ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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第四十八話 μ's+おまけが行く夏合宿!その3

「今日はお風呂に入って疲れをとって、明日早起きして練習でええんと違う?花火は明日の夜にして」

「そうね、今日はみんな疲れているでしょうし」

 

 出口の見えない不毛な論争になるかと思われたその矢先、希と絵里の三年生コンビの一言によって一応は収束を得た。実際、あれだけ全力で遊んだ後だと体力ももたないだろうしね。

 海未もたしかに、その方が練習の効率もよさそうですねと納得していた。

 凛も花火が出来たらそれでよいのか、コクコクと頷いている。

 

 どうやら、話し合いはひと段落したみたいだな。

 

「よし!じゃあみんなでお風呂に行こうか」

 

 ここは先輩としての威厳を見せるべく、率先してみんなをリードしようと立ち上がって声をかけた。

 

「いや、何でアンタが先導するのよ……」

 

 にこが呆れたようにこちらを見上げていた。

 

「いや、合宿だしみんなでお風呂入るのかな……って思ったんだけど」

「もちろんそのつもりだけど」

「やっぱり!じゃ、行こうぜ!」

「いや、アンタはここでステイ。一緒に入る訳ないでしょ」

「うぇええええええええ!!!!!?????」

「うるさいわね!何を根拠にいけると思ったのよアンタは!」

「この間穂乃果が『海菜さんは私たちの仲間です!』って言ってくれたから……」

「拡大解釈はなはだしいわよ!」

 

 残念。

 男一人っていうのが地味に辛いんだよな、こういう時。どーせこいつら楽しそうにキャッキャウフフするんだろ?あー、羨ましい。

 

 恨めし気にじとっと後姿を見つめる俺を残して女の子たちはみんなお風呂場へ楽しそうに向かっていった。

 はぁ、洗い物でもするかな……。

 

 

***

 

 

 洗い物もすみ、することもないので勉強でもしようかと単語帳を取り出したところ、唐突に背後から声がかかる。

 

「古雪さん」

「……あ、御辻さん。どうかしました?」

 

 現れたのはこの別荘にわざわざ俺のためにいて下さっている執事の御辻さんだった。相変わらず落ち着いた雰囲気を纏った老紳士である。一体どうしたんだろうか?

 

「古雪さんの部屋をまだご案内していないかと」

「あ、確かにそうですね!」

 

 おそらく、メンバーが勢ぞろいしている所に登場したら気を遣わせてしまうだろうとの配慮から今の今まで機会をうかがっていたのだろう。遅くなって申し訳ありませんなどと言いながら頭を下げられてしまった。

 

「いえいえ。えっと、たしか二階でしたっけ?」

「はい、こちらへどうぞ」

 

 言われるがまま彼の後を追って二階へとついて上がる。

 大部屋が一つとキッチン、といったシンプルな構造の一階と違って二階は見た感じ二部屋ほど用意されているようだ。少ないようにも思えるが、一階から二階へ吹き抜けがある関係であまり多く部屋は作れなかったのだろう。……というか、そもそも家族だけが泊まる別荘にホテルばりの部屋数なんて必要ないしな。

 話を聞いたところ、その二部屋のうちの一つを貸して貰えるらしい。やった、ラッキー。

 

 ちなみに片方は御辻さんが使っているとのことだ。

 

「そういえば、夕飯はどうされたんですか?」

 

 カレーが明日の朝の分まで残っていたことを思い出し、声をかける。

 

「皆様が作ったカレーを真姫お嬢様からいただきましたよ。大変美味でした」

 

 にこりと蓄えた口ひげを揺らしながら笑う。

 あの子、確かに食後少しの間だけ席外してたもんな。そんな事してたのか。……俺もその時に気付けるようにならなきゃな。

 

「すこしじゃがいもに皮が残っていたのが気になりましたが……」

「す、すみません!」

「冗談ですよ」

 

 くっ、このダンディズムめ……。

 

「ここです」

 

 そう言って御辻さんは静かに部屋のドアを開けた。

 軽く三十畳ほどあるのではないかという空間が広がっていた。ひ、広い!俺の部屋が丸々五、六部屋位入ってしまいそうだ。……それにベッドが並んで三つあるし。

 

「すみません、ここはご夫妻とお嬢様が使用していらっしゃる部屋なので余分に二つベッドがあるのですが」

「い、いえ。それより……そんなところ使わせていただいてもいいんですか?」

「はい。そう伺っておりますので」

 

 まぁ、ベッドが三つ。という事実にも驚いたけど……。

 何よりも印象的なのが、部屋の隅にでんっと置かれている上等そうなグランドピアノだ。

 

「あれは……」

「はい、真姫お嬢様のご要望で。ご夫妻の為に、夜寝る前演奏するのがここへ来た時の習慣でございまして」

「へぇ、なんか、そういうのいいですね」

「はい。何度か私も一緒に聴かせていただいたのですが、お嬢様の奏でる音色は人を惹きつけることの出来る素晴らしいものだと執事の贔屓目なしに思っておりますよ」

「俺もその通りだと思います。生では聞いたことないですけど、音源はよく耳にしますし」

「皆様のお陰でお嬢様の演奏を聴く機会が増え、私たち使用人一同は大変喜んでいるのです」

 

 あまり近くへ行くと邪魔だからと注意されるのですが……と困ったように御辻さんは笑った。

 俺自身、音楽はからっきしなので少しだけ羨ましい。

 あれだけピアノ弾けたら楽しいんだろうな。受験終わったら音楽とか始めてみようかな……柄じゃない気もするけど。

 

「あと、本棚の辞書等はご自由にお使いください。パソコンの方も机の中に旧型ではありますが、問題なく稼働するものを入れておきましたので」

「え?た、助かります!すみません、なにからなにまで」

「いえいえ。お嬢様から古雪さんは多分こっちに来ても勉強をするだろうから、と伺っておりましたので」

 

 正直無茶苦茶助かるな。

 辞書とかはさすがに持ってくるのが面倒だったので置いてきてしまっていたのだ。なくても問題ないものしか入れてきてないけど、あって困ることは無い。

 

「海菜ー、上がったわよー!」

 

 そうこうしていると、絵里の俺を呼ぶ声が届いた。

 

「では、失礼します。私は向かいの部屋におりますので何かあればおっしゃって下さいね」

 

 

***

 

 

 パジャマってのも……意外に悪くないな。

 

 それが一階へと降りて、おのおの風呂上がりの至福の時を楽しむμ’sメンバーを見た感想だった。少し長風呂だったせいか、ほのかに上気する頬に、まだ乾ききっていない僅かに濡れた髪の毛。

 普段見ることの出来ないセクシーさというものが現れていた。

 なんだかんだいいつつ、こいつらも女の子なんだな。

 

 別段露出が多いわけでは無いのだが、柔らかくてゆったりした生地の服を纏っている女の子というのは……うまく言えないけど、妙に色っぽい。

 

「かいな先輩!ひっろーい露天風呂がありましたよ!」

「へぇ、楽しみだな。泳げた?」

「もちろんだにゃ!」

「おぉ、やったぜ!」

「なぜ思考回路が一年生である凛と同じなのですか……」

 

 海未が長く艶やかな髪の毛を手櫛で撫でながら呆れた声を出した。

 いや、旅行先の温泉で泳げるか否かは結構重要だよね?

 もちろん、他のお客さんがいるときは絶対にしちゃだめだけど!

 

「じゃ、俺も入ってくるわ。……覗くなよ?」

「誰が覗くのよ!」

 

 相変わらず、矢澤は優秀だなぁ。

 

 

***

 

 特段、面白い事もなく俺の入浴は終わった。

 ま、誰とも話せないしな。あまりの寂しさから露天風呂に全力ダイブしてパッチーン肌打ち付けて日焼けの痛みと共に死にそうになったって事件はあったけど。

 

 いつものように適当に髪を乾かして俺もジャージに着替え、リビングへ戻るとすでに九枚布団が敷かれていた。彼女たちはその上でトランプをしたり、おしゃべりをしたりしている。真姫も強引にババ抜きに参加させられているようだ。

 

「やっぱり、ココで寝るのか」

「少し広すぎて落ち着かないですけど……」

 

 花陽は凛との会話を少しの間中断して、俺に返事を返してくれた。

 

 というか、この部屋、いわゆる豆球ってあるのかな?

 常夜灯っていう人もいるけど、寝るとき夜通しつけておくあの少ない光量の奴。

 

 このなかに一人、暗闇が本気で苦手な奴が一人いるんだけど。

 ……まぁ、こんだけ人がいれば大丈夫か。

 

「それじゃ、俺もう上がるわ。おやすみ」

『おやすみなさーい』

 

 全員声をそろえて元気よく挨拶を返してくれた。

 この感じじゃまだまだ寝そうにないけど、明日大丈夫なのか?

 ま、海未あたりがキリの良い所で呼びかけるだろう。俺はまだ一人でやらなきゃいけないことが残ってるし。あとは彼女たちにまかせよう。

 

 

「あんまり楽しそうにすんなよ。泣いちゃうから」

 

 

 忠告も忘れない。

 嫉妬じゃないよ、嫉妬じゃ!

 

 

***

 

 一人の時間が出来る……つまり受験生としてやらなければいけないことがある訳で。

 俺は眠たい目を擦りながら、持参した参考書を開いてカリカリとシャーペンを動かしていた。今日明日やるはずだったノルマは既に終わらせてきているので、一応自分が納得できる程度にやるつもりだ。

 

 どうせモチベーションは上がらないから……と思っていたのだが、想像以上に勉強できる環境を整えてくれていたため、かなりはかどる。

 時折届く笑い声が気になったりもするけど、俺は周りが遊んでいれば遊んでいるほど集中力も増すっていう天邪鬼な所もあるので今のところは特に問題ない。

 

 

 そんなこんなで一時間ほど。

 時刻は十一時を回った。

 

 

 少しだけ休憩しようと、小さく伸びをしてベッドへと近づいて、真ん中のそれにダイブ!そりゃ三つあれば真ん中のを選ぶだろう!男子便所でもど真ん中を陣取るタイプの俺は迷いなく自分が今日寝る場所を選んだ。

 

 うわー。ふかふかだわー。

 逆に落ち着かない気もするけど。

 

 そんなことを考えながらぽふぽふとベッドの感触を楽しんでいると、扉をノックする音が部屋に響いた。誰だろう、御辻さんかな?

 俺は掛布団に顔をうずめたまま、くぐもった声で返事を返す。

 

「はい、どうぞー」

 

 がちゃりとノブを回す音が聞こえる。

 

「寝ては……いないわよね。やっぱり」

「あれ、真姫?」

 

 予想に反して、扉の向こうから姿を現したのは真姫だった。

 彼女は静かに扉を閉めると、ベッドに寝転んだまま顔をあげた俺を目にする。そして、なぜか少しだけ不機嫌そうに髪の毛を弄りながら頬を染めた。一体何だと言うのだろう。

 

「よりにもよってそのベッドを……」

「まぁ、真ん中だし。え、ダメだったりする?」

「それ、私がいつも使っているモノよ」

「う。マジで?……知ってて選んだわけじゃないぞ!」

 

 なんだか俺が変態みたいじゃないか!

 俺は慌てて立ち上がって、自らの無実を主張した。……いや、そもそも罪じゃないよな。

 

「べ、別に良いケド……」

 

 いいんかい。

 まったく、年頃の女の子は良く分かんないです。

 

「ところで、どうしたの?」

「邪魔じゃないなら、だけど。ピアノ弾かせて貰えないかしら?寝る前に触るのが習慣なの。そろそろみんな寝ちゃうみたいだから」

「あぁ、なるほど。いいよ。丁度休憩中だったし」

 

 へぇ、良い習慣だなぁ。

 一日ひかないだけで楽器の腕って落ちてしまうらしいし、実力を維持するという意味でも真姫はそのルーティーンを続けているのかもしれない。

 彼女の演奏を生で聴けるならこれほど嬉しい事はないよな。

 そう思って、俺はどうぞどうぞと真姫をピアノの方へと誘導した。

 そしてベッドの上でじっと彼女が演奏を始めるのを待つ。

 

「あんまり見られたら落ち着かないんだけど……」

「アイドルの言う台詞じゃないと思うけどなぁ。あと、敬語!」

「わ、わかったわ……ました」

 

 こほん、と小さく可愛らしい咳払いをした後。

 真姫は静かにその手で鍵盤を叩きはじめた。

 

 クラシックなどのいわゆる歌詞のない音楽はほとんど聞かないし、たいして興味もない俺だったがなぜか彼女の演奏に思わず引き込まれてしまう。

 優しくて、それでいて激しく。荒くもあり、同時に繊細でもある。

 そんな不思議な音色。

 

 俺が適当に叩いて出す音と同じはずなのに、なぜここまでこの子のつむぎ出す音は人の心を掴むのだろうか。

 

 

 そして、なにより彼女の表情に目を奪われる。

 

 

 心の底からピアノで音楽を奏でることを楽しんでいるのが良く分かる。それくらい明るく、生き生きとした表情をしていた。μ’sに入ったきっかけは、音楽室で彼女がピアノを弾いている所を偶然穂乃果が目撃したことだと聞いていたが。

 なるほど確かに。

 どうしても真姫をμ’sに迎えたいと感じた穂乃果の気持ちが良く分かる。

 

 時間にすれば五分くらいだろうか。

 あっというまに時間が過ぎ去ってしまった。

 

 鍵盤から手を離して膝の上に置いて一息。そしてチラリとこちらを一目見た。

 

「だから、そんなに見られると恥ずかしいんですけど……」

「あ、すまん。そういえば生で君の演奏聞くのって初めてだなって」

「たしかにそうね……えっと」

 

 俺があまりにじーっと真姫の方を見ていた意図を勘違いしたのか、彼女は遠慮がちに口を開く。本当は普通に感動してただけなんだけど。

 

「ひいて……みます?」

「え、いいの?やってみたい!」

 

 どうやら俺がピアノを触りたがってるのだと勘違いしたらしい。

 でも折角なのでチャレンジさせて貰うことにした。

 

「俺、あれならひけるぞ。『ねこふんじゃった』」

「へぇ。じゃあ、ひいてみて?」

 

 真姫が立ちあがった長椅子に代わりに腰かけて、昔友達に教えて貰った黒鍵だけを使う曲を披露した。……ちなみに指は両手の人差し指しか使っていない。

 

 ポロンポロンと我ながら情けない音が広い部屋にこだまする。

 

「それ、本来右手だけでひく所よ?」

「え?人差し指一本で?無理無理」

「普通は指を五本使うのよ!」

「ハラショー」

「絵里さ……絵里の物真似はいいですから」

 

 ほら、こうするの。と真姫は滑らかに俺が奏でたフレーズをなぞって見せた。

 おぉ。すご。

 

 見よう見まねでやってみるものの、なかなかうまくいかない。

 俺が悪戦苦闘している様子を見て、真姫はなぜかすごく楽しそうに笑った。

 

「くすくす。アナタにも苦手なことがあるのね」

「そりゃ、苦手な事くらいあるって」

 

 なんだか悔しいな。

 

 どうにかピアノ弾けてる感だせないかな……。あ、そうだ。

 俺の頭に名案が浮かび、すぐさま真姫にそれを打診する。

 

「二人で弾いてみない?」

「二人?……連弾ってこと?」

「そうそれ!俺がその右手でやる所を両手で弾くから、君がそれっぽくカバーして!できるでしょ?」

「出来るけど……」

 

 若干渋る真姫を半ば強引に長椅子の隣に座らせた。

 腰と腰が触れ合って、お風呂上がりの女の子の良い香りが鼻孔をくすぐる。彼女も少し恥ずかしいのか、もぞもぞと体を動かした。

 

「もう、強引なのよ……」

「先輩命令ですから、じゃあ行くぞ」

「適当に始めてくれていいです。すぐに合わせますから」

 

 ポロンポロンと再び響き始めた情けない音に、真姫の奏でる軽やかで優しげなメロディーが加わった。ミスがないだけマシのテンポもタイミングもぐちゃぐちゃな俺の演奏に苦も無く見事に合わせてくれる。

 

 ピアノの事は全然わからないけど、一つだけ核心を持って言えることがある。

 それは、この子。西木野真姫が優しくて、人の気持ちが良く分かる子だという事だ。そうじゃなきゃこんな演奏できないよな。

 

「ほら、集中する!」

「す、すみません」

 

 おっと、別の事を考えていたことがバレてしまったみたいだ。

 俺は一旦、目の前に広がる音楽の世界に没頭することにした。

 

 ありきたりな誰でも弾けるようなフレーズを何度か繰り返しただけ。でも、俺はそれでもすごく嬉しかったし満足できた。いやー、楽しかったな!なんか全部自分で弾いてるんじゃないかって気にもなったわ。

 

「まだまだ練習が必要ね……でも、ホントに意外だったわ」

「何が?」

「なんでもそつなくこなすイメージだったから」

 

 隣同士に座った状態で顔を合わせるのは恥ずかしいのか、真姫は自分の腿あたりに視線を落とし、そうこぼした。

 

「俺の事?」

「えぇ」

「そんなことないよ。むしろ苦手な事だらけだって。……むしろ真姫の方が器用なんじゃないか?スポーツも勉強も。おまけに音楽の才能もあるし」

「一人で完成させられるものは……そうだけど。古雪……さんは人とコミュニケーション取るのも得意でしょ?今みたいに」

 

 なんとなく彼女の言いたいことがつかめて来た。

 やはり、仲間とうまく打ち解けられない事を悩んでいたのだろう。そして彼女なりに変わろうとしているものの、なかなかうまくいかないに違いない。

 

「そうかもな。まぁ、性格にもよるだろうし」

「……。それじゃ、私は戻るわね」

 

 真姫はそう言って立ち上がり、部屋を後にしようとした。

 どうすればうまくコミュニケーションを図れるようになりますか?

 そう、素直に聞けないのが西木野真姫なのだろう。俺のわがままに付き合ってくれたお礼もあるし、一言だけアドバイスしておこうか。

 

「真姫の場合は、難しく考える必要はないと思うよ」

「……」

「君も気付いてるでしょ。あいつらは既に君に向かって手を差し伸べてるはず。あとは、真姫。君がその手を握り返すだけで良いって……俺は思うかな」

「……ありがとうございます」

 

 彼女は聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でお礼を言って、今度こそ部屋を出ていった。

 

 

 

 一時間ほど後。

 

 

 

 勉強に戻っていた俺の耳に一階で一度は寝静まったはずのμ’sメンバーが楽しげにはしゃいでいる声が届いた。その中には紛れもなく、例の素直じゃない後輩の声も交じっていて……。俺は静かに一人、微笑んだ。

 

 

 

 ……というか。

 

 

 

 あんまり楽しそうにすんなって言っただろ!!

 寂しいだろうが!!!!

 

 

***

 

 キャーキャーと騒いでいた連中がやっと静かになって三〇分ほどたっただろうか。俺もそろそろ限界が来たので、寝ようかと思って立ち上がり、伸びをした。

 

 すると再び扉をノックする音が鳴り響く。

 

 いや、今度は誰だよ?

 多分今回は御辻さんだろう。だって女の子たちは寝ているだろうし。

 一体何の用だろうか?

 

 少々不審に思いながらも入ってくださいと許可を出す。

 カチャリとドアの空いた先にいたのは案の定、御辻さんだった。

 

「どうかしました?」

「すみません、実は……」

 

 彼が事情を説明し終わるよりも先に、一つの影が御辻さんの後ろから現れて俺に飛びついて来た。そのままぎゅっと腕を回され、抱き付かれてしまう。甘い香りと共に、女の子特有の柔らかい感触がパジャマとジャージのうす布を介して伝わってきた。

 

 

 

「海菜っ!海菜ぁ」

「え、絵里?」

 

 

 

 俺は、俺の胸に顔を押し当てていやいやとでも言うかのように首を振る絵里を訳も分からないままなだめる。そして彼女のちいさな頭を撫でながらため息をついた。

 

 

 

 

 どうやらまだ眠れそうにないらしい。

 

 

 

 


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