White and white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
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一面に広がる穀倉地帯
2人は途中でバイクを乗り捨てると
一直線に続く道路を歩き続ける
槙島の白い長袖の綿のTシャツに細身の黒いパンツ姿
軽い素材のコートを羽織ってはいるものの風が冷たく感じる
「……これがハイパーオーツ……」
初めて目にする穀倉地帯
あまりにも広大な敷地に驚きを隠せない
槙島に行先も目的も何も言われないまま着いてきたものの、何かよからぬ事を考えてる事は何となく感じとっていた
警戒しながらも槙島の背後をゆっくりと着いていく
((…あの家を出てから何故か頭痛が酷い
…バイクに長く揺られたせい?))
首筋に手を当てて何となく違和感を感じていたが
ただの疲れだろうと思っていた
そうしていると槙島が口を開く
「恐ろしいと思わないか?
単一種に頼る食糧体制、もしその個体が何かしらの問題を起こせば、たちまち日本国民全員が飢餓に苦しむ」
「…世界を変えるって、もしかして」
舞白の言葉に振り返れば槙島は笑みを浮かべる
「察しがいいね」
一直線に進む道の先に大きな施設が佇む
舞白はその施設がなんの施設か察していた
「…ウカノミタマ…」
舞白は学校や書籍でその言葉について学んだことがある
遺伝子操作のひとつでもあるウイルス
そしてその研究所は北陸地方に置かれていることも
「恨んでるのはシビュラシステムだけじゃないの?
何故…関係ない人々…っ…」
刹那、槙島は拳銃を取り出すと
舞白の額に銃口を突き付ける
「日本の食料自給体制を崩壊させる、
それは即ちシビュラシステムの機能を停止させること」
「………っ…」
「分かっているだろう?
僕達はシビュラに肉体を奪われる
…だったら先手を打とうじゃないか?
それが君の希望でもあるはずだよ、狡噛舞白」
こくりと頷くと槙島は拳銃をしまう
再び歩みを進めると舞白は背後から槙島を睨みつける
((…私の目的は変わらずこの男を殺すこと
シビュラシステムに取り込まれる前に…私は…))
頭の中で様々な考えを浮かばせる
そうこうしていると大きな施設の入口へとたどり着く
目の前の警備ドローンは何故か2人を認識しなかった
「さて、ここの警備は…」
槙島は持っていた箱型のケースの蓋を開けると
中には管巻の切断された指や、えぐられた眼球が入っていた
それを背後から目にした舞白は目を見開く
「…また人を殺したの?」
「人聞きの悪いことを言うね
僕たちが生きるために必要だった事だ」
切断された指の1本を機械にかざす
すると指紋を認識し、ゲートが開く
やけに古い施設のせいか寂れたゲートの音が耳に響く
施設内は殺風景な工場
もちろん人の姿は無く、機械音だけが響き渡っていた
次々と警備をくぐり抜けるとやたら厳重な扉にたどり着く
そこで槙島は先程の眼球を取り出し機械へとかざす
扉のロックが解除される音も重厚な音で
この先がどれだけ厳重な場所なのかがそれだけで伝わってきた
扉の先には規則的に動く大きな機械達
中央にはディスプレイが置かれており槙島は迷うことなく
操作を始めた
((…この人を今止めないと
日本国中が大混乱に陥る))
背後からただただ槙島を見ている舞白
どうにか隙ができないか、
体術はそこまで差はない、私にも倒すチャンスが…
「あぁ、僕を倒そうとしても無駄だよ
…実は君に面白いものを埋め込んだんだ」
ディスプレイに触れていた槙島が椅子から立ち上がれば
舞白へと近づく
なんとなく恐怖心を抱く舞白は
ゆっくりと後退するも背後は鉄の壁
槙島が壁へ追いやると舞白の細い首筋をなぞるように触れる
やけにひんやりとした槙島の手にビクッと反応してしまう
「首、肩の辺りに違和感は?もしくは頭痛は?」
訳の分からないことをいきなり言い出す槙島に
舞白は不思議そうにするも
ハッと目を見開く
左手で左の耳の下辺りに触れるとしこりのような物があることに気づく
それに気づくと舞白は槙島を不安げに見上げた
「外頸動脈の近くに小型のチップ型の爆発物を入れてみたんだ
…僕の友人が開発してくれてね、残念ながらその友人は死んでしまったが」
友人とはチェ・グソンの事だった
かなり小さいチップで注射器で埋め込めるほどのサイズ
しかし威力は普通の爆弾と変わらない恐ろしい兵器だった
やたら頭痛が酷いと思っていたのはこれを埋め込まれたから
「…いつ?…そんなのいつ埋め込んで…」
槙島は舞白の首筋から顎へと手をずらし
怪しげに微笑む
「君は詰めが甘い、あのハーブティーに何も入れていなかったと
警戒もせずに飲んでくれたおかげで簡単に埋め込むことが出来たよ
…どうしてかな?僕と語り合ううちに信用しきってしまったのかな?」
あの時、眠気に襲われたのは疲れのせいでも何でもなかった
あのハーブティーの中に、強力な睡眠薬が混ぜられていた
「…もし君が公安局に連れ戻され、シビュラの一員になってしまったら、それはそれで奴らの思い通りになるのが腹立たしくてね
…だったらいっそ、僕が君を殺してあげるよ
花橋咲良と同じようにね」
背筋がゾッと凍りつく
自分の甘さに、不甲斐なさに絶望する舞白
「起爆はいつでもできるさ、だから気を抜かないことだね
狡噛舞白」
耳元で妖しく呟くその声に舞白は変な感覚を覚える
まるで支配されるような、変な感覚に
何故か、どうしてか
この男を心底恨んでいるはずなのに恨みきれない
不思議な気持ちが舞白にはあった
「さて…あと少…」
槙島が席に戻ろうとした瞬間
工場内の灯りが一斉に消え、規則的に動いていた機械も
徐々に運転が止まっていく
恐らく何かしらの影響で電力が全て落とされたらしい
その様子に槙島は苛立っているようだった
「…来たか、狡噛慎也……」
槙島は乱暴に舞白の腕を掴むと走り出す
舞白は必死に考えていた
どうしたらこの男を殺せるか、そしてこの首の起爆を止められるか
2人の白髪が暗闇に消えていく
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