White and white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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面会許可

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

――六本木ヒルズ タワーレジデンス 最上階

 

 

 

 

 

東京の景観が一望できる超高層・高級マンション。一定の高所得が無ければ普通の一般人は縁のない住居だろう。

 

そこに咲良は住んでいた。

 

 

 

「――だから何度も言っているだろう!?うちの娘はまだ事件の傷が癒えていない!それを無理やり思い出させるようなことは――」

 

リビングに響く父親の怒号。ここ数日間、ずっと父親の様子がおかしい。話を聞く限り自分に聴取を行いたいと公安局の関係者が頻繁に父に交渉をしている様子だった。そしてその傍らでは心配そうにそれを見守る母の姿――

 

 

「…………」

 

咲良はリビングに繋がる扉を少し開けて隙間からその様子を覗き込む。

 

 

「もし色相が悪化すれば厚生省が責任をとれるのか!?娘の将来にも響く!責任を取れるのかと聞いている!!」

 

 

声を更に荒らげる父。

娘を思う父親なら当たり前の言動だろう。

 

 

「((……もし……私が話したら……))」

 

咲良は全てを話したかった。あの男の指示だと。しかし自らアクションを起こすことはできない。それは家族の死を意味する。

 

そして今度こそ……舞白は殺される。

 

 

「((……どうしたらいいの……私は……っ……))」

 

どこでどのように監視されているのか分からない今、下手に動けない。もどかしくてたまらなかった。

 

 

 

 

 

「―――何!?禾生局長が?……くっ……」

 

刹那、父の様子が変化する。何やら他の人物の横槍が入ったらしく従わなければならない雰囲気だそうだ。

 

 

 

「……その代わりこちらから条件を出させてもらう。面会時間は10分、面会者は女性に限らせてもらう。もし直接的に娘を傷つけるような言動をすれば即厚生省に申し入れをさせてもらう!いいな!?」

 

 

そして乱雑に通話を終わらせる父親。

少し呼吸も荒く、娘の身を案じている証拠だった。

 

 

「…あなた……咲良ちゃんは…」

 

すかさずそばに居た母親が父親の腕を掴む。傍らで聞いていた会話の内容からしてかなり心配していた。

 

 

「明日、公安局の人間が来る。客間を用意しておいてくれ」

「そんな!咲良ちゃんに事件を思い出させるなんて!」

「俺も同じ気持ちだ!」

 

 

刹那父親が母親の手を振りほどく。

ここまで荒れる様子の父親を初めて見て母親は驚きを隠せない。

 

 

「"公安局局長"からの命令だ。―――さすがにこちらも無視はできん。会社も絡まれたら厄介だからな。」

 

 

 

咲良はそっと扉を閉めると自室へと踵を返す。その表情は微かに歓喜を帯びていた。口元は弧を描き、興奮しているような状態だった。

 

体に熱が篭もる。ふつふつと湧き上がる希望―――

 

 

 

 

「((これはチャンスだ。―――どうにかしてでも伝えないと……!))」

 

 

"公安局の人間が来る"今回のことを伝える唯一のチャンス、希望。

 

 

―――しかしどうやって?

 

 

 

自室へ戻ると椅子に座り必死に考える。机に両肘を付き、こめかみを指でトントントンと何度も叩いた。

 

 

「((考えろ、考えろ……バレずに伝える方法…))」

 

 

暫く机に頭を突っ伏し考え込む咲良。

どこにあるか分からない監視の目。盗聴もされているのは間違いない。この家の警備は他の住居に比べてかなりの高高度だ。自室は無いにせよ共有スペースにはカメラも多く存在する。客間にも勿論防犯カメラは存在していた。

 

警備ドローンに介護ドローンも複数台。あの男はそれをハッキングしている可能性もある。

 

自分たちを守るはずの監視の目が今仇となっている状況。

 

―――さあ、どうする―――

 

 

 

 

「((客間の形状、テーブルの位置―――関係者が座るとなればこの位置……))」

 

スラスラとメモ用紙に何やら図形を書いていく咲良。言葉は発さず脳内で何度も言葉を呟き、メモに記していく。

 

 

 

 

 

 

そして咲良は閃いた。

バレずに、関係者に伝える方法を―――

 

 

 

 

 

 

 

「((―――あった、…あの方法なら上手くいく…))」

 

 

 

面談相手は恐らく公安局の監視官、エリート中のエリートに違いない。この方法なら必ず気づいてくれるはずだ。

 

咲良は期待を抱き、早速準備を進める―――。

 

 

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―――公安局ビル 執行官宿舎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面会許可が下りただと?」

 

殺風景な狡噛の自室。

微かに煙草の匂いが漂うその部屋に2人の姿があった。

 

 

 

宜野座はつい先程の出来事を簡潔に狡噛に伝える。

花橋咲良の面談が可能になったのだ。

 

 

「ああ。つい先程俺が花橋咲良の父親に連絡をした。…ここ数日間毎日連絡したが突っぱねられて大変だったが……」

 

そして狡噛は食いつくように宜野座に詰め寄る。そして相手の両肩を掴むと懇願するように声を上げた。

 

 

「ギノ。俺に行かせてくれ。俺が花橋咲良の聴取を―――」

「残念だが先方は女性相手でないと許諾しなかった。…よって常守と六合塚に行かせると既に決めてある。」

「……ったく。用心深いんだか何だか……事件捜査に協力する気はハナから無いって事だな。」

「仕方ないだろう。お前が妹を想うのと同じだ。相手も娘を苦しめたくないと、できるだけ最小限のダメージて済ませたいんだ。」

 

歯切れの悪い相手の回答に狡噛はため息を漏らす。そして傍らのソファに腰を下ろすと、再び煙草に手を伸ばす。

 

 

 

「心配するな。常守と六合塚なら上手くやる。」

「………」

 

どこか納得いかない様子の狡噛だったが仕方ないと察すると煙草に火をつける。自分自身の気持ちを抑え込むように煙を吸い込みそのまま吐き出した。

 

宙に揺らぐ白い煙。

それをじっと見据え、狡噛は口を開く。

 

「しかし……よく頑なに断ってた相手が折れたな?一体どんな手を使ったんだ?」

「―――公安局局長命令だと。」

「何?局長が動いたのか?」

 

 

"どういうことだ?"と言わんばかりの反応を見せる狡噛。ソファの背もたれに預けていた上半身を勢いよく立たせる。

眼鏡を外し、疲れた様子で眉間に指を添える宜野座に視線を送る。

 

 

「……という"嘘を"ついた。」

 

宜野座の予想外の言葉に噎せる狡噛。下手をすれば自分のキャリアにヒビを入れる危険な行為だ。

 

それにそんな事をするような奴ではない。

狡噛は驚きを隠せずにいた。

 

 

「何か起こったら責任は全部お前に降り掛かるぞ、ギノ。」

「勿論そのつもりだ。最善は尽くす。」

「………何だよ。お前がそこまでするなんて珍しい。」

「言っただろう。俺も舞白が大事だと。」

 

その言葉に小さく笑みを零す狡噛。

雑でハイリスクな行動ではあるがそれで一歩進むことができる。珍しい荒っぽい宜野座の行動は狡噛にとって可笑しくて堪らなかった。

 

 

 

 

 

「その様子だと……舞白になにか吹き込まれたな?」

「別にそういう訳じゃない。」

「お前から連絡したのか?」

「いいや、違う。舞白から連絡が来たんだ。……そもそもあの事件の後、あいつは俺に会いたくないと言っていたのも知ってるさ。」

 

宜野座はコーヒーの入ったマグカップを手に取り口に含む。苦味の強いブラックコーヒーが喉を滑り落ちると一時的目が冴える。小さく息を漏らすと日頃の疲れが蓄積された目元に再び手を添える。

 

まるで自分の表情を狡噛に隠すように俯いたのだった。

 

「……」

 

そして狡噛は察していた。恐らく舞白に何か言われたのだろうと。そうでもしないと"あの宜野座"がここまで動くはずがなかった。

 

 

 

 

「まあそういう事だ。また内容は共有する。」

「ああ、了解だ。」

 

宜野座は椅子から立ち上がり出入口へと踵を返す。そして扉のロックに手をかけたその時、背後から狡噛が声を投げかけた。

 

 

 

「ギノ。」

「何だ?」

「…すまん。感謝してる。」

「…………」

 

"すまん"

その言葉に様々な思いが隠されている事に宜野座は理解していた。

 

 

 

 

「本当に。お前ら兄妹には手がかかって仕方ないさ。」

 

 

宜野座はその一言だけを残し部屋を出ていく。

狡噛もまたその返答に微かに口角を持ち上げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

―――同日 新麻布学園

 

 

 

 

 

 

 

「また明日ね!舞白!」

「うん、また明日!」

 

クラスメイトに手を振る舞白。教室で久しぶりに再会した仲間たちと話を弾ませいつもと変わらない日常を取り戻していた。

次々と帰路に着く為に教室を後にする仲間達、舞白はひとり教室に残り今日の授業内容をまとめたデータを咲良に送信する。

 

 

 

 

「咲良、…元気かな…」

 

暫く返事が来るかもしれないと淡い期待を抱くも、いつも通り特に返信はない。夕暮れに染まっていく教室にひとり寂しく残る舞白。何の音沙汰のないデバイスをじっと見据える。

 

相変わらず連絡は何も無い。電話もここ数日は舞白からもすること無く、静かに待ち続けると決めていたのだった。授業の内容を送るのはあくまでも手段のひとつとして、きっかけ作りに過ぎない。

 

 

橙色の空が少しずつ夜の訪れを告げる。

待っても待ってもやはり返事は無い―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そろそろ帰ろうかな。」

 

 

席から立ち上がり鞄を手にしたその時、デバイスからメールの通知音が響く。舞白は反射的に直ぐにそのメールを開くと嬉しそうに頬を緩ませた。

 

 

 

送り主は咲良。

久しぶりの返信になんとも言えない気持ちが込み上げる。

 

 

 

 

 

"ありがとう"

 

たったその一言。

それだけでも嬉しくてたまらない。

 

 

「……咲良……」

 

 

 

ふと彼女の名前を呟く。

 

落ちつきはらったような目でデバイスを眺めていた。それは本当に落ちついた感情の乱れを感じさせない穏やかな視線だった。

 

 

 

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