White and white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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足元の信号

 

 

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―――翌日

六本木ヒルズ タワーレジデンス――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…すごいマンション…ですね。」

「都内で1番の高層マンション。それなりの収入や格式のある人しか住めない場所で有名ですからね。」

 

 

見上げれば見上げるほど目が回りそうだ。

今の時代、高層ビルなど無限に立ち並んでいるようなものだがこの場所は違う。佇まい、雰囲気……周りの環境や行き交う人々が纏う空気……明らかに空気感が違う場所に常守は息を飲む。

 

 

 

 

 

 

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入口の警備を通過し、専用のエレベーターに乗り込めば最上階へと目指す2人。

残された僅かな時間で2人は今回の聴取準備の再チェックを行う。

 

 

「六合塚さん。録音用のマイクロマイク、色相チェッカーの用意は…」

「はい、もう準備済です。」

「それと聴取の同意書……それと―――」

 

初めての経験に落ち着かない常守。

シビュラ適性で監視官に任命されたとはいえ、まだまだ青いのには変わりない。そんな相手を六合塚は安心させようと笑みを零す。

 

 

「大丈夫ですよ常守監視官。そんなに緊張しなくても……」

 

重要未解決事件の重要参考人の聴取。それに相手は国の関係者の令嬢だ。

時間はたった10分。限られた状況の中でどれだけの動きができるかは自分にかかっている。緊張して当たり前だった。

 

 

「…すみません、私監視官なのに…」

 

"はぁ〜"と不安そうにため息を漏らす常守。その反面六合塚は口角を緩める。

 

「いざと言う時に力を発揮するのが常守監視官の強みでは?」

「そ……そうでしょうか?」

「じゃないと狡噛にパラライザーなんて撃てませんよ。」

「うっ―――」

 

 

六合塚は冗談交じりで、まるで茶化すように常守に言い放つ。あくまでも緊張をほぐそうとしている優しさなのだろうが常守は再び嫌な記憶を甦らせ、ため息を漏らした。

 

そしてその時、エレベーターは目的階にたどり着く。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いていきましょう、常守監視官」

「はい……六合塚さん。」

 

常守と六合塚は目を合わせて頷く。そしてエレベーターから降り立ち、既に待ち構えていた花橋家の家政婦に案内されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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「((ここが……家?))」

 

 

最上階の邸宅は異次元だった。

ホログラムの装飾もあるとはいえ、まるでここは博物館や美術館を思わせるような景観。その光景が余計に常守の緊張感を高ぶらせる。

 

 

 

 

そして案内された部屋は大きな会議室のような客間。

 

高級そうな木製の木彫りが施されたテーブルに重厚感のある椅子が並べられていた。

 

既に部屋に待機していた2人の人物。

花橋宍道、そして花橋莉佳子。パッと見厳格そうな父親に穏やかで優しそうな雰囲気を纏う母親。

 

常守と六合塚は深々と頭を下げ、そんな2人に視線を向けるのであった。

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

 

 

「―――常時。咲良さんの色相はチェックしています。もし少しでも色相に変化が現れれば即時聴取は中止。聴取時間は10分を厳守……無理強いをするような聴取は実施しません。」

 

常守の説明に父親は険しい顔つきで2人を睨む。母親はそんな父親を宥めるように声をかけていた。

 

 

「もし、娘に何か起こったら局長を通して抗議するからな。」

 

 

父親の視線、声色、態度。さすが国のドローン開発を担う会社の代表だ。言葉の重みが常守に伸し掛ると僅かに肩を揺らし動揺を見せる。

 

 

そして鋭い眼光を向けられた後、部屋を出ていく父と母。それと入れ替わるように現れたのは花橋咲良と思われる人物。

 

 

「((あの子が花橋咲良―――))」

 

 

長い栗色の髪の毛。淡い水色のワンピース。パッと見の第一印象はまるで小動物のようなかわいらしい印象の女の子。舞白とは対象的な女の子らしさを感じさせていた。

 

 

 

しかし顔色は悪く窶れた様子だ。過去の写真と比較しても明らかに窶れているのが分かる。それに酷く痩せ、目には色を感じない。

 

 

「……監視官。色相チェッカーを作動させます。」

 

小声で隣の六合塚が呟く。

色相チェッカーを起動させると瞬時に彼女の色相をとらえる。

 

色は"プラム"

灰がかった薄紫色。それは若干の濁りを意味し、悪い状態であることは直ぐに確認できた。

 

 

対面側の席にたどり着く咲良。

すると常守と六合塚は席から立ち上がり自己紹介をする事に。

 

 

「こんにちは、花橋咲良さん。私は公安局刑事課一係、監視官の常守朱です。」

「同じく刑事課一係所属 執行官の六合塚弥生です。」

 

咲良に一礼する2人。

そして咲良も向かいの席の椅子に手をかけ、口を開いた。

 

「花橋咲良です。短時間ではありますがお役に立てれば幸いです。……よろしくお願いします。」

 

 

虚ろな瞳。舞白と一緒に写っていた写真とは全くの別人だ。彼女の微細な雰囲気を察し、常守は優しい声色で喋り始める。

 

 

「もし話してる最中とか体調に異変を感じたらすぐに言ってくださいね?

こちらであなたの色相は常に見させてもらっていますから。」

「遠慮せず。直ぐに言ってください。」

 

 

2人の優しい雰囲気に少し安心したのか咲良はゆっくり深呼吸した。そして椅子に腰をかけ小さく頷く。

 

合わせて常守と六合塚も席に座る。

咲良はテーブルに置かれたコップに手を伸ばし水を口に含み、金鳥を解すように口内を潤した。

 

 

 

 

「((心拍数が異常に早い。……緊張なのか恐怖なのか―――))」

 

 

六合塚が色相チェッカーを見ると同時に心拍数が異常に跳ね上がる様子を確認した。表情は変わらずとも心の奥底では緊張や動揺を間違いなく見せていたのだった。

 

 

「咲良さん、まずは当日の―――ッ!」

 

 

常守が話を始めようとしたその時。

咲良が手にしていたコップが緊張のせいか手から滑り落ち、テーブルの下へと転がっていく。

 

 

 

「あ……すみません、私ったら…」

 

「いいえ、大丈夫ですよ?緊張しますよね…」

 

転がってきたコップを拾うために常守は机の下へ屈む。高級そうなペルシャ絨毯に水の跡が染み込んでいた。ふとそれを見た時、常守はある異変に気づく。

 

 

トン、トントントン、トトン、トン…

 

不規則なリズムを足で刻む咲良。足の震えなどでは無く明らかに意図的に刻まれていた。

 

 

「((…これって…もしかして……))」

 

―――モールス信号?

 

 

 

常守は咄嗟に自身に着けていたマイクロマイクを咲良の足元近くに投げ込む。瞬時にそのマイク音とデバイスを繋ぎ合わせ、解読していく。

 

その時間、僅か数秒。

 

 

 

 

 

「((…この、まま、…話を…つづけて))」

 

 

咲良のモールス信号を読み取り、コップを拾いあげればすぐに席に戻る。

常守の機転が上手く働いた瞬間だった。

 

 

 

「…えっと、じゃあ気を取り直して…」

 

六合塚も常守の様子に気づくと静かに隣で証言のメモを取り始める。何も気づいていないふりを演じ、咲良への聴取を計画通り進めていく。

 

 

 

「あの日、咲良さんはなんで舞白さんの家に?」

「…恥ずかしい話、夏休みの課題が終わらなくて。舞白も夏休みは部活で忙しくてあまり会うことも出来なかったし、お互い空いていたあの日に遊びに行ったんです、課題も手伝ってもらおうと。」

「麻布学園の夏休みの課題。確かに想像しただけでも大変そう…」

 

 

常守は笑顔で受け答えをする。咲良とまた平然を装い、ただの年頃の女の子らしい会話を口にしていた。

 

しかし穏やかな雰囲気で聴取は続いているはずなのに相変わらず咲良の心拍数は上がりっぱなしだった。明らかに様子がおかしいことが見て取れる。

 

 

「――夏休みも終わりかけで、お互い何も思い出も作れなかったから花火でもしようと思って……父に頼んで本物の花火を買ってもらったんです」

 

六合塚が現場に残されていた花火の情報を常守の前に映し出す。成分表や作られた月日まで細かに分析された情報。バーチャルでは無い本物の火薬を使った花火に常守は特に疑う様子もなく喋り続ける。

 

 

「バーチャルじゃない花火なんて珍しい。手に入れるのも難しかったはず。すごいお父さんですね?」

「……はい。」

「ちなみにこの大型の打ち上げ花火も?」

 

今の時代、花火などの嗜好品は基本的にホログラムが主流だ。環境の観点や危険、様々な面から見てもホログラムの方が利点が多い。そもそも本物の大型の花火まで手に入れるのは簡単ではないはずだ。

 

「打ち上げ花火は私が購入しました。さすがに父は危ないからとそこまでは用意してくれなくて…内緒で自分で購入しました」

 

舞白の居場所を教えてくれた重要な役割を果たした打ち上げ花火。そして大量に撒かれていたライター。常守は引っ掛かりを覚えるもあえてそれを口にしなかった。

 

 

「遊びたい年頃だものね?私も昔似たことをしたことがあるわ」

「そうなんですか?六合塚さん。」

「火遊びほど危険で楽しいものはないですよ。監視官。」

 

六合塚がニコリと優しく笑みを向けると咲良もつられるように小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

その後、あの場所を見つけた方法や何気ない2人の関係を聞く。

刺激を受けさせないように細心の注意を払い、彼女の話を聞き続けた。

 

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈

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―――10分経過

痺れを切らして部屋に入ってきたのは父親だった。

 

 

 

 

「聴取は終了だ、お引き取り願おう」

 

 

父親の言葉に頷く2人。

直ぐに席から立ち上がると常守と六合塚は手際よく機器などを片付け始める。

 

そしてふと、六合塚は持っていた色相チェッカーを手から滑り落とす。それは机の下へと落下し、その動きを利用して咲良の足元に置いていた小型マイクを回収し、懐へと隠し入れる。

 

 

 

 

 

「貴重なお時間、ありがとうございました」

「ありがとうございました。」

 

常守と六合塚は深々と頭を下げる。そしてこれ以上、ことを荒立てないようにと足早に玄関へと向かう2人。

 

 

 

その時背後から少女の声が2人を止めた。

 

 

 

 

 

「―――あの!常守さん!六合塚さん!」

 

 

必死に懇願するような少女の声色。

傍らでは両親が咲良を制止するように手を伸ばし、心配そうに眉を顰めていた。

 

「咲良。もう部屋に戻っていなさい…」

「そうよ、無理したらダメ。もう聴取は終わったの。」

 

 

それでも咲良は引き下がる様子は無い。2人の制止を振り払い、常守と六合塚へと駆け寄る。

 

 

「咲良さん……」

「ッ……あの、……あの!」

 

必死に胸元に手を添え、喉から言葉を絞り出そうと必死だった。

 

何かに惑い、何かを口にすることを恐れているような。ただならぬ雰囲気を2人は察していた。

 

 

 

 

 

「…舞白を……よろしくお願いします。」

「「…………」」

 

最後に深々と一礼する咲良。

それを見た2人も再び一礼すると邸宅を後にする―――

 

 

 

 

 

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明らかな動揺。異変。

たった10分間。だがその短時間でも十分に彼女の異常事態を理解した。

 

 

マンションの外に停めていた公安車両に乗り込む2人。

 

そして常守は先程のマイクを六合塚に手渡すと深刻そうに口を開く。

 

 

 

「…花橋咲良さん。狡噛さんの言う通り何かおかしかった…」

「はい。私も直ぐに気づきました。……あの10分間、彼女は何かに怯え続けていた。明らかに変です。」

「すぐに聴取内容の解析を。それとこのマイク……私の予想が当たっていれば重要な手がかりになります。」

 

「―――すぐに解析します。」

 

 

 

 

あの状況下、常守たちの問いかけに受け答えしながらずっと足で何かの信号を送り続けていた咲良。

これは大きな手がかりに違いない。2人は確信していたのだった。

 

 

 

 

 

「(("舞白をよろしくお願いします。"……あの言葉の意味は……一体……))」

 

最後、去り際に残した彼女の台詞。

余裕なく何かを溜め込んでいるような不安に駆られた表情。

 

 

まるでこの後、自分の身になにか悪いことが起こるような……もしくは舞白の身に何かが起こることを示唆するような……

 

 

常守はこの後起こるであろう嫌な気配を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

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