ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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第六十二話 それぞれの夢 了

 

 俺はこみ上げる何かを抑えながら、穂乃果とことりが走っていく背中を見送った。手を繋ぐ彼女たちの姿に不覚にも涙が出そうになる。

 

「良かった……」

 

 人知れず呟いた一言は誰に聞かれることもなく、ことりが乗るハズだった飛行機の離陸音にかき消されしまった。静かに空を見上げて安堵のため息をつく。

 

 結局、ことりは日本に残ることを選んだ。

 

 理由はただ一つ。

 夢を叶えるため、だ。

 

 服飾の仕事がしたい、という彼女の昔からの夢とμ’sとして今のメンバーと共に踊りつづけたいという新たに生まれた夢。彼女は後者も叶えたいと思ったのだと思う。

 事実、今回外国行きの話を断ったとしてもそれが将来の夢を壊す事には繋がらない。もちろん、遠回りすることにはなるけれど、その遠回りした道の途中にもいろんな素晴らしい宝物が落ちているハズだ。

 

『ことりちゃん! ことりちゃん、ごめん!』

 

 俺は、彼女を止めた穂乃果の言葉を思い出す。

 俺ではこの子の足を止められないと諦めたその瞬間、汗を流しながら目に涙を溜めてことりの腕を掴んだ穂乃果。ことりの歩みは、止まった。

 

『私、スクールアイドルやりたいの! ことりちゃんとやりたいの! いつか別の夢に向かう時が来るとしても!』

 

 嘘偽りない真っ直ぐな言葉。

 心の底から湧き出て来た混じり気のない願望。

 

 そんなセリフに揺れない人間なんていないだろう。傍から見ていた俺でさえ不覚にも泣きそうになってしまったのに。

 見ると、ことりはこちらを振り向くことなく肩を震わせていた。

 

 穂乃果はことりの正面に立ち、思い切り抱きつき叫ぶ。

 

 

 

『行かないで!』

 

 

 

 そして、二人は俺に頭を下げた後走り去った。

 

 これから何をするつもりなのかは知らない。学校へ行くのかも知れないし、μ’sのメンバーと会うのかもしれない。もしかしたらライブでもするのかもしれない。

 ま、でもそんなことはなんだって良いだろう。だって、これから何度でも会う機会が出来たんだから。

 

 集まった各々が思い描いた一つの夢。

 その夢を、再び穂乃果が抱き寄せてくれた。

 

 当面の目標が何かは、また話し合わなきゃいけないけれどきっと今までよりもっと魅力的なグループになるはずだ。今度は俺も失敗しない。全力で彼女たちのサポートをしたいと思う。

 

 俺は、決意を新たに顔をあげ、歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 鞄にしまってあったスマホが人知れず振動を始めた。俺は気付かない。

 液晶画面に、到底予想出来ない五文字。

 

 

 

【着信:統堂英玲奈】

 

 

 

 新たな風が、吹き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

《アニメ版一期:完》

 

 

 

 

 

 おまけ。

 

【高坂穂乃果にとっての古雪海菜】

 

 私にとっての海菜さんかぁ。

 うーんと、やっぱり頼れるお兄さんかな!

 

 少し変な所もあるけど、いつも私たちの事を考えてくれてるし全員に分け隔てなく優しくしてくれるすっごく素敵な人。こんなお兄さんがいてくれたら良かったのに。

 

 最近になってやっと知ったんだけど、海菜さんや希ちゃんが初めの方からずっと陰ながらサポートしてきてくれたんだよね。μ’sが解散の危機に見舞われた時も誰よりも一生懸命皆を繋ぎとめようとしてくれてた。

 

 ほんと、私たち助けられてばっかり。

 

 

 だから、今度はとびっきりの幸せを私たちが海菜さんにあげるんだ。

 一生懸命練習して、一生懸命楽しんで!笑顔を届けたい。

 

 

 海菜さん、これからもよろしくお願いします!

 

 

【園田海未にとっての古雪海菜】

 

 なっ!いきなり何を聞いてるんですか!

 え?別に変な意味ではない、ですか……。わ、分かっていましたけどね!

 

 それで、海菜さんの印象を応えれば良いんですか?

 

 そうですね、意地悪な人です。

 

 ……。

 

 ……。

 

 何で続きを待っているのですか、それだけですよ!

 会って間もない頃から隙があればからかって来ますし、私がその事に対して怒っても子供をあやすように流されますし。ホント、意地悪です!

 確かに歳は少し違いますけど、海菜さんの私の扱いは大人が小学生をあやす感じと同じなんです。もっと対等な女の子として見ては頂けないのでしょうか……。

 

 とか何とか言いつつ、それはもう諦めているんですけどね。

 絵里や希と比べたら確かに子供かもですし。

 

 でも、本当を言うといつも仲良くしてくれる海菜さんの事は尊敬しています。

 

 私自身、男の先輩と仲良くしたことなんて今までなかったので初めの頃はすっごく緊張していたんです。正直、あんまり男の人とはかかわりたくないなぁなんて思う事もありました。

 そんな私の心を溶かしたのはあの人の笑顔です。

 

 散々人の事いじって、イジワルするんです。

 でも、そのくせ心の底から楽しそうに笑いかけてくれて……。

 

 口では色んな事を言いますけど、伝わってくるんです。私たちへの気遣いとか、思いやりとか。あの優しい目を見たら嫌いになんてなれません。

 

 ズルいですよね。

 あんな顔で笑ってもらえたら怒れませんよ。この人ともっと仲良くなりたいなって思ってしまいます。結局、今でも会うたびからかわれるのに、また会いたいなって。

 

 あ!今言ったことは海菜さんには内緒ですからね!

 

 

【南ことりにとっての古雪海菜】

 

 私にとっての海菜さん……。

 

 え~っと、難しい質問、かな? 

 ことり自身、まだあんまり分かっていないんです。

 

 最初はただ単に面白い人だなって。

 

 普通、男の人って少しくらいは女の子に対して色目を使ったり、何かカッコつけようとするものじゃないですか。別にそれは当たり前のことだと思いますし、なにより、穂乃果ちゃんも海未ちゃんもとっても可愛いですから。

 でも、あの人は全くそんな部分がなかったんです。

 

 初めて会って話した彼の目から伝わってきたのは、純粋な興味だけでした。

 なんだコイツら、面白い事やってんなー。みたいな。

 

 ですから最初は面白い人もいるんだなって。

 正直それくらいの印象だったんです。

 

 でも、少しずつ彼の違う部分に気付きはじめました。

 

 海未ちゃんが珍しく懐いてたりしてたから、どうしてなのかな。なんていう疑問はずっと持っていたんです。そして、しばらくするとその答えになる光景を目にすることが出来ました。

 

 ことりが見たのは、希ちゃんと絵里ちゃんとお話しする海菜さん。

 すっごく優しい笑顔を浮かべてたのを覚えています。

 

 そして、同じ表情をことりたちにも向けていてくれたことに気が付きました。

 

 その時から、面白いだけの人じゃないんだなって気が付いたんです。

 だからこそ、相談にのって貰ったりして……。

 

 日本を発つとき、お母さんにせめてお友達一人には連絡していきなさい。って言われて電話をかけたのも彼でした。穂乃果ちゃんとはケンカをしてたから。穂乃果ちゃんに言わないのに海未ちゃんだけに伝えるのは良くない。

 そんな理由だったのかな。

 もしかしたら、他になにかことりがそうした訳があるのかもしれません。

 

 でも、今はまだ良く分からないんです。

 

 ことりにとっての海菜さん。

 大切な先輩だって事は確かだよ!

 でも、どんなふうに大切なんだろう?

 

 もっとたくさんお話したら、その答えも出るのかな?

うん!明日も会いたいなっ。

 

 

【西木野真姫にとっての古雪海菜】

 

 ただのセンパイよ、センパイ!

 

 それ以上でもそれ以下でもないわ!

 うぅ、ホントなんだからぁ……。

 

 

【小泉花陽にとっての古雪海菜】

 

 海菜さん……ですか。

 えっと、大好きなお兄ちゃん、かな?

 

 夏合宿までは私が一方的に人見知りしちゃって、きっとたくさん迷惑をかけてしまってたと思うけど最近は楽しくお話出来るようになったんだよ。

 たまにふざけすぎてしまうのが玉に瑕だけど、普段はとっても優しくて頼れる先輩!一年生の私たちにも分け隔てなく接してくれて、海菜さんと一緒にいるだけで笑顔になるような気がするんです。

 

 いつもいつもお世話になりっぱなしだからなにかお返しをしたいけど、どうすればいいんだろう。今度、うちに招待してみようと思ってるんだけど……喜んでくれるかな?

 もっと仲良く、なれたら嬉しいな。

 

 

【星空凛にとっての古雪海菜】

 

 かいな先輩がどんな人かってこと?

 んー。あんまりセンパイっぽくないって感じかにゃ。

 

 俺は先輩だぞーってよく言ってるくせして、凛たちと一緒になってはしゃいだりまとめて絵里ちゃんに怒られたり。凛、男の人のセンパイはかいな先輩しか居ないけど、普通センパイってもっと大人でカッコいい感じだと思ってたんだっ。

 でもね、凛、かいな先輩の事大好きだよ!

 

 一緒に遊んでくれるし、面白いし。

 なにより、かよちんが懐くような人が悪い人な訳ないにゃ!

 

 だからこれからもっとたーっくさん、遊んでもらおっ!

 

 

【矢澤にこにとっての古雪海菜】

 

 にっこにっこにー!

 皆ににこにー、の矢澤にこでぇ~っす。って……これは必要ない?

 

 なによいきなり……。答えなきゃダメなの?

 うー、仕方ないわねぇ。

 

 そうね、ムカつくヤツよ。一言どころか常に二言多いし、会う度にちっちゃいちっちゃい言ってくるし。なんだか思い出して来たら腹が立ってきたわ。

 

 別に、嫌いって訳じゃないけど。

 ただ、本気で腹が立つことはあるわ。もちろん、普段の憎まれ口の事じゃないわよ。あんなのお互い分かってて言い合いしてるだけなんだから。

 

 にこが気になるのはあの無駄な責任感。

 穂乃果が辞めるって言い出して、一時は解散しかけたμ’sを再び繋ぎ合わせたのがアイツの働きだって事は分かってる。アイツはきっと穂乃果のお陰、なんて言うんだろうけどにこはそんな言葉に騙されないわ。

 

 こう言ったらなんだけど、今回うまくいったのなんて奇跡よ?

 一度決めた留学って話をゼロに戻すって事がどれだけ大変かなんて誰だって分かるじゃない。ただ、ことりのママが理事長でそういう手続きに融通がきいたのと、きっと子供のしでかした勝手な行動の尻ぬぐいをきちんとしたから何事もなくμ’sって形に戻れただけで……。

 

 にこは九九パーセント無理だって思ってた。

 だから無理にでも自分を納得させてたのに……一番頭がいいはずの古雪は最後まで諦めなかった。アイツのお陰で夢の続きが見れる。そのことには感謝してもしたりない。でも、もし仮にうまくいかなかったらどうなってたの?

 

 一番傷つくのは古雪じゃない!

 

 にこは……それが凄く不安なの。

 あの性格ゆえにこれからあのバカが一人悩んで一人傷つくのが嫌。

 

 だから……しょうがないからこれからも仲良くしてあげるわ。

 全く、幸せ者よね!宇宙一のアイドルにこにーにこちゃ(割愛)

 

 

 

 

【絢瀬絵里にとっての古雪海菜】

 

 大切な、幼馴染よ。

 ずっと一緒に居た……ずっと一緒に居たい男の子。

 

 

 

 

【東條希にとっての古雪海菜】

 

 コツン、コツン。

 

 石段をローファーが叩く音が響く。

 私は一人、神田明神の境内へと続く階段を上っていた。その急な傾斜も、今日なら苦も無く登れてしまう。私の足取りはとても軽く、ふわりふわりと順調に目的地へと向かっていた。

 

「ライブ後なのに全然疲れてへんなぁ」

 

 鼻歌交じりに呟く。

 実は、今日ライブを一つこなして来たばかりだったのだ。それもただのライブではなく、μ’sの復活記念のライブ。穂乃果ちゃんが……そしてあの人が、私の居場所をもう一度作ってくれたんだ。

 だから、これからその人に会いに行く予定。

 

 その前に、不安に押しつぶされそうだった一週間ずっとみんなが一緒に居られるようお祈りしていた神さんにお礼を言いに来たの。目的地まであと二〇段くらい。

 

 近づけば近づくほどつらかった思い出がフラッシュバックする。

 離れてく皆に対して何もできない自分の無力さ。

 

 でも、いまはそんな過去も辛くない。もう二度と離れ離れになることはないから。

 

「嬉し、かったな」

 

 意図せず涙が滲んで、声が震えた。

 おかしいな、嬉しいはずなのに。

 

 目尻に浮かんだ水滴をそっと拭い、階段の最上段へ足をかけ、上った。

 

 

 お賽銭箱の前に見慣れた黒髪。

 その人は不慣れな仕草で手を合わせて何かを呟いていた。

 

 

 瞬間、あったかいもので心の中が満る。

 何事にも代えがたい幸せな感覚。

 

 

「古雪くん!」

 

 

 知らず知らずのうちに私は駆け出して……驚き、振り返った彼の胸に飛び込んだ。普段なら恥ずかしくて死んでしまいそうなそんな行動も、今の私には平気。だって、嬉しくて嬉しくて……。感謝の気持ちが溢れて止まらない。

 

「希!? ……君、何で急に。って、泣いてる!? なんで!?」

 

 動揺してわたわたとする古雪くん。

 それでも私を引き離したりせず、抱き付かれるままになってるあたり彼らしい。

 

「今日ね、ことりちゃんが戻ってきてくれたよ。それに、皆も」

「……! そっか、良かったな」

 

 そっと体を離す。

 古雪くんは私の言葉を聞くとにっこりと笑ってくれた。

 

 私の大好きなその表情。

 

 

「ありがと、古雪くん」

 

 

 お礼の言葉と一緒に、精一杯の笑顔を返した。

 急に顔を真っ赤にして明後日の方向を見る古雪くん。一体どうしたんだろう?

 

「古雪くん?」

「あ、あぁ……。アレね。貸し、増えたから」

 

 まったく、この人はいつも。

 たまには素直にどういたしましてって言えば良いんだよ。

 

「今日は何でここにおるん?」

「いや、今回ばかりは希の言う神さんにお礼を言っとこうかなって」

「そうなんや」

「ん。今回は、俺に出来たことはほとんどなかったから……。次はもっとうまくやれますようにって」

「……そっか」

 

 どこまでも彼らしいその言葉に私は笑う。

 

 

 

 ……?東條希にとっての古雪海菜?

 

 

 決まってるやん。

 誰よりも優しくて、いつだって私を助けてくれる男の子。

 たった一人の……大好きな人、だよ。

 

 

 

 




更新遅れてしまい、申し訳ありません。
前もってお知らせしていた通り、5月いっぱいは学業に加えサークル活動の方も多忙でして……次回も出来るだけ早めに更新するつもりではありますが気長にお待ち下さると幸いです。

さて。
今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

折角なので軽くあとがきを。

おかげさまでアニメ一期分の話を書ききることが出来ました。それもすべては評価、感想、そして閲覧してくださる皆様のおかげでございます。
よし、これで作者の好感度も……。
というのは冗談で、本気で感謝しております。

初作品、初投稿の拙作が一年近く連載できているのは紛れもなく奇跡ですから。今では五〇ほどしかなかったラブライブ!の創作も二〇〇を超え、そもそも原作リストに『ラブライブ!』があることが軽く驚きです(笑)

読んで下さる方がいる限り、出来る限りは更新を続けていきたいと思いますのでこれからもどうぞよろしくお願いします。ではでは、失礼いたします。

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