺れる。わずかに見える首筋も透き通るほどに白く、少し釣り目であるところも理知的な雰囲気を醸し出していた。

 

 勿体ないなぁ、マスクなんてつけなくて良いのに。

 素直にそう思う程その女性は美人で、思わず俺は目を奪われる。

 

 彼女はおもむろに腕をあげ、本棚から一冊参考書を取り出した。題名は『一週間で数学ができるようになる!オリジナルメソッド!』先ほどその露骨な名前に逆に興味を持って中を見てみたが、予想通りクソみたいな内容だった。

 よくあるよな、〇〇日で完成!みたいなシリーズ。そんなに簡単に勉強できるようになったら誰も苦労しないっての。……もちろん手軽に復習できる点は評価するけど、わざわざ高いお金出して買うものではないかなぁ。たしかによく纏められたものはあるけど、大抵は学生だます気満々の詐欺本ばかりだ。

 

 ……もしかしてあの本買うつもりじゃないだろうな?

 

 俺の心配通り、そのままその本を持ってゆっくりと振り返り、レジに向かおうとするその女性。

 

 

「あの……その本あんまりオススメしないよ?」

 

 俺は思わず彼女に声をかけてしまっていた。

 余計なお世話と言われればそれまでだが、かといって目の前でゴミをお金出して買っていきそうな自分と同じ学生(おそらく)を笑ってみていられるほど俺も酷い人間じゃない。

 その女性は驚いたようにピクリと肩を揺らし、綺麗なエメラルド色の瞳を見開いてこちらを向いた。

 

「あ……、私に言ったのか?」

「うん。それさっき見たけどあんまりオススメしないよ。

 君がどこの大学目指していてもそれは役に立たないと思う……。

 あ、余計なお世話だったらごめん、忘れて」

 

 見るからに警戒心を濃くしていく彼女の様子を見て、別に他意はないよと肩まで両手を上げてジェスチャーで示す。まぁ、そりゃ急に話しかけられたら驚くよな。でもこれで忠告はしたし、後の判断は彼女自身に任せればいいだろう。俺は参考書漁りに戻るとするか。

 視線を彼女からはずし、まだ物色してない新たなコーナーの前に進んで選別を始めようとした……その時。

 

「あの……すまない」

 

 横を見ると先ほどの美女が近くに来て、遠慮がちにこちらを見ていた。

 

「なに?」

「つまらないことを聞くが……私が誰か分かって話しかけてくれた訳ではないのか?」

「別に……初対面でしょ?そもそも」

 

 いきなりなんだ? 

 別に知り合いではないし、ほんとにただの気まぐれで話しかけただけだけど……なにかまずいことでもあったのだろうか?彼女はなぜか俺の返事を聞いて、胸をなでおろす仕草を見せた。

 そうやら訳ありらしい。……全然興味ないけど。

 

「そうか、ならいいんだ!

 ……ところで、それならば私にオススメの数学の参考書を教えて欲しいんだが。出来ればほかの教科も。……迷惑だろうか?」

「?……別にいいけど」

 

 それならばってなんだよ、それならばって。

 まぁ、オススメの本なんていくらでもあるし別に隠す必要なんてないから教えてやるか。なんだか真面目そうでお堅そうだけどすごい美人だし、頼られるのもやぶさかではない!

 

 

 

 あ、でも、絵里に悪いかな……。

 

 

 

 ……って、なんで絵里が今出てくるんだよ!別に下心があるわけでもなし。

 普通に受験に立ち向かう同志として協力するだけだっ!!

 

 

***

 

 結局、彼女は俺の言うオススメの参考書をほとんど鵜呑みにして買っていった。なんというか、少し心配になるよな。もちろんいい本ばかりを勧めたけどそれがすべて彼女にしっくりはまるかどうかはやってみなくては分からない。

 

 一応俺なりに一生懸命考えてチョイスして、一般的にも有名なシリーズを伝えたので悪影響にはならないだろう。結局一時間程書店内をウロウロと歩き回る羽目になったが、たまにはこういう慈善活動も悪くないかな。

 

「ありがとう。助かった」

 

 短く、クールにお礼の言葉を述べる彼女。

 なんというか、物腰に気品さのある女性だ。特に同性から憧れを持たれそうな大人びた雰囲気を醸し出している。

 

「いやいや、別にこれくらいならお安い御用だよ」

「なにかお礼がしたいのだが……そうだな、貴方は昼ご飯はすませたのか?」

「まだだけど……なに?まさかご馳走してくれるの?」

「世話になったから。それくらいはぜひさせて欲しい」

 

 おぉ、ラッキー!!

 話を聞いた限り、彼女は俺と同い年の高校三年生らしい。流石に後輩だったらたかるわけにはいかないけど、同年齢なら問題ない!お言葉に甘えて昼飯はお世話になろう。見た感じかなりのお金持ちっぽいしな。

 

 浮いたネコババ出来る額も増えるから願ったり叶ったり!

 

「どこに行きたいとか、希望があるなら行って欲しいのだが」

「そうだなぁ、折角だから普段いけない所に行きたいし……メイドカフェとか。ダメ?」

 

 男一人で行けるほど根性座ってないし、かといって一緒に行ってくれる友達もいないからいい機会だしこの女の人についてきてもらおう!拒否されたら諦めるけど。

 

「分かった、私も実は一度行ってみたかったんだ」

「おぉ、それは良かった!さすがに全額は悪いから飲み物だけ奢ってもらうわ、よろしくね」

 

 

***

 

「へぇ、UTXの三年生なんだ」

「ええ、そうよ。少し……部活動の方が忙しいから出来るだけ効率よく勉強したくて参考書を探しに来てたんだ」

 

 なぜか部活動、のところで言いよどむ様子を見せたことに違和感を感じつつもさして興味はなかったのでそのまま会話を続ける。

 

「だから十日間で完成!なんて本買おうとしてたんだねー。あーいう系買うくらいならきちんとした参考書の要点部分だけサラッと覚えていった方がいいよ。そもそも、時間は確保しなきゃ勉強は出来るようにならないし」

「そうね。……少し勉強を甘くみていた。ダンスも勉強も同じで、一朝一夕に身につくものではないのだな」

「そうそう。……ってことは、ダンス部かなにか?」

「……まぁ、そんなところだ」

 

 細身で身長も高く手足も長い。さぞ踊れば映えるだろうなぁ。

 横を歩くモデル顔負けのスタイルを要した同級生を横目でみつつ、目的地へと向かう。周りには絵里を初めとして結構スタイルのいい友人が多いが、この人は今まで出会った中でもトップクラスだ。

 

「そういえば、名前は?俺は古雪海菜。差し支えなければ教えて欲しいんだけど」

「そうだな……エレナと呼んでくれ。フルネームは……」

「あぁ、いいよ。呼ぶときに面倒なだけだったからそれで十分」

 

 んー、なんで本名を隠されたんだろう?

 少し気にはなったけど追及はしないことにした。まぁ色々と諸事情があるのだろう。これだけ美人だとストーカーやらなんやらの対策とかで知り合ったばかりの人間には名乗らないようにしているのかもしれない。

 だとしたらUTXって教えるのもまずいんじゃないかとも思うけど……。

 

「ありがとう……さぁついた。友人が言うにはこの店が最近有名らしい」

「へぇ。なるほどー、確かに結構綺麗なお店だね。女性客も来てるみたいだし」

 

 エレナの先導でやってきた店の前で少し立ち止まる。フヒー!メイドさんカワイイでござるwwwみたいな客はおらず、窓から中を伺った感じ色んな年齢や性別の人たちがここを利用しているようだ。

 萌え萌えを売りにしている店ではないみたい。

 少し残念なような、安心したような。

 

 カランカラン

 

 大きな木製の扉を開けると、すぐさま手近にいたメイドさんが駆け寄ってきた。

 ベージュ色の髪の毛をサイドでまとめた腰まで伸びる長髪。俺に引き続いて入ってきたエレナとは対照的に優しくたれる目尻が柔和な雰囲気を増し、その笑顔に思わずつられて微笑んでしまう。

 

「いらっしゃいませ、ご主人様。今日はお二人でお越しですか?」

 

 少し耳に残る甘い声。

 しかし俺はその問いにすぐに返すことは出来なかった。

 

「……」

「……ぴぃっ」

 

 俺たちを出迎えてくれたのは何の偶然か。

 

 

 

 

 南ことり。その人だった。

 

 

 

 

***

 

「さっきのメイド、古雪の知り合いかな?」

「うん、多分……逃げられたけど」

 

 ことりは俺の姿を認識した途端、脱兎のごとく逃げ出した。さっきからチラチラと厨房の方を伺っているがどうやら意地でも出てこないつもりらしい。

 

「ミナリンスキー、っていう名前らしいな。すごく有名なメイドみたいだ」

「へぇ、ホントだ。写真とサインが店内に飾ってある……」

 

 なんだか良く分からないがこの界隈ではことりはかなりの有名人らしい。確かにメイドモードを確認できたのはわずか数秒だったが、その気品あふれる所作と持ち前の可愛らしさは目を見張るものがあった気がする。

 まぁ、どうせあの子とはまた会うことになるしその時ゆっくりと話を聞けばいいだろう。

 

「お待たせしました!」

 

 ことりほどではないものの小柄で可愛らしいメイドさんが俺たち二人が注文したオムライスを持ってきてくれた。お、普通に美味しそう。メイドカフェって食べ物は二の次ってイメージだったたらこれは嬉しい誤算だな。

 

「また、御用がおればお呼びください」

 

 百点満点中百二十点のスマイルを残して去っていくメイドさん。また後で呼んで、ことりのこと聞いてみよ。一応会話が出来るサービスがあるみたいだし。

 さっそく遅くなった昼食を楽しもうと向かいに座るエレナに目を向けると、なぜかマスクをつけたまま顎に手をあてて固まっていた。……何やってんだコイツ?

 

「どうしたの?」

「いや……マスクをどうしようかと」

「現代風一休さんかよ。取ればいいんじゃねぇの?」

 

 マスクを取らずにオムライスを食べるのはどうすればいいのか?なんてとんちに付き合ってる場合ではないので普通にツッコんでマスクを取るように促す。なにか顔を見られたくない理由でもあるのだろうか?

 今は壁際の席で、俺の方が壁に背中を向ける形になっており第三者に彼女が顔を見られる心配はほとんどない。だとしたら必然的に俺に顔を見られることを嫌がってることになるんだが……だったら飯に誘うなよ!

 意外に天然なところあるな?この子。

 

「そうだな……なんというかその。さっきは私が誰か気が付いていなかったけど、マスクを取れば思い出すかもしれない。その時は内密に頼む」

「はいはい、いいから食べようぜ」

 

 エレナはゆっくりと両手を耳まで持っていき、そっとマスクを外した。

 思った通り。いや、思っていた以上の美人が目の前に座っていた。

 

 くっきりとした目鼻立ちに、雪のように白くて滑らかな素肌。ほとんどメイクなどしていないのだろう、人間本来のほのかな朱色がわずかに頬を染めている。

 その顔を見て俺はやっと今俺の前にいる女性が誰かに気が付いた。

 

 

 

 

 エレナ。いや、ARISEの一人。

 統堂英玲奈。

 

 

 

 

 ……ふぅ。

 さすがに一日にこう何回も驚くことがあるとシンプルな感想しか思い浮かばないものだな。とりあえず一言だけ言っておこう。

 

 

 

 なんて日だ!!!

 

 

 

***

 

 

 

 統堂英玲奈。

 

 UTX学院が誇る全国トップのスクールアイドルグループ『ARISE』の一員であり、誰もが羨むプロポーションと美貌で数多の女性ファンを抱えるカリスマ的存在。一般人では到底かかわることの出来ないはずのその人が今、俺の目の前にいた。

 

 正体が分かっても騒がないでくれと言ったのはこういうことだったのか。確かに今をときめくアイドルがこんな一介の男子高校生とメイド喫茶で食事……なんてことがバレたらただでは済まなさそうだ。お互いに。……むしろヤバいのは俺の方かもしれない。

 俺は平静を装って目の前に置かれたオムライスを小さくすくって口に運ぶ。……やべぇ、全然味わからねぇ。

 

「私の事、知っているか?」

「……」

 

 静かに問うてくる彼女に向けて、必死に咀嚼しながら頷き返す。

 少なくともここら辺一体の高校生で君の名前を知らんやつの方が珍しいだろう。

 

「そうか。……別に普通にしてくれて構わない。私も古雪も今はただの同級生なのだから」

「あ?そう?じゃあお言葉に甘えて……エレナさぁ~、最近彼氏とどうなのよ~。

 ……って、普通になんてできるか!!!」

 

 いつものようにノリツッコみでも披露しようとするも、声のトーンを落とさなければいけないこの状況と、目の前に有名人がいる。というかずっとその有名人と知らずに行動してきたという事実からくる焦りでキレが全然足りない。

 

 普通って何!?普通って何!!??

 俺今まで逆に何この子としゃべってたの??

 

 テンパって訳の分からないことを口走ってしまったが、自身に突っ込みを入れたことで何とか平静を取り戻した俺は、一気にコップに入っていた水を飲みほした。

 

「別にこんなことで驚いたりなんかしないからな」

「私の水を飲みほしておいて言うセリフではないと思うが……」

「シャラップ!上がってるんだよ、コッチも。ARISEだけに」

「そ……そうか」

 

 なんだか可哀想なものを見るような目でさっきから見られてるけど、実際今の俺は客観的に可哀想だと思う。いきなり有名人が目の前に現れて、何食わぬ顔で会話できる奴なんていないだろ。スクールアイドルという、立場上は近しい存在であるとしても実際は触れ合うことなどできない高嶺の花。

 

 

 

 うー。コホン。

 

 

 軽く咳払いしてポロシャツの襟を無意味に整えて座り直す。

 よし。仕切り直し完了。

 

「あの……冷静に俺とこんな所きてよかったのか?」

「別にアイドルだからと言って行動を制限されているわけではないからな。恋愛も決して禁止されているわけではない。もちろん私もほかの三人も暗黙の了解でそんなものにうつつを抜かすつもりはないが……」

「そうなんだ。……でももうちょっと気を付けた方がいいとおもうぞ?

 俺は君に何か変なことするつもりはないけど、ほかの人がどうかは分からないし」

 

 実際問題、俺をここに連れてきたのは彼女自身の行動だ。お礼の意味合いを込めて案内してくれたことを考えると、すごく真面目で人の親切な行為をないがしろにしない心を持った良い人なのは分かる。それでもアイドルとしてはあまりよくない行動なのではないだろうか……?

 

「君はそんなことしないだろうからお礼をしようと思ったまでだ。ステージの上でも下でもいろんな人をこの目で見てきている。目の前にいる人間がどんな人物かなんてことは面と向かって会話さえすれば分かるさ」

「そっか……。流石トップアイドルだな」

「今は……な。しばらくすれば再び挑戦者に変わる」

 

 きっとラブライブの事を言っているのだろう。王者から挑戦者へ……か。全く、こりゃ穂乃果たちも一筋縄じゃいかなそうだな。話を聞くだけでも恐ろしいライバルだというのに、いざ実際に会ってみると圧倒的ともいえるほどの実力及び、意識の差。

 

「一応私の事は知っていたようだが、アイドルに興味はあるのか?

 普通ファンの人は喜んでサインをねだってきたりするのだが、それもないし……むしろまず最初に私自身の心配をされたのは君が初めてだ」

 

 エメラルド色の綺麗な瞳でまっすぐに俺の目を見つめてくるエレナ。

 確かに、彼女からすると俺の態度は少し不思議なのかもしれない。俺としてはある種エレナを穂乃果達を見るのと同じ視点で見てしまっているので当然の思考回路といえばそれまでなのだが。……穂乃果がもし仮に初対面の男と飯行ってた、なんて聞いたら心配するだろ?

 

「んー、ぶっちゃけあんまり興味はないかな」

「ふふっ、えらくハッキリした物言いだな」

「ん。気を悪くしたならごめん。

 別に嫌いだとか軽く見てるなんていう訳じゃないよ」

「別に気になどしてないさ。むしろ変に憧れを持たれているよりも話しやすい」

 

 くしゃっとした笑顔をつくって心底楽しそうに笑い声をあげるエレナの姿に思わず目を奪われる。大人びた態度をとってるくせに、いきなりこんな年相応の顔見せられたら誰だってドギマギしてしまうだろう。

 

「そかそか。興味はないんだけど……俺の知り合いがスクールアイドルをやっててね。その関係で君らの事も聞いたんだ。ちなみに一回ライブにも言ったよ。サインボールもゲットしたし」

「なるほど。なんていうグループなんだ?差し支えなければ教えて欲しいのだが」

「君らと比べたらなんてことない弱小ユニットだよ。名前は『μ’s』」

「ほう……」

 

 目の前に座るトップアイドルは、μ’sの名を聞いた途端スッと目を細めて小さく声を漏らした。心なしか目に宿る光が好戦的な光を帯びた……気がする。

 

「音ノ木坂学院のスクールアイドルグループ、μ’s。彼女たちには私たちも大きな関心を持っているよ」

「……!?」

「メンバーが九人に増え、ここ最近一気に知名度を上げているグループ。何度かその歌やダンスを拝見させてもらったけれど、なかなか良いものを持っている」

「へぇ、意外にあいつらも有名になって来てるんだな。

 ARISE直々にお褒めの言葉を頂けたとなると喜ぶと思うよ」

 

 意外や意外。

 どうやら彼女たちが穂乃果たちに興味を持っていたようだ。同じ土俵に立つライバルだからこそ、μ’sのもつ底知れない力に感づいたのかもしれない。

 

 

 

 

 

「まぁ、もっとも。まだ私たちの敵ではないが」

 

 

 

 

 

 ごく自然に。

 

 ほとんど感情を込められることなくエレナの口からこぼれた言葉は、深く、深く俺の心に突き刺さった。全身から火花が散りそうになるくらいの激情が生まれるのを感じて、それを必死に抑え込む。

 

 決して目の前にいる彼女に対して腹を立てたわけではない。

 彼女が敵意や蔑みの意思を全く待たぬまま、単なる変えようのない『事実』として今の言葉を紡いだことに対して計り知れない悔しさを感じていた。彼女は。今目の前に座る全国トップレベルのアイドルは、冷静に自分自身と穂乃果たちの実力を比較し、ただただ純粋にμ’sをまだ取るに足らない有象無象だと判断したのだろう。

 

 

 

 こんなに悔しいことはない。

 ARISEには、未だ敵だとすら認識されてないのだ。

 

 

 

 

 全国トップの頂はこれほどまでに高いのか。

 俺も……そして穂乃果たちも。認識が甘かった、まだまだ上には上がいる。

 

 

「あ、気を悪くしたならすまない……。別に他意はないんだ。実際、伸びしろは数あるスクールアイドルグループの中でもトップクラスだと考えている。もし彼女たちに会う機会があればぜひ、お互いに高めあえる関係になろうと伝えておいてくれ」

 

 おそらく俺のわずかな表情の変化から、感情の起伏を読み取ったのだろう。弁明の言葉と、心からのメッセージを口にした。あぁ、もう!これで嫌な奴だったら『うるせー、バカ野郎!首洗って待ってろよ、この清楚系ビ〇チが!』なんて大声で罵倒して気持ちよく帰れるんだがなぁ。いかんせん人格者ときている。

 

 

 だからこそ恐い。こういう人種は絶対に自分自身への妥協を許さないから。

 

 

 そして、こういう人間がグループを組み、その集団が未だ形を崩すことなく協力体制のまま存在し続けているという事実、そこから導き出される答えは一つ。『他の二人もエレナと同等か、それ以上の能力を持った人間』だということだ。

 自分自身にストイックになれる人間が、自身の成長を妨げる因子が存在する場所に留まりつづける訳がないからな。

 

「別にいいよ。……ちゃんと伝えておく。すぐに辿り着くと思うよ、君たちが今立っているそのステージに、あいつらも」

「ふふ。君が言うなら間違いないだろうな」

 

 再び子供のような笑顔を見せて、小さく笑い声をあげるエレナ。

 

 

「古雪はμ’sのダンスコーチでもしているのか?見たところ引き締まった体つきをしているし」

「いや、全然。たまに素人的な意見を伝えるだけかな」

「それだけではないだろう。こうして面と向かって話せば嫌でも分かるさ。君は私以上に相手の事をよく観察して頭を回転させている。……私は君のお眼鏡に適ったかな?」

 

 全く、適うどころじゃねぇっつの。

 ただ、この出会いは俺にとってもすごくいい経験になった。勉強だけしていては絶対出会うことの出来ない人種の、俺にはない分野の完成された能力。ぜひ、残りの二人とも会ってみたい。

 

「そんな大層な人間じゃないって、俺は!頭回転どころか、有名人前にして目回ってるわ」

「あはは、そうか。まぁ、驚くだろうな」

 

 ちょっと真面目な話はこれでお終い!

 俺たちは、少し冷め始めていたオムライスをお互い思い出したようにつつきながら、食べ終わるまでの時間。おそらくしばらくないであろう二人だけの会話を楽しんでいた。

 

 

 

 

~おまけ~

 

 

「ところで、古雪」

「何?」

「ARISEの中では誰が一番好きなんだ?」

「優木あんじゅ」

「……いや、別に正直に答えてくれるのはいいんだが。一応お世辞にでも目の前にいる私の事を一言触れるくらいしてくれてもいいんじゃないか?ここまで即答されたのも君が初めてだ」

「エレナは可もなく不可もなく、かなぁ。テレビやステージでアイドルとして見ると。クールビューティー系はむしろ女性ファンが多いんじゃないの?」

「そうだな。まぁ、私も確かに万人受けするタイプではないと自覚はしている。……なら、実際に会って話してみた感想を聞いてもいいかな?」

「子供っぽい笑顔とかが可愛いって思ったよ。おばかだったのは意外だけど」

「勉強の方は大目に見てくれ……。ふふっ、そうか。子供ぽいか……。私も古雪と会えて楽しいよ、また会いたいって思うくらいには。……ところで話は戻るが、あんじゅが好きな理由はなんだ?」

「おっぱいが大きいから」

「なぜだろう、もう君とは二度と会いたくなくなってきたよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 




口調がわかりません(笑)
想像で書くしかなかったので気になる点あればご指摘くださいね

それではまた次回お会いしましょう
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