それに抗う力
たとえそれが小さな力だとしても、それは諦めずに戦う
俺を覚えているだろうか。
フュゼが設立されてまだ間もない頃、本拠地オーストラリアの基地に配属されたMSパイロット、ラグ・ランクゥだ。
愛機はアドヴァンスドジンクス。
アロウズの赤い彗星とか呼ばれてたが、別に本望ではない。
と言うか、他に赤い彗星って呼ばれてるヤツがいるらしいじゃないか。
俺はコキュートスの一件の後、あの基地に戻った。
今はカルグーリー基地という名前が付いたこの基地は、当初はMS工場として建設されていたが、あまりにも多い戦力にその需要の低さが露見し、要塞として生まれ変わった。
元々強固な要塞としての素養はあったため、本拠地もここに移された。
本拠地ということもあって、防御網やら何やらが張られているため、俺は世界中を飛び回って他の支援をするのがほとんどだ。
そして今回は、かなり重要な任務を与えられた。
「速度同調完了しました。いつでも行けます。」
「おう、じゃあ行くぜラグ。」
「はいよ、手筈通りにな。」
俺はAEU時代からの親友、パトリック・コーラサワーと共に、MS輸送艦からパラシュートを背負って飛び降りた。
下には目的の輸送艦がある。
今回の作戦は、OZの頭、トレーズ・クシュリナーダの暗殺。
また大胆かつ無茶な作戦を思いついたもんだ。
カティ・マネキン大佐にはいつも驚かされる。
「落下を開始した。艦はMSの準備をして待機。」
俺とパトリックはステルスマントを羽織ってトレーズが乗っていると思われる輸送艦に着艦した。
パラシュートはボタン一つでたたまれ、すぐに潜入に移れた。
まず、船外作業用のハッチをこじ開け、そこから潜入した。
廊下に身を潜めていると、兵士がちょうど2人歩いてきた。
後ろから同時に襲いかかって服を剥ぎ取る。
これで変装は完璧。
で、この2人はステルスマントで包んで外に投げ捨てる。
小さめのパラシュートを付けておいたから死にはしないだろう。
「ご苦労。」
「…!? お、お疲れ様ですっ。」
っぶねぇ…
急に話しかけられてびっくりしてしまった。
あの様子だとバレてなさそうだな。
てか何だあの仮面。
顔に傷でもあるのか?
後ろについていた3人も含め、雰囲気から察するにかなり上等な階級だろう。
俺たちは予定していた部屋の前にたどり着いた。
この場所に深い意味はないが、ここから二手に分かれる。
パトリックはあちこちに爆弾を仕掛けて、俺は混乱に乗じてトレーズ・クシュリナーダ暗殺に向かう。
艦をそのまま墜とすという手もあるが、そんなに時間はない。
俺は艦内を巡回するルートを取りながらトレーズ・クシュリナーダの元へ向かった。
パトリックもちょうど爆弾の設置が終わった頃だろう。
そう思った直後に艦内で爆発音が響いた。
予定通りだ。
「何事ですか?」
近くを通った乗組員に状況を聞くフリをする。
「艦内のあちこちで爆発が起きてる! 君も消火活動……否、トレーズ閣下への報告を頼む!」
「了解です!」
なんて都合のいい指示なんだ。
まぁコイツ以外で一番トレーズ・クシュリナーダがいる部屋に近い乗組員が俺だからな。
そして俺は堂々とトレーズのいる部屋に入った。
そこにはさっき話しかけられた仮面と、その後ろについていた3人、さらにメガネをかけた女がいた。
様子をうかがうために普通に報告をしようとした。
が、トレーズの第一声に、俺は驚いた。
「待っていたよ。」
待っていただと!?
まさか最初からこうなる事が分かっててこの空域を通ったのか。
作戦が漏れた…スパイか何かか?
否、違う。
コイツの目は本当に何もかも見通している目だ。
ならば、俺もいっそ堂々としてやろうじゃないか。
「なるほど…流石は若くして総帥の座についた男というわけか。」
「君も、アロウズの赤い彗星と呼ばれるだけの事もあって、素晴らしい実力だ。」
「俺を知っているのか…?」
「あぁ、だからここに通したのだよ。君の親友も含めてな。もし、ただの侵入者なら、このフリューゲル隊が既に片付けている。」
そうか…あの時バレてなさそうだと思っていたのは間違いだったのか。
既にバレていて、その上で見逃したのか。
だったら…と言うか最初から、気になることがある。
「……何が目的だ。」
トレーズはマントを払って答えた。
その姿は悠々としていて、勇ましく思えた。
「君は知っておくべきだ。この世界の影を。」
「影……?」
「そう、世界の扉…時空を我が物としようと企む組織の存在。彼らは各勢力の上層に位置する一部の人間で構成されている。この意味が分かるな? 彼らはこの戦争を操作し、この世界そのものを操作しているのだよ。」
「世界…そのもの…!?」
「組織の名は、リヴェラシヲン…鍵と扉を探し求める者…」
は!?
何言ってるか全然わからない。
扉? 鍵? 何のことだよ。
「ちょ、ちょっと待て。何故それを俺に?」
トレーズはゆっくりと歩み寄って、右手を差し伸べた。
「私に付いてきてはくれないか?」
「え…!? 俺は敵軍だぞ! 気でも狂ってんのか!?」
「敵軍だからこそだ。リヴェラシヲンは強大だ。だから多方面の勢力から攻める必要がある。そして君は、フュゼの中でも目立った腕を持っている。どうしても君の力が必要なんだ。」
「アンタは……何をしようとしてるんだよ…」
「リヴェラシヲンの殲滅…もしくは鎮圧でも構わない。ただ、あの扉だけは開かせてはならない。それが私たちの目的だ。」
ここで俺は一つ疑問に思ったことを聞いてみた。
「アンタは何故そんな裏の事を知っている…?」
「私もリヴェラシヲンだからだよ。」
そうか…トレーズはリヴェラシヲンの一員でありながら、その反逆者でもある。
そして、リヴェラシヲンの目的を阻止するための準備をしていると…
なるほど。
「分かった…否、承知しました。俺も着いて行きましょう。」
俺はトレーズと握手をし、忠誠を誓った。
俺自身に、敵軍の人間に着いて行く理由は無いが、この人には着いて行ってもいいと思った。
全てがデタラメで、俺にスパイをやらせるとかそういう可能性も考えたが、トレーズが言っている事が真実でも虚偽でも、この世界が仕組まれているというのは薄々勘付いていた。
「アロウズのカティ・マネキン大佐も、あなたの仲間なのですか?」
「あぁ、彼女は優秀な戦術予報士だ。世界中の動きはリヴェラシヲンは支配しているとはいえ、想定外のことも起こりうる。君も知っているであろうex-sa隊がその一つだ。それを凌ぐためにも、必要な人材だ。」
「ということは、カティ大佐もリヴェラシヲンに?」
「否、彼女はあくまで我々反逆者の一員だよ。」
なるほどね。
この後も色々と聞いたが、新地球統合同盟にも手を出しているという。
これで3大勢力全てに仲間を持っているということになる。
「さぁ、そろそろ時間が無いのではないか?」
そう言った直後、艦から通信が入った。
『難航しているようですが、MSを落としますか?』
勿論、暗号を使っているからハッキリとした内容はフュゼの人間にしか分からない。
「さ、作戦は失敗した。これより脱出を試みる。パトリックにもそう伝えといてくれ。」
とりあえずこう言っておく。
通信を切ると、トレーズが腕時計のようなものを差し出した。
「それは私たちの間でのみ通信を交わせる通信機だ。お前のDNA情報を登録すれば、装着時以外はただの腕時計としてしか機能しない。」
「……これで次の指示を待てばいいのですか?」
「あぁ、そう遠くない話かもしれんから、いつでも動けるようにしておいてほしい。」
「了解しました。」
『おいラグ! 何やってんだ、さっさと脱出しろ‼︎』
パトリックから通信が入り、一応敬礼をして部屋を出ることにした。
「では。」
俺は逃げてきた感を出すために、窓をぶっ壊して外へ飛び出た。
パラシュートが開き、ゆっくりと海上へ着水した。
「お前が作戦失敗たぁ、珍しいじゃんか。」
「凄いヤツだ…トレーズ・クシュリナーダは……」
俺とパトリックは20分後に回収された。
どうも星々です
だいぶ前に登場したオリキャラ、ラグ・ランクゥ目線の話でした
相変わらずハイスピードな物語進行ではありますが、今後ともよろしくですw