White and white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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分からない孤独感

 

 

・・・・・・・・・

 

 

窓を開けるとさわさわと冷たい風が室内に

 

学校の課題を終わらせ、シャワーを浴び

一息つこうと本を片手にソファに座る

 

相変わらず半袖のTシャツにパイル地のショートパンツ姿

さすがに11月、ひんやりと寒さを感じるも

シャワー後のこの時間が日課でもあり好きな時間だった

 

広いリビングの端に置かれている大きな本棚

舞白は大の本好きでもあり、中学校に入学した際のお祝いにと兄が買ってくれた本棚だった

 

舞白の身長でも1番上の棚が届かないほどの大きさ

無数に並べられた大量の本

純文学にミステリー、戯曲、SF、怪奇小説、哲学書、政治書、ノンフィクション、聖典……あらゆるジャンルを好んでは読んでいた

 

今日手に取っているのは

エーリヒ・フロムの愛するということ

何度も読んだせいか表紙はボロボロになっていた

 

柔らかいソファに沈む体

パラパラとめくる度に独特な本の香りが鼻を着く

それが心地よくていつも眠気に誘われる

 

 

「……"兄弟愛とは、あらゆる他人にたいする責任、配慮、尊敬、理解のことであり、その人の人生をより深いものにしたいという願望のことである"」

 

栞を挟んでいたページを読み上げる舞白

 

その瞬間、パッと手元の本が手から離れると

仰向けに寝転がってた舞白の上に、現れたのは同じ白髪をした男

槙島聖護

即座に舞白の口を手で覆えば笑みを浮かべて言葉を発す

 

「"もし愛する能力がじゅうぶんに発達していたら、兄弟たちを愛さずにはいられない。兄弟愛の底にあるのは、私たちは一つだという意識である"」

 

文章の続きを述べると口を塞いだまま舞白の足の間に自身の膝を乗せ、身動きが取れないように

 

 

「ん……っう!」

 

「エーリヒ・フロムの『愛するということ』、

…僕も何度も読んだ大好きな作品だよ」

 

奪った本をパタンと閉じ

傍らのガラステーブルに乗せる

 

 

「『自由からの逃走』『人間における自由』は読んだことはあるかい?愛する技術は、先天的に備わっているものではなく、習得することで獲得できるとする……まるで君たち兄妹のようだよ」

 

舞白は隙をついて槙島の体を蹴りあげる

想定外の力に驚きよろめく槙島は楽しそうに笑みを浮かべた

 

 

「久しぶりだね、狡噛舞白

お兄さんは元気かな?

……まあ、昨日の夜会ったんだけどね」

 

白いシャツに細身のパンツ、あの時と同じで整った身なり

舞白は相手の動きを警戒するかのように身構える

 

「……私を殺す気?」

 

次は君だ、と言い残した槙島

その言葉を忘れるわけがなかった

槙島は表情を変えず室内をフラフラと歩き出す

 

「そのつもりだったが、ちょっと事情が変わってね」

 

本棚の本に手を伸ばし

パラパラと紙をめくる音が室内に響く

 

「『1984年』『さらば映画よ』『タイタスアンドロニカス』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』……いい趣味をしてるね」

 

その題名を口にしながら、槙島は過去の事件を脳裏に浮かべる

舞白はゆっくりゆっくりと背後に近づき間合いを狭めていく

 

「君も紙の本が好きみたいで嬉しいよ

電子書籍は味気ない、紙に指で触れている感覚や、本をペラペラめくった時、瞬間的に脳の神経を刺激する感覚、精神が調律されるような感覚が堪らなく心地良い、そう思わないかい?」

 

槙島が振り向いた瞬間

舞白の長い脚が槙島に振り下ろされる

 

「ッ……」

 

咄嗟に腕で受け止めるもかなり強い力に顔を歪める槙島

昨夜、兄と手合わせした時の感覚を思い出す

 

「マキシマ……あなたは私が倒す……」

 

容赦なく繰り返される舞白の体術

槙島も本気で応戦するもなかなか怯まない相手に苦戦する

 

花瓶や家具が損傷していき大きな物音も響く

警備ドローンに感ずかれる前にと槙島も容赦しなかった

 

「……っ……なかなかの腕だ、さすが

恐ろしい兄妹だよ」

 

刹那、槙島が舞白の腹部目掛けて蹴りを入れる

ちょうど2ヶ月前に大怪我を負った部位をわざと狙うと

舞白は痛みに怯んでしまった

 

「ぐっ……痛っ……」

 

その隙を利用し、槙島は舞白の腕をつかみ床に叩き落とす

そのまま上に乗りかかればくすくすと笑みを浮かべた

 

「男相手に臆することなく挑むその根性と覚悟は認めよう、でも相変わらず隙が多い、最後のキーを見つけられなかった時のように」

 

その言葉に怒りを露わにする舞白

しかし両腕を押さえられた状態では敵わなかった

 

 

「友が目の前で残忍な死を遂げても濁らない色相、上がらない犯罪係数、そんな自身を薄情だと思ったことは?

……他者と違う事に孤独を感じたことは?」

 

「……」

 

自分のサイコパスは自分が一番分かっていた

幼い頃から何があってもどんな事があっても綺麗な色相

自分の名前を嫌った時もあった、でも誰にもそのことは話せなかった

どこかで孤独感を感じていたのかもしれなかった

 

舞白の抵抗する力が弱まり、少しずつ強ばっていた表情が緩んでいく

 

「せっかくだからフロムの言葉から引用しようか、

"人間は孤立感から逃れるために、「祝祭的な興奮状態」「集団等への同調」「創造的な活動」といった方法をとるが、完全な答えは人間どうしの一体化、他者との融合、すなわち「愛」にある。自分以外の人間と融合したいというこの欲望は、人間の最も強い欲望である"」

 

傍らに倒れ落ちていた写真立てを拾い

槙島は無表情で見つめる

 

「家族、友人、恋人、…君は今まで様々な愛に直面してきただろう

人間どうしで関わってきた今の今まで、どこかで阻害されたような気分、

しかし、それを失った瞬間でさえ、本当の、システムの管理下に置かれてるこの世界で本当の自分は一体何なのか、何色なのか……」

 

棚の写真立てにはさまざまな自分が写っていた

でも本当の自分は一体何なのか、分からなかった

 

 

 

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