Fate/KAODEKA's knight   作:hakusai

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プロローグ2

「どう? アーチャー。ここからなら新都全体を見渡せるでしょう」

 

 私が今いるのは私が言った通り新都全体が見渡せる高さのビルの屋上だ。陽はもう落ちており、新都の夜の人々の営みが太陽の代わりに空を照らさんと輝いている。

 ここには私の他にもう一人、赤い外套に身を包んだ、褐色で白髪の大柄な男性がいる。彼は私が召喚したサーヴァントだ。

 

 サーヴァントとは、人理に名を刻まれた英雄、その影を使い魔とした存在であり、サーヴァントごとに7種のクラスが割り当てられる。剣使い(セイバー)槍兵(ランサー)弓兵(アーチャー)騎馬兵(ライダー)暗殺者(アサシン)魔術師(キャスター)狂戦士(バーサーカー)の7種だ。サーヴァントとして召喚される存在を指定することは難しいが、所縁のある聖遺物などを触媒として呼び出したい英霊を召喚する確率を上げることはできる。

 また、サーヴァントは生前の偉業や逸話を元にした『宝具』をそれぞれいくつか所持している。宝具とは基本強大な魔力を宿した武器や防具の形をしており、宝具の真名を解放すれば、宝具の元となった逸話に違わない軌跡をこの世に再び顕現させることができる。その代わり、宝具の真名を解放することはそのサーヴァントの真名を晒すこととほぼ同義であり、弱点を晒す可能性も存在する。

 そんな強大な存在を魔術師は従えなければならないのだが、時にサーヴァントは魔術師の指示に従わない、あるいはマスターである魔術師に牙を剥く場合すらある。そんな時の安全装置ともなるのが、三画ある令呪という名の聖痕だ。令呪一画につき一度、サーヴァントへの命令権を得る。これは聖杯由来の膨大な魔力により行使されるので、空間転移などの魔法に程近い奇跡すら起こすことも可能だ。もちろん、サーヴァントという強大な存在に強制的にに命令することも能う。

 

 さて、私が召喚したサーヴァントはアーチャー、弓兵だ。本当は最優のクラスと言われるセイバーを召喚したかったけど……そこは仕方ない。問題はこのサーヴァント、私の召喚に不備があったようで記憶が定かでなく、自分の宝具はおろか自分自身の真名すら覚えていないらしい。宝具を使用しない戦闘は可能らしいが、本格的な正面戦闘は避けたい。

 まぁ、そのアーチャー本人は不敵な態度を取るばかりなんだけど。召喚した直後は私のことをマスターと認めないくらいの勢いだった。ので……令呪の一画を使い私に逆らわないように命令してしまった。本来はこのような使い方は非効率なのだが、結果的にアーチャーが非常に協力的になったので万事オッケーだ。態度は変わらなかった。

 

「ああ。というか、初めからここに連れて来ればよかっただろう。わざわざ街を回らずともな」

 

 今日は学校を休んで、アーチャーに新都の案内をした。アーチャーというくらいだから狙撃する機会もあるだろうし、正面戦闘になった際の逃走経路を考えるとしても地理や地形の把握をしてもらいたいと思ってのことだ。が、アーチャーはお気に召していなかったらしい。

 

「何よ。ここからじゃ大まかな通りくらいしかわからないでしょ?」

「……ふむ。どうやら君は大きな思い違いをしているようだ。あるいは軽視されているのか」

 

 このサーヴァントは性格が悪いのが玉に瑕だ。まぁ、玉かはまだ確定してないけど。

 

「どういう意味よ。まさかここから我が家まで見通せるとでも言うつもり?」

「そこまでは言わないが……新都の内ならはっきりと見える。橋の手前のタイルの目くらいなら見えるな」

 

 え。……え? どうやら私は本当に英霊というものを低く見積もっていたらしい。

 

「驚いた。貴方、本当にアーチャーだったのね」

「それは侮辱のつもりか? 全く、口の減らないお嬢様(マスター)だ」

 

 なんとなく認めたくなくて憎まれ口を叩いたけど、コイツ(アーチャー)には効かないらしい。仕方ない。

 

「悪かったわ。英霊というものを正しく理解できてなかったみたい。それじゃあもう少し地形の把握ができたら撤収するわよ」

「承知した」

 

 私の"指示"にはしっかり従うアーチャーだ。難しい顔で街を見下ろしながら移動経路や狙撃地点などを考えているのだろう。申告通り新都中を見渡せるならば考えるのに少し時間がかかるりそうだ。うーん、暇だし私も見習って下でも見るかな。魔力を使えば視力も多少は強化されるし。アーチャーのそれには全く及ばないけど。

 そんなことを思って街を見下ろすと、

 ()()()と目があった。

 

「……え?」

 

 だって、ここはビルの屋上で。普通なら夜にビルを見上げたりしないし、そもそも屋上に何かあるなんて見えないはずで。いや、そうだ。向こうから見えているはずがない。

 それでも、少しだけ、魔術師の自分を見られた気がするのがバツが悪くて。

 

 

「……ん、凛。聞いているのか」

 

 あ、動揺して、アーチャーの呼びかけが全然頭に入ってきていなかったらしい。

 

「あーごめん。ちょっと学校の人に見られた気がして動揺してた。それで何?」

「ふむ、この距離では魔術師でもなければ見えまい。それでだが、地形の把握はあらかた済んだ」

「了解。それじゃあ撤収……」

「それと、新都の教会付近でサーヴァントと思しき二人が交戦している。片方は槍のようなものを持って、もう片方は……これは、傘か?」

 

 突然の出来事に一瞬思考が硬直する。確か、昨日の深夜の時点では私を除いて「まだサーヴァントは5騎しか召喚されていない」とあの兄男子の神父は言っていたはずだ。今は夜になったばかり、私と同様に昨晩召喚したのでなければ、まだサーヴァントは7騎揃っていないはずだ。

 

「どうする()()()()。ここからなら狙撃も可能だが」

 

 アーチャーのサーヴァントとしての提案に対して、一度深呼吸をする。ここで早々に脱落者を出す。それはもちろんマスターとしては正しい選択なのだろう。

 だが

 

「いいえ。手は出さないで。おそらくまだサーヴァントは7騎揃っていない。つまり、()()()()()()()()()()()()()()わ。私はこの冬木の地の管理者、遠坂の血を引くもの。であれば、まだ始まってもいない戦いをすることはしない。役者が全員揃ってから、堂々とこの戦いを勝ち残ってやるのよ」

 

 これは決意のようなものだ。魔術師としての、遠坂家の主人としての誇り。『常に余裕を持って優雅たれ』という家訓を重んじての決定だ。異など唱えさせない。

 

「……そうか。本来ならサーヴァントとしてマスターを諌めるべきなのであろうが、私も騎士としてその考えは好ましく思う。マスターの指示に従おう」

「よかった。反対はされなくとも反発はされてもおかしくないと思っていたのよ。アーチャーが騎士道精神に溢れる人でよかったわ。もしかして、生前は騎士でもやっていたんじゃないの?」

「どうかな。未だに靄がかかったように思い出せないままだ。ああそれと、どうやらもう戦闘は終わってしまったようだ。ほんの小手調べだったのだろうな。すぐにどちらも見失った」

「わかったわ。アーチャーの目でも見失うなんて、相当敏捷能力が高いか隠密に長けているんでしょうね。戦っていた二人に特徴はあった?」

 

 確かアーチャーは片方が槍を持っていると言っていたはずだ。槍使いなだけならばランサーとは限らない。ライダー、あるいはバーサーカーも可能性としてはある。

 

「そうだな。どちらもマスターらしき人間は確認できなかった。片方は全身青色の装備を纏った青髪の青年だった。獲物は槍で、血のような赤色をしていたな。もう片方なんだが、白いフードをかぶっていて髪の色などは分からなかった。背丈は槍使いの方とそう変わらなかった。……それに、獲物は私の見間違いでなければ傘だったな」

「傘って、あの雨の日にさす?」

「ああ。その傘だ」

 

 頭が痛い。見間違いであってほしいとも思うけれど、槍使いの獲物まで見えたアーチャーが見間違うとも思い難い。傘で戦うなんて今日日小学生までしか見ない。

 

「……アーチャーが見たなら見間違いじゃないでしょうね。まぁいいわ。傘で戦っているなら傘で戦う逸話を持った英霊の可能性もある。もしそうなら真名も判明しやすいし。アーチャー、それぞれが持っていた武器が宝具だったかわかる?」

 

 宝具は真名解放せずとも強大な魔力が込められているから、ただの武器とは根本から異なるものだ。

 

「残念だが、この距離では流石にそこまでは分からなかった」

「それは仕方ないわ。とりあえず今日は一旦家に戻りましょう」

「承知した」

 

 不可思議な武器を持つサーヴァントに思いを巡らせながら、私たちは帰路に着いた。そのサーヴァントを再び目の当たりにするのは、案外すぐのことだった。


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