White and white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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濁らない色

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、次は俺だろ!」

「うるせぇ!引っ込んでろ!!」

「―――ッ!!」

 

 

 

 

揉め始める男達。先程まで自分に向けられていた視線が外れていくのがわ分かる。

 

自分を弄ぶ順番で揉めるヘルメット集団。気味が悪く異様な光景だ。

 

―――しかし、チャンスは今しかない。

 

 

「((案外馬鹿な集団で安心した―――))」

 

 

 

すっかり抵抗をしなくなった自分をこれみよがしにチャンスと弄ぶ馬鹿な集団。恐らく元は気弱な人間達なのだろう。武器を手にしたことにより、自分たちが最強だとでも思っているに違いない。

 

"そういう奴らこそ、武器を手にした瞬間ボロが出る"

 

 

「((……まさか、私が完全に戦意喪失したとでも思ってる?))」

 

 

幸いな事に、奴らは無造作に置かれた打ち上げ花火の存在には気づいていない。ただでさえヘルメットを被っている時点で普段より視野は狭いはずだ。高性能だとしてもそもそもの物体の重さに動きも温いはず。

 

 

 

「((さっきより手足の感覚は戻ってきたかも。……まだ頭はぼんやりするけど……))」

 

手足の指を動かし感覚を取り戻す。

同時に体の痛みや腹部の嫌な感覚に気分が悪くなりそうだが今はそれに悩んでいる場合では無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ほら、口でもシてくれよ」

 

揉めている男達の傍ら、ガチャガチャと金属音を鳴らしベルトを外す男。

……しかし本当に気味が悪い。顔も見えない野蛮な奴らに犯されたなんて考えたくもない。

 

舞白は人形のように無を貫いていた表情を壊し、悪魔的な妖しい笑みを浮かべる。

 

「ふふっ……ふふふ……」

「……!?」

 

突然笑い声を上げる少女。

そんな少女に同じく気味悪さを浮かべる男。

 

こちらを見上げる少女の瞳は獣のように鋭い目付きに変化すると、不思議とゾクリと背筋が凍りつく感覚に襲われた。

 

 

「―――小さくて笑うわ。」

 

少女はボソリと呟く。そして左腕を思いっきり男の股間目掛けて振り上げると、目の前の男は声にならない悲鳴を上げ、無様にそのまま倒れ込む。

 

突然の出来事に呆気に取られるヘルメットの男達。まさか先程まで抵抗すら見せなかった普通の少女が動き出したのだ。あまりにも突然の出来事に全員が声を失う。

 

 

「―――くっ……!」

 

 

舞白は乱れた服を直し、すぐに立ち上がる。持ち前の運動神経を生かし、長い脚で周りの男を蹴り飛ばすと花火の入った袋へと一気に駆け出した。

 

 

「クソっ!あの女!!!」

「逃げられるぞ!!」

 

男たちの必死な声。

それを背に舞白はライターを片手に笑みを浮かべた。

 

 

 

「((よし…あとはライターを…))

 

着火音ともにライターを点火すると、それを袋めがけて投げ込む。

男たちは舞白のその行動を理解していなかった。花火には目を向けず、逃げようとした舞白にしか気を向けていなかったのだ。

 

 

 

 

刹那、再び男たちに押さえ込まれる。

仰向けに転んだ視線の先には慌てふためくヘルメットの男たちが映る。

 

 

「ぐっ……!!」

 

手足にメリメリと食い込む男たちの強い手の力。さすがにそのチカラを振り払うことができる訳もなく、舞白は悔しそうに表情を歪める。

 

 

「逃げられるわけねーだろ?」

「クソっ……気絶したフリしやがって……」

「ムカつく女だ……クソがァァァ!」

 

 

男の怒りと共に振り下ろされる拳。

それは舞白の腹部に命中すると、胃が逆流するような感覚に陥る。

 

 

「お前みたいな!色相も何も!悩みもない平凡なクソ餓鬼が!」

「うぅっ…ゲホッ!ゲホッ!!」

 

 

まるで鬱憤を晴らすかのような男の行為。抵抗できない状態の少女の上に跨り、容赦なく拳を振り下ろす。正に外道そのものだ。

 

「舐めやがって……殺す!殺す!」

「……ッ!」

 

激しく噎せると口から溢れる胃液……それは徐々に赤い液体へと変化していく。今度こそ本当に意識を手放してしまいそうだった。

 

 

「おっ……おい!やり過ぎだ!」

「"殺すな"って言われただろ!?」

 

「別にいーだろ?どうせバレたら殺される。だったら楽しもうぜ?」

「今更怖がってんのか?」

 

「だけど既に1人逃げられただろ?」

「公安のヤツらにバレたら―――」

 

 

 

 

「…………」

 

 

この一連の行為に対し男たちは漸く動揺を見せ始める。肯定する者と反対する者……しかし今更もう遅い。

 

 

「((……本当に……死ぬかも……私―――))」

 

 

嗅がされた薬の効果が更に切れてきたのか身体中の痛みが伝わり始める。感じたことの無い体の異変に恐怖さえ覚える。

段々と音が聞こえなくなってくる気もするし、本当に身体が動かない。

 

 

「((殴られて……顔も痛い。お腹も痛い……))」

 

 

刹那、男たちの背後から大きな音と光が放たれた。

 

空を彩る美しく鮮やかな花火。

ホログラムでは無い珍しい本物の花火。

 

咲良が残してくれた奇跡の花火だ。

 

 

「((……綺麗……))」

 

 

 

 

最悪な状況なのに、広がる美しい光景。

それはどう時に走馬灯のように今までの思い出が映し出されているようにも見えてしまう。

 

 

―――舞白は死を覚悟していた。

しかし、希望は捨てきれない―――

 

 

「……たす、……け…… 」

 

 

 

 

少女のその瞼は再び閉じられる―――

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ご丁寧に足跡まで消すなんて……ただモンじゃないっすね〜」

 

足場の悪い砂浜の上を警備ドローンと共に捜索する4人。懐中電灯を照らしながら辺りを捜索するも手がかりも何も見つかる気配は無い。

 

 

「ただでさえ痕跡の残りやすい浜辺に情報はゼロ。明らかに普通の人間ができる事じゃない。」

「コウの言う通りだ。カメラに映ってたヘルメット以外の人間が手引きしてる。そうとしか考えられん。」

 

「一体何が目的なのでしょうか……」

 

 

穏やかな波の音と月の光。

何の変哲もないこの場所の近くで事件は起こっている。しかし目的が一切分からない。愉快犯にしては手が混みすぎているのだ。

 

各々のデバイスに写し出される周辺地図。

見る限りこの周辺で何かが起こっているのは間違いないのだが肝心な場所を示す情報が一向に見つからない。4人はそれでも痕跡を探し続ける。

 

 

 

 

「……ここら一体のクラッキングされた防犯カメラ。唯一生きていたカメラまでの距離は北西1km先……」

 

狡噛はクラッキングされた頭上の防犯カメラへと視線を向ける。ドミネーターのグリップを強く握り締めると、何かを考えている様子だった。

 

 

「にしても通報したハナバシって子。よくパニック状態でオンラインになるまで走り続けましたよねー」

「………オンライン…」

 

 

縢の言葉に微かに反応する狡噛。

そんな狡噛の微細な動きに気づいた常守は微かに疑問符を浮かべた。

 

 

「狡噛さん?」

「どうかしたのか?コウ。」

 

「―――救助を求めるなら通信以外の手段もあった。なのに何故……花橋咲良は通報に拘った?」

「そりゃパニック状態だったワケで、他に思いつかなかったんじゃねーの?」

「確かにそれも有り得る。この一帯、確かに民家は少ない。だが……全く人がいない訳じゃない。クラッキングされた防犯カメラから1km圏内の間に少なからず民家はあった―――」

 

 

独り言のように言葉を呟く狡噛。

その傍らで縢が別行動を促すかのように走り出す。

 

「とりあえず、オレは向こうを調べてきますよ?」

 

「縢君!単独行動気をつけてね!」

 

 

おうよ!と手をあげれば縢は地図上で確認できる浜辺を満遍なく捜索するために東側へ向かう。暗闇に消える縢の後ろ姿を見送り、再び視線は狡噛へと向けられる。

 

 

「…舞白……」

 

手がかりを探すべく浜辺を捜索し続ける。後方支援の唐之杜達とも連絡を取り合うも変わらず何も見つからない。

 

 

 

『……そっちはどう?なにか見つかった?』

「いいや、何も見つからない。……まだ妨害電波は解けないのか?」

『ちょっと待ってね……。弥生と対応してる最中よ。』

 

 

分析室で対応にあたる2人。

するとキーボードを叩く音と共に、六合塚の声がデバイスから響き渡る。

 

 

『色々調べてみたけど妨害も簡単なものじゃない。手の込んだクラッキング技術が使われてるわ。……私と志恩2人がかりで解除してるけど、ここまで複雑なのは初めてよ―――』

 

 

 

そしてその時、周辺の警備ドローンやカメラが復旧を知らせるオンラインの文字がデバイスに浮かび上がる。これでようやく少しは捜査が進むだろう。

 

 

 

 

 

「俺は西側を捜索する。常守監視官はコウを頼んだぞ。」

「え、あ……」

「今のこの状況下で一番鼻のきく猟犬を傍に置いておくのが得策だ。それにこの状況だからこそ、コウの手綱を握っておいてくれ。」

 

「とっつぁん。俺が何か仕出かすと?」

「妹絡みだからだ。お前が沼に落ちすぎると、また舞白ちゃんは―――」

 

 

刹那、爆音と共に複数の花火が打ち上がる。方角は東側。縢が向かった先だった。

 

 

 

「―――ッ!?あの方向はもう浜辺は広がってないはずです!」

 

常守が地図を確認するも言葉の通り花火が打ち上げられるような場所はない。

 

 

そして東側の捜索をしていた縢から常守達に通信が入る。

 

『こちらハウンド4。岩場の間に人が通れそうな道を発見。たった今打ち上がった花火の出処もその先っぽいっすよー』

 

西側に向かおうとした征陸と常守が顔を見合せ頷く。そして狡噛は反射的に体が動き一目散に東側へと走り出した。

 

 

「狡噛さん!!」

 

 

走り出した猟犬は止まらない。

2人も後を追うように駆け出すのであった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

止まらない打ち上げ花火の暴走。

まるで位置を知らせるかのように光を放つそれに男たちは為す術もない。

 

 

 

 

「おい!こんな派手に花火が上がったらさすがにバレんだろ!?」

「逃げるぞ!こんなところでまた施設に戻りたくねぇよ!」

 

「女はどうする?」

「放っとけって!どうせもう死んでる!」

 

慌てふためくヘルメットの男達。

傍らで倒れる少女には目を向けることなく無我夢中で現場から離れようと走り出す。

 

 

少女は虫の息だった。

とても生きているとは思えない。

 

 

 

「おい!押すな!」

「早くしろよ!」

「待てって!この道ただでさえ狭―――」

 

 

我が先にとまたもや揉める男達。

すると逃走経路の先に1人の影が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや……悪い子だー……」

 

 

余裕気を感じる艶のある高い声。

しかし女性では無い。

―――だが、何故かその声を耳にした男たちは肩を震わせた。

 

 

 

「こーんなところで皆で楽しく隠れて花火?オレも交ぜてよー?」

 

 

先行して到着した縢。ドミネーター片手に男たちに立ち塞がると恐怖に戦く男たちはゆっくりと後退する。

 

そしてその背後で爆発を続ける花火の塊。そのお陰で辺りに光が照らされると奥に倒れている少女を見つけたのだった。

 

すぐさま縢はデバイスを使用し、常守たちに報告する。

 

 

「こちらハウンド4!対象をかく……に……」

 

しかし……あまりにも酷い状態が目に入る。まだ花火の光頼りでしか確認できないことが不幸中の幸いかもしれない。

 

仰向けに倒れ、手足は無造作に投げ出されていた。服も大きく乱れているのが確認できると無意識に少女の下腹部あたりに視線が向けられる。

 

集団暴行に強姦。

舞白が受けたであろう犯罪に吐き気さえ感じる。

 

 

『―――おい!状況は!?』

 

 

デバイスから漏れる狡噛の声。しかし縢は反応できない。

 

「コウ…ちゃん………」

 

握っていたドミネーターを落下させてしまいそうだ。

 

 

『ハウンド4!?何があった!?』

「……ギノさん。」

『状況を言え!常守達も向かってる!』

「……ッく……」

 

続いて聞こえてきたのは現場に急行しているという非番の宜野座の声。縢は狡噛と宜野座と舞白の関係性を分かっているからこそ言葉を詰まらせる。

 

 

 

 

「…テメェら……その子に何した!?」

 

 

縢は怒りを顕にすると再びグリップを強く握り締め男たちに銃口を向ける。瞳が青く発光すると目の前の男たちはドミネーターの恐怖に怯え始めた―――が、しかし。

 

 

 

『犯罪係数 アンダー30

―――執行対象ではありません』

 

「なっ……どういう事だよ!?」

 

何故か犯罪係数はアンダー値。ドミネーターは使えない。

これが街頭スキャナーが反応しなかった理由だろう。

 

これだけの事をしておいて犯罪係数も色相も変化がないのだ。明らかにおかしい。いや……ただ彼女が本当に強靭なだけなのかもしれない。

 

 

 

 

 

「お、…おい、公安局だぞ…」

「もうおしまいだ…うわあああああああ!!!」

 

 

錯乱状態に陥る男たちは縢に襲いかかる。

ドミネーターが使えないと改めて分かると黒鉄をその場に捨て、縢は男たちを薙ぎ払っていく。

 

 

「埒があかねぇ!」

 

それよりも心配なのは舞白の事だ。

動く気配はなく、外傷を見る限り危険な状態だということは分かる。

 

すぐに救出したいが男たちが邪魔をして進めない。

 

 

 

「……くっ……クソがあああ!」

 

怒りに身を任せ我武者羅に体を動かす。

するとその時、背後からもうひとつの影が現れると別方向から男の悲鳴が響き渡った。

 

 

「縢!!」

「コウちゃん!」

 

 

遅れて現場にたどり着いた狡噛。相変わらずの強靭な身体能力で縢と共に応戦すると徐々に戦意喪失していく男たち。ドミネーターを持つ公安の猟犬はやはり恐ろしい様子だった。

 

 

 

「顔を見せやがれッ!!オラァッ!!!」

 

縢がヘルメット目掛けて蹴りを入れ、男の頭からヘルメットが抜け落ちる。すると同時にドミネーターが反応を見せると狡噛はそのまま咄嗟に銃口を向け、トリガーに指をかけた。

 

 

「ヒッ……ヒィぃぃぃぃ!」

 

ヘルメットが抜け落ちた男は恐怖に脅えた表情で両手を体の前に翳す。つい先程まで威勢よく少女を襲っていたのが嘘のようだった。

 

 

『犯罪係数オーバー268 執行対象です。セーフティを解除します。執行モード"ノンリーサル・パラライザー"―――落ち着いて照準を定め、対象を制圧して下さい』

 

 

狡噛は容赦なく男にパラライザーを打ち込む。

青い閃光を受けた男は大きく仰け反り、そのまま気を失い地面に倒れ込んだ。

 

その光景を目にして慌てふためき戦意喪失する者と2人に襲いかかる者。完全かカオス状態に遅れて現場に到着した常守と征陸は大きく目を見開いた。

 

 

「…ッ…縢君!狡噛さん!」

 

現れた増援に狡噛は背を向けたまま叫ぶ。

 

「監視官!!奥に舞白が倒れてる、すぐに救助を!」

「コイツらはオレとコウちゃんに任せろ!!」

 

飛び交う怒号と悲鳴。

未だに事件現場に戸惑いを見せる常守に征陸も言葉を放つ。

 

「監視官。行くぞ。」

「はっ……はい!!」

 

征陸と共に走り出し、なんとか暴れる男たちを避けながら舞白の元へ向かう2人。幸いにもその様子に気づく様子はなく、難なく2人は舞白の元へとたどり着いた。

 

 

「―――ッ!」

「……酷い事しやがる…」

「…………そんな……こんな……」

「監視官。すぐに応急処置だ。」

 

舞白の様子を見た常守と征陸。

征陸は苦しげに表情を歪ませると着ていたジャケットを直ぐに舞白の体に被せた。

 

 

 

 

青紫色に腫れた体、首には締められたような痕。染められた白髪の一部が赤い血に塗れていた。征陸はそっと被せたジャケットを捲り、腹部を確認するも同じく青紫色に変色しその状況に唖然としていた。

 

 

 

「――心拍異常なし。だが腹部の内蔵損傷の可能性が高い。」

「……ッ……」

「常守監視官。しっかりするんだ!」

「すみません……でもこんな……ッ……」

「直ぐ搬送の手配だ。分析官、頼んだぞ。」

 

『了解。待機させてる救護ドローンも向かわせるわ。』

『……舞白ちゃん。』

 

悲惨な状況、そして未だに慣れない現場に声をふるわせる常守。

後方支援に回っていた唐之杜と六合塚も送られた情報を目にし悔しそうに眉を顰める。

 

 

 

 

「…コウにこの姿を見せるな。アイツはきっと―――」

 

 

"この状態を見せたら狂う"

征陸は直ぐに予想出来た。

 

 

「はい……」

 

常守も着ていた監視官ジャケットを脱ぎ、舞白の体を隠すように覆う。

 

 

「色相は?」

「……"ゴーストホワイト"、数値もアンダー値です。」

「不幸中の幸いだ。……にしても、この状況でこの色相をよく維持したな……」

 

普通なら一時的にも濁るはずの色相。

常守が刑事課に配属された時の最初の事件を思い出す。男性に拉致され、舞白と同じように傷つけられたあの女性でさえも色相を大幅に濁らせた。そんな似た状況に陥っている舞白、だが色相は驚く程に"美しい"。

 

 

 

 

常守達の背後では次々と男たちを拘束していく狡噛と縢。

 

 

 

「許してくれぇ!俺たちは、俺たちは!」

 

「あぁん!?俺たちは何だ?弱い女の子を襲って許されると思うなよ!?クソ外道共!!」

 

「ひぃぃぃ!ごめんなさいいい!!」

 

呆気なく収束する現場。

対象者は18人。何とか無事全員を拘束することが出来た。しかし気に食わなかったのがその全員の犯罪係数がアンダー300値だと言うこと。狡噛にとってそれは受け入れがたく、今すぐにでも全員を殺したい衝動に駆られていた。

 

 

 

 

「―――ッ!舞白!!」

 

現場に慌ただしく現れる警備ドローンに救護ドローン。物々しい雰囲気に変化するビーチを狡噛は駆け抜ける。

 

 

「待って!コウちゃん!」

 

妹の元へ一心不乱に駆ける兄。

そんな狡噛を制止しようと縢は手を伸ばすがそれは叶わない。

 

 

「とっつぁん!朱ちゃん!コウちゃんを―――」

 

そんな縢の声に察する2人。

舞白の姿を見せる訳にはと征陸が立ち塞がった。

 

 

 

 

 

「…とっつぁん。」

「コウ。」

 

征陸は両手を広げ首を振りながら静止する

 

「命に別状はない。心配するな。」

「俺は舞白の兄だ。」

「…………ッ……」

「退いてくれ。」

「お前は見ない方がいい」

「……退いてくれッ!とっつぁん!」

 

 

 

狡噛はそんな征陸の制止を振り切り、強引に舞白の元へと向かう。

 

元々矯正され、青白く光る艶のある顔は青痣に染まり凝視できない程だ。

 

意識を失い横たわる舞白の横にしゃがみ込むと体を被っていたジャケットに手をかける。それをゆっくりと捲りあげたとき、烈しい嘔気が彼の咽喉にこみあげてきた。

 

 

「くっ…………ぐ……ッ!!」

 

声にならない嗚咽を漏らす狡噛。

そんな姿など見たことも想像したことがない常守。

 

 

「狡噛さん…あの……っ…」

 

上手く言葉が見つからず声を詰まらせる。

恐らく今どんな言葉を投げかけても彼の耳には届かないだろう。

 

 

「……ふー…………ッ……はぁ……」

 

乱れる呼吸を鎮めようと深呼吸する。そしてすぐにジャケットを掛け直せば狡噛の目が怒りに満ち溢れるのを感じ取る常守。

 

 

「……狡噛、さん?」

「悪い……舞白。」

「狡噛さん?」

「遅くなって悪かった。……兄ちゃんがもっと早く気づいてれば――」

 

 

 

狡噛は独り言を呟き、舞白の頬を優しく撫でる。

そして覚束無い足どりでゆっくりと立ち上がった。

 

 

手にしていたドミネーターをそのまま砂浜に投げ捨て、凄まじい憤怒の色を帯びた瞳を光らせる。

 

 

 

 

「―――貴様ら全員殺してやる!!」

 

 

聞いた事のない狡噛の怒号。叫び、絶叫と例えるのが正しいかもしれない。

 

 

「待て!コウ!」

「狡噛さん!!落ち着い―――」

 

2人の間をすりぬける狡噛。

 

征陸は狡噛を取り逃し、縢も制止に振り切るも怒り狂った狡噛に突き飛ばされてしまう。

 

 

 

「コウ!!落ち着け!落ち着くんだ!コイツらを殺したら…」

「舞白を手にかけたコイツらを殺して何が悪い?ドミネーターで裁けないなら俺が殺す。」

 

恐怖に怯える男の髪の毛を掴み、狡噛は容赦なく殴りかかった。

 

「狡噛さん!やめてください!!狡噛さん!!!」

 

止めに入ろうとする常守を逆に制止する征陸。下手をすれば常守に被害が及ぶ可能性も考えられる。

 

 

「ゲホッ……ガハッぁ!」

「あぁ?もう終わりか?……お前から殺してやる―――」

「ぅ……ぅぅううう……!」

 

男に馬乗りになり、遂に首元に掴みかかる。

真っ赤に血走る狡噛の瞳。兇悪な野性が久しぶりに面上いっぱいに漲り出していたのだった。

 

「こ……こーちゃ……」

「……クソっ……」

「狡噛、さん……ッ……やめてっ……やめてぇぇぇええ!」

 

"こんな事をしても妹は喜ばない"

常守は舞白の無邪気な笑顔を脳裏に浮かべると反射的に大声を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろ!狡噛!」

 

 

刹那、狡噛の身体に飛びかかる人影。2人は砂浜に体を投げ出し、怒りに狂う狡噛の上に伸し掛る。

 

それは現場に急行していた非番の宜野座だった。

 

 

「離せ!……離せ!ギノ!!」

「やめろ!お前がその手で人を殺してみろ!舞白はどうなる!?」

「くっ…………クソッ……」

「縢!征陸!手を貸してくれ!」

 

宜野座の呼び掛けに2人も狡噛を止めるべく走り出す。砂浜に体を押えられ、狡噛は為す術なく力を抜く。

 

 

「……コイツらは…舞白に…ッ…。俺の妹に!!」

 

 

狡噛の視線の先に傷ついた舞白の姿が映る。

悔しそうに強く唇を噛み締め、鮮血が口の中に広がっていく、

 

 

 

しかしその悔しさを滲ませるのは狡噛だけでは無い。一係全員……そして舞白の事を兄の次によく知る宜野座も憤怒の色を浮かべていた。

 

「……く……舞白……」

 

 

いつもの無邪気な彼女はいない。

屍のように横たわり、その姿は見ていられないほどに酷いものだった。

 

 

 

 

 

常守は横たわる舞白を見据える。

色相はゴーストホワイト、犯罪係数はアンダー20。

この状況で不思議なほど濁らない色相を不思議に思っていた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

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