ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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シリアスが続くので息抜きに。
この話を読む前に、【通算UA25万突破記念】Do you ever date her?Ⅰに目を通して下さると幸いです。

UAは例のごとく55万を超えています笑


 ◆ Do you ever date her?Ⅱ

 珍しくμ’sの練習が休みだった日曜日。私は凛と花陽と一緒に買物に出かけていた。

 いつもの様に底抜けに明るい凛と、穏やかな笑顔を浮かべながら話しかけてくれる花陽。そして、最近やっと、素直に彼女たちと話ができるようになった私。三人で色んな話をしながら駅へと向かう。

 夏真っ盛りのせいか、日差しはかなり強く気温も高かったが、不思議と気にならなった。

 

 駅につき、各々が財布の中から現金をチャージできるカードを取り出す。基本的に外出するときは家の執事なりが車で送ってくれるため、電車に乗ることは殆ど無いのだが。こういう時のため一応用意しておいて正解だったようだ。

 いそいそと辺りを見渡し、予習済みではあるカードの使い方を確認した。

 べ、別に、失敗しそうで不安とか、そういう訳ではないわよ!

 

「あれ? 真姫ちゃん、凛ちゃん。あの二人って、絵里ちゃんと海菜さんだよね」

 

 不意に、花陽が口を開く。

 その声に釣られて彼女が指差す方向を見ると……確かに古雪さんと絵里が居た。

 

「腕なんか組んで何してるのかにゃー?」

 

 凛が首を傾げながら呟く。

 私はというと、理由不明のもやもやが急に胸を覆い、そんな自分自身に戸惑ってしまっていた。

 視線の先には凛の言葉通り、絵里の腕を取って歩く古雪さんの姿。

 

「……ま、まさか。二人とも、絵里たちの後を追うわよ!」

 

 気付くと、私は花陽の手を取って二人を追いかけ始めていた。

 

 だって、あの二人はただの幼馴染のはずでしょう? 私達はそう説明されたし、そうだって信じてる。もし、それが嘘ならしっかりと怒らなきゃ。にこちゃんも古雪さんと絵里の間柄は疑ってたみたいだし。

 別に、あの二人の関係がどうだろうと興味無いけど! でも、同じグループのメンバーの事だから放っておく訳にもいかないわ。

 

 ……一体、私は誰に言い訳しているのだろうか。

 

 雑念を振り払うようにぶんぶんと首を振って、尾行を始めた。

 凛はなんとも楽しそうに付いてきているし、花陽は……しばらくすれば諦めるでしょう。ダレカタスケテー! と、涙目になりながら嘆く彼女を引きずりながら物陰に隠れつつ二人の様子を観察する。

 

 あ、腕を離した。

 

 声は聞こえないが、絵里が何やら嬉しそうに一言二言古雪さんに話しかけ、少し拗ねたように彼が返事を返している。どうやら珍しく、絵里のほうが主導権を握っているようだ。からかうように古雪さんの背中をぽんぽんと叩き、私達にはあまり見せないようなふわりとした子供っぽい笑顔を見せた。

 

「やっぱり、二人は仲が良いんだね」

 

 結局諦めて、尾行に参加することにしたらしい。

 花陽がにっこりと微笑む。

 

 普段、決して隙という隙を見せず、私達をいじってばかりの古雪さんが逆にからかわれ、いつもは最上回生らしいしっかりとした態度を崩さない絵里が幼い振る舞いをする。きっと、二人だけの世界がそこにあるのだろう。

 なぜ先ほどまで腕を組んでいたのかは分からないが、どうやら恋人同士。と言った感じでは無いらしい。

 少しだけ、心の靄が晴れていった。

 と、同時に彼女たちの関係を羨ましく思う気持ちも生まれてくる。

 

「そうね。一瞬デートしてるのかと思ったんだケド」

「うん。どうしてさっきは腕を組んでたんだろうね?」

「……」

「でも、意外だったなぁ」

 

 花陽にじぃっと、見つめられてしまう。

 私はいきなり至近距離で見つめられた驚きで、思わず頬を紅潮させながら視線を逸らせてしまった。きゅ、急になんなのよっ!

 

「真姫ちゃんがあんなに慌てて古雪さんたちを追いかけるなんて」

「べ、別に、慌ててなんかいないわよ! ただ、放っておくわけにも行かないでしょっ。絵里はれっきとしたμ’sのメンバーなんだからっ」

「ふふっ。私には古雪さんを追いかけてたように見えたけどなぁ」

「な、なっ!」

「お兄ちゃんを取られたみたいで悔しかった?」

 

 いたずらっぽく微笑みながらそう問いかけられる。

 べ、別にそういう訳じゃ……。なんとか言い訳の言葉を口にしようとするのだが、なかなかうまく出てこない。って事は、やっぱり私は絵里に嫉妬を……って、バカじゃないの!? どうして私があんな常時滑り散らしてるような先輩を慕わなきゃなんないのよ!

 

「は、花陽だって古雪さんに懐いてるじゃない!」

「うん! でも、絵里ちゃんの事も、お姉ちゃんみたいに思ってて……。だから、お兄ちゃんとお姉ちゃんが楽しそうなら、花陽はそれで良いの」

 

 心からの言葉。

 見るものの心がぽかりと温まるような、そんな笑顔をこぼす。

 

 うぅ。花陽の言いたいことは分かるわ。

 でも、私は素直に頷くことが出来なかった。

 

 古雪さんが、絵里に見せる表情。私は、そんな顔を向けて貰ったことが一度もない。きっと、花陽たちよりももっとたくさんの時間、勉強とかの面で面倒を見て貰っているけれど。いつも年上の、それでいて子どもじみた表情しか見せてくれない。

 毎回、私を良いようにからかって、拗ねてしまうと笑いながら謝ってくる。

 

 あんなに楽しそうな顔、私と居るときは見せてくれないクセに。

 

 反撃のつもりか、絵里に足を引っ掛けて転ばせようと、つま先を横に出しながら足を伸ばす古雪さん。見事に引っかかって躓く絵里の腕を取って本当にコケてしまわないように支えながら、彼は心底楽しそうに絵里に話しかけた。

 やっぱり、彼が彼女に向ける眼差しは、彼が私へとむけるそれと違う。

 二人の間に積み上げてきた時間と、想いの差。

 

 なんとなくそれが伝わってきて、私は唇を噛んだ。

 いいなぁ。私だって、古雪さんと……素直に、仲良く話がしたい。

 

「真姫ちゃん?」

「……なんでもないわ」

 

 花陽は心配そうに私の顔を覗き込む。

 そして、一瞬はっとした顔をした後、何か妙案でも浮かんだのか。嬉しそうに私に抱きついてきた。陽だまりのような暖かい香りが鼻孔をくすぐって、ドギマギしてしまう。

 

「それじゃ、今度は海菜さん誘って、四人でおでかけしよう? きっと、そうすればもっと海菜さんと仲良くなれるよ」

「別にそんなこと……」

「?」

「……そうね。たまには良いかもね」

「うんっ!」

 

 私にしては珍しく、素直に頷くことが出来たみたいだ。

 

 そういえば、凛は何をしているのだろう?

 これ以上、古雪さんたちに付いて行って邪魔するわけにも行かないし、尾行は中止しなくては。そんなことを考えながら凛の姿を探すと、彼女は一生懸命手元のスマホに目を落とし、両手を使って何やら作業をしている。

 

 一体何を?

 

 訝しげに彼女を見ていると、横に居た花陽が焦った声をあげた。

 

「ま、真姫ちゃん! スマホ見て!」

「スマホ? え、えぇ……」

 

 言われるがまま、カバンに入れていたスマホを取り出して画面を見ると……LINEの通知が凄いことになっている。これはまさか……。慌てて開いてみると、古雪さんと絵里さんだけを除いたメンバーに凛からメッセージが送られていた。

 

《凛:今、絵里ちゃんとかいな先輩のデートを尾行中にゃ!》

 

 り、凛んん!!!

 キッと、顔をあげて同級生を睨むものの、彼女はどうして怒っているのか訳が分からないという顔で首を傾げる。そして、見方によっては可愛らしい。私にとっては憎たらしいだけの笑顔を浮かべて一言。

 

「にゃはっ」

「にゃはじゃないわよ!!」

「にゃあ~! 真姫ちゃん、いたいにゃー!」

 

 ぺちぺちと彼女の頭を叩く。

 ホントに! ちょっと目を離した隙にここまでおおごとにしてくれるとは。

 

 数十件以上のメッセージを見ていくと、日曜昼間のせいか、見事に全員から返信が来ていた。

 穂乃果は『うらやましーい!』と一言。海未もさほど興味があるわけではないのか『一応先輩なんですから、迷惑をかけてはいけませんよ』と彼女らしい注意をくれていた。希は『そういえば、古雪くん模試明けって言ってたよ。息抜きに遊んでるんとちゃうかな?』と、やはり別段気にしている感じはない。

 私達と違い、絵里とも古雪さんとも交友のあった彼女には全部分かっているのだろう。

 

 しかし、厄介なのが二人居た。

 

《ことり:ことりはちょっと気になるかなぁ~》

《にこ:アンタ達、とりあえず尾行して、適宜報告すること。良いわね!?》

 

 ご丁寧に、個人LINEまで送ってきている。

 もちろん、二人共だ。

 内容は純粋に、一体二人が何をしているのか観察して教えろとの事らしい。にこちゃんに至っては妹たちのご飯を作り終わり次第合流するとまで言っている。もう、なんなのよ、この二人……。

 

 私はとりあえず頭を抱えて嘆く。

 どうして私達がそんなことを……。

 

「り、凛ちゃん……。ホントに海菜さんたちについていくの?」

「うんっ、面白そうだし、ニコちゃんたちからも頼まれたから」

「えーっと。でも、断ったりしたらにこちゃん怒りそうだよね」

 

 花陽の言う通りだ。

 これで古雪さんたちを放っておくと、あとで何を言われるか分かったものではない。よりにもよって、ことりまで興味津々だから。

 

 にこちゃんが気にする意味はよく分かる。それは、スクールアイドルだから云々の話もあるからでもあるし、彼女が前々から絵里たちの関係を怪しんでいたからでもある。それに、日曜で練習もないから暇なのよ、きっと。むしろ、後の理由のほうが大きいでしょうね。

 にこちゃんの事だから、時間が出来たからといって勉強なんかしているはずがない。

 

 でも、ことりに関してはよく分からない。

 今までは特に古雪さんたちに興味は示していなかったような……。

 

 留学の件が何か彼女を変えたりしたのだろうか?

 残念ながら、詳細はよくわからないのでとりあえず思考を打ち切った。

 

「さぁ、こっそりついていくにゃ!」

「なんで凛はそんなにノリノリなのよ」

「なんだかスパイみたいで面白いでしょっ! それに、凛達別になにか目的があった訳じゃ無いし、凛、二人が何して遊ぶのか気になるにゃ」

「そうだね、バレちゃったら一緒に遊んでもらえば良いしね?」

「かよちん名案だにゃ~」

 

 はぁ。

 思わず溜息をつく。どうやら本当に尾行しなくてはならないようだ。

 でも、確かに二人が恋人という線は薄くなったものの、純粋にどこに行くのか気になりはする。

 

 かくして、急遽、古雪海菜&絢瀬絵里追跡ミッションが始まった。

 

 

 

「よーっし、気合入れて行くにゃー!!」

『凛(ちゃん)! 静かに!』

 

 

 

***

 

【電車にて】

 

「電車の中ってあんまり良いイメージ無いのよ」

「そうか? 俺は昔から結構好きだけどな。新幹線とか、電車とか車とかも人並みには」

「男の子はそうなのかもね。でも、何かと物騒でもあるでしょう?」

 

 都合のいいことに、端の席に座ってくれたおかげで会話がよく聞こえる。

 私は古雪さんたちに背を向けてドアの前に立っていた。ご丁寧に持ってきたサングラスまでつけて。流石に三人いるとバレるので、交代でスマホ片手に偵察に出ることにしている。一番手は私。なんでこんなにドキドキしなくちゃならないのよ……。

 バレてしまわないか不安ではあったが、流石に二人は尾行されてるとは考えていないのだろう。普段通りの会話に勤しんでいた。十年近く一緒らしいけど、よく話題が尽きないものね。少し感心してしまう。

 

「あぁ、痴漢とか?」

「えぇ。友達とかからよく話を聞くから」

「確かに、怖いなぁ。やば、震えてきた」

「海菜は怖がる側じゃないわよ」

「いや、怖がらせる側でもないからな!?」

 

 わざとらしく震えて見せる古雪さんと、軽くあしらう絵里。

 さっきからずっとこの調子なのよね。普段と変わらなすぎるわよ。

 

「でも、今日は安心。海菜が守ってくれるから。ね?」

「……」

「ねー?」

「それ以上言ったら君んちでホラー映画鑑賞会やるからな」

「ふふ、照れなくていいの……いたっ」

 

 ぺしん。

 容赦なく古雪さんが絵里のおでこをはたく。

 うぅ、と涙目になりながら隣の彼を睨む絵里の姿は、やっぱり新鮮だった。何の話かわからないけど、もしかしたら先程腕を組んで走っていたことと、古雪さんがからかわれていたことと関係有るのかもしれない。

 

「ま、でも、流石に俺も男だし……もしもの時は任せてくれ」

「えっ?」

「だから、俺が君を守ってやるって言ってんの」

 

 な、なに、この展開?

 横目で見ると、至って真剣な表情で絵里を見る古雪さん。絵里の顔もほのかに紅く染まっていた。

 私は、息を飲んで続く言葉を待つ。

 

 実はこの二人、やっぱり……。

 

「君にトドメを指すのは俺だからな」

「はいはい、ありがとう」

「良いってことよ、気にすんな……いてっ」

 

 はぁ。

 絵里にかなり強めに脇腹を抓られた彼の、切なげな悲鳴を聞いて溜息をついた。

 

 

***

 

【ファミレスにて】

 

「あの、お客様? わざわざ横に三人並ばなくても……」

「いえ、良いんです! お構いなく!」

「そ、そうですか」

 

 は、恥ずかしい。

 ドヤ顔で店員さんを追い払う凛を見て、羞恥のあまり顔を覆う。花陽も同じく恥ずかしいのか、穴があったら入りたいとでも言いたげな顔で俯いていた。シャベルでもあれば自ら塹壕を掘り出しそうな勢いだ。

 

 古雪さん達が入ったファミレスに、早速突入した私達は、運良く彼らと背中合わせの席に座ることが出来た。しかし、当然リスクもあるもので、片方に寄っておかないと海菜さんが立ってしまうと仕切り越しに私達の姿が見えてしまう。

 そのため、二席あるソファの片側に仲良く座って注文をする羽目になってしまった。

 

「コレはコレで楽しいにゃ!」

「なんだか暖かいね?」

「むしろ暑いくらいよ……」

 

 とりあえず水で喉を潤しながら、三人揃って聞き耳をたてる。

 はたから見れば相当奇妙な光景だとは思うが、相も変わらず例の二人から催促が来ているので仕方がない。実際は、ことりとにこの話は言い訳みたいなもので、私も凛も花陽も次第にこのミッションを楽しみ始めていた。

 け、結構楽しいのよ! 悪い!?

 やってみなきゃ分からないのよ、きっと。

 

 それに、古雪さん達、毎回飽きもせず色んな話をしてるから……正直、それを聞く楽しみも出来ていた。

 

「絵里、取ってきたぞ」

 

 どうやら、彼が絵里の分も水を持ってきたらしい。

 そういう所はきちんとしてるのね?

 

 まぁ、男だし当然……。

 

「ありがと……って、どうして氷だけなのよ!」

「あっはっは」

 

 前言撤回。最低ね、あの男。

 

「あのバカ……」

 

 絵里のぼやき声が届く。一応、きちんと水は彼が取りに戻ったらしい。

 凛はきゃっきゃと爆笑しているし、花陽は苦笑いだ。

 

「はい」

「ありがと……、前みたいにシロップ入れたりしてないわよね?」

「もちろん、一度やった嫌がらせは二度としないよ」

「嫌がらせって自覚はあるのにどうしてやめないのよ……」

 

 ファミレス特有の、ストロー、シロップ、砂糖、ミルク等をかつて水のなかに入れられた事があるらしい。絵里の対応も慣れたもので、別に気にしている様子は無かった。

 

「おかんから金貰ってるし、ドリンクバー頼もうって」

「ダメよ。おばさんにご馳走して貰うのに、無駄遣いは出来ないわ」

「ドリンクバーが無駄遣いって、酷い言いようだな」

「コーラとコーヒーを混ぜて泣きながら飲み干すような幼馴染を持ったら、無駄とも思えるようになるわよ」

「あぁ。アレは本当にマズかった。今思い出しても涙出るし」

「なんで海菜は昔から色々混ぜようとするのよ」

「俺だけじゃないと思うよ。学術的好奇心を持つがゆえのある種の実験な訳だし」

「ドリンクバーのジュース全部混ぜて美味しくない事くらい、やらなくても分かるでしょ?」

「あぁ。アレは本当にマズかった。今でも反省してる」

「嘘つき、反省なんかしてないクセに」

 

 小学生か! にこちゃんのお陰で、なんとなく染み付いてきたツッコミが頭に浮かんだ。

 今日び、高校三年生にもなってドリンクバーのジュースを混ぜるなんて……古雪さんの二人での勉強会中に見せる真面目で大人びた表情の記憶が薄れ、楽しそうに飲み物をミックスして遊ぶ幼い彼の姿に置き換わる。

 

「真姫ちゃん、注文してたメニューが来たよ」

「あ、うん」

 

 とりあえず、意識だけは仕切りの向こう側へ残しながら、ミラノ風ドリアに手をつけた。それこそ、花陽達とくらいしかファミレスに来ることは無いけれど、本当に安いわよね? 味も悪くないし。私はスプーンをゆっくりと口へ運びながら小さく首を傾げた。

 

 そして、どうやら古雪さんたちのテーブルにもメニューが来たらしい。

 二人のいただきます、という声が聞こえてくる。

 

「海菜はミラノ風ドリア、好きよね?」

「うん。安いし美味しいし……どこがミラノ風なのかは知らないけど」

「それ、毎回言ってるわよ」

「毎回気になってるからな」

 

 偶然にも彼と頼んだものが同じだったらしい。

 なんとなく……ムカついてしまう。

 

「そんなに美味しいの? 食べたことなくて……ついついパスタとかを頼んじゃうから」

「俺は結構好きだよ。絵里も気にいると思う。……一口いるか?」

「ふぇっ? え、えっと……」

「はい。大丈夫だって。あーんさせて熱いの鼻に当てたりはしないから。熱々おでんメソッドとかしないから」

「別にそれを心配してるわけじゃないんだけど……。なら、貰っていいかしら?」

「良いよ。その代わり、君のも貰うから。八割方」

「取り過ぎよ! もう。はいどうぞ。あっ、美味しい」

「ドヤア!!」

「ぷっ。変顔は卑怯よ! 口で言うだけじゃ笑わないからって」

「笑ってしまえば同じこと。君の負けだから」

 

 どうやら、仲睦まじく食べ比べをしているらしい。

 え、えっと……幼馴染なら普通なのかしら?

 

 ちらりと横を見ると、花陽が顔を真っ赤に染めていた。

 やっぱり、普通ではないみたいね。

 

「ほ、ホントに仲が良いんだね?」

「……そうね」

「それじゃ、凛たちも食べ比べしよー?」

「あっ、ちょっと凛!」

 

 勝手に私のドリアに手をつけて、美味しい! と笑う凛。

 まったく、もう。

 

 ……でも、仲が良い印なら、仕方ないのかもしれないわね。

 

 

***

 

【デパートにて】

 

「絵里、何か探しものでもある?」

「別にないけど……服とかは少し見たいわ」

「そっか、じゃ、付き合うよ」

「良いの? 海菜あんまり他人の買い物付き合うの好きじゃないでしょう」

「まぁ、他人じゃないしな」

「……ばか」

「絵里?」

 

 スタスタと先に行ってしまう絵里と、その後を追いかける古雪さん。

 そして、当然私達三人も彼の後に続いていた。

 

 どうやら、ショッピングでもするらしい。傍から見たら完全にデートなんだけど、きっと本人達にしてみればただの幼馴染と遊びに来ただけなんでしょうね。

 

 二人は並んで歩きながら、林立する女の子向けのブランドブースを見て回っていた。かくいう私達も、追跡ついでにショッピングを楽しむ。絵里たちも買い物に夢中で、あまり周りを気にしてはいないようだ。

 

「絵里! コレとか良くない?」

「あっ、そうね。悪くないかも……海菜は意外に服のセンスはあるわよね」

「というより、君とずっとつるんできたからな。服選びにセンスあるんじゃなくて、君の好きそうな服見つけるのが早いんじゃない?」

「ふふっ。確かにそうかも、私も海菜の好きそうな服、分かるから」

「そして、コレ、にこに似合いそうだよな」

「もう、それ子供用じゃない。にこに怒られるわよ?」

 

 あ、このTシャツ可愛い……。

 古雪さんたちの会話を盗み聞きするのを忘れて、目の前の服に意識を奪われてしまう。真姫ちゃん、これきっと真姫ちゃんに似合うよ? よさそうな服を見つける度に私の所へ持ってきてくれる花陽と、少し落ち着かない様子で辺りを見回す凛。

 

「凛、どうしたの? あんまり好きなのがない?」

「ま、真姫ちゃん……なんというか、凛、あんまりこういうお店来ないから。落ち着かないにゃ」

 

 ふぅん。

 確かに、凛は私服も練習着もいい意味でシンプル、悪い意味で味気ないどちらかと言うとボーイッシュな服を着ているイメージが大きい。スカートを履いても似合うと思うんだけど……。そんな事を考えていると、花陽が少し寂しそうな表情を浮かべているのが目に入った。

 

「凛ちゃん、これとか似合うと思うんだけど……」

 

 おずおずと取り出したのは、フリルの付いたベージュのスカート。可愛らしく、それでいて少し大人っぽい。確かにスリムな凛が履けばよく似合うと思う。

 しかし、凛は申し訳無さそうに断った。

 

「か、かよちん。凛、スカートはあんまり履かないから……」

「そ、そうだったね。ごめんね」

「んーん! 気にせず、今日は真姫ちゃんをコーディネートするにゃ!」

「なっ! なんで私なのよー!」

「あれ、そういえば海菜さんたちは?」

 

 花陽の指摘で、やっと自分たちが本来の目的を忘れていたことを思い出した。

 

 しかし、気付いた時にはもう遅い。

 二人の姿は既に消えていた。

 

「どうする? 真姫ちゃん」

「今日はこれくらいにして、買い物しましょう。この大きい店の中で二人を探すのは大変だし……ニコちゃんたちには後で私から言っておくから」

「うん、そうだね!」

「むー、次こそは最後まで追跡しようね? このまま終わるのは悔しいにゃ」

 

 

 結局、本当のところ古雪さんと絵里の関係性は分からなかったけれど、二人の間に私達じゃ理解できない何かがあるのは良く分かった。ちょっぴり。ほんのちょっぴりだけど、そんな二人が羨ましい。

 同時に、もっと彼女たちのことを知りたいと思うけど……。

 

「真姫ちゃん。次のお店行こう?」

「二人共、凛についてくるにゃー」

「どうして凛についていかなきゃいけないのよ、はぁ……」

「ほらほら、真姫ちゃん早くー!」

「もぅ。わかったわよ」

 

 でも、今日はとりあえずその事を忘れて、二人と遊ぼう。

 単純に、そう思った。

 

 

 

 

 

 




さて。

バリスタさん、最弱戦士さん、キシロギさん。
以上三名の方に新たに評価頂きました。

感想等もいつもありがとうございます。

また次回、お会いしましょう。
もしかしたら、真姫たちが見失った後の、絵里たちの様子を書くかもしれません。

ではでは。
何度も言いますが、活動報告にも目を通してくださいね。

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