ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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お待たせしました。
そして全国の受験生の皆さん、今日が二次試験一日目でしたね^^
お疲れ様です!

では、どうぞ。



第五十二話 μ's+おまけが行く夏合宿! 了

 カチカチ。

 

 俺は昼食の焼きそばをみんなと食べた後、自室に戻って一時間ほど勉強をしていた。もっとも、単語を覚えたり公式を確認したりと簡単な物だけをこなした訳だけど……いまは少し休憩して【ラブライブ】の公式サイトをチェック中だ。

 

 午後は歌と踊りの練習を中心に行うらしく、残念ながら俺がいたところで出来ることなんてないからね。一応三時過ぎ位からの海をバックにホームページ用の動画撮影からは手伝う予定になっている。

 

「三一位か……この調子だとホントにラブライブ出場出来そうだな」

 

 一人そう零して驚き半分関心半分で頷いた。

 

 メンバーがそもそも現在の三分の一で、当然のごとくランキングは圏外だったころの彼女たちを知っている分、その喜びもひとしおだ。

 希が以前、カードのお告げによるとμ’sは九人揃う事で初めて完成する。といった話をしていたけれど、不思議とその言葉の通り八〇位付近をウロウロしていた希と絵里加入前とは打って変わって最近急激に伸びてきている。

 一体アイツの占いはどんな仕組みをしているんだろうか。

 

 まぁ、廃校の話は一応流れたとはいっても完全になくなったわけでは無いらしい。だからこそ、ラブライブ程彼女たちが自分の学校をアピールできる場は他にないため、出場目指して頑張っている訳だ。

 

 それにしても、と俺は呟きながらパソコンの画面を見つめた。

 

 目に映るのは『一位 ARISE』の文字。

 目まぐるしく順位が入れ替わるこのサイトのランキングの中で唯一無二。他の追随を許さない不動のユニット。確か三年生の統堂英玲奈、優木あんじゅ。彼女達とは一つ年下の二年生、綺羅ツバサ。以上三人だったかな。

 さすがにメンバーのうちの一人と会ったこともあるせいか名前も学年も覚えてしまった。

 

「やっぱりこいつらすごいな」

 

 アイドル素人の俺でもわかる圧倒的なクオリティ。

 動画越しでも伝わる重厚な完成度。

 

 穂乃果たちも着実に実力をつけていっているのは確かだが、俺が偉そうに批評するのはどうかとも思うけど残念ながらこの二つのグループの間には未だに埋められない差がある……気がする。

 

 

 ラブライブの開催日は九月の半ばごろ。

 

 

 残された期間はわずか一か月だ。この期間の間にランキングを伸ばし、かつARISEに匹敵するほどの実力をつけることは出来るのだろうか?

 俺はそこまで考えて静かにため息をついた。

 

「まぁ、無理か……」

 

 冷静に考えて時間が足りない。

 μ’sの面々の成長スピードや伸びしろは計り知れないものではあるけれど、それでもやはり努力を怠らない絶対王者の前に立って牙を剥くには時期尚早な気はする。悔しいけどね。

 

 まぁ、俺たちの目標は『ARISEに勝つ』ことではなくて『音ノ木坂学院をアピールすること』にあるから出場出来さえすれば何の問題はないんだけど……。

 

 

 ま、いいや。

 考えても仕方がないから。

 

 

***

 

「水着で撮影?」

 

 約束の時間にスマホへ連絡が入ったため、ビデオカメラを準備してビーチへ向かったところ全員水着に着替え終わってスタンバイしていた。どうやら夏らしい曲を水着を衣装に撮影したいらしい。

 各々綺麗に着飾って振付の確認をしていた。

 

 海未と花陽は未だにささやかな抵抗をしているみたいだが、穂乃果とことりが前者を。凛と真姫が後者を挟んで説得を行っている。あと五分くらいで諦めて撮影にはいるだろう。

 

 俺がきょろきょろと周りを見渡していると早めに準備が終わっていたらしいにこが俺の質問に返事を返してくれた。

 

「そうよ、『夏色』やるからには夏らしい格好をしなくちゃ。にこが大目にセンターで踊る曲なんだから気合入れて撮りなさいよね!」

「ん……」

「何よ、つれない返事ね。普段だったら『水着でにこがセンター?新手のいじめか!』位の事は言いそうなのに……ってなんでμ’sでにこが水着来てセンター踊るといじめになるのよ!」

「にこっち……、古雪くん何にもいってないやん?」

 

 俺がしゃべってもしゃべらなくても怒るっていったいどういう事だろうか……。ジトッとした目でにこを見た後、続いて希の方へ視線を移した。相変わらず水着姿が似合う子だ。昨日と違って海に入る予定もないので髪型もかなり凝ったものにしているらしく、より魅力的に見える。

 

 希も水着で撮影か……。

 なんだかなー。うまくいえないけどもやもやする。

 

「どうしたの?海菜。面白くなさそうね」

「絵里……君も水着かぁ」

「何?」

「いや、なんでもないケド……」

「そう?なら日が傾かないうちに撮ってしまいましょう」

 

 絵里はターバンの位置を少し調整しながら俺に話しかけて来た。

 

「海未と花陽はやっぱり恥ずかしがってるみたいだな?」

「そうね。まぁ、気持ちは分かるけれど……」

「てか、むしろあの子達のリアクションが正解じゃないか?……なんというか、あんまり女の子が人様に肌を見せるものじゃないと……思います」

「もちろん私も恥ずかしいけど、この曲には絶対あってると思うし、ね?」

「そりゃそうだけどさー……」

 

 ぐぬぬ。

 うまく言えないけど……面白くない。実に面白くない。

 

 理屈は分かってるし、止める理由なんてないけど、撮った動画は全国の野郎どもを含むファンが見るんだろ?親友や幼馴染、後輩の水着姿が!!などと考えてしまうとやっぱり……もやもやしてしまった。

 

 

 まぁ、撮るけどね!

 

 

 

***

 

 現在時刻午後六時。

 

 朝からの始めた練習は無事終了。

 ノルマ以上の事はこなせたらしく、皆疲れてはいるもののかなり満足げな表情をしていた。先ほどみんなシャワーを浴びに浴場に向かって行ったのでそろそろ戻ってくるころあいだと思う。

 

「はー、さっぱりしたにゃー!」

 

 案の定、ぞろぞろとメンバーが髪の毛を少し湿らせた状態でリビングに集まってきた。

 

「今日はバーベキューだよね!?楽しみだよー!」

「はっ!なら今のうちにたくさんおにぎり作っておかなきゃ」

「花陽……お願いだから食べられる量だけ作りなさいよ?」

「大丈夫だよ真姫ちゃん!おにぎりはすっごくおいしいから!」

「ほらほら、喋ってないでみんなで手分けして準備するわよ!」

 

 相変わらず白米への愛を語る花陽とそれをあきれた様子で諌める真姫。

 絵里は年長組として全員にご飯の準備を呼びかける。

 穂乃果の言う通り、今日の晩御飯はバーベキューだ。合宿最終日にふさわしい豪華なディナー!練習はもうないため後は最後の思い出を作るだけ。全員疲れを忘れて嬉しそうに準備を始めた。

 

 まず上等なバーベキューセットを庭に運び出して炭をセット。

 椅子やら紙コップ、紙皿などを準備して同じく出して来た机の上に置く。

 

 少し珍しそうに紙皿を眺める真姫を見て生活水準の差を思い知ったりもしたが、特に差し支えなく道具の準備は済んだ。後は米を炊いて野菜を切るだけ。野菜のカットはすぐ終わるだろうから米が炊けるまで暇だな……と考えている凛が思い出したように声をあげる。

 

「あー!そういえば花火は?」

 

 確かに昨日の晩そんなことも言ってたな。

 結局今日の晩に繰り越されることになったんだっけ?

 

「まだ買ってないわよね?希」

「せやな~。昨日は食材だけで結構あったから花火までは……」

「じゃ、俺が買ってくるわ。好きなの選びたいし」

 

 自分で選んで買いたいというのも本当だし、今一番体力が余ってるのは間違いなく俺なので買い出しに行く旨を伝えた。スーパーの場所は真姫に口頭で説明して貰えば大丈夫だし、そもそもスマホが普及しているこの時代だ。なんとかなるだろう。

 

「あ!凛も選びたい!……けど、かよちんと一緒におにぎりも作りたいにゃ」

「先輩のチョイスに任せとけ後輩よ」

「う~。ならお願いします!かいな先輩!かよちん、はやくお米炊こう?」

「待って凛ちゃん!今集中して研いでるから……」

 

 

 しまいには俺の後ろに立つんじゃねぇ、位は言いそうな一人鬼気迫る気配を漂わせる花陽から目を逸らして財布を後ろポケットにつっこみ、立ち上がる。そして真姫に場所を教えて貰ってからリビングを後にした。

 

 軽く伸びをしながらサンダルを足を引きずるようにして履き、扉を開ける。

 すると後ろから軽やかな足音が聞こえて来た。

 

「海菜さん、ことりも一緒に行っても良いですか?」

「?うん、いいよ」

 

 振り返るとことりがいつもの笑顔を浮かべていた。

 特に断る理由もないし、買い出しは人数が多ければ多い程一人の負担は減るのでこちらとしては大歓迎だ。今回の合宿じゃあんまりことりと話す機会もなかったし、たまにはこんな組み合わせもアリかもしれない。

 

 俺たちはかなり日の落ちて来た道を二人で歩く。

 なんというか、やっぱりお互い少しだけ緊張しているようだ。ことりも体の前で手を組みながら少しだけ視線を下に落として歩いている。心なしか頬も赤いような……いや、夕日のせいか。

 

「ことりはどうだった?この合宿」

「あ……楽しかったです!でも最初は希ちゃん達を名前よびするの、緊張しちゃいました」

「そうなの?ことりは意外とすんなり慣れてたような気もしたけど」

「そんなことないです~。実は結構ドキドキしてました」

「ご主人さま呼びの方が難しいと思うけどなぁ」

「もぅ!そっちも頑張って慣れたんですよぉ。結局みんなにもばれちゃって大変でしたし……」

 

 そういえばそうだったな。

 結局偶然他のメンバーにもばれて色々とあったらしい。でも、それを機に会った頃以上の自信のある表情が戻っていたから、結果的に良かったんだろうけど。

 

「まだバイトは続けてる?」

「はい。前ほど頻繁には入ってないですけど、やっぱり衣装が可愛くて……。いろんな種類のメイド服があるんです!」

「着るのが楽しいの?」

「それもありますけど、いろんな工夫が施されてるのを見るのも楽しいんですよっ」

「へぇ、ことりは服大好きだもんな。今日みんながつけてた小道具も君が作ったんでしょ?」

「そうです!どうでしたか?」

「あぁ、可愛かったよ」

「よかったぁ」

 

 天使のような笑顔を浮かべて喜ぶことり。

 さすが衣装担当。本当に好きでやっているのが良く伝わってくる。

 

「何か海菜さんの見てみたい衣装はありますか?もしかしたら次の衣装づくりに使わせてもらうかもしれません!」

「え?マジ?……んー、でもそういわれると浮かんでこないなぁ」

 

 憧れのコスプレは結構たくさんあるハズなんだけど、いざ聞かれてみるとなかなか思いつかないなぁ。やっぱり服を作るのにはかなりのセンスが必要らしい。

 

「希ちゃんに着て貰いたい服とかは」

「あり過ぎて絞れない……」

「なら……ことりに来てほしい衣装はありますか?」

「大人な下着とか!」

「また今度、皆に内緒で着て見せてあげますっ」

「ほんとに!?」

「嘘ですよ♪」

「わお、残念!」

 

 しょうもない大げさなリアクションを取って二人して楽しく笑う。

 この子意外にノリ良く話してくれるよね。第一印象は大人しい子だったけど……まぁ、穂乃果の幼馴染をしてきて物静かなまま成長する訳ないか。もちろん褒めてるぞ?穂乃果もことりも。

 

「君、ホントに服大好きなんだね」

「はい、大好きです!」

 

 嬉しそうにこくりと頷くことりを見て、俺はふと浮かんだ質問を投げかけてみた。

 

 

 

「将来は服飾の仕事につくの?」

 

 

 

 はい。わかりません。いいえ。

 予想できる答えは何個かあったけれど、帰ってきた返事は唐突な沈黙だった。

 

「……」

「ことり、どうかした?」

「っ!い、いえ!はい。出来ればそんな仕事がしたいです」

「そっかそっか」

 

 見るからにどうかしている様子のことり。

 相変わらず、分かりやすい子だなぁ。

 

 でも、本人が内心の動揺を隠したいと思っているのなら、いたずらに問い詰める必要はないだろう。俺はそう判断して、特に言葉をかけることなく歩みを進めた。

 半歩後ろから何か考え込んだ様子のことりが続く。

 

「あ、あの。海菜さん」

「ん?」

「海菜さんはドラマとか良くみますか?」

「へっ?……昔は見てたけど最近はあんまりかなぁ。それがどうかした?」

 

 唐突な質問に面喰いつつも普通に答える。

 ちなみに、ドラマだが、中学までは良く見てたけど高校に入ってからはあんまり見てない。俺はどちらかというとお笑い番組を見ることが多いから。逆に絵里はお笑いよりドラマをよく見てた気がする。

 そのせいで『昨日のアレ見た?』『うんうん、見た見た!』っていう良くある会話が二人の間で成立したことはほとんどない。年末番組も全く違うチョイスをしてるからな……ガキ〇をみろガ〇使を!

 

「いえ!ドラマとかでよくある展開ってあるじゃないですか」

「うん。設定とかが似ちゃってると同じような事件になることはあるよね」

「はい。例えば、実は真犯人は近くに居たとか、記憶喪失になっちゃうとか……自分の夢を追って違う道を行くかこの場所に残るのか迷ってしまう登場人物がいたりとか」

「あ~!あるあるだよね」

 

 ことりはそこで一旦言葉を区切り、いつも通りの笑顔を浮かべながらも少しだけ真面目な声色で言葉を続けた。

 

 

 

「例えば海菜さんなら、自分の夢を追いかけますか?それとも、今いるその場所や友達を選びますか?」

 

 

 

 きっとこれは真面目な話。

 でもきっと、これは同時にことりが真正面から俺に相談したいとは思っていない話。

 

 だからこそ俺も雑談の延長線として答えを返した。

 

 

 

「あるあるだけど何気に難しいよな!んー……俺はそうだなぁ。多分迷わず自分の夢を追いかけると思うよ。そりゃこれから一生友達と会えない!とかなら別だけど、俺は夢を掴むチャンスがあるなら絶対それを手に入れたい」

 

 

 

 考え方は人それぞれだけど、少なくとも俺はそういう人間だ。

 もしかしたら薄情な奴なのかも知れないけど、俺は自分の本当に大切だと思う夢はどこまでもどこまでも追いかけていきたい。たとえ何かを失うとしても、夢を掴んだ後拾い直せるものだってあると思うから。きっと。

 

「絵里ちゃん達と離れ離れになるとしてもですか?」

「そりゃ辛いっちゃ辛いけど、絵里はきっと止めたりしないと思うよ。俺も多分『さらば、また会う日まで!』とか言ってるはずだわ」

「そうですか……。あ、ごめんなさい、変な話して!」

「いや、全然いいよ。結構考えてみるの面白かったし」

「そうですか?」

「うん!そういえば昔やったゲームで『悪く思うなよ カイナ。オレが お前と旅をするのはここまでだ。オレは この一族とともにこの時代に 残る』とか言いながら力の種食べたまんまいなくなったキャラがいたんだけど……。ことりはゲームとかやるの?」

「ことりは……」

 

 俺たちは何事もなかったかのようにいつもの会話に戻る。

 

 

 

 しかし、なんとなくではあるけれど。

 なにか大きくて重要な出来事がこれから先待ち受けている……そんな予感がした。

 

 

 

 


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