Fate、召喚ときたら普通は妄想するよネ!
俺は転生者である。
前世はなんてことない一般人で、強いて他者と違う所を挙げるならば、FateオタクでFGO微課金勢ということくらいか。
とにかく、転生した当初俺は相当にパニクった。それはそうだ。誰だっていつの間にか死んでいたと理解してしまえば、やり残したことや後悔などが湧き上がってくるだろう。
俺も例に漏れずに嘆き悲しんだ。育ててくれた両親への感謝もまだ伝えられていないし、やりたいことも沢山あった。
元の世界ではやはり俺は死んでいることになっているのだろうか。そう考え、親不孝をしたなと最初の一週間は後悔していた。
……ホントだよ?ホントに落ち込んだからね?
でも、それくらいが経ってから、なんというか…飽きたのだ。この世界は現代ほど文明が発達しておらず、俺がいるような田舎では本当に本か土いじりくらいしかやることがない。
当然、Fateなんて以ての外。
俺自身アウトドアも好きだったけど、この世界にはどうにもモンスターがいるらしく、戦う力を持たない一般人がそんなに動き回るのは命取りだ。
現代日本は本当に恵まれていたのだなぁ…としみじみと郷愁の念を駆り立て鼻唄を歌っていると、白髪の兎を思わせる風体の少年がこちらを見つめていた。
「あの…だいじょうぶですか? 今までずっと泣いてたから、心配になって」
「うん、ありがとう。だいぶ楽になったよ」
この少年は俺が引き取ってもらった村の住民で、田舎のこの村にしては若い子だ。今世での年が近いからと、何かと関わっているんだけど…。冷静になって聞くと、なんだかこの少年の声に聞き覚えがある気がする。そう、例えば某黒の剣士の様な…。
「って、あぁ――――っ!」
「えぇっ! な、なんですか!?」
雪のように真っ白い髪、くりくりとした緋色の目。そしてこの声とくれば導き出せるのは一人しかいない。
―――ベル・クラネル。
ってことは…。この世界、『ダンまち』だああぁぁぁ―――っ!??
―――…
そしてやってきました迷宮都市オラリオ!
あれから数日、退屈を持て余していた俺は冒険者になるためにベルとともに村を出た。
特に何かあるというわけでは無かったが、冒険者になれば何かあるかもしれないという浅い考えからだった。
因みに俺の見た目は回す方のノッブボイスである藤丸立香そのもの。こっちでの名前はフジマル・立香となる。黒い髪と青い目は丁度ベルと対になっている。
ファミリア探しはベルに一任していたけど、やっぱりベル・クラネルがヘスティア・ファミリアに入るのは運命らしい。
大歓迎された俺たちは早速恩恵を刻むことになった。俺は最初は原作主人公の方がいいだろうと譲り、その作業を隣で見つめている。
何でたった一滴の血であそこまで書けるのかは分からないけど、そのへんも含めての神の力なのだろう。ベルの能力値はオール0でスキルも魔法もなし。そのことに少し落ち込んでいたがそれが普通だと言われると元気を取り戻した。
ヘスティアの恩恵は杯に乗った燃え盛る炎。これに絆15に出来なかったサーヴァントを思い出して一人悶えたのは置いておこう。
「はい。これが君のステイタスだよ。すごいじゃないか!スキルと魔法が発現してるよ。もとから何か訓練をしてたのかい?」
そう言って、手渡された羊皮紙を見て目をかっと大きく見開いた。
フジマル・立香
Lv:1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【召喚】
・召喚魔法
・Fateの召喚
・融通は効く。
・詠唱破棄可能。効果は減衰する。
・聖晶石を三つ代価として用いることで召喚対象を変更する。
【素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ】
【
【セット】
【告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ】
【誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者】
【汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ】
《スキル》
【
・ログインボーナスの授与
・聖晶石の保持
・資金と聖晶石の変換。上限は存在する
【令呪】
・霊的対象との契約権
・契約対象への命令実行権
・一日に一画の回復
「これは……!?」
「うわぁ!凄いよリツカ!魔法に、スキルも二つある!」
「超長文詠唱魔法にスキル二つ、これは…すごいね。召喚術と
二人はすごいすごいと持て囃すけど、俺はこれを見て平静を保っていられなかった。
「リツカ君?」
「あ、うん。ありがとうございました」
「いやあ、分かるよ?すぐに試したいんだろう?でもこれだけ長い詠唱の魔法となれば街中で試すわけにはいかないからね。ダンジョンに行ったときにしてくれよ?」
ヘスティアの忠告も心臓の早鐘には敵わない。俺の心は歓喜に打ち震えていた。この見た目で、この魔法とスキル!これはもうあれしかないだろう!
今すぐにでも試したい。体が疼いて生唾を飲み込むが、何とか理性で押し留める。もしここで使用してお叱りでも食らったらこの魔法を禁止されてしまうかもしれない。
一刻も早くと逸る気持ちと共にベルと一緒にダンジョンに駆け込んで、ギルド職員に止められたのは迂闊と言わざるを得なかった。
そして、ダンジョン。ギルドからの支給品を受け取ってすぐにこの迷宮にやってきた。早速詠唱をしようと右手を突き出して左手を軸に添える。
「あれ、まだモンスターはいないよ?」
「いやいや、目の前で詠唱する時間はないと思うよ。それに普通の魔法ならともかくこれは召喚なんだから、敵と会う前でいいんだよ。多分」
そういうものかー。とベルが納得した辺りでいよいよ俺は魔力を巡らせる。初心者魔法使いにありがちだというゆっくりとした詠唱やメモ書きなんて必要ない。自慢じゃないけど詠唱は完璧に暗記しているのだ。
もう一度、大きくつばを呑み込んで言霊を紡ぐ。
「【素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ】
【
魔力を乗せて言葉を発し、やがて足元から青い見慣れた魔法陣が輝き始める。吹き荒れる魔力の奔流にベル同様に顔を輝かせる。
「【セット】
【告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ】
【誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者】」
間違いなく、気分は最高潮に達している。そして、この溢れる万感の思いを込めて最後の一節を口走る。
「――【汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ】―――!」
渾身の達成感。魔法陣から溢れる光は一層増し視界を覆うほどに眩くなる。そして――。
『――問おう。貴方が私のマスターか』
目まぐるしく事態は急変し、青い槍使いの男と少女は激しい剣戟を繰り広げ…。
「えぇ…?」
心底から、本当に心底から漏れ出たような吐息を残して、俺は両膝とともに崩れ落ちたのだった。
だって!だって普通思うじゃん!この見た目で!あの魔法!しかもFateの召喚とか紛らわしい説明つきだったじゃん!
―――映像を召喚するなんて誰が思うかあぁぁぁ―――ッ!??
◆◆◆
あれから消し方も分からずにUBWの鑑賞タイムに浸っていると、3話目が終了した辺りで俺の意識は千々に散らばり、ブラックアウトしたかと思えば、いつの間にか拠点のベッドで横になっていた。
どうやらぶっ続けの魔法行使で
現時点俺の魔力では精々が2時間が限界らしいけど、使っていけばアビリティも増えていくだろうから追々に期待する。
召喚は思っていたものとは違ったけど、聖晶石召喚という希望がある。あのときはこの魔法のインパクトが強すぎてよく見ていなかったが、聖晶石を使うことでまた効果が変わるらしい。
そこで、スキルである【
結局、俺が期待していたものだとは言えなかったが、収穫がなかった訳じゃない。
「リツカ、あれの続きってあるの?」
「ああうん。まだまだあるけど見る?」
「見る!」
この通り、ベルが嵌った。この世界の作品といえば総じて小説か絵本に限っており、ゲームやアニメはおろか、漫画も存在しない。その中での
内容に関しては俺が考えた話だとごり押ししたけど、これならもう無理だと思っていたFate作品についての話も出来るし……いや、もういっそのこと、商売にしたらどうだろう。
この世界の神々は常に娯楽に飢えているし、現代ほど競合相手がいないから……。十分に稼げるかもしれない。
「……ということでどうでしょうヘスティア様」
「うん、ボクはその…アニメ?というのを観ていないからわからないけど、聞いた限りじゃとても面白そうじゃないか。それに君がやりたいことならボクも協力するぜ!」
「はい! 僕も賛成です! 絶対人気になりますよ!」
どうやら二人共に乗り気の様だ。そう、ここまではいい。だけどそこから先は現実的な問題がたちはばかる。
「映すのは君の魔法でいいとして、場所はどこにするつもりだい? 色んな人に見てもらいたいなら目につくところがいいと思うけど、人の往来があるところだと邪魔になるだろう?」
「そこなんですけど、バベルに映すのは大丈夫ですかね? 色んな場所からたくさんの人も見られるので注目度合いはすごいと思いますけど…」
予め考えていた案を口に出すと、一瞬納得したように顔を輝かせるが、同時にうーんと頭を捻る。
「確かにあそこならみんなが見れるだろうけど、一応ギルドが管理してる場所だからね。勝手にやるのは勿論駄目だし、使用料とか以外にも他のファミリアが営業妨害だーって訴えてくるかも…」
そう、あの摩天楼施設はギルドの所有物の一つであり、同時にその内部には複数の商業系ファミリアがテナントを持っている。大手鍛冶ファミリアの【ヘファイストス・ファミリア】なんかがそのいい例だろう。当然、店先で派手で目を引くようなことをしてしまえば客が流れていってしまうので溜まったものでは無いはずだ。
「はい、ですので流す映像にはそのファミリアの商品を宣伝するコマーシャルを挟みます。スポンサーってやつですね」
「ははあ、それなら大丈夫なのかな…? それで、見るだけだと商売にはならないけどそこも考えてあるのかな?」
「もういっそのこと誰でも見れるようにして、グッズや広告料をメインの収入にすればいいです。グッズが広まるなら、それに応じて増やしていけばいいし人が多いようなら優先権とか見逃したものを有料で売れば多分大丈夫でしょう。本当に見るだけならタダですので、不満は出ません」
「おお、それはいい! それじゃ、交渉とかも何か策があるのかい?」
「………頑張ります!」
「ああ、うん。ないんだ…」
流石に、そればっかりは魔法のようにはいかない。いかなる時だって最終的には人が行わなければいけないのが商業なのだから。
「ということで、俺は明日から交渉に行ってくるのでそれまでの資金繰りを頼もうかなー…なんて」
情けないことだが、資金に関しては本当にないのでベル頼りになってしまう。俺も足しになれるように頑張るけど、メインはベルだ。
「はい! 頑張ります!」
「ボクもバイトで少しは力になるよ」
「本当にありがとうございます」
何だ彼ら聖人か?そう思うほどにあっさりと引き受けてくれた。明日、何としても許可をもぎ取ってやろう。
「ふふふ、ここからだ…!この世界のFateを始めるぞ…!」
そう、月夜に燃える誓いを立てて、今日の収入が0だったことに気づいてしょんぼりと寝床に収まるのだった。