季節は秋もたけなわ。暑くもなく寒くもなく、散歩するには良い季節です。
いつものように見知らぬ町をぶらついて、ふと空腹を覚えたころに目についたのは。
秋刀魚。
飲み屋がランチ営業していて、季節限定で秋刀魚定食という張り紙。
これはもう運命の出会いと言っていいでしょう、導かれるように吸い込まれるように、お店にイン。
夜は炭火焼を提供しているのか、煙と脂が染みついた(ような気がする)テーブルについて、昭和を感じさせる店内にさりげなく視線を一巡らせ。
店員さんに秋刀魚定食とビールを注文し、まずはビールを一杯。
この、昼間から酒を飲むというのがまた堪らない。夏はとうに終わりクールビズも終了するなか、ビールクズは年中無休でやっております。
乾いた喉を潤した後は、目を閉じて耳と鼻を厨房へ向けて集中。私の注文した秋刀魚が炭火で焙られている様を想像するのです。
イマジナリー秋刀魚でビールが美味い!
そうしているうちに、注文の品が届けられました。じゅうじゅうと脂の焼ける匂いが最高です。
良かった、この店は当たりだ。魚を電子レンジで加熱して最後にガスバーナーでひと焙りするだけの店もありますが、その調理法だと皮が美味しく頂けないので個人的に嫌いです。
いや、自宅で調理するときはガスコンロの魚グリルを使うのが面倒で、電子レンジに頼ることも多いのですが。
せっかくの外食なら、焼き鮭とか皮まで美味しく頂きたいじゃないですか。
さて、秋刀魚の頭から尻尾まで、背と腹を上下に箸で挟んで二往復ほどして、軽く身をほぐします。その後は頭を指で押さえながら、背から箸を入れて背開きにし、骨を外します。
背開きにせず、骨に沿って水平に箸を入れて上身を取るやり方もありますが、私は背開きにするのが好みです。
だって、その方がワタと腹側の小骨を取りやすいから。
さんま、さんま
さんま苦いか塩っぱいか。
「秋刀魚の歌」佐藤春夫で有名なフレーズです。
塩っぱいのは、当時(大正年代)は冷蔵技術が発達しておらず塩サンマであったから。
苦いのは、秋刀魚のワタの苦味から。
あはれ
秋風よ
情〔こころ〕あらば伝へてよ
――男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食ひて
思ひにふける と。
――女ありて
今日の昼餉に ひとり
さんまを食ひて
思ひにふける と。
この詩は、恋に破れ妻にも逃げられた男が失意のうちに詠んだと言われています。
一人で秋刀魚と向き合うシチュエーションは同じでも、男の影もまったくないアラサー未婚女とは正反対ですね。
思いにふける内容も正反対、こちとらビールと秋刀魚で優勝しながら締め切り間際で煮詰まった気分をリセットしている最中です。
それが何だか可笑しくて。
偉大な詩人に乾杯。
お終い。