ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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こういった番外編がかけるのもいつも応援して下さる皆様のおかげです。
この場を借りてお礼を。
ほんとうにいつもありがとうございます。

さて、本題の訳は『ふたりきり』。楽しんでいってくださいね


記念話(総UA、お気に入り数など)
 ◆ We are alone.Ⅰ


 偶然が重なる。

 なんてことは意外によく起こることだと思う。一つ一つの現象が起こりうる確率を計算してしまうとそれに対する捉え方が変わってくると思うが、いくら卓上で理論をこねくり回そうと事件なんてものは起こるときは起こってしまうのだ。

 

 事実、今日この瞬間。

 事件が起こっていた。

 

 

 ……もっとも、私にとって。というだけだけど。

 

 

「あ、お姉ちゃんおはよう!」

「おはよう亜里沙。……ずいぶんと早いわね。まだ朝の八時よ?

 折角の日曜なんだからゆっくり寝てたらいいのに」

 

 私の三つ下の妹、亜里沙は今日に限って珍しく早起きして何やらあたふたとリビングと洗面所との間を行ったり来たりしていた。どこかに出かける予定でもあるのかもしれない。亜里沙はトタトタとこちらへ駆けてくると目の前で静止、無邪気な笑顔を浮かべながら私の顔を見上げて口を開いた。

 

「えへへ、今日は一日中雪穂と遊ぶんだ~♪」

「あぁ、雪穂と。……遊ぶのはいいけれど、勉強もしなくちゃだめよ?廃校が見送られても入試で落ちたらダメなんだから」

「うん!分かってるよ!だから午前中は二人で勉強して、午後は目一杯遊ぶの!」

 

 なるほど、それでこんな朝早くから忙しく準備していたのね。

 一度会っただけだけど、雪穂はしっかりもののようだし。たまには息抜きだって必要だもの……大目に見てあげようかな。

 

「あ、お姉ちゃん。パーパとマーマの話まだ聞いてないよね?」

「?えぇ……。確かに見当たらないわね、どうかしたの?」

「パーパはお仕事で朝から出かけちゃった。マーマはおにいちゃんのマーマと夕方まで女同士でお出かけだって。だから晩ごはんは心配しなくても大丈夫だけど、朝やお昼は何とかしなさい、って言ってたよ」

 

 ああ、そういえば海菜のお母さんと一緒にお出かけするんだ、みたいな話をしていたわね。今日は一日μ’sの練習もないからお父さんと一緒かと思ってたんだけど……仕事なら仕方ない。お疲れ様、スパシーバ。

 

 亜里沙は再び出発の準備に戻り、少し大きめのカバンに教科書やらノートやらを詰め込んでいく。そうね、朝ご飯かぁ。どうしようかしら?見たところ亜里沙は雪穂ちゃんと食べるみたいだし。

 

「それでね、おにいちゃんのパーパも仕事で出かけるらしいからマーマが『絵里、海菜くんと二人で家の事とかごはんの事はなんとかしなさい』って言ってたよ。ハイ、おにいちゃん家の鍵。さっき渡されたんだ、うちのバカ息子は叩き起こさなきゃ眠り続けるからって」

 

 トコトコと私の前に戻ってきたと思ったら見覚えのある形の鍵を私の手に握らせ、なにくわぬ顔でかなり大事な案件を述べる亜里沙。えっと、ちょっとまって……ってことは今日一日海菜と一緒って事??

 

 アイツは日曜は体を休める日にしているらしく、確か塾の予定などは入れていなかったハズだ。勉強する教科も暗記物に限って脳を休める……なんてことを言っていた気がする。

 

 で、でも……急にそんなこと言われても心の準備が!

 

「あ、亜里沙。いきなりそんな事言われても困るわ……!」

「ほぇ?なんで?最近はあんまりなかったけど、よく二人でお留守番してたんでしょう?」

「それはそうだけど……」

「料理とかが心配なの?おにいちゃん器用だしやってくれるよ。だから大丈夫!

 それじゃ、亜里沙もう行くね」

 

 言うが早いか、よいしょなどと零しながらカバンを背負って立ち上がり、元気よく手を振って出かけて行ってしまった。よほど雪穂と遊ぶのが楽しみなのだろう、不要だと判断された教科書類が散乱している……帰ったらお説教ね。

 

 

 ……って、そんなこと気にしてる場合じゃないわ!

 

 

 

 ど、どうしよう。

 普通にしていればいいんだろうけどいざ意識してしまうと……。

 

 

 

 ……とりあえず、あのバカを起こしにいこうかしら。

 

 

 

***

 

 ツンツン

 

 わずかに頬への刺激を感じた。……いや、感じたというのは少し表現としてはおかしいかもしれない。感じた気がした……それとも、感じはしたけど認識しなかった?

 

 

 ……。

 

 

 良く分からないからもういいや、どうでも。だって眠いもん。

 

「これで起きないのね……ほんといつまでたっても間抜けな寝顔」

 

 耳元で聞きなれた、それでいて心地の良い女性らしき声が聞こえる。

 しかし、俺の意識は目覚めない。限界まで脳を酷使して数学の問題を解いた後、睡魔に意識を持っていかれるまで英単語の暗記をおこなっていたのだ。ボロボロになるまで苛め抜いた脳みそはちょっとやそっとの刺激では起動しない。

 

 

 むにゅ。

 

 

 今度は先ほどより強めの感覚。誰だ、やめろ!

 人の睡眠の邪魔をするな!

 

「カッコいい……のかな。こう、ずっと一緒だと分かんないな。

 ……でも意外に女の子に人気あるのよね、このマヌケ面は。……ばか海菜」

 

 なんとなくだが頬の痛みが強くなってる気がする。耳元でなにやら言葉を発している女性の台詞は全く聞き取れない、というか認識できないのだが、なんとなく怒っているっぽいのは分かった。

 何、なんなの?怒りたいのはこっちだっての!

 

 苛立ち紛れに若干唸り声を上げつつ、声のする方向に背を向けるように寝返りをうった。誰だか知らないけど帰れ!帰れよ、ばーかぁ!!

 

 

「びっくりした……!起きたかと思ったじゃない……」

 

 混濁する意識の中から謎の声の存在をつまみ出し、ただひたすらに再度の睡眠を試みる。耳元で大きく息を吸う音がしても気にしない。枕に何者かが手をかけたような感触がしても気にしない。なぜかひとりでに掛布団が俺の体から離れて行っても気にしない。

 

 

 

 そこからの展開は……。

 

 想像に任せようか。

 

 

 

***

 

 予想通り海菜は大層ご機嫌ななめだった。

 ベットの上で胡坐をかきながらボサボサの髪の毛を直そうともせずに低く唸りながらこちらを威嚇してくる。……寝起きのせいか若干涙目だが。

 

「もう、そんなに怒らないでよ……海菜が起きてくれないとこの家のどこに何があるか分からないし……。一応出来るだけ寝かせてあげようと思って九時半まで待ったのよ?私だってお腹すいてるんだから」

「……がるるる」

「だから、手荒に起こしたことに関しては謝るから、話だけでも聞きなさい!」

「……」

 

 やっと起きるしか道がないと判断したのか、それとも脳まで血液が回ってきちんとした思考回路が組み立てられたのかどちらかは分からないが、海菜はじとっとした目でこちらを眺めながらも話を聞く体勢になった。

 相変わらず寝起きがやっかいな幼馴染だ。

 

 

 ……それだけ寝る直前まで自分を追い込んで勉強をしていたのだろうけれど。

 

 

 とりあえず手短に朝、亜里沙から伝え聞いたことをそのまま海菜にも教える。彼も初めて聞く内容なのか、静かに黙って耳を傾けていた。

 

「ってことなの。朝ご飯は私が作るから食器とかの場所とか食材だけ渡してくれないかしら?ご飯はうちで炊いてきたから」

「……いいよ、俺も手伝うから。ってか、冷蔵庫くらい勝手に漁ってよかったのに」

「人様の冷蔵庫や食器棚を勝手に開けられるわけないでしょう……」

「……律儀な奴。ほかの奴ならともかく、絵里は気にしなくていいのに」

 

 ぼそっとそうこぼして立ち上がる海菜の後をついてリビングへと降りて行った。寝起きのせいか、なんとなく海菜の匂いが強く香る。……って、なにに気を取られてるのよ!?

 

「着替えないの?」

「別に、外行くわけでもないしジャージで良くない?」

「ダメよ、それパジャマでしょ?家事もやれって言われてるんだから着替えてきなさい!洗濯するから」

「お前はオカンか!……はいはい」

 

 本当、だらしないんだから。それなりにオシャレとかには興味あるらしく、人並みには服やらアクセサリーやらを持っている海菜だが、あくまでそれは『人様に見せる』専用の道具なのだろう。不必要だと判断したら、とことん面倒くさがるのだ。

 私の前で着飾ろうとしないあたりは、なんとなく心を許してくれているようで嬉しいのだけど……それとこれとは話は別よ!

 

 踵を返して自分の部屋に戻りかけた海菜は私の姿を見て、不思議そうに口を開く。

 

「絵里は、どこかでかけるの?」

「え?……そんな予定はないけれど、どうして?」

「いや、それ君のお気に入りの服でしょ?楽な格好でくれば良かったのに」

「!?……女の子は海菜と違って慣れてるんだから、この格好でもくつろげるの」

「なるほど、さすが。……俺だめなんだよなー、ジーンズ履いたままこたつに入りたくないって言えば分かるかな?外行きの格好して家の中で生活すると全然落ち着かない!」

 

 いつものように雑談に移行しつつ、ゆっくりと階段を上っていく海菜を見送りながら私は大きくため息をついた。いちいち妙なところで鋭い奴っ!結局海菜と二人きりだって意識したら自分の格好まで気になっちゃって……来るのが遅れたのは服選びっていう理由もあった。

 っていうか、なんで私のお気に入りの服覚えてるのよ。これから海菜の前で着辛くなるじゃない……。

 

「はっ!!絵里!!いいこと思いついた!!

 そんなに寒くないし、別に服なんて着なくても……」

「ふふっ、ハラショー。綺麗な紅葉が体中に咲きそうね」

「じょ、冗談です……ビンタは勘弁してください」

 

 

 

***

 

 適当に。本当に適当に出来合いのもので朝食を済ませ、私たちはリビングのソファに並んで座っていた。洗い物も洗濯物も、二人で分担してこなしたのですぐに終わってしまい、ふたりして暇人になっている。

 

「すること……ないわね」

「まぁ、基本的に俺たち趣味合わないしな。ゲームとかしないだろ?」

「えぇ、しないわ。……映画でも借りてくる?」

「パス。多分寝ちゃうし」

 

 初夏の心地よい風がわずかにカーテンを揺らし、さらさらと肌を撫でる。

 さっきから二人ともこの調子だ。最近こんな機会はなかったものの、以前も毎回このようにグダグダとただ時間が過ぎるのを待っていたような気がする。私自身初めの方は少し緊張していたものの、いつのまにかそれもほぐれ自然体のまま全体重をソファの背もたれにかけて目を閉じていた。

 

「勉強でもする?」

「……折角だし今日は休む」

「そう」

 

 海菜の答えを聞いて少しだけ安心。今は勉強を忘れて隣でゆっくりして欲しかったから。目の下にわずかに浮かんだクマを見ると、少しだけ先程起こしてしまったことを後悔する。……寝かせておいてあげた方がよかったかしら?

 

「クマはいつもの事だからきにしなくていいよ。寝すぎても疲れるし、あのくらいの時間に起こしてくれた方がむしろ助かった」

「え?……もしかして私口にだしてた?」

「……人の顔ジロジロ見て露骨に落ち込んだ顔されれば誰でも気付くって」

「うぅ……」

「ばーか、お前こそ久しぶりにダンス本気で始めて疲れてるんじゃないの?」

「私は大丈夫よ、だってすごく楽しいもの」

 

 これは心からの言葉だ。μ’sに入って、希と、そして穂乃果達と一緒に踊って歌っている時間は何よりも楽しい。今日だって集まって練習をしたいくらいよ?……まぁ、週に一度はちゃんと体を休める日がなくちゃいけないから、仕方なくオフにしているけれど。

 

「そっか。うまくいってるみたいだな」

「海菜もたまに見に来てるんだから分かるでしょ?」

「いや、女の子しかいないグループだから実はドロドロとした人間関係が……」

「全くないわ、考えすぎよ」

「ま、知ってるけど」

 

 海菜はチラリとこちらを見て私の様子をうかがった後、なにやら納得した様子で再び前を向いて大きく息を吐きだした。

 

「こういうのも久しぶりだよな、よく考えたら」

「そうね、去年は海菜が色々あって忙しかったし今年は私が。……私の方は無事に済んだからよかったけど」

「俺の方も心配ないよ」

「ばか海菜。なんの心配もしてないわよ」

 

 海菜ならきっと大丈夫。傍でずっと彼を見てきた私には確信にも似た何かがあった。

 それにしても二人でこうしてぼうっとするのなんて何年振りだろうか?……たまにはこうした時間もいいのかも知れない。

 

「君の目標もまだ達成されてないだろ?……せいぜい頑張れ」

「なによ、他人事?」

「んー、瀬戸際」

「ふふっ、なによそれ」

「私事ではないだろ、女装して踊るわけでもないし」

「うえぇ……想像したら気持ち悪いわね」

「ひっでぇ!」

 

 ほとんど単語を適当に連ねただけの、はたから聞くと投げやりで感情のこもっていないつまらない会話。それでも私たち二人にとってはとても価値のある、大切な時間だった。

 

「……」

「……」

「暇だなぁ」

「暇ね……」

 

 口ではそういうものの、お互いに何かしようと動き出すことはない。それなりに広いリビングの中で一つのソファに二人で腰かけて、手を伸ばせば触れ合えるような距離で、静かに時が流れていくのを感じてる。小さなころから変わらないこの位置関係。

 

 それでもこの変わらない距離をどうにか変えたくて。

 

 

 

 

 

 私は……少しだけ勇気を出して体半分の幅だけ海菜に近づいてみた。

 海菜は動かない。

 

 

 

 

 

 

 何か話さなくちゃ。

 自分の高鳴る心臓の音が海菜に聞こえてしまうような気がして、私は少しだけ焦って口を開く。

 

 

「希を呼んで、一緒にどこか出かけてみる?」

 

 

 私のその言葉に海菜は……静かに首を横に振って立ち上がった。

 そのままゆったりとした足取りで押入れのある部屋の方へ歩いて行く。がさごそという音を聞きながら帰りを待つこと一分ほど。薄いタオルケットを抱えて彼は戻ってきた。

 

 そしてそのまま静かにソファに腰を下ろす。

 

 

 

 さっきよりも体半個分だけ私に近い、肩と肩とが触れ合うような位置に。

 

 

 

 

「はい、これ半分貸してあげる。……懐かしくない?よく俺ら遊び疲れてこのタオルケットかけられて二人で寝てた」

「あ、ありがと……。ふふっ、そんなこともあったわね」

「あぁ、あとこれで貸し4だからな」

「えぇ!?また増えるの?」

「もちろん。あと、希の事だけど……今日は二人でゆっくりしよう。眠くなったら寝ればいいし話したかったら話してればいい。……ダメかな?」

 

 どうやらタオルケットを取ってくるだけあって相当眠たいらしい。釣り目がちで普段はきりっと伸びる彼の目尻が少し力なく垂れてきていた。

 優しげな微笑みを浮かべる海菜に黙って頷き返し、私も静かに目を閉じる。

 そっと彼の肩に頭を乗せて、お互いの体温を感じながら……眠りについた。

 

 

 

 今日くらい、二人きりで。

 

 

 

 

 

 

 

《通算UA 15万突破記念に続く》

 




本当はすでに20万を突破しているのですが、一応五万ずつやろうと決めていたので……。本編が思いのほか長くなってしまったのでこのタイミングでの投稿です。
この話を書くにあたって活動報告のコメントを大いに参考にさせていただきました。本当にありがとうございます。また機会があればアドバイスの方よろしくお願いしますね。

甘々な感じを出そうかと思ったのですが少しだけほのぼの路線に変わってしまいました。個人的にはこのような雰囲気も好きなのですが……ご意見ご感想おまちしております。

ではでは、また本編でお会いしましょう。
失礼いたします
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