White and white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
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―――公安局ビル 総合分析室
「――全員集まったな。」
分析室に集う一係の面々達。
モニター側で宜野座が全員の姿を確認すると唐之杜へと視線を送る。
「はいはい。ちょっとお待ちを……」
カタカタとキーボードを指で突く音が静かな分析室内に響き渡る。そして全員の視線は目の前の大型モニターに。数刻前の聴取結果、小型マイクの解析を終えた唐之杜はそれをブラウジングする。
「花橋咲良ちゃんの聴取結果。……それと本題。朱ちゃんが気づいてくれた彼女のモールス信号。ところどころ間違えてるところもあるみたいだけど
言葉が繋がるように修正もかけてみたわ」
モニターに表示されたのは長い文章。所々は単語で繋がっているがしっかりと理解出来る内容だった。
「しかしこの娘。器用にモールス信号なんて使ったもんだな。老耄の俺でもモールス信号なんざ使ったことないぞ。」
「俺なんか何が何だかサッパリっすよ……」
「…受け答えしながら脚でモールス信号を使うなんて普通出来ないわよ?常人じゃないわね、この子。」
「さすが、都内有数のエリート学園の生徒ね。」
征陸、縢。そして唐之杜、六合塚。
それぞれが咲良の器用さに驚きを隠せない。
一体どれだけの下準備をしたのか想像もつかなかった。
「……問題はその中身だな。」
「ああ……」
続けて宜野座と狡噛が食い入るようにモニターに視線を向ける。羅列する文章に狡噛は目を細めながら必死に読み解く。
「…家族を人質に。男から指示、監視。話せない、会社、人間、殺された。
逆らえない―――」
まだまだ長い文章は続いていた。
狡噛は一通り目を引くワードを口にすると口を紡ぎ、溜息を漏らす。その様子を隣で見ていた宜野座は傍らのソファに腰かけ、今まで整理していた内容や聴取内容を取り纏める。
「以前、狡噛が予測していた通りの事態になった。…誰かが花橋咲良を利用して事件を起こさせた。今まで起こっている一連の事件とも紐づく。」
納得したくないが狡噛の予想通りだった。
何者かが人間を操り、事件を起こさせている。八王子のドローン工場、アバター乗っ取り、桜霜学園……考えたくないが全てが繋がる。
「……"会社の人間が殺された"。実際、花橋コーポレーションの社長秘書が数ヶ月前に事故死してる。これは明らかに繋がってる。」
「ああ。お前の言う通りだ、狡噛。」
「問題はここからどう犯人を払い出すか、だな。」
犯人の目星は付いている……が、無闇矢鱈に動けば次の犠牲者が現れる。それは恐らく花橋咲良の関係者だ。濃厚なのは血縁者だろう。
「……あの、いいですか?」
「何だ常守。」
控えめに手を上げる常守。全員の視線が今度は常守に向けられた。
「すぐに花橋咲良さんの家族全員を保護対象者にするのはどうでしょうか?そうすれば―――」
常守の発言にすかさず宜野座が割り込む。
「いいや。犯人像を考える限り下手に動かない方がいいだろう。」
「でもそれじゃ……」
「秘書の事故死が本当に意図的に起こったことと考えるなら尚更だ。制御されていた無人トラックをいとも簡単にハッキングして人を殺めることが出来るような奴だ。危険すぎる。」
「……そんな……」
それ以上言い返す言葉が見つからず、弱々しく言葉を呟く事しか出来ない。宜野座の言う通り、事は単純なことでは無い。それなりの技術を持った人間が背後にいることを考えると高リスクすぎるのだ。
「……為す術無し……って事っすかね?」
「動くにせよ、かなり計画を練らないと本末転倒よ。」
縢と六合塚も完全にお手上げだった。
「この男ってのがマキシマの可能性は?どう思う、コウ。」
征陸は狡噛に視線を向け、その犯人像に関しての可能性を問いかける。狡噛は分析室の壁にもたれると腕を組み、モニターの端に映し出されているピンぼけした槙島の画像に視線を向けた。
「間違いなくこの男だ。まるで人を試すような……自分で手をかけることはなく、他人を操り犯罪を繰り返す。他の事件と同じだ。内容は違えどな」
あくまでも狡噛の勘だ。しかし妙に嫌な気配を感じるのだ。
まるで指揮をするように次々と犯罪を犯す人物像。この白髪の男がそれを行っている、と。
「花橋咲良、及び狡噛舞白が巻き込まれた浜辺での事件。目的は不明だがまた事件を起こす可能性は十分にある。」
宜野座が再び口を開くと新たにモニターに映し出される画像。そこには咲良の自宅の住所や立体図面、防犯カメラの位置情報などが表示される。
「今一番危険なのは花橋咲良とその家族だ。特に花橋咲良に関してはできる限り自宅待機を依頼。近隣の街頭スキャナや警備ドローン、怪しまれない程度に増やす予定だ。」
「全員の行動を制限すれば余計に怪しまれる。通常通り変わらない生活の中で俺たちが支援していくしかない―――という事だな?」
「ああ。そういう事だ。」
宜野座と征陸はモニター前で肩を並べる。そしてここまでの話を纏めるように、宜野座は全員に振り返ると口を開く。
「万が一、花橋咲良が外出した時は状況によって追跡。非常事態が発生した場合は即花橋家全員の保護を実施する。―――相手が何を考えているのか、何を仕掛けてくるのが分からない以上はこちらから下手には動かないように―――」
彼の発言に頷く一同。
それぞれの役割を分担し、指示を出すとさっそく六合塚と縢は部屋を後にする。
「―――ただの愉快犯なのか。それとも別の目的があるのか……読めん奴だな。」
「……別の目的、」
征陸の言葉に敏感に反応する狡噛。
今回、何故舞白を巻き込む必要があったのか。
花橋コーポレーションだけに的を絞るのであれば、秘書の事故死までは理解出来る。舞白を巻き込む理由は全くない。
「愉快犯……ねえ。今回のこのヘルメット、解析したけどなかなかの代物よ?……そう簡単に素人が作れるものじゃないし、もしこれを悪用して事件を起こした時は本当にマズイと思うわ。」
街頭スキャナーを完全に破るヘルメット。色相も人物のIDも読み取りが出来なければこのシビュラ社会では完全に透明人間になれる。となれば、バンザイを犯す事は容易いのだ。
「…一体、何が目的なんでしょうか」
淡々と行われる犯行に苛立ちを見せる常守。
画面に映し出されたマキシマと思われる男の画像に視線を写すと怪訝な様子でそれを睨みつけた。
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