White and white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
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部屋のアラームが鳴り響く。
同時に可愛らしい白うさぎのアバターが現れた。
「「7月9日 土曜日!8時!今朝の狡噛舞白さんのサイコパス色相はホワイト!今日の予定は13時から公安局にて狡噛慎也さまと定期面会です!」」
元気な声と共にピョンピョンとホロアバターが舞白の周りを飛び回る。
どちらかと言うと普通のアラーム音より圧倒的に煩く、耳に響くアバターの声は苦手なのだが間違いなく起きることが出来るので重宝している。
そんな舞白はゆっくりと体を起こし、気怠そうに体を伸ばしベッドから脚を下ろす。
「「昨日の食事摂取量は合計2100kcal。朝食は250kcalが適正です!」」
「じゃあ…テイストはジャパニーズの230kcalで」
「「かしこまりました〜」」
キッチンのレンジらしき機械に自動的に朝食が用意される。その間に手際よく洗面を済ませた舞白はそれを手に取るとバルコニーへと足を運ぶ。
まぶしい太陽はすでに空高く昇っており真夏の気配さえ感じさせる雰囲気。バルコニーに置かれたテーブルに朝食を置き、まだ半分寝ぼけた体を起こそうと体全身に陽の光を浴びる。
「今日か……面会…」
ふと、ベランダからリビングに目線を移す。
棚に飾ってある舞白の中学校入学式の写真。そこには元気にピースをする舞白と隣で優しく微笑む兄の姿。
あの頃に戻りたい――なんて。頭に記憶が過ぎる。
優しい兄との幸せな日々。
両親はおらず、周りからは哀れみの目を向けられたことも何度もあった。
だけど幸せだった。兄がそばに居るだけで多幸感に包まれていた。
「――さてと。食べたらランニングして、早めにお昼食べてから向かおうかな。」
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「あーあ……俺も舞白ちゃんに会いたかった…」
狡噛の自室で文句を言う縢。残念ながら当直の彼は会うことは出来ず、
ちぇ〜っと口を尖らせる。
「またお前に会わせて悪い影響を与えるわけにいかないからな。」
「え!ひっど!!本当にコウちゃんは舞白ちゃんには甘々の兄貴だよな〜。心配しすぎ。お嫁に行く時どーすんの?」
「……まだ先の話だ。」
「わっかんないよ〜?シビュラに適性相手出されてサクッと結婚、なんてことも有り得るっしょ?――もしくはギノせんせ……」
「面会時間だ。ほら、お前はさっさと戻れ。」
狡噛は煙草を吸い終わるとソファから立ち上がり、ジャケットを羽織る。話をそらされた縢は更に口をとがらせつまらなさそうに体を動かす。
「つれねぇな〜………まあ、久しぶりに会えるんだし、舞白ちゃんによろしくね〜」
「はいよ」
2人は部屋の前で別れ狡噛は面会場所に向かう。約1ヶ月半ぶりに再会できることに内心喜んでいた。
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公安局 第1面会室
執行官として働く家族を持つ人達のための面会室。面会者は常時色相をチェックされ、会話ももちろん映像も全て記録をされる。
ドアは2つあり1つは面会者、1つは執行官。
特に互いを遮るものは無く、部屋の真ん中には丸テーブルと椅子が置かれているのみ。
面会可能時間は最長で45分。面会者のサイコパス考慮のため、それ以上は認められない。
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「待たせたな、舞白」
先に部屋で待っていたのは舞白。
シンプルな白いTシャツにデニムのショートパンツ、厚底の白いスニーカー、いかにも最近の若者らしい姿。そしてホロで隠した黒髪――
「お兄ちゃん!久しぶり、元気にしてた?」
「あぁ、特に変わらずだ。――で?お前は約束通り髪を元に…戻してないな
。ホロで誤魔化したって俺には通用せん。」
兄の台詞に分かりやすい反応をする舞白。すると負けじと両手を前に出して反論し始めた。
「違うよ〜お兄ちゃんの言う通り黒髪に染め直して…」
「それにまた短い丈の………お前少しは自覚しろ本当に。」
ショートパンツから伸びる白く長い足。前回も注意したばかりだ、と言えば舞白が険しい顔つきに。
「もう!お兄ちゃん過保護なの!私、もう来年には社会人として働いてるんだし、もう大人!」
もーーっ!といつもの様に軽い口喧嘩になると2人は目を合わせ互いに笑い出す。
そしてしばらく、お互いの近況やら懐かしい話をしているとあっという間に時間が過ぎていく。
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「「面会終了時刻まで残り5分です」」
部屋にアナウンスがかかれば残念そうに眉を顰める舞白。そんな姿を見て表情を曇らせる狡噛。
「45分なんてあっという間、学校の授業だったら長く感じるのにね」
「…そうだな」
狡噛はテーブルの上に置かれたアイスコーヒーに初めて手を伸ばす。ブラックのコーヒーで喉を潤したその時、改まった様子で舞白に向き直った。
「…舞白。お前は普通に……みんなと同じように――いや、それ以上に幸せになれ。」
「どうしたの?いきなり、変なの。」
舞白もテーブルの上のアイスティーに手をつける。
「……公安局を選ぶな、舞白」
「もしかして、私の職能適性見たの?」
とくに感情を出さず狡噛を見据える。
「勝手に調べたことは謝る。お前が心配だった。――お前は色相も濁りにくいし頭もいい。それに母さんに似て綺麗だ。」
平凡な職に就いて、何も面倒事に揉まれずただ幸せになって欲しい。それが願いだった。
「お兄ちゃん、私の人生は私に決めさせてよ?それに、私意外と強いんだよ?お兄ちゃんに似て」
天真爛漫に無邪気に笑顔を浮かべる舞白。そしてグッと拳を前に突き出し、力強さをアピールする様子を見せる。
「…ねぇお兄ちゃん。私はね?私を守り続けてくれてるお兄ちゃんに恩返ししたいの。どんな形でもいいから。」
「――そうか。」
狡噛はそれ以上は何も語らない。自分の過保護すぎる発言に対し心做しか申し訳なさを滲み出していた。
「ね?またちゃんと決めたら話すから。今はとりあえず、次の空手のインターハイの事とボクシングのライセンス…」
「待て。ボクシングの事は聞いてないぞ」
狡噛は鋭い目つきで舞白を見ては嬉しそうに笑う舞白の手を掴む。
「だから、格闘技習ってる延長でボクシングのライセンス取ろうと思って!
まずはプロテストを年内に受けてC級…」
「待て待て待て、ボクシングはお前…空手とは違う」
焦り散らす狡噛。
その瞬間面会時間が終了したことを告げるアナウンスが流れ両方の扉が自動的に開く。
「…舞白…お前本当にこれ以上心配…」
「狡噛、面会は終わりだ仕事に戻れ」
刹那、狡噛の声を遮るように現れた男。それは執行官側の扉の入口に立っている宜野座の姿だった。
2人の様子に何かを察知したのか呆れ混じりのため息を吐く。
「あ!ノブ兄も久しぶり!」
「久しぶりだな舞白。お前の兄貴をさっさとこっちに引き渡してもらおう」
「いや〜…離さないのはお兄ちゃん…」
手をがっしりと握り続ける狡噛。その手は離す気が無い様子でさらに力が込められる。
「ほら、戻るぞ狡噛。出動要請もかかってるんだ、さっさと…」
「ボクシングはやめろよ、本当に……顔に傷でもついたら――」
宜野座に無理やり腕を引かれれば名残惜しそうにする狡噛。それを半ば呆れた顔で見据える妹の舞白。
「…本当に心配症だよ、お兄ちゃんは」
クスクスと笑みを零すと舞白も面会室のドアに手を伸ばし部屋から出る。ふと兄が消えた扉の先を振り返るとそこに姿はもう無かった。
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「……何度来ても緊張するな……公安局ビル……」
スーツを身にまとった公安局員と多数すれ違い、心做しかソワソワとする。何度来てもこの場所は慣れない。
外に出て空を仰ぐようにビルを見上げるとその気持ちはよりいっそう強くなった。
照りつける態様を反射させる大きなビル。巨大な摩天楼とも例えられる建造物に無意識にゴクリと息を飲んだ。
「――あのー…狡噛舞白さん?」
そんな時、突如背後から名前を呼ばれ振り向くとそこにはショートカットの小柄な女性が立っていた。
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