White and white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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人々の精神が数値化され、
それを元に社会システムが構築・管理されるようになった近未来の日本。

サイマティックスキャンにより読み取った人々の生体力場を解析し「サイコパス(PSYCHO-PASS)」として数値化、それを元に精神の健康状態・個人の能力を最大限生かした職業適性を示し、人々が最適で充実した人生を送れるように支援を行う包括的生涯福祉支援システム――


人々はなにを思い、人生を生きていくのか――




舞白と慎也

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

2112年 東京都 港区

 

海にほど近い低層マンション

少女はじっと、風呂場の鏡を睨みつける。

 

 

 

 

「――慎重に慎重に。」

 

体を覆っている即席のビニールエプロン(ごみ袋に穴をあけただけ)。薬液がポタポタと滴り落ち、浴室に水滴の音が響き渡る。肩あたりで跳ねる漆黒の髪の毛にゆっくりと櫛を通しつつ、手際よく薬液を塗り進めていた。

 

 

「あとは時間を置いて流すだ…」

 

薬液を塗り終えてほっとしたのも束の間。電子音が風呂場で響くと、手首に巻き付くデバイスから見慣れた名前が浮かび上がる。

 

「うそっ!ヤバい!なんでこんな時に……。ていうかバレたらまずい…」

 

ゴクリと息を飲んで通話ボタンを押すと即座に相手と通話が繋がる。

 

 

「――マシロ?」

 

聞きなれた男性の声。しかしその声にやたら反応するとビクリと背筋が伸びる。

 

「は、は、はい、お兄ちゃん?どうしたの?」

 

なんとなくいつもと違う返答と声色に気づく通話相手。"こんな時間に珍しい〜"なんて呟くと突如映像にすり変わる。

 

 

「――!お前もしかして……」

 

目の前に映る兄の驚く姿。そしてヤバい、バレた…という表情をする妹の姿。

 

「…えーっと、その〜……。ブリーチして髪色をまっしろに…」

 

ハァァァァと、深いため息を吐く画面の向こう側の男、狡噛慎也。

 

へへへへっと、ペロッと舌を出して呑気に笑みを浮かべる少女、狡噛舞白。

 

 

「お前、髪の色なんてホロで変えればいいって何度も言ってるだろ?あと少しで職業適性の結果も出る大事な時期だってのに…」

「だって!ホロだと味気ないというか…自分の髪じゃないっていうか…ずっとやりたくて…」

 

ギャンギャンとお互い言い合いになっていると狡噛側の画面にもう1人の人影が現れた。その人物はぴょんぴょんと嬉しそうに体を跳ねさせながら映り込むと、眩しいほどに明るいオレンジ色の髪の毛が目に入った。

 

 

「コウちゃん〜!もしかして舞白ちゃんと電話してる?――お!久しぶり!髪の毛いいんじゃーん!いい感じに染まってきてる♪」

「余計なこと言うな縢。だいたいお前がそういう事を教えるから…」

「別に髪の色くらい許してやれよ〜?色相が濁るわけでも無いんだし?妹の髪の毛で必死になってるのマジウケんだけど……。やっぱ妹の事になるとクールなコウちゃんでも――」

 

その瞬間、縢の頭上に狡噛の拳が落ちる。そして頭を抑えながら画面上から消える縢――

 

いつもは冷静な狡噛も妹の事になると口煩くなる。そのたびに周りの執行官たちは笑っていたのだった。

 

「秀星の言う通りだし!べつにそんな事で濁らない!」

 

「いいから直ぐに戻せ、次会う時までに戻ってなかったら仕送り止めるからな。」

 

本気のトーンで言葉を零し、表情もキレた時のそれだった。その顔を見て舞白も負けじと頬を膨らませる。

 

 

「もう子供じゃないんだから!お兄ちゃんのバカ!シスコン!」

 

プツッと通話終了画面に切り替わる。一方的に切ったのは舞白、また通話がかかってくるも無視。ふんっと言いながら染料を洗い流せば綺麗に染った白髪が鏡に映る。

 

「これこれ〜!ホロとは違うんだよね〜。」

 

染めたての髪の毛をタオルでくしゃくしゃと擦る。やはりホロとは全然違う。縢に教えてもらった通り仕上がりは大満足だった。

 

 

 

 

そして冷蔵庫から棒アイスを取り出すとベランダへ向かう舞白――

 

4階の部屋から見えるのは広大で美しい海。ちょうど心地よい潮風が

髪の毛を揺らす。まだ6月の中旬と言えど蒸し暑く、冷たいアイスが余計美味しく感じた。

 

 

「――職業かー。」

 

棒アイスを口に含みながら手元のデバイスを開く。シビュラシステムの職能適性の新たな結果が届いていたのを思い出し不意にデータを開いてみる。

 

 

「官公庁はほぼ全部適正アリ。厚生省公安局も変わらずA判定……」

 

兄と同じ道を行くのは何となく嫌だった。公安局はたとえ適性が出たとしても除外しようとしていた。……というか、その前に兄に止められるのがオチだろう。兄は環境省や法務省、財務省あたりをやたらと勧めてくる。"危険も少なく按配。福利厚生も良いし収入も――"なんて。

 

 

 

棒アイスの最後の一口をパクッと口に放り込み、デバイスから目を離し目の前の海を見つめる。

 

 

 

「職業なんて、自分で選びたいよね……」

 

そもそも官公庁なんてお堅い仕事自体本当に適正?と疑いたい。勉強は難なくできるタイプだが、兄とは違って大雑把だし、良くも悪くも適当だし。

 

 

「――ていうかもうこんな時間!明日朝練だし、早くお風呂入り直して寝ないと〜」

 

バタバタと慌ただしく部屋を駆け抜ける。

 

やけに広い部屋が1人で暮らす舞白を寂しく感じさせた。

 

 

 

 

 

 

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