己に流れる血の真相を知らぬまま生きる者
それはそう珍しいことではないが、時にそれは皮肉な運命を孕む
シベリア、バイカル基地。
ここはジヴァイスの宇宙開発計画地上拠点である。
ここには数百機ものMSが集まっていて、ジヴァイス屈指の戦略拠点でもある。
MS部隊はOZのMSを主とし、ネオ・ジオンとヴェイガンとの混成部隊で構成されている。
数は勿論、組織としての結束力も強固なものである。
この結束力を実現しているのは、この基地を取りまとめる司令塔、トレーズ・クシュリナーダである。
しかし実際は、バイカル基地は3人の人間によって回されている。
圧倒的なカリスマ性で兵士たちをまとめ上げるトレーズ・クシュリナーダ。
適確な判断力と目標達成に対する強い意志を持つゼハート・ガレット。
前線での指揮能力と政治手腕に秀でているシャア・アズナブル。
この3人である。
宇宙開発拠点とは思えない戦力に、他の勢力からマークされている。
そんな圧倒的な戦力を有する基地に立ち向かう者がいた。
「敵哨戒部隊を突破、これより突入を開始する。」
その機体はマントを羽織りフードを深く被っていて、その全貌は確認できない。
その機体、
「敵迎撃部隊を確認。数20…内訳
着地時の安定性が高いダナジンが、地上からダナジンキャノンでスノーホワイトを狙う。
汎用性の高いギラ・ドーガが中距離援護し、高機動のリーオーⅣが集団で斬り込む。
リーオーⅣの主武装であるドーパーガンは高火力で、油断出来ない相手である。
「目標時間まであと600秒…」
スノーホワイトはバスターライフルの最後の一発をリーオーⅣの軍団に撃ち込み後方へ投げ捨てると、ビームサーベルを抜いた。
回避し損ねたリーオーⅣが2機爆散し、ギラ・ドーガ、ダナジンもそれぞれ1機撃破した。
リーオーⅣの2機が同時に2本のサーベルで左右に横薙ぎするが、スノーホワイトは回転しながら飛び上がり回避した。
その姿はまるで氷上を舞うバレリーナのようで、見惚れてしまうほどの美しさだった。
しかしパイロットはその操縦に反して、冷酷な目線でリーオーⅣに狙いをつけて、きりもみしながら一気に急降下した。
猛スピードでスノーホワイトが通過すると、リーオーⅣ3機の腕が切断され、切断部が爆発した。
「7機撃破。」
斬り抜け後、サーベルを構え直したスノーホワイトの周囲にギラ・ドーガが包囲網を展開していた。
ダナジンも飛行形態に変形して、スノーホワイトの頭上をパイロン飛行している。
スノーホワイトがマントの下から缶のようなものを3つ取り出したと同時に、ダナジンとリーオーⅣが潰しに掛かってきた。
スノーホワイトが缶をダナジンへ向けて投げるが、ギラ・ドーガのビームマシンガンが撃ち落とす。
しかし缶は、着弾と同時に大爆発を起こした。
上空のダナジンは一発で全滅した。
スノーホワイトが持っていた缶は、バスターライフルの予備カートリッジだったのだ。
直線的なビームとして放出されるエネルギーを全方位的な爆発、グレネードとして応用したのだ。
驚異的な爆発だったが、投擲の隙にギラ・ドーガが放ったシュツルム・ファウスト数発のうちの1発がかわしきれずに背中に直撃し体制が崩れた。
「バインダーに被弾、左ブースターユニット推力低下…ッ」
マントの下から黒煙が上がり、高度がどんどん下がって行く。
「戦闘続行困難と判断。撤退する。」
スノーホワイトはバスターライフルを拾い、地面を蹴って、低空飛行で撤退して行った。
何発か追撃があったが、なんとか左右に動きながら回避した。
その数日後の夜。
ミデンとレイはスカンジナビア半島付近に来ていた。
目的はMSのパーツ集めである。
スタークグランシャリオとガンキャノンの改修がまだ不完全なため、Gサイフォスを借りてここに来ている。
戦闘を前提としていないので、コックピットにサイドシートを設置して2人乗りをしている。
「はぁ、都合良く目的のパーツが落ちてるとは思えないんだけどね。」
ミデンは溜息混じりに呟いた。
「最近この辺りで戦闘があったのは確かだ。ジンクスの出撃も確認できたんだろ?」
「まぁそうだけど……ん? 何あれ?」
海岸線を飛んでいると、岩場に不自然な構造が見えた。
うっかりしていると見落とすような小さなものではあるが、人工物だと思われる。
「行ってみよう。」
「そうね。」
Gサイフォスは少し離れた崖の下に着地した。
「ミデンは機体を見ててくれ。僕が様子を見てくる。」
レイはフード付きのコートを羽織って外にでた。
冷たい潮風が頬を掠める。
フードを深くかぶり、先ほどのポイントへ向かった。
注意深く進むと、多くの罠が仕掛けられていることに気付く。
「………ッ!?」
突然、背後から殺意を感じ取り、銃に手をかけて振り向いた。
すると、風を切る音と共にフードが真っ二つに斬り裂かれた。
晴れた視界には1人の少年がナイフを握って立っていた。
「……ヒイロ・ユイ!?」
「俺を知っているのか。」
ヒイロはナイフを構えながら、レイの顔を覗き込む。
まだ頭に軽く掛かっているフードを取ると、ヒイロの目が若干変わった。
「その目…アディン……!?」
「!?」
予想外れの言葉にレイも驚く。
レイはアディンという名に聞き覚えがあった。
いや、聞き覚えどころのものではない、深い関わりがある。
「何故……その名を…!? その男を知っているのか!?」
「俺に生きる術を教えた男だ。お前もあの男の知り合いか。」
レイとヒイロは何処か懐かしさを感じる瞳を見つめあった。
ヒイロはナイフを仕舞い、レイをカムフラージュしたテントに案内した。
「バイカルの偵察部隊がこの辺りを通る。お前の仲間にも伝えておけ。」
ヒイロはノートパソコンに表示される大量の数値を読み取り、レイに伝えた。
レイはすぐさま暗号通信でミデンに伝え、偵察部隊が通り過ぎるまでここに身を潜めることにした。
20分ほど経っただろうか、2人は無言でコーヒーを飲みながらじっと座っていた。
時折聞こえてくるMSのバーニア音と、岩と波がぶつかる音が、静寂を強調する。
不意にレイが口を開いた。
「僕の父は、まだ僕が産まれて間もない頃に死んだ。後になってデータで親の写真を見ただけで、思い出なんて無い。」
「それがアディンか。」
「あぁ、聞いた話では、仲間のテロリストに撃たれたらしい。」
「そうだったのか……」
「ヒイロさんは父を知っているようだが、どういった関係だったんだ?」
「………俺がまだ、物心ついて間もないころだ。俺は宇宙要塞バルジの完成祝賀会に参加していた。その最中にバルジは襲撃され、まだ幼かった俺は炎の中に取り残された。そこから俺を救ったのがアイツだった。それ以降、俺はアイツの子供の
ヒイロはノートパソコンの画面から目を放さずに淡々と語った。
「アイツは人間として立派だった。そこらのテロリストとは違う。俺にとって、唯一、親と言ってよい存在だったのかもしれない……」
「…じゃあ僕たちは兄弟だな。」
レイは笑いながら言った。
ヒイロも、普段はあまり動かない表情を少し変えたが、返事は返さなかった。
そんな会話をした直後、何かが爆発する音と共に周囲が明るくなった。
爆音は2回、3回と何度も鳴り、その度に地響きが伝わってきた。
「何だ!?」
レイとヒイロが外を覗くと、バイカル基地の偵察部隊のMSが、残骸となって散らばっていた。
外ではまだ戦闘が繰り広げられている。
偵察部隊側はリーオーⅣが1機、ギラ・ドーガが2機、バクトが1機である。
対するのは、たった1機のガンダム。
燃えるように赤く力強い翼と、すらっとしたボディラインを持つ、天使を彷彿とさせる機体は、ビームライフルとビーム・トンファーで敵を圧倒している。
「ここはやり過ごすのが正解か…」
「念のためスノーホワイトをスタンバイさせておく。お前も、戦闘準備しておけ。」
ヒイロはそう言って床を蹴り、地下へ飛び込んだ。
どうも星々です!
さぁ登場しましたヒイロ・ユイ!
設定としてはフローズン・ティアドロップのヒイロにしています
だいぶマニアックですが、お付き合い下さいw