ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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明日がセンター試験ということで、いてもたってもいなくなって書き上げました。
番外編です。

では、どうぞ。

あなたの夢が叶いますように。


【受験生の方々へ】I hope that it is fulfilled.

 絵里へ好物のチョコレートというサプライズプレゼントを贈った一週間がたった今日。俺は頭を抱えていた。

 

「希には何をしてやればいいんだろう?」

 

 自室で小さく呟く。

 時刻は夜の十時。そろそろ計画をきっちり決めて希に連絡しないとさすがに当日いきなり誘いを……ってのは難しいだろうし。もちろん前日の夜ってのもどうかとは思うが、俺も正直塾やら学校やらで忙しいので出来れば許して欲しい。

 

 んー、思いつかない。

 

 他のμ’sメンバーになにかしてやるつもりはサラサラないし、労をねぎらう……と言うと少し偉そうだけど、あの幼馴染と希にだけは仲の良い友達として何かしてあげたい。

 というのは俺の心からの気持ちだ。

 絵里は絵里で大変だっただろうけど、今スクールアイドルグループ『μ’s』があるのは希の助力があってこそだ。俺の知らない所でも色々と気を回して彼女たちのフォローをしていたに違いない。

 そんな様子を全く見せずに。会うたびに見る人みんなを幸せにする優しげな笑顔を浮かべて。

 

「ものは特に欲しがりもしないし……大好物は焼肉だっけ?別に俺はいいけど、流石に女の子だしな」

 

 いくら仲が良いとはいえ、高校生の男女二人で焼肉……というのは違和感がある。俺が連れてってあげられるのはやっすいチェーン店の食べ放題くらいだろうし。あー、切実にお金が欲しい!

 もっとも、バイトなんてしたことないしする時間もない。

 むしろ神田明神でバイトをしている希の方がお金は持ってるかもな。小ざっぱりとした部屋を見た感じ無駄遣いはしない子なんだろうけど。

 

 答えの出ない問題を考え続けたって仕方ない!

 

 俺は勉強中オフにしていたスマホの電源を入れて通話ボタンを押した。

 鳴り響く呼び出し音。

 

 聞きゃいいんだよ、直接。

 きっと、希は俺の意図を汲んで変な遠慮なんかしないと思うから。

 

『もしもし……古雪くん?』

 

 数コールの後に出た希の声は眠そうで、とろんとした甘い雰囲気を含んでいた。あれ、もしかして寝てたのかな?

 

「もしもし。ごめん、もしかして寝てた?」

『んーん。ベットの中でウトウトしてただけ……』

 

 それを寝てたって言うんだけどな……。申し訳ない事をしたなぁ。まさかこの時間から寝てるとは知らなかったから。

 まあ、でも。慣れないダンスや歌の練習で最近は特に疲れてるだろうし、こちらの配慮が足りなかったらしい。

 

「ごめんな。眠たかったら切ろうか?急用ではないし」

 

 別に来週だっていいんだもんな。

 急いで何かをしてあげなきゃいけない訳でもないし。

 

 しかし、彼女からは予想外の台詞が帰ってきた。

 なんとも眠そうな声色で。

 

 

『ええんよー。寝る前にかいなくんの声が聴けて……ウチ、嬉しいから』

 

 

 全体的にか細い声だったが、もちろん聞き逃すことは無かった。それに名前……。

 

「……そ、そっか」

 

 なんて返していいか分からずにとりあえずの三文字を返す。

 なぜか心臓の活動が激しさを増す。

 一方あちらも何か起きているようで、電話越しでバタバタと布団をはねのけて立ち上がるような騒がしい音が聞こえて来た。電話口と掛布団ががこすれているのか耳障りな摩擦音が届く。ど、どうしたんだろうか?

 

『ふ、古雪くん?い、今のは違くて!ウチの家には今お母さんもお父さんもいないから、だから知り合いの声が聴けただけでも嬉しくなっちゃったの!』

「な、なるほど。そういえば一人暮らしだもんな」

『うん、だから夜遅くまで起きておくのも少し怖いやん?』

 

 今の言葉の意味はそういう事だったのか。

 俺は安心してため息をついた。でもなぜか少しだけ残念な気もする。

 やっぱり、高校生で一人暮らしって相当大変なんだろう。俺は幸いなことにおかんも親父も帰ればいつもいてくれるから希の気持ちは想像することしか出来ないけど……また、絵里と二人で遊びに行こうかな。

 

『ところで、一体何の用だったん?』

「ああ。それなんだけどさ……」

 

 俺はかくかくしかじかとこれまでの経緯を伝えた。

 絵里にもサプライズプレゼントをしてあげたこと。希にも何かしてあげたいけどいいアイデアが浮かばない事。折角なので希からリクエストを受け付けたいという旨。

 希はふんふん、と時折相槌を打ちながらきいてくれ……そして笑い出した。

 

『あはは、ウチ、古雪くんのチョイスならなんでも良かったのに』

「そうはいうけどさ……」

『ま、女の子へのサービスとかは意外に慣れてないやんな?キミはっ』

「ぐ。……彼女いない歴イコール年齢なもんで」

 

 こういう時、グイグイと女の子をリードできるような男がモテるんだろうし、俺もそうなりたいとは思ってるんだけど……なかなかうまくはいかない。俺は素直に希のリクエストを待った。

 

 

 

『せやね……。それなら』

 

 

 

***

 

「ホントにこんなことでよかったの?」

 

 次の日の夕方。朝から昼過ぎまで勉強して、少しだけ作業というかすべき手配を済ませた後、俺は希と合流してある場所に来ていた。

 

「ええんよ。こんな機会つくらなきゃ一緒にはこれないやん?」

 

 並んだ影が伸びる方向を見ると、一体何段あるのか見当もつかないような石段が目に入った。そして見上げると、その階段が続く先に見える赤い鳥居と『神田明神』の文字。

 そう、俺たちは二人でいつもの神社へと足を運んでいた。

 

「まぁ、確かに。改めて来ることはなかなかないだろうけど」

 

 京都に住む友達が、近くにあり過ぎると金閣だろうと清水寺だろうと行こうとは思わねーぞ?と言っていたのを思い出した。俺もこの神社にμ’sの練習以外で訪れることは無いし、希たちも部室が出来たせいか来る頻度は減っているらしい。

 

「ちゃんと、神様にお礼を言って、またお願いします―ってゆーとかんといけないやん?」

「ん。そうだな」

「もー、古雪くんもちゃんと手、合わせるんよ?」

「お手ての皺と皺とを合わせて幸せ(皺合わせ)だっけか」

「そうそう。良い言葉やんな」

「俺、指ポキポキ鳴らし過ぎて節かなり太いんだけど……不幸せ(節合わせ)にならないかな?」

「だいじょーぶ。節の数より皺の数の方が多いでしょ」

 

 相変わらず傾斜がきつくて長い石段を登りながら雑談をしていた。

 そうこうしているうちに境内へとたどり着く。休日とはいえ、特にイベントは無いので人影はほとんどなかった。何人かお年を召した方々がお参りをしているくらいだ。この石段を登るだけで不健康に……いや、むしろいい運動になるのかも知れない。

 

 本堂の前に辿り着く。

 適当にお賽銭を投げ込んで俺たちは手を合わせた。

 

 なんとなく気品があふれる希の仕草と、俺のぎこちない合掌。

 仕方ないじゃん、慣れてないんだから。

 

 神様に祈るくらいなら、血反吐吐きながら努力した方がいくらかマシ……どちらかといえばそう思うような人間だから。だからこそ俺は何も祈らない。今日は希が付いてきてくれって言ったから来ただけで……。

 

 しかし、俺のそんな内心を希はしっかり見透かしていた。

 

「こら、古雪くん。ちゃんと祈らなきゃダメだよ」

「うっ、なんでバレた!」

 

 ジトッとした目で見つめられてしまう。

 

「あのね、古雪くん。多分キミは勘違いしてるんよ」

「勘違い?」

「そう。『祈る』っていうのはね?神様へのお願い事って意味合いだけじゃないんだよ?」

 

 彼女の言葉の意味が良く分からず首を傾げて見せた。

 祈る事って神様に『こんなことが現実になりますように!』って頼むことじゃないの?少なくとも俺はそう思ってて、だからこそ敬遠していた。

 だってそうじゃん、自分の事を人任せなんて。

 古雪海菜として生きる意味がない。大げさかもしれないけどそう思う。

 

「『祈る』っていうのはね、自分を見つめ直す作業なんよ」

「見つめ……直す?」

 

 オウム返し。知識のない俺にはそれしか出来なかった。

 

 

 

「うん。今自分が一番叶えたい、頭の中に漠然とある夢を誰かに届けるための外行きの言葉に変えるの。そうすれば、自分が本当はどんな思いでいるのか改めて知ることが出来るんよ。だからこそウチは祈るん。今のこの大切な思いを忘れないように」

 

 

 

 優しくて、慈愛に満ちた表情で手を合わせながらも、彼女の瞳は強い意志を宿していた。

 俺は彼女に倣って、今度は本当に真剣な表情で手を合わせた。

 

 

 自分にだけしか持てない何かが見つかりますように。そのために、受験という一つの関門を突破できますように。

 

 

 静かに自分と対話する。

 どうしてそう思うのか、なぜそうありたいのか。

 

「ふふ、そうそう。今度はちゃんと祈ってたようやね」

「まぁな。希も終わったか?」

「うん、じゃぁ、こんどはホントに頼み事しよか!」

「へ?」

 

 にっこりと笑いながら希は元気よくそう言った。

 

「真面目に自分の事を祈ったあとは、誰かの願い事を代わりにお願いするの!」

「祈りは対話、じゃなかったんかい!」

「それとこれとは別!それに、他の人の幸せを祈るのに理由なんていらんよ~」

 

 何とも希らしい理由だった。

 でも確かにそうかもしれない。

 

「古雪くんが無事合格しますようにっ」

「なっ!?ありがたいけど……別に声に出さなくてもいいんじゃないの?」

「えー?声に出した方が届きやすい気、せーへん?」

 

 わざとらしくぱんぱんと手を叩きながら願い事を声に出して言う希。

 は、恥ずかしいから!普通に嬉しいけどいざ一対一のこの状況でそうストレートに言われると照れてしまう。でも……、希にそういわれると受かる気してくるな。さすがスピリチュアル少女。

 

 

 

「それに、他の頑張ってる受験生もうまくいきますよーに!」

 

 

 

 続いて彼女が口に出した願いも、何とも希らしいものだった。

 なんとなく分かってはいるものの、一応理由を聞いてみる。

 

「俺以外の人も祈ってあげるんだ?妬けちゃうなー」

「大丈夫、ウチのスピリチュアルパワーを一番受けてるのは古雪くんやから!……それにね、ウチ、古雪くんを見て思ったんよ。……凄いなぁ、ウチと同じ歳でこんなに頑張ってる人がいるなんてって」

「そっか……。でも俺だけじゃないよ?」

「分かってる。それに同時にこうも思ったの。こういう人が世の中にはきっと一杯いるんだろうなって。だからこそ、そういう人達はみーんな、幸せになって欲しい」

 

 この子は本当に……。

 

「うん。ありがとな」

「ええんよっ。それじゃ帰ろっか。ありがとね、古雪くん、ウチに付き合ってくれて」

 

 全く、何を言ってるんだろうかコイツは。

 最初から最後までお礼を言いたいのはこっちだってのに。

 

 希は満足した様子で踵を返した。

 でも、俺はまだ帰らない。……帰れない。

 

 

 パンッ

 

 

 合掌。

 そして大きく息を吸った。

 

 音に驚いて希が振り返る。

 

 

 

「希がこれからもずっと、幸せでありますように!!」

 

 

 

 神様がどこにいるのか分からないけど……届けこの声!

 俺は夕焼け空を見上げて人睨みした後、踵を返した。そしてぽかんとこちらを見つめる希に声をかける。

 

「じゃ、帰ろっか」

「……うんっ!」

 

 この笑顔が、いつまでも変わらずありますように。

 

 

 

 

 

 俺は心からそう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 




ついついどうしようもなく感情が昂って書いてしまいました(笑)
この作品でも受験というのは一つの大きなテーマとなっています。
私自身、勉強というものに深く関わり続けてきた身であるので明日のセンター試験にかける受験生の気持ちは良く分かるつもりです。
私は傾斜配点などの関係からさほど気にする必要はなかったものの、真姫同様国立医学部を目指す方々は明日が全て!と言っても過言ではありませんよね?そのプレッシャーは計り知れない位大きいと思います。


皆様がどのタイミングでこの作品を読んでいるのかはわかりませんが、これから試験を控えている方へ。

今まで必死に努力をしてきたみなさん!
絶対に大丈夫です。
よく受験は何があるか分からない、と言いますが、そんなことは無いですよ。
あなた自身はあなたを裏切りません。
私はここから応援してます!

必死に努力して出た結果は何であろうと納得できますから。
ですから楽しんできてくださいね!
あなた達が明日過ごす試験時間はきっと、なにより大切な思い出と力に変わります。


受験が終わった方へ。

お疲れ様です。
あなたがいまある自分に納得出来ている。そんな状況にありますように。


ではでは、これで失礼いたします。
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