White and white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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兄としてできる事

 

 

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紙の本を片手にソファに腰掛ける白銀の男。

ふと傍らのモニターに視線を向けると僅かに口角が持ち上がった。

 

 

 

「――"上手くいったみたいだね"」

 

 

 

窓の外には静かな夜が舞い降りる。

高層階から見える都心の景色は煌びやかで今にでも騒がしい音が聞こえてきそうだが今夜はやけに静かに感じる。

 

目的を果たした男は満足気だった。

 

 

「全て計画通りに。公安もマヌケな連中が多いみたいで助かりましたね?"槙島さん"」

 

 

傍らに佇む狐目の男。

その男もどこか満足気に微笑を浮かべていた。

 

 

「残念ながら被害は防げなかった。……だが、機転の利く兄妹という事が改めて分かったよ。」

 

パタンと本を閉じると槙島の視線は手元から目の前のモニターに向けられた。

重厚なソファに身を沈めたままじっとそれを見据え、表示される様々な情報に目を通す。

 

今回拘束された男たちのデータ、花橋咲良――そして狡噛舞白の色相変化など。中には音声データも残されていた。

 

 

高度な技術で作られた飛行型ドローン。それはハッキリと現場に乗り込む瞬間の狡噛達の姿や音声が鮮明に撮影、録音されていたのだった。

 

興味深そうにそれを覗き込む狐目――"チェ・グソン"

 

同時に槙島がピックアップした音声も流れ始めた。

 

 

 

『―――救助を求めるなら通信以外の手段もあった。なのに何故……花橋咲良は通報に拘った?』

 

 

鋭い視点。

"ある異変"に気づいた狡噛のその言葉に槙島は更に喜びを浮かべているようだった。

 

 

「ほう……。なかなか鋭いですねえ?この狡噛って男。」

「狡噛慎也もそうだが妹の方も予想以上に勘がいい。土壇場で発揮した行動力は並大抵のものじゃない。」

 

 

あくまでも想定内の結果だが想定以上の兄妹の行動に正直驚いていた。

 

咄嗟のSOSに気づいた兄。危険を犯しながらも親友を逃がし、機転を働かせ死を免れた妹……

 

 

 

 

「桜霜学園の時もそうだったが……今回も実に面白かったよ、狡噛慎也。」

 

 

槙島はデバイスを操作し、モニター画像を切替える。すると今度は事細かに記録されている舞白のID情報が映し出されると再びそれに目を通す。

色相、犯罪係数……定期的に計測されていたその数値と色を目にした2人は興味深そうに見据えていた。

 

 

「…この娘。あんな状況でも色相はクリアカラー…おまけに数値も10以下。槙島さんとそっくりですね?」

 

顎に指を添え興味津々にモニターを見つめるグソン。見覚えのある数値や色に槙島を重ねる。

 

 

「ああ、実に興味深いよ。」

 

 

槙島の白く長い指がモニター上の舞白の写真に伸びる。なぞるように指を這わせれば男は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

「さぁ……次はどんな舞台で君たちを饗そうか?_狡噛兄妹"」

 

 

 

 

 

 

 

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――時は流れ――

 

 

 

海岸での悲惨な事件から5日が経過。

 

被害に遭った咲良は色相が元に安定し、特に大きな外傷もなく自宅にて療養。夏休みという期間が幸をなし、舞白以外の学校の友人たちには何も知られることは無かった。

 

そして大ダメージを受けた舞白。怪我の状態も酷く、緊急手術を行うまでになってしまったが命に別状はなかった様子。かといって直ぐに日常生活が送れるはずもなく公安局管理下にある病院にて入院する事に。

 

懸念されていた"精神的ダメージによる色相の大幅悪化"。

 

しかし当の本人はその様子は一切なく、何食わぬ顔でいつも通り過ごしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

"桜霜学園の標本事件"と同じく、報道規制がかけられ事件は

公になることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

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――中央区 日本橋

帝都大学付属病院 病室――

 

 

 

 

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「――だからいい加減にしてよ!」

 

 

 

とある病室から少女の怒鳴り声が響き渡る。病室外の廊下ではそれを耳にする職員達が歩いていたが"今日もやってる"なんて笑いをうかべるものまで現れていた。

 

しかし常守は違った。

"まただ"と若干呆れ顔で病室の前で立ち尽くすと小さく息を漏らす。そして扉のロックを解除すると2人の姿を確認した。

 

 

 

「言うことを聞け、舞白。」

「絶対嫌」

「………………」

「そんな怖い顔したって私は怯まないよ?お兄ちゃん。」

「舞白」

「いーーや」

 

 

何やら揉め合う兄妹。

病室のベッドに横たわり、そっぽを向く妹。そしてそれを"怖い顔"で見下ろす兄。しかし常守はその光景に微笑ましささえ感じてしまう。

 

 

「今度は何で揉めてるんですか?狡噛さん。」

「こいつが…」

「"こいつが"って……私が悪いみたいな言い方……」

 

ベッドの傍らの椅子に腰掛ける兄を見据え口を思いっきり尖らせる舞白。相変わらずの兄の言動に呆れていたのだった。

 

 

 

 

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仕事の合間に現れた常守と狡噛。

少しでも舞白のそばに居たいという兄の狡噛の思いを理解していた常守は快く病院へと同行していたのだった。

 

 

 

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「だから、お前はまだ怪我してんだから大人しく…」

「手はそこそこ動くから大丈夫だってば!せっかく流動食卒業して今日から普通のご飯なのに〜!」

 

 

言い合っていた原因はコレだ。

舞白の昼食が病室に運ばれてきたものの、それを食べずらそうにしていたのを見ていた狡噛は"自分が食べさせる"と聞かないのだ。

 

妹からすれば兄にそこまで面倒を見られるのは最悪だった。それに歳も離れているからこそ、やけに恥ずかしく感じてしまう。

 

いい加減止めてと何度も訴えるも器を手に持ち、スプーンですくえば口元に持っていく。

 

 

「常守さんも居るんだし本当にやめてよ……」

 

「関係ない。ほら口開けろって」

「…………」

 

予想外すぎる光景にクスクスと笑みをこぼす常守。全く引かない兄に埒が明かないと分かれば顔を真っ赤にして、狡噛が差し出すスプーンを口に含む。

 

 

「仲良しですね?」

 

 

正直、常守はこの光景を嬉しく思っていた。

 

どちらかというとクールで普段から何を考えているのか未だに掴めない"執行官"の狡噛。しかし今は"良き兄"として妹の面倒を見る狡噛の姿。

なかなか見られない素の姿を目の前に、自然と常守の表情も穏やかだった。

 

「((きっと……お互いに信頼しあってる兄妹。))」

 

"こうやっていつも一緒に過ごしていたいはず。"

 

仲睦まじい2人を穏やかに見守る。

 

 

 

 

常守はベッドの脇の椅子座り、大人しく昼食を"食べさせられる"舞白に視線を向ける。兄に介助されながら摂る昼食。さすがに恥ずかしさは隠しきれない。

 

 

「…本当に。お兄ちゃんって過保護すぎ。」

 

文句を言いつつも昼食を完食する舞白。数日間、水か流動食しか口に入れられなかった舞白はどこか満足気だった。

 

 

 

 

 

「何か他に必要なものはあるか?」

「あれば自分で用意するし、大丈夫だよ。」

「遠慮するな。明日も昼前に来る。」

「本当に大丈夫だよ?仕事もあるだろうし、必要なものは十分すぎるくらい揃えてくれてるし…」

 

大きく首を横に振れば、申し訳なさそうに眉を顰める舞白。これ以上兄を振り回すことも本人は望んでいなかった。

 

 

「ある程度、好きな物も食えるって医者は言ってた。……ほら……お前の好きなプリンとかケーキでもなんでも…」

「だから大丈夫だよお兄ちゃん……それに病人がいきなりそんなもの食べられないよ……」

 

常守から見ていても過保護すぎる狡噛。その過保護ぶりに呆れ返る舞白の気持ちも少し分かる気がする……。

 

だか狡噛のその言動はある意味贖罪とも取れてしまう。

 

"妹を守れなかった"

――口にはしないものの常守は分かっていた。

 

 

 

 

事件後、狡噛らしからぬ行動を幾度となく目にしてきた。

 

"できる限り舞白の傍に居たい"と。監視官である常守と宜野座に頭を下げてきたのだ。執行官一人で公安局ビルの外……この病院には立ち入ることができない。監視官の服務規程として執行官の外出時には必ず同行するという決まりがある。狡噛が舞白に会うためには常守や宜野座、もしくは他の係の監視官の"監視の目"が必要不可欠なのだ。

 

 

そんな狡噛の行動に常守は快く協力することを決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狡噛さん。そろそろ時間が…」

「……ああ。そうだな。」

 

申し訳なさそうに部屋の時計に目を向ける常守。ほんの一瞬、狡噛の表情が寂しい色を見せるがそれはすぐに消え失せた。

 

 

 

「舞白。ちゃんと医者の言うことは聞けよ?」

「当たり前でしょ?」

「好き嫌いするなよ?ニンジンも食え。」

「…………」

「返事は?」

「ハイ。」

 

はいはい、と呆れたように苦笑いを浮かべる舞白。その表情の奥底の微細な本音は"寂しさ"を感じさせる。

 

兄と当たり前のように話せるこの空間が心地よく、愛おしいのだ。

 

 

 

「何かあれば都度連絡を入れてくれ。俺が行けなくても常守監視官とギノが来てくれる。」

「はい。いつでも頼ってくださいね?舞白さん。」

「……ありがとうございます。」

 

ベッドの傍の椅子から立ち上がる2人。

 

病室から出ていこうと常守が扉に触れたその時――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あっ……あの!」

 

「何だ?」

「はい?どうかしましたか?」

 

 

突然声を上げる舞白。

その声色はどこか遠慮気味で、まるで躊躇しているようにも感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノブに……、宜野座さんには…できれば来て欲しくないんです。」

「「……」」

 

陰を含んだ、しこりに触れられたような沈んだ微笑。"へへへ……"と後頭部を擦りながら放った言葉からは彼女の本当の本音が聞こえていた。

 

"宜野座には来て欲しくない"

 

その言葉の意味。狡噛はハッキリと理解していた。

 

 

 

 

 

 

「……分かった。」

「え……っと……舞白さん?」

「常守監視官。何かあった時はあんたを頼らせてもらうよ。」

「はっ……はい!いつでも呼んでください――」

 

 

常守は理解出来ず呑気に口を開く。

それ以上舞白に言葉を発させまいと、狡噛は常守の腕を引き病室を後にした。

 

 

 

残された舞白の表情は誰にも見せたことの無いような苦しげな顔をしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

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「――今日も助かった。礼を言わせてくれ。」

 

 

沈黙が続いていた車内で狡噛が口を開く。

常守はハンドルをぎゅっと握ると、半ば申し訳なさそうに首を振った。

 

 

「そんな……お礼だなんて。執行官の外出に同行するのは監視官の服務規程ですよ?それに私も舞白さんが心配ですから。」

 

 

服務規程という言葉は建て前だ。常守自身も舞白の事を気にかけている事実。

 

そして常守の脳裏に先程の光景が浮かぶ。舞白が見せた笑顔の裏の哀しい顔。そしてあの台詞――

 

 

 

 

 

「あの……舞白さんが帰り際に言ってたあの言葉。どういう意味なんですか?」

「……意味?」

「はい。宜野座さんには来て欲しくないと……」

 

常守は理解できなかった。

舞白と宜野座が不仲だと言うことも聞いたことは無いし、寧ろ兄の長きに渡る友人でもある相手になぜその言葉を放ったのか。

 

 

 

「そのままの意味だ。単に"ギノには会いたくない"。そういう事だ。」

「でも舞白さんと宜野座さんって幼馴染なんですよね?たまに宜野座さんがご自宅に伺ってるって聞いたこともありますし。……仲が悪いとか……そういう事ではないと思うんですけど…」

「……監視官。あんたは"そういう事"に疎いのか?」

「"そういう事"?」

 

再び流れる沈黙。

眉を顰め、必死に今までの言葉を整理する常守。

 

すると途端になにか閃いたと言わんばかりに目を見開けばひとつの答えに行き着く。

 

 

 

 

 

「――――って……えぇ!?」

「…………"そういう事"だ。」

 

 

狡噛が言う"そういう事"。

それは男女の関係を意味する事だった。

 

 

「舞白さん……宜野座さんの事?」

「ギノはあいつの事を俺同様に"妹"としか見ていないだろうが……まあ俺が踏み込むことでもないし、俺がギノに確認することでもない。」

「……そう…だったんですね。」

 

 

宜野座の事を想う舞白の本音。

俄に信じ難い内容だが、本人の兄がそういうのであればほぼ間違いないのだろう。

 

 

 

「舞白は普段から陰の感情はあまり表に出さない。平然を装って笑ってるが、心の奥底は何を思ってるか大体想像がつく。」

「…………はい。」

「あんな事件の後だ。触れる気は無いが心身ともに傷ついているのは間違いないだろう。」

「……はい。」

「しかもあの現場にギノも現れた。"あの姿"を見られたと思ったら余計に顔も会わせたくないだろうな。」

「………」

 

 

凛とした少女。知的で実年齢よりも遥かに大人びている少女。とはいえまだまだ子供だ。心配をかけたくないと本音を隠す舞白に対し2人は苦しそうに眉を顰めた。

 

 

 

 

 

 

「……狡噛さん、今回の事件は…」

「この前の桜霜学園の事件と同じ。マキシマが関わってると俺は考えてるさ」

「え…?」

 

「臭うんだよ。どうも…」

 

刑事の勘。猟犬の嗅覚は鋭い。

 

 

 

「もうこれ以上舞白に嫌な思いをさせたくない。」

 

 

助手席の窓から外を眺める狡噛。

ふと窓に反射する自分の顔を見ては、唇を強く噛み締めた。

 

 

「俺にできる事。兄として精一杯、あいつの為に何だってやってやりたいんだ。」

 

 

 

 

 

 

「――その為なら、命なんざ惜しくない。」

 

 

 

唇に赤い血が滲む――

 

 

 

 

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