White and white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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誠実であれ

 

 

・・・・・・・・

 

 

「はっ…はっ……」

 

どれくらい走ったか分からない

槙島に腕を引かれるがまま施設内を駆け抜ける

 

慣れないペタンコの黒いパンプスを履いているせいか

やけに脚が疲れ、時たまもつれそうになる

 

((電力の遮断、たぶんだけど

組み替えたウイルスを巻くことは出来ていないはず

…だとしたら今の槙島の目的…))

 

公安局からの逃亡

もしくは追っ手の抹殺

 

長らく走り続けていたが倉庫のような広い空間にたどり着くと

槙島は脚を止める

 

「…っ…痛……」

 

時たま電撃が走るような感覚が頭に過ぎる

恐らく首に埋め込まれているチップのせいか

視界が歪むとふらふらとしてしまう

 

その体を咄嗟に支えるのは槙島

苦しむ様子の舞白を目にすれば僅かに笑みを浮かべる

 

「君のタフさは尊敬に値するよ

普通この状況なら既に倒れているだろうね」

 

舞白はなんとか深呼吸をして体を落ち着かせる

壁にもたれ掛かり、何やら罠をしかけている様子の槙島に目を向ける

 

「…追っ手を殺すつもり?」

 

「ただ追いかけられるだけじゃつまらないからね

奴らの力量をせっかくなら試したい」

 

この状況で、楽しそうにしている槙島は異様だった

逃げるならさっさと逃げた方がいい、なのになぜ

わざわざこの状況を更に不利にしようとするのか

 

「あなたに恐怖心はないの?」

 

舞白の言葉に手を止めると

微かに口角を緩めれば問いかける

 

「手っ取り早く恐怖心を失くす方法がある

それはなんだと思う?」

 

舞白はその問いに暫く考える素振りを見せる

そして何かを思い出したようにハッと表情を変える

 

「…恐れている事をやってみなさい、

そうすれば恐怖心は、あとかたもなく消える」

 

槙島の部屋にあった本

ラルフ・ワルド・エマーソンの『人間』

思わずその本から引用する舞白

 

「君はお兄さんと同じで賢くて話していると楽しいよ」

 

頭脳明晰、冷静沈着

舞白の姿を狡噛に重ねる槙島

思考や物言いが一致していると感じ、会話が弾む

 

 

「僕はね、幼少の頃から自分のサイコパスが

いつも「真っ白」で不思議だった

シビュラに善人と肯定される理由は不明、だから悪事を通してでも人間を探究したよ」

 

止めていた手を再度動かし始め

罠の装置設置すればゆっくり立ち上がる

 

「何をしても「無罪」、

国の管理システムに高評価を受けても驕らず、

物事の本質への思索…僕はずっと不思議でたまらなかったよ

君もそうだろう?」

 

目線を再び舞白に向ける

 

確かに舞白も幼い頃から自分のサイコパスに疑問を持っていた、でも周りは特にそれを不思議がることもなかった、ただ単に色相が濁りにくい、そういう性格なんだと

 

「…私も真っ白な自分をもちろん不思議に思ってた

でも……」

 

幼い頃の記憶が蘇る

兄と歳が一回りも離れていたせいか

父親の感覚を持っていた舞白

 

幼い頃に両親を亡くし、ほぼ身よりもなかったため

兄は親代わりでもあった

その時の生活、沢山の本を読んでくれた

勉強も、友達と喧嘩した時は冷静に様々なアドバイスをくれた事も

 

その時の穏やかな光景を思い出す

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

あれは舞白が6歳の時、兄は18歳

友達と喧嘩をして家で大泣きしていたのを

学校から戻ってきた兄が心配そうに宥める

 

兄はいつも論理的で正直小さい頃は理解に苦しむことも

 

「だって…アヤカちゃんが…グスッ…トモミちゃんを…いじめてて

…舞白は止めに入って……」

 

小学校でいじめがあり、それを止めようとした舞白は

逆に反感を買ってしまい標的になってしまった、と

 

ソファに座り泣きじゃくる妹の隣に座り

優しく背中を摩る

 

 

「いいか、舞白、

自分自身と友人に対しては、いつも誠実であるんだ

…敵に対しては、勇気を持て

そして敗者には寛容さを持つんだ」

 

難しい言葉を次々と言い放つ兄

 

「…せいじつ?かんよう?」

 

涙を手で拭いながら兄を見上げる

 

フリードリヒ・ニーチェ

友愛

狡噛の本棚に収められている一冊の本

 

「俺の好きな本の一節だ

…まあ、分かりやすく言えば…

いつも自分と友達には正直に、嘘をつくな

お前が悪いと思った相手に勇気を持って挑む

そして、相手を許す気持ちを忘れるな」

 

「常に礼儀を保て

…そうすれば自然とお前の周りから人は去らないだろう

そして、正しい判断基準をきちんと持てるようになる」

 

優しく微笑みながら舞白の頭を撫でる

そんな兄の言葉の意味をもっと知りたい、同じように物事を捉えたいと心の底から思う気持ちが芽生える

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

「…私は兄のようになりたいって思った、

誠実に、常に勇気を持って、寛容であれ

だからこそ、私はそれを正しいと、真っ白であることの意味を

それで証明しようとしていたのかも」

 

舞白の言葉に微笑する槙島

 

 

「だからこそ君は、僕とは違う白さを持っているんだね

……少し羨ましいよ」

 

羨ましい、その言葉をやけに重く感じる舞白

 

 

「もし、僕も早くに君と出会っていれば

少しは違う道を歩んでいたのかもしれないね」

 

目線が交差する

哀しそうな、いや、嬉しそうな

様々な感情が入り交じった瞳

 

「…ねぇ、あなた」

 

舞白が声を発した瞬間

足音が聞こえる

 

咄嗟に槙島は舞白の腕を引き

物陰に隠れると様子を伺う

 

 

 

「…君とまだまだ話をしていたいね」

 

槙島は小さな声でそう呟く

 

舞白を掴んでいる手がやけに力強く感じた

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

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