Fateを布教したい一般転生者藤丸立香の話   作:食卓の英雄

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遅れた…だと…?まだアニメ要素ないとかいうタイトル詐欺具合が酷い


きっとこれもFateになる

 

 

「…というわけで、こちら幽霊のアーディです」

「初めまして、幽霊のアーディでーす!」

「「何で???」」

 

 時は少し前まで遡る

 

 

―――…

 

 

「ねえっ…、君っ、私が見えるの……!?」

「……へ?」

 

 突如掴みかかってきた少女は、必死さを隠さない様相で問いかける。正直に言って痛いし怖かったけど、それ以上にはぐらかしてはいけないと思った。

 俺より透明度の高い青目を見つめ返し、しっかり見えてますと返す。

 

「うっ…ひぐっ…や、やっとっ…、やっと…!」

「う、うわわ!?」

 

 突然崩れ落ち、涙を流す彼女に、俺は気の利いた言葉を投げかけることは出来なかった。これが本物の「藤丸立香」なら、きっとそれも上手く答えてあげられるのだろうか。

 ぼろぼろと大粒の涙を零す彼女が落ち着くのを待ち、その話を聞き出す。何で泣いたのかとか、最初の質問の意味とかを。

 

「…ごめんね。久しぶりにまともに人と話せたから、嬉しくて」

「大丈夫。ちょっと驚いたけど、気にしてない。えーと、それで、あなたは…?」

 

 俺が問うと、涙を拭った少女は己の名を名乗る。

 

「私はアーディ・ヴァルマ。【ガネーシャ・ファミリア】所属の…ううん、元所属のLv.3冒険者。…聞いたこと、無い?」

「………ごめんなさい!」

 

 【ガネーシャ・ファミリア】は知ってるけど、アーディという名前には聞き覚えがない。ので素直に謝る。すると彼女は、アーディは目を丸くして否定する。

 

「ううん大丈夫。Lv.3だし、もうだいぶ経っちゃってるからね」

「だいぶ経っちゃってる…?」

 

 どういうことだろう。気になって返せば、ぽつりと言葉をこぼし始めた。

 

「私ね、死んでるの」

「ふんふん」

「………」

 

 睨まれた。

 

「冗談とかじゃないよ。本当に死んでるんだよ」

「ふんふん」

「……やっぱり信じられない?」

「いや、どっちかっていうと驚いてる」

 

 結構前の記憶だけど、この世界では死んだ魂は天界に昇って転生するって話だったけど……神ですら予測できない異常事態が起こることもあるんだから、これもその一つなのかもしれない。

 

 ふらっと、彼女は歩きだして瓦礫に手を添える。俺の目の前で、アーディの手が瓦礫を透過する。見えるのは、アーディの腕が瓦礫を貫通して動く様。手を引き抜いても、瓦礫には穴が空いているどころか欠片も動きはしない。

 

「…これで信じてくれた?」

「最初から信じてたけど…?」

 

 更に深まる沈黙。またも、ぽつりとアーディが喋る。

 

「大抗争って分かる?」

「…わからないです」

「……そのくらい時間が経ってるのかな。まあいいや、その時に私は闇派閥(イヴィルス)との戦いで死んじゃったんだ。小さな子供を唆して自爆を…ううん、こんなの聞かせるものじゃないね。ごめん」

 

 告げるアーディはたはは…と自嘲するような笑みを浮かべ、続ける。

 

「次に目が覚めた時には、ここはもう崩れてて、その時の仲間がいたから声をかけたんだ。きっと、治療を受けたから無事なんだって思ってたけど、違った。声をかけても、目の前で手を振っても、誰も、何も反応しない。あそこの花、見えるでしょ? 私の名前を呼びながら花を供えるから、冗談にしてもたちが悪いって、背中を叩こうとしたんだけど……!」

 

 辛そうに、胸のうちから溢れる弱音に言葉が詰まる。

 

「うん、その時にね。やっと死んじゃったんだって気づいたんだ。死後は神様が魂を管理してくれるって聞いてたけど、それなら何で私はここに居るんだろうとか考えながらさ」

「…それで」

「幽霊なんだって分かって、せめて街の様子だけでも見たかった。私が守りたかった平和は、正義は、みんなはどうなったのか気になって、ここから出ようとした」

 

 少し歩き、この工場の敷地を超えるか超えないかの所で立ち止まり、パントマイムのように空気に手を押し当てる。

 

「――私、ここから出れないみたいなんだ」

「っ…!」

 

 悲しげな瞳で無理くりに笑った彼女。何か言葉を絞り出そうと、脳を回転させる間も言葉は紡がれる。

 

「まだ私の死体がここの地下にあるからなのかはわからないけど、目が覚めてからはずっとここにいた。廃墟になったこんな場所には全然人は来ないし、たまに通りがかる人はいても、誰も私を見れないし、触れない。ずっと、ずっとそうしてる間に……」  

「…俺が来た?」

「そう。本当に嬉しかったんだよ? だって、もうどれくらいたったかわからないけど、勝手に期待して悲しんで。生きてもないから死ぬこともない。そうやって全部諦めた後に君が反応するんだから」

 

 それは、どれほど辛かったことだろう。かつての知己にも認識されず、この廃墟に一人孤独に、何もせず過ごすことは相当に心を蝕んだだろう。

 

「アーディさん…」

「アーディでいいよ。多分、君のほうが歳上でしょ。私は15歳で死んでるから」

 

 瞳が、揺れる。15歳。分かってはいたけど、若すぎる。俺のかつての故郷では、まだ親の庇護下で平和に暮らしているくらいの歳だ。

 

「…そういえば、名前聞いてなかったね」

「…俺は立香。フジマル・立香」

「そっか。リツカって言うんだ。じゃあ、そろそろお別れの時間かな。もう暗いし、あの感じだと急いでたんでしょ? 話を聞いてくれてありがとう。……良かったら、偶にでいいからこうして話をして欲しいな」

「嫌だ」

 

 即答。湿っぽい雰囲気になりかけていた空気をぶち壊す。流石に予想外だったのか、目を大きく見開くアーディ。

 

「えぇ…そこ断る?」

 

 隠しきれないショックを受け、全体で悲しみを表現する。

 

「うん。俺は来ないよ。君が、来るんだ」

 

 我ながら、寒いことを行っているのは分かる。多分前世ならなろう主人公とか、イキリ鯖太郎とか言われるだろう。というか、多分この世界の神も似たような価値観をしてるから冷やかしてくるかもしれない。

 でも、こんなセリフでも何とか意思を伝えたくて。

 

「だから、無理なんだって。私はここから出られないの!触れるのだってリツカが初めてだし…」

 

 そう言って憚らないアーディを無視し、俺は一か八かである呪文を唱える。

 

「―――告げる!汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら―――」

 

 酷い受け売りだ。俺が考えた言葉でもなければ、魔法でもない詠唱。はたまた、本当にそんなことが可能なのかと俺自身すら疑ってる。

 

「―――我に従え! ならばこの命運、汝が剣に預けよう……!」

 

 右手の令呪を前へ掲げる。突き出した掌の赤い紋様は、微かな光を内包する。何かが繋がった。不思議とスイッチが切り替わった様な感覚に支配される。

 あとは、相手の同意だけだ。この奔流に、アーディは小首を傾げる。それはそうだ。サーヴァントの契約なんて、知ってるはずもない。

 

「これは…?」

 

 青い魔力の粒子がまき散らされ、末端の感覚が鋭敏化する。神の恩恵を貰った背中から、指の一本一本にまで電流のように何かが満たされていく。

 未だ一歩を踏み出せない少女に、最後のひと押しを呼び掛ける。

 

「アーディ。―――――手を!」

 

 恐る恐る、手を差し出すアーディの手を待つ。幾度かの逡巡。その目の混濁は未だ覚めず。それでも、迷いを振り切るように、勢いよく手を握り返した。

 

「ッ……!」

 

 繋がった。体中を巡っていた魔力の束が、見えない経路を通じてアーディへと収束する。

 令呪は痛いほどに熱く輝く。鋭い痛みが全身を駆け巡っても、その手は離さない。どころか、より深く握り込み思いっきりこちらに手繰り寄せる。

 急に引かれた体はその力に抗えず、慣性に乗った()()の体は、見えない檻を容易くすり抜けた。

 

 

―――…

 

 

「…と、こんな感じです」

「そ、そんなことが…」

「嘘だろ…!? 下界の法則は何処行ったんだい!?」

 

 ベルはその話に感情移入したのかうるうると声を震わせ、これまた違う理由でヘスティア様も絶句する。

 身の上話とは違うが、そんな紹介を済ませる。

 

「その子、ガネーシャのとこの子なんだろう?いいのかい?ここにいて」

「死人が急に現れるのもおかしいですし、本人もあまりよく思っていないので」

 

 ヘスティアが()として当然のことを問うが、どうやら通常のサーヴァントの様に離れすぎると魔力の経路が細くなってしまうらしい。一度行けるところまで行ってもらったが、ある程度を超えると感覚的に駄目だと分かるらしい。

 

「まあ、死人が蘇ったなんて聞けば、誰もがその真相を知りたがっちゃうよね」

 

 まして、相手は有名な【ガネーシャ・ファミリア】。零細の何処とも知れぬ誰かであるならともかく、派閥の規模と活動内容から彼女の姿が不特定多数に知られている可能性は高いだろう。

 

「俺が契約したから、責任は俺が取ります。だから、どうかアーディをここに置いてやってください!」

 

 勢いよく頭を下げる立香にヘスティアはやれやれと頭を振り、顔を挙げさせる。

 

「やれやれ、立香君は僕がそんな薄情な神に見えているのかい?」

「じゃ、じゃあっ!?」

「当然、いいに決まってる。確かに前例は無いけど、悪いことをしてるわけでもないんだ。ドーンと構えていればいいんだよ。それに、そんな異常事態に陥ってる子を助けるのも神としての努めさ」

 

 だから、君も安心すればいい。

 

 そう告げるヘスティア様の慈愛に満ちた笑みは正しく救済の女神のようで―――

 

「ヘスティア様が初めて女神に見える…」

「そうだろうそうだ……ん? 今まで女神だと思ってなかったってことだよねそれ!?」

「いやぁ…はは」

「はぐらかすなぁー!!」

 

 ヘスティアが噴火し、平謝りを繰り返す。そんな光景を見て、アーディはいつかの光景を思い出し笑い、ベルはどちらにつけばいいのか分からずに慌てていた。

 

 

 

「さて、それじゃあ落ち着いてきたところで本題に入ろうか」

「私本題じゃなかったの!?」

 

 何故かアーディがショックを受けているけど、それは偶発的なものなので予定になんかカウントされていない。

 

「ギルド職員…班長からはいい返事を貰えたし、上にも掛け合ってくれるらしい。バベルの方も条件付きだったりはするけど承諾してくれた」

「こんなに認めてくれたんだ…。条件っていうのは?」

 

 俺がリストアップした契約書の束を見て、感嘆の息を漏らすベルが問う。

 

「それは見るのに適した場所の確保とか、サービスとかだけど、これも人気が出てきたら色々とあるだろうしその時にするのがいいかな」

「絶対人気出るからそこは気にしなくてもよさそうだけどね…」

 

 中々嬉しいことを言ってくれるな…。

 

「えーと、まだ詳しい使用料とかは明日聞くけど、二人共どうだった?」

「僕の方は…2200ヴァリスですね。一応、力が強くなってることとか、攻撃したときに威力が増してるのは何となく分かったよ。魔石の回収とかに慣れたらもう少し行けるかも」

「ボクは…はい。240ヴァリス」

 

 ベルの好調な滑り出しに対して、ヘスティアのバイト額は少なかった。これも全て時給30ヴァリスのじゃが丸くんの屋台が悪いのだ。

 そしてそれを理解しているから、二人は気を遣って何も言わずに話を進めていく。いっそのこといじられたほうが気が楽だったもしれない。

 

「流石に明日すぐに映すってわけじゃないけど、お金はあったほうがいいからね」

「はいはーい。質問いい? さっきから使用料とか映すって言ってるけど、それってどういうこと?」

 

 そうだった。アーディにはなんの説明もしてなかった。確かにそれじゃあ蚊帳の外だろう。

 一旦ベル達との話を遮り、今日だけで何度も説明してしまって慣れた口調で話す。案の定というか、目を輝かせて食いついた。

 曰く、「私そういうの好き!」とのこと。

 

「えーと、どこまで言ったかな…? お金はまた明日頑張るとして…。あった、これこれ」

 

 部屋の隅に置いていた荷物から、異国情緒溢れるカバーやかなり古そうな装丁の本の群れを引っ張り出す。

 

「それは…?」

 

 取り出した本の数々。タイトルは『迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)』や『アルゴノゥト』を始めとした、各地の太古の伝説や人物などを記した本達。アニメを作ると決めてから無理言って近くの古本屋で譲ってもらった品々だ。

 ベルやヘスティア達は首を揃って傾げる。唯一アーディは一冊の本を指して「アルゴノゥトだ。すごい懐かしいなぁ…死んでからは何も無かったし」とつぶやいた。

 

「ベルは一度見たことあると思うけど、あれってどういう話か分かった?」

「いや、うーん…。確かに面白かったけど、どういう話かは実はあんまり…。説明もあったけど興奮しすぎてて覚えてないかも…」

 

 自信なさげに頬を掻くベルは恥ずかしそうに口をすぼませるが、それはまあ当然だ。いきなり異世界のアニメを見せられて理解するのは困難だろう。

 

「あれは古代の英雄や、お伽噺の人物の話。つまりは英雄譚なんだよ」

「古代の…。あれ、でもそれにしてはすごい街とかがしっかりしてましたけど。ストーブとかもあったし…」

 

 流石、目の付け所がいい。

 

「だから、古代の英雄達の時代じゃないんだ。もっと先の、今よりも未来の話。7人の魔術師が古代の英雄の幽霊みたいなものを召喚して、勝ち残ったペアがどんな願いでも叶えられる『聖杯』を手にすることが出来る……。

 召喚した人はマスターとして、英雄は別々のクラスで呼び出されて、それぞれの思惑が渦巻く中、最後の一騎になるまで争うんだ。……ちょっと簡略化しすぎたけど大体はこんな感じで進めていくつもり。いわば、時と場所を超えた英雄同士の夢の戦いを見ることが出来るんだよ」

 

 我ながらあまり口は達者じゃないけど、真剣に聞いてくれる彼らに真摯に向き合う。

 

「おおおおぉぉぉぉ! 凄い! 僕も英雄の強さ比べとかを勝手にやってたことはあるけど、それをあんなすごいのでやるんだね!?」

「うん。この話に合う英雄を探すためにもこれを貰ってきたんだよ。どういう武器を持ってて、どういうことをしたか、とかの逸話を調べて再現するんだ!」

 

 俺が言えば、ベルは我先にとその一つに齧りついた。そしてぱらぱらと慣れた手付きで捲っていくとあるページを開いて語りだす。

 

「この英雄なんてどうかな!? ずっと前の小人族なんだけど、すごく強くて破天荒な逸話があって…」

 

 半ば捲し立てるように告げるベルに苦笑を浮かべ、早速それを頭に叩き込む。

 メモや構想、考察なんかも交えて全員で議論すれば、使えそうなネタの数々が溢れ出してくる。アーディも交え、あれそれはこうだの、ここはどうだのと白熱し、この世界での設定は着実に固まっていったのだった。

 

 

 

 

 翌日、オラリオに激震が走った――。

 

 

 

 




次話でやっと欠片だけ出せるかも

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