White and white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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一か八か

 

 

・・・・・・・

 

 

 

意識が朦朧とする中、瞼を持ち上げる。

 

あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。デバイスは引きちぎられ、連絡を取る手段が無くなってしまっていた。

 

 

「((……ダメだ…………体が動かない……))」

 

 

 

自分の身体中を厭らしく触れる手。複数の影が目の前に現れる。薬品のようなキツい臭いがやけに鼻につき、頭痛や吐き気に襲われていた。

 

 

 

 

目線をヘルメット集団に移す。

1、2…3、4……8…12…15…………何人いるの?

 

 

この状態で自分1人。どう考えてもどうにかできる人数じゃない。

 

 

「((咲良……))」

 

 

 

咲良は無事だろうか。あの後、誰も咲良の後をを追いかける輩は居なかったはずだ。上手くいっていれば、私にも助けが………

 

 

「((でも…この場所……地図にも載ってなかったんだよね……))」

 

 

例え通報されていたとしても簡単には見つからない場所だ。咲良が果たしてどこまで動ける状況かは分からない。寧ろパニック状態に陥っていればまともに話せない可能性も考えられる。

 

 

「((大丈夫。……咲良だけでも無事なら―――))」

 

 

瞳は色を映さないまま、口角を持ち上げ薄く笑みを浮かべる舞白。そして諦めたように体の力を抜けば一切の抵抗力を失った。

 

 

 

 

「…本物…本物の女だ…」

「ッ……あぁ…最高だ…バーチャルじゃねぇ……本物の…女のナカだ…」

 

 

薬品のせいか体の感覚はあまりない。むしろ運が良かったのかもしれない。不幸中の幸いってやつだろう。

 

体をまさぐられても、気味の悪いヘルメットの男たちの声が鼓膜を叩いても案外何も感じなかった。

 

 

 

「((……お兄ちゃんに……なんて言えばいいだろう。むしろこんなこと言えるわけが無い……もしこの事を知ったら、お兄ちゃんは―――))」

 

 

怒りに身を任せ、狂ったようにコイツらを殺すだろうか。

 

ただでさえエリート監視官から執行官へと堕ちたのに、これ以上兄を心配させて苦しめたくない。狂わせたくない。

 

 

「((あー…………嫌だなあ。お兄ちゃんにバレたとしても……ノブ兄には知られたくない、かも。))」

 

 

ぼんやりと心の内で本音を呟く舞白。

その瞳は真っ直ぐと遠くを見据え、まるで人形のようにビクとも動かない。

 

 

「((……ていうか今更こんなこと考えたって……遅―――))」

 

 

そんな時、ふと首を左に倒す。

絶望の淵に落ち、希望も何も見えず諦めかけていたその時……

 

 

視線の先に咲良が用意していた大型花火の袋が映った。まるで爆薬が積まれているような量に今更呆気に取られるも、勘のいい舞白はその瞬間に閃いたのだ。

 

「((……あの花火の量……。それにライターもある。上手く行けば……))」

 

 

色を失くし掛けていた瞳に光が蘇る。いつもの強い力を放つ鋭い眼光はしっかりとそれを捉えていた。

 

 

 

((一か八か……やるしか……))

 

 

 

舞白は頭の中で計画を練り始める。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

―――執行官護送車内

 

 

 

 

車内はビックリするほど静まり返る。

誰も何も発さず、ただただ狡噛に視線が向けられていた。

 

 

車内の席に腰掛け、両膝に肘を乗せ俯く狡噛。

 

何とか冷静さを保っているように見てるがどこか落ち着きがない。どんな時も冷静沈着で動揺を見せない彼がここまでの状態になるのは有り得ないことだった。

 

 

それを心配そうに見守る征陸と縢。痺れを切らした征陸は漸く口を開く。

 

 

 

「―――コウ。少し落ち着くんだ。」

「落ち着いてるさ。普段通り。」

「…………」

 

この状態で現場に着いた時、狡噛は正気を保てないのでは?と心配の色を見せる。しかしこれ以上言葉を投げかける事も危険かもしれない。

 

 

 

 

 

 

『―――皆さん、唐之杜さんから動画が送られてきたので転送します』

 

そんな時、護送車内に常守の声が響く。同時にモニター画面に映像が現れ、防犯カメラ映像が再生された。

 

 

 

2台のハイヤー車からぞろぞろと降り立つヘルメット集団。各々が簡易的な武装を纏い、同じ方向へと歩いていく。

 

しかし異様なのだ。誰一人として街頭スキャナーにも反応せず、周辺の警備ドローンさえも反応しない。

 

 

『このハイヤーの行方は既に追ってます。運転手はこの時点で不明です』

 

「他のカメラは?」

 

『それが……海岸に近寄れば近寄るほどカメラがオフラインに切り替わっていて……アクセスできません。』

 

刹那、画面が切り替わり浜辺を歩く2つの影。背丈は離れ、パッと見何者なのかはハッキリと分からないが一係のメンバーは直ぐにそれが何者なのか理解する。

 

 

舞白と咲良。

何やら愉しげな様子で肩を並べ、仲良く歩いている姿。

 

 

 

 

『この後映像が途切れます。おそらく2人は浜辺沿いを東方向に進んでいって、その先で…』

 

 

少女2人が笑顔を向けあいながら浜辺を歩くその光景。妹の幸せそうなその姿を見ると狡噛は更に怒りが込み上げる。明らかにその瞳は憤怒を浮かべていた。

 

「―――ッ……」

「…………」

 

 

そんな彼を横目で確認する征陸。

怒りと憎悪に塗れた狡噛に対し今は何もするべきではないと悟り、小さく息を漏らしつつも事件状況を把握していく。

 

 

「教えてくれ、常守監視官。」

『はい?征陸さん』

「通報者の花橋咲良。その後どうなってるんだ?」

 

『花橋さんは救急隊に既に救助されてます。ですが色相悪化が酷く、残念ながら詳しい話はまだ聞けそうにありません。本人もかなり動揺しているみたいで……』

 

 

急激な色相悪化。

パニック状態に陥っていれば尚更状況など聞き出せるわけが無い。

 

そんな最悪な状況に、縢もため息混じりで言葉を放つ。

 

 

「…唯一、舞白ちゃんの状況が分かる証人からは何も聞き出せない。ほぼ情報ゼロ状態からって結構ヤバいっすね。」

「肝心な現場も不明。そのヘルメット集団の状態も不明か…」

『はい……。こちらから手配した警備ドローンに周辺を捜索させてますが……まだ何も…』

 

 

肝心な事件現場が不明という事に焦りを見せる。通報時間から逆算してもかなりの時間が経過している。

 

"一刻を争っている"、正にそんな状況だ。

 

 

 

『…あと報告が。通報内容を聞き付けた宜野座さんも今向かってると連絡がありました。』

「…………」

 

常守の追加の報告を耳にした狡噛はゆっくりと顔を持ち上げる。

 

『それと非番だった六合塚さんも唐之杜さんと共にデータ解析を進めてくれてます。…他の課は残念ですが皆出払ってて、私たちだけで探すしかありません』

 

情報が少ない中での捜索。そんな絶望的な状況に光が差し込むようだった。実の妹、唯一の肉親である舞白を救う為にと全員が動いてくれている。その事実に兄である狡噛は様々な感情に充てられている様子だった。

 

 

「十分すぎる増援だ。」

「ギノさんもくにっちもいればヨユーっしょ?…後は現場組のオレらの力が試されるってワケね。」

 

 

一係総出の捜査。

これ以上心強いものはない。

 

 

 

狡噛を襲っていた本能的な恐怖心。

しかしそれは小波が引くように消え、自分でも不思議なほど落ち着いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「―――コウ、縢。スキャナーに引っかからないってことはドミネーターも鉄クズの可能性が高い。十分に用心するんだ。」

「りょーかい。」

 

 

 

 

 

目的地周辺に近づく護送車。

そして開かれる扉―――

 

 

 

「…………」

 

 

生ぬるい潮風に漆黒の黒髪が揺れ、久しぶりの感覚に目を細める。そんな狡噛の背後に佇む2人。彼らの言葉が鼓膜を叩く。

 

 

 

 

「コウ。必ず助けるぞ。」

「舞白ちゃんなら大丈夫だっての。なんたってこーちゃんの妹だし。」

「……」

 

トントンと背中を叩く2人に狡噛はゆっくりと頷く。

 

 

そして護送車の隣に停められた車両から降りる常守。彼女もまた狡噛に視線を送り、言葉は話さずとも強い意志を向けていた。

 

 

 

 

 

「必ず見つける。……舞白」

 

 

 

そして4人は夜の浜辺へと踵を返す。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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