「アイズ・ヴァレンシュタインさんについて教えて下さぁぁぁぁぁいっ!?」
俺が諸々の商談をするため昼時にバベルへ向かっていると、そんなことを宣いながらギルドへ突入する血達磨兎を見つけてしまった。
「今のって…」
「うん、ベルだね」
もうそんな時期か。という変な感慨深さと、そもそもそんな格好で往来を爆走するな。という注意が同時に湧き上がる。内部から聞こえる甲高い悲鳴をBGMに、俺達は見なかったことにしてそのまま道を進むことにした。
――…
商談はFateの勢いもあってか即終了。正直生活できるだけの利益があればいいと思ってる俺は取引で揉めることもなく、向こうとしても好条件。こちらとしても一番手のかかる部分は実質タダだし、かなりの利益が出るため円満に終わった。
Fate/staynightも明日で堂々の最終回を迎えるのだ。それに合わせてキャラ人気を狙ったタペストリーやフィギュアなどのグッズ、それに設定集なんかも出してもいいだろう。
そこを踏まえて、私は今どこにいるでしょーか?
正解は〜。
「こっこでーす。こっここっこー! 今回は【プタハ・ファミリア】にお邪魔させてもらってまーす!」
「急に何を? 頭でも打ったの?」
アーディの攻撃。
アーディの攻撃。
世界が違えば当然というか、やはり某珍獣ハンターのアレは通用しないらしい。地味に悲しい。
「準備出来たぞ」
「はい、今回はこのような機会を提供してくださりありがとうございます」
「いいってよ。俺としても願ってもない機会だ。さらに依頼人の頼みだからな」
という訳で。先程も言ったとおり、俺達が今訪れているのは【プタハ・ファミリア】だ。造形などを司る神様のファミリアらしく、彫像や彫刻、その他作品などを売っている商業ファミリアだ。
今回はフィギュアの製造元として契約を結んだため、その依頼や確認などをするために訪れたのだ。
「よく来てくれたな」
「あ、こんにちはプタハ様」
この如何にもエジプト風な装飾をし、ミイラのように固く包帯を巻いた姿の女神の名はプタハ、【プタハ・ファミリア】の主神である。
なんでも、天界にいたころはヘファイストスにも劣らぬ名匠の名を欲しいままにしながらも、その他、芸術なども他を寄せ付けない、いわば創造系での大御所だ(と本神が言っていた)。
けれど、それも遥か天界の話。今から四年前に下界に降りてきたばかりの派閥では、既にオラリオに根を下ろして長い派閥と比べて知名度がなく、新たな志望者等も他の大手に流れてしまう。ということをボヤいていた。
今回アーディが一緒にいるのもプタハ様は7年前のことを直接見ておらず、また【ガネーシャ・ファミリア】にも縁がないからだ。
とはいえ、流石にそのままという訳にもいかないため、仮面と外套で特徴は隠しているけど。因みに偽名としてU・アーディマリーと提案したらすごく呆然としたような、それでいて嫌そうな顔をされた。冗談だったのに…。
話が逸れた。
プタハ様は芸術にもまつわる神として、アニメには並々ならぬ興味を抱いていたらしく、そこに俺たちからの申し出だ。これを機に新たな風を吹き込もうということらしい。
「で、肝心の要望はどんな感じだ?」
「あ、はい。それに関してはこっちで造ってきたので、どうぞ」
催促されたそれに、俺渾身の設計図を取り出す。四方八方からの図面と、こだわりポイントなんかも注釈として入れてある。どこまで実現できるかは分からないが、妥協はない方がいい。
「セイバーとアーチャーか。よく纏められていて見やすいな」
今回造る予定のフィギュアはセイバーとアーチャーの2体。どちらもFGOのセイントグラフの姿だが、初回があまり動的すぎるのも難しいと思ってのことだ。
サイズは8分の1スケールでそれぞれ19
「うむ、依頼は受けた。お前達もよく見ておけよ」
「はい!」
「分かりやした!」
俺が書いた設計図が団員たちの目に入る。少々気恥ずかしいけど、何の指摘もないことから、プロの彼らから見てもツッコミどころはないんだろう。安心した。
「後は待つだけだが…どうする? 見てくか?」
「! いいんですか!?」
「依頼通りの品になるか確かめたいという客もいるからな。普段はあまり歓迎しないが、今回は新しい試みということもあってな。出来れば見ていて欲しいんだが…」
「そういうことなら! 是非お願いします!」
願ってもみない申し出だ。商売的な意味もあるけど、何よりフィギュア作製の現場を生で見たいというのは間違っているだろうか? いや間違っていない。
―――…
「出来たっ…! とうとう出来たぞ…!」
「凄い、完璧だ。本物の布にしか見えないぜ…」
「想像以上の完成度だ。これはやったな坊主!」
数時間が経過し、とうとうセイバーとアーチャーのフィギュアの原型が完成した。髪の毛の一本に至るまで気を使い、服の上から強調される筋肉に、はためくドレスなどと、ここまで小さいサイズで精巧に造るのは至難の技だったと言えよう。
工房のみなで苦心し、努力した結果だ。初めての試みに心が折れそうになったこともある。針の穴を通すより繊細な手付きが必要とされ、慣れないフィギュアを文句の一つもない精度に仕上げることができたのだ。
「よし、最大の立役者に胴上げだ!」
「わーっしょい!」
「わーっしょい!」
「わーっしょい!」
「わーっしょい!」
そう、胴上げまでやる勢いで。
「いやー、にしても、ホント惜しいぜ。
「はは、それはありがとうございます」
胴上げされているのは誰かって? そう、俺です。
そのまましばらくわっしょいわっしょいと胴上げは続けられ、それはアーディからのツッコミが入るまで終わらなかった。
何故こんな珍妙なことになっているのか。それは少し時を遡る。
◆
「畜生、他はまだなんとかなるんだが、髪と衣服のはためきが上手くいかねぇ…」
「ああクソ! またやっちまった! やっぱし石膏とは違うな……」
ファミリアの皆さんはそれぞれ発注書通りに制作しているのだが、如何せん、上手くいかない箇所がある。それは髪と衣服だ。彼らは石膏などでそれらを事細かに表現したことはあるが、このように造形したことは少ない。その上、小さくかつ精巧なフィギュアでは1mmのズレが致命的なズレになる。
初めて造った、というわりにはかなり手際のよく、流石神の恩恵を貰った本職だと実感させるが、しかして作業は難航しているという結果から抜け出すことが出来ない。
「…その、難しいなら少し見直してみましょうか?」
「いや、わざわざ俺達を頼ってくれた坊主の期待を裏切るわけにはいかねぇよ。何より、最初から断るんならまだしも一度引き受けた仕事だ。それは俺達の矜持に反するってもんだ」
ここの団長さんはそのあたりしっかりとした職人魂を持っているらしい。とはいえ、実際に作業に進展はない。何かきっかけがあればそこを起爆剤にして一気に進めることができる気がするんだけどなぁ…。
「まだまだ難航してるようだな。坊主、今日中は無理だと思うぞ? 見ていくかと言った手前あれだが、また明日…いや明後日にでも出直してみたらどうだ?」
「お気遣いなく。今日はこのために予定を開けていますし、依頼主に確認を取れたほうが行き違いもないでしょうしね」
「フム…まあ、そっちがよいならいいが……。そうだ、お前さんもやってみるか? ああ別に必ずしも作品を造れ、とは言わんさ。
あれは俺が創った訳じゃないんだけど…。いや、まあ前世であったサブカルチャーだと説明するわけにもいかないから対外的にはそうなるんだけど…。ご期待に添えられるかは分からない。
そう言って、プタハ様が持ってきた粘土の山や参考書的な代物が目の前に置かれる。
「好きにやってくれ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
最初は恐る恐る粘土に触れた俺達だったけど、一度躊躇がなくなるとあの変形やらの感触が気持ちよくて遊んでしまう。
この粘土も芸術系派閥が使っているだけあって上等な代物のようで、前世で言う紙粘土を、より造りやすくしたようなものだった。
…と、そういえば前世でも俺はこういうのが得意だった。小学生のころに紙粘土で作った“ジュ○シック・パ○ク”は金賞を貰えたし。
よし、ちょっと俺も挑戦してみるか…!
「まずは髪をこうやって…」
頭に乗せる髪単体を練って、ちょちょいっと「待って!?」すれば…。
俺が真剣に作業してると、アーディが急に大声を上げる。その声に驚いて作業を止める俺と、何かあったのかと怪訝そうに戻ってくるプタハ様の姿。
「…どうした? 何か不備でもあったか?」
「あ、いやプタハ様そうじゃなくて…。って違う! 立香今のどうやったの!?」
アーディの言う今の、というとこのオルガマリー所長の頭髪部分のことだろうか? え、なんでオルガマリー所長かって? …推しなんだよ。言わせるな恥ずかしい。
しかし、我ながら中々出来がいいと思っている。まさか俺に隠された能力がこんなところにあったとは…。
「ぬおっ、これは中々見事な…。いや少し手を加えれば直ぐにでも…」
「もう一回、今度は別のも作れる?」
「まあ、いいけど。しっかり見といてね」
そうして新しい粘土を手に取る。…そうだな、今度はヘスティア様の髪型にしよう。まずはサッと前髪を作って…側面を摘んでツインテールを伸ばす。
こんな感じ。
「人間の動きを逸脱してない???」
「ええ、キモ……」
「酷くない!?」
神にまでドン引きした目を送られた俺は叫んでもよかったと思う。
――――…
まあ、そんなわけで俺の手法で苦戦していたセイバーとアーチャーの原型自体は完成した。後は焼きとか塗装とか色々あるけど、そっちはまた後で、ということになった。
俺みたいにスルンと創れる人はいなかったけど、しっかりコツは掴んだとのこと。因みにプタハ様は「誰もがお前みたいな腕手に入れたら多分私泣くぞ? 見たいか? 創造神のギャン泣き」と言われた。解せぬ。
というかあの神創造神だったんだ…。てっきりヘファイストス様みたいな感じだと思ってた。
これで多分最終話後の発売には間に合うだろう。いや、それにしても今回のはいい収穫があった。鼻唄でも歌いたい気分だ。
「上機嫌だね。やっぱりフィギュアができたのが嬉しいの?」
「ん? ああうん。それもあるけど…これはちょっと予想外のことだったから…」
そう、本当に予想外のことだった。無い無いと思っていたこの俺に、まさか転生特典が備わっていたなんて!!*1
こっちの世界に来た直後はテンプレ的に「ステータスオープン!」とか「トレース・オン!」とか小っ恥ずかしいことをして、結局何もないと思っていた。それは違ったのだ。何故ならそれは造形に関するチートだったから。
というか魔法と言いこの特典*2といい、まるでおあつらえ向きだ。運命は俺がこの事業を始めることを知っていた…?
あ、折角転生特典*3あったんだから「俺、何かやっちゃいました?」とか「別にツインテールを作っただけだが」とか言わなきゃいけないポイントだったかもしれない。
くそう、初回を逃すと言いづらいんだよなアレ。惜しいことをした。
というか前々から不思議だったんだ。いくらFateが好きだからってその設定や内容を一字一句違うことなく覚えてるなんて*4。
神は言っているんだ。この三つの特典である“魔法”*5、“造形力”*6、“記憶力”*7を使ってFateを布教しろと。
元からそのつもりだったが、その意志は更に堅固に固まった。
Fateの布教王に!!! 俺はなる!!!
ドンッ!
「ねぇ、放送時間迫ってるよ?」
「ッス」
そういえば、結構ギリギリの時間だった。遊んでる場合じゃないと、必死に足を回し続けた。
結局遅刻した。
召喚、造形、記憶。三つのチート(内2つはそうではない)を手に入れた男、FG王フジマル・立香。彼の過労による死に際に放った一言は、人々を書店へ駆り立てた。
「俺の原本か? 欲しけりゃくれてやる。探せ! Fateの全てをそこに置いてきた!」
男達は、全ての設定を目指し、夢を追い続ける。世はまさに、大海賊版時代!!
テーレッテー!