仮面ライダータキモル   作:綿野郎

1 / 1
第一話「夕陽の誘惑!悪マは有情?」

 

 

 

『━━強豪集う月桂杯もいよいよ終盤!バ群はオオケヤキを超え最終コーナーへ!』

 

━━時は菊花賞の目前、三冠路線も終盤に差し掛かり競技ウマ娘達もそのファンも熱に浮かされる時期にて。

熱狂が乱舞する東京競バ場、皇帝の誘いによって集められた優駿達が自らの威を示すためにその脚でターフを駆け抜けていた。

バ場は良好、距離は根幹距離の芝2000m、多くのウマ娘が得意とする中距離レースだ。

バ群はダンゴの状態で密集し誰が抜け出してもおかしくはない状態、最後の直線が彼女らの天王山になるだろう。

 

『ハッ!ハッ!ハッ!……ハアアアア!!』

 

集団が直線へと突入すると同時に前方付近、先行策を取っていた栗毛のウマ娘がいち早く前方へ飛び出した。

 

『前に出たのは……アグネスタキオンだ!アグネスタキオンが飛び出した!アグネスタキオン前に出る!』

 

白衣を翻しながら猛スピードで先頭を追い抜き、そのままゴールへ向かい驚異的な末脚を発揮しバ群から距離を離した“彼女”。

実況が“彼女”の名前を叫ぶと共に観客達の熱狂が更に増し始める。

 

 

『アグネスタキオン!伸びる伸びる!グングン伸びる!驚異的な末脚だ!』

 

だがそんな“彼女”を狙う黒い影が続いて飛び出した。

 

『後を続いてマンハッタンカフェも抜け出した!マンハッタンカフェ前を狙っているぞ!』

 

差しを得意とする“マンハッタンカフェ”は温存したスタミナをフルに燃やし尽くし“彼女”に猛追する。

 

『マンハッタンカフェの差し足がアグネスタキオンに食らいつく!このまま差しきれるかー!?』

 

“マンハッタンカフェ”が少しづつ“彼女”に迫っていく、一歩、二歩、三歩……そうして芝に映る“彼女”の影に踏み入り……はしなかった。

━━“彼女”はもう一度更に加速したのだ。

背後から迫る影を見抜きもせず、ただひたすら目線を前だけに向けて。

 

『━━ッ!ウオオ!』

 

予想だもしなかったライバルの再加速に驚きつつも“マンハッタンカフェ”は間を詰めようとする、がこれから彼女は近づくことすら出来ずに距離を離されていくのだった。

 

『アグネスタキオン後続を突き放す!強い!強すぎるぞ!アグネスタキオン!』

 

光を超える素粒子と名付けられた“彼女”は誰よりも速く、誰よりも前を走った、走り抜いた。

誰も追いつけない閃光のような走りで、そして━━━━

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

……暑い真夏日も過ぎ去り、少しばかりの肌寒さが秋の訪れを感じさせる頃のトレセン学園にて。

数あるトレーナー室の一つで一人の男が熱心にテレビの画面に食い入っていた。

 

『おっとぉ!?アグネスタキオンが減速しながらコースから外れて行く!コースの……端へ……!あ!』

『ああー!?アグネスタキオンゴール直前で転倒!転倒してしまった!』

『なんということだ!アグネスタキ━━━━』

 

男がテレビリモコンの電源ボタンを押すとプツン、とそこで映像と音声は途切れた。

 

「はぁ〜……」

 

レースの映像を見ていた男は深い溜め息を吐き出すととぼとぼと立ち上がった。

 

「三女神様も残酷だよなぁ……なんでまた彼女にこんな……彼女だってもっと……」

 

ボソボソと独り言をつぶやきながら男は仕事用の事務机に向かい、【レジェンド研究ノート241】と表紙にデカデカと書かれたノートを開くとそこに

 

「……と……ーナー……」

 

「でも今回はやっと理解出来たぞ!湧いてきたぜ!彼女の走り方は……」

 

藤色のその目を輝かせながら先程のレースから得た“気付き”と“アイデア”を夢中で書き込んで行った。

 

「聞いて……トレー……い加減……!」

 

「あの“月桂杯”での彼女の走り方は目に見えて変わっていた!今まではフィーリングでしかそれを感じ取れなかったけど今日それを……」

 

……傍らで彼を呼ぶ一人の少女の存在に気付かずに。

 

「ト レ ー ナ ー ! ! ! ! ! !」

 

「うおおおおおおお!?」

 

背後からの大きな叫び声に“トレーナー”と呼ばれた男は思わず椅子から飛び跳ね、“勘弁して!”というふうに両腕で顔を覆った。

 

「ご、ごめん母さん!話を聞いてなかったわけじゃなくて……」

 

「ちょっと!誰と勘違いしてるのよ!アタシよアタシ!」

 

「って、なんだスカーレットかよ……おどかすなよな」

 

「なんだとはなによ!アタシはアンタの担当なのよ!?」

 

彼に呼びかけていた少女……ボリュームのある得体に気の強さを感じさせるつり上がった緋い瞳とツインテールが特徴的なウマ娘。

彼女の名はダイワスカーレット。

もうすぐメイクデビューを控えた、常に一番を目指す期待の新人競走バである。

スカーレットは尻尾の毛を逆立たせてそっけない態度を取る男……首元を緩めたワイシャツを着た、柔和で人の良さそうな顔をした彼女のトレーナーに文句を言い始めた。

そんな彼女にダストレは両手の平を前に出して「まぁまぁ」と宥めようとする事しかできない。

 

「信じられない!普通自分で決めたミーティングの時間忘れる!?」

 

「え!?あっ、もうこんな時間なのか!?悪いスカーレット!」

 

「遅いわよもう!」

 

スカーレットは呆れたようにそっぽを向きながら近場の椅子に座り込んだ。

 

「全く……その夢中になったら周りが見えなくなっちゃう癖どうにかなんないの?」

 

「あはは……ごめんごめん。でもこればっかはな……」

 

トレーナーは机の上のノートに目をやりながら感慨深そうに呟く。

この“レジェンド研究ノート”は彼が小さな子供の頃“あるウマ娘”の走りを見てからずっとしたためてきた彼の困った癖(ライフワーク)の結晶なのである。

 

「アンタ本当に好きよね、“アグネスタキオン”さんのこと」

 

「ああ……俺がガキの頃からの憧れだよ」

「ってそれはお前もそうだろ?」

 

「まぁ……そうだけどさ」

 

━━『アグネスタキオン』……彼女は競バの世界に閃光のように現れ、そして強烈な残光を残して消えていった“レジェンドウマ娘”である。

怪物達の偉業から始まった第二の現代競バ史最盛期。 

そのさなか彼女はたった4度のレースで伝説になったのだ。

始まりのメイクデビュー、前哨の弥生賞、三冠レースである皐月賞、そして最後のレースとなった月桂杯。

たったそれだけ、それだけのレースで皆々の心から決して離れることのない残影を刻みつけるほど彼女の走りは狂気的で鮮烈だったのである。

そして彼女の伝説はターフを去ったあとも終わらなかった。

競争バ引退後、彼女はウマ娘のアドバイザー、トレーナーとしても見事に大成したのだ。

彼女が育てたウマ娘の中で特に目立った成績を挙げたのはディー……

 

「はいストップ」

 

「ぁいたっ」

 

突然何かのスイッチが入ったかのように彼の“推し”について語りだしたダストレを見かねてスカーレットがチョップで待ったを掛けた。

 

「……なんだよ〜今いいところだったんだけど〜」

 

「アンタからしたら先輩達の話は全部いいところでしょ、このオタクめ……!」

 

「まぁな!でも“アグネスタキオン”さんは特に凄いんだよ!」

「あの一度見たら忘れられなくなるような走り……“母さん”より凄い走りをするウマ娘は彼女だけだ」

「ほんとに凄いウマ娘で……なのにな……ハァ〜……」

 

先程までの活き活きとした様子とは反対に突然萎びれた花草のように力無く椅子に座りこむダストレ、口からは魂まで息と一緒に流れ出していそうなほど大きな溜め息が溢れている。

 

「十年も前……突然の心臓発作で若干20代の若さで早逝……」

「美人薄命とは言うが三女神様はやっぱ残酷だよな……」

 

「……あんまりそういうこと言ってるとバチ当たるわよ」

 

「言いたくもなるだろ〜……」

 

げっそりと呟きながらダストレは力無く立ち上がり、━━彼が自費でトレーナー室に誂えた━━キッチンに歩いていくと予め蒸しタオルの上で温めておいたティーポットを持ってきてケトルから熱湯を注ぐ。

そして戸棚からいかにもな高級さを醸し出す修飾がなされた箱を取り出し、そこからティーバッグをつまみ取るとポットの中に放り込みそのまま蓋をした。

 

「ハァ〜……気分転換に紅茶でも淹れるよ、このままじゃミーティングなんて出来そうにないし……」

 

「自分で言っといて自分で落ち込まないでよ……そりゃアタシだってタキオンさんにはお世話になったことがあるから、とても残念だったけど……」

 

「子供の頃走りを教えてもらったんだったよな、ちょっと羨ましいよなぁ〜……シッキムのストレートでいいよな?」

 

「小学校に入る前、ほんとうに小さな頃の話だけどね……任せるわ」

 

ダストレは茶葉を蒸してる間、スカーレットと話しながらもテキパキと机の上にティータイムの備えを整えていく。

真っ白で清潔感を感じさせるテーブルクロス、小さく黒猫があしらわれた可愛らしいカップを二人分、角砂糖を詰めたキャニスター、甘さ控えめ上品な味が売りの茶請けの洋菓子達。

気落ちした顔のままでも淀みなくそれらを用意していくダストレの手際を、スカーレットはその育ちの良さを伺わせる所作に感心半分、なぜこうも見事な紳士力があるのに普段は先程までのようなのかという呆れ半分で見つめていた。

そうこうしてるうちに3分の時間が経ち、ダストレは暖めたカップに茶を注ぎ始める。

 

「ちょうど3分っと……シュガー入れる?」

 

「ん……そうね」

 

『とりあえず入れられるだけ入れてくれ』

 

「入れられるだけ?うーん……3つぐらい?」

 

『それだけで足りるわけないだろう、無論飽和限界までさ!』

 

「飽和限界までって……それじゃあ紅茶じゃなくてカフェイン入り砂糖水じゃないか」

「お前いつからそんな甘党になったんだよ、ハハッ」

 

『別に甘味が好きなわけではないが……私の灰色の脳細胞が糖分を求めているのでね、いつも健気に頑張ってくれている彼等の訴えを無視するわけにもいかないだろ?』

 

「なんだよそれ、フフッ。“アガサ・クリスティ”を嗜むなんてちゃんと年相応のとこもあって安心したよ」

「……お前はいつも気を張って、背伸びしてるからなぁ」

 

『なんだいそれ?人のことを子供みたいに……』

 

「はいはい、それじゃあ4つな。それ以上は茶葉の風味が味わえなくなる……」

 

「……あの、トレーナー?誰と話しているの……?」

  

「ん?」

 

ダストレがスカーレットの方を見やると彼女は何か可哀想なものを見るような怪訝な目付きで彼を見つめていた。

 

「え、お前が話しかけてたんだろ?」

 

「……アタシはアンタが一人で話し始めてからずっと黙ってたけど」

 

「ええ……」

 

ダストレは困惑と驚愕で冷や汗をかきながら首を右や左に振って周囲を見回した。

しかし部屋の中に自分達以外の人影は見当たらず、困惑は更に深まり彼は思わずこめかみを抑えながら「━━俺疲れてんのかな」という呟きをぽつりと漏らしてしまった。

そしてスカーレットの大きなウマ耳はそんな空気に紛れて消えていきそうな微かなささやき声を逃さない。

 

「……一回メンタルヘルスとか受けてみたら?」

 

「想像以上にガチ目な心配の仕方されて泣きそうだよ俺」

 

「いやだって……ねえ?」

 

スカーレットは困ったように目をそらしながら軽く頬を掻いた。

自分のトレーナーが突然存在しない透明人間と会話を始めたのだ、心の病や頭の疾患を疑うのは不自然なことではないだろう。

 

「……俺にも“お友達”が出来たのかな」

 

『当たらずしも遠からずと言ったところかな』

 

「!?」

 

また空からの声が聞こえたダストレは反射的に後ろに振り向く、もやはりそこには誰もいない。

 

「なんなんだアンタ……どっかで聞いたことある声だけど……」

 

『ふぅン……後ろだ、もう一度後ろに振り向きたまえ』

 

「振り向けって……二回も振り向いたら元の位置に戻るじゃないか、なんだやっぱりスカーレットのイタズ━━」

 

ダストレが声の指示の通りにすると、そこにはスカーレット━━ではなく見知らぬ栗毛のウマ娘、いや“彼がよく見知った栗毛のウマ娘”がいた。

 

「は、はぁ?……ハァ!?」

 

『やぁ、始めましてだね。』

 

そのウマ娘は……緋色の瞳にボサボサの栗毛で白衣の勝負服を着込む、彼が敬愛する“アグネスタキオン”とほぼ同じ姿をしていた。

違う部分は下半身、胴から下はチューブのように細くなりダストレの身体と繋がっている━━その様相はともすれば幽霊のようで不気味にも見える。

 

「な、え、ああっ!?」

 

目の前に現れた“ナニカ”に驚いたダストレは思わず後ろに飛び退き、そして椅子に引っ掛かって盛大にすっ転んでしまった。

 

『おや、大丈夫かい?身体は大事にしたまえよ、健やかさというのは失ってから気付くものらしいからねぇ』

『特に足は大事にしたまえよ、走れなくなるのはとてもとても辛いものだ……』

 

「ちょ、ちょっと!?一人でなにしてんの!?」

 

突然奇行を始めたトレーナーを心配してスカーレットが“ナニカ”をすり抜けてダストレの側に走り寄る。

 

「え!すり抜け……え!?」

 

「ほんとにどうしちゃったのよ……疲れてるのならちゃんと休んだほうがいいわよ?」

 

「いや自主トレ魔のお前に過労を心配されたくないんだけど……」

「……それより、お前これ見えてないのか?」

 

「……?これって?」

 

ダストレが指さす先にいるアグネスタキオンの姿をした“ナニカ”は腕を組み━━手をすっぽりと隠すほど大きな━━勝負服の袖を揺らしながら「フフン」とニヒルな笑みを浮かべている。

 

「……俺おかしくなっちゃったのかも」

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

━━府中市上空、URA直属特務武装機関【フェニックス】本部スカイベース司令室にて、二人の栗毛のウマ娘が神妙な顔付きで話し合っている。

一人はピンクがかった髪をツーサイドアップでまとめ、真珠のような丸い瞳が特徴的。

何処か緩んだ顔付きが目を引くが、その実態は現役時代は━━ヲタ活のため━━芝・ダート、バ場どころか国すらも問わずに走り抜き“勇者”と呼び讃えられた元競争ウマ娘アグネスデジタルである━━現役時代と違うところを述べるなら今はリボンの代わりに白衣と眼鏡を付け、ラボに籠もりがちな研究者をしているところだろうか━━。

 

「……先日のデッドマンズの襲撃であたし達“フェニックス”が所有するバイスタンプの大半が奪われました」

「これから彼等の本格的な攻撃が始まるでしょう」

 

「……リバイスシステムの開発状況は?」

 

デジタルに問を投げたもう一人は美しく凛々しい顔付きに藤色に強い意志を秘めた眼、そして白く輝く三日月のような流星が特徴的なウマ娘。

かつて前人未踏の無敗の三冠、それすらも超えた無敗の七冠を達成し、ウマ娘レースシリーズの頂点に立った“皇帝”シンボリルドルフ━━今は既に引退し緑の勝負服の代わりに真っ白な“フェニックス”総司令官用の隊服に身を包んでいる━━。

 

「━━悪マをもって悪マを制しましょう」

 

ルドルフの言葉を受けたデジタルが手元のタブレットを操作すると室内の床から物々しいケースを載せた机がせり上がってくる。

その中には台座と掴みやすそうなグリップが付いた機械、それと白亜紀に生息していた恐竜“ティラノサウルス”とレジェンドウマ娘“アグネスタキオン”の意匠が刻まれたスタンプが収められている。

 

「有資格者が見つかったのか……!」

 

「イエス!まだ候補者の段階ですけどね」

 

デジタルが指を鳴らすと背後のスクリーンに3名の男女の名前と顔、その他データが浮かんだ。

 

『Aoi kiryuin 』

『Kazuki niiboli 』

『Mondo hiromichi』

 

「候補はこの3人」

「それぞれ“ハッピーミーク”ちゃん“ダイワスカーレット”ちゃん“トウカイテイオー”ちゃんを担当するウマ娘のトレーナーさん達です」

「本日トレーニング時間が終わったら顔合わせを理事長さんにお願いしてますが……」

 

スクリーンを睨みながらルドルフは苦い顔をしながら呟く。

 

「阿轆轆地、順調ということだな」

「……しかし使用者がウマ娘のトレーナーである必要はあるのか?」

 

「……数十年前、先代のトレセン学園理事長が発見したというこの“バイスタンプ”」

 

デジタルはケースからバイスタンプを取り出すとルドルフと同じく苦々しい顔になりながら続ける。

 

「これは悪マとの契約を可能にする不思議なスタンプです」

「これを御するのに最も適しているのは、悪マと同じく人間とは違う種族である我々ウマ娘と契約しその手綱を握ることに長けた彼等トレーナーさん達なのです」

「それも才気とウマ娘ちゃん愛に溢れ戦士として戦えるほどの若さを持つ方達でないと……」

 

「悪マ、か」

 

デジタルの話を聞いたルドルフは眉間の皺を深くしながら忌々しげに言葉を続けた。

 

「人の中に巣食う謎の存在“悪マ”、そしてその力を悪用し府中市で度々事件を引き起こすカルト集団“デッドマンズ”!」

「彼等の目的はなんなんだ……!?」

 

「さぁ……それはあたしにも図りかねます」

「ですがこれだけはハッキリしていますよ」

 

「……なんだい?」

 

「奴等は尊いウマ娘ちゃん達のエモい日常を壊す、倒すべき“敵”……この世界の闇そのものです」

 

そう言うデジタルの眼には燃えるように明瞭な強い意志が宿っていた。

 

「椎心泣血……だな」

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

ここは誰も知らぬ地。

常に暗闇が空間を満たし、外部からその姿を捉える事は誰にも出来ない。

━━“彼等”以外には。

 

「アタシは誰でもない!そしてお前たちも━━誰でもない!!」

 

「我慢は終わり、悲しみは終わり、そして見せかけの幸せも……終わるんだ!」

 

━━薄暗いクラブハウスのような様式の空間。

その中の派手なライトに照らされたステージの上で、暗く白い肌に青い勝負服を着た尾花栗毛のウマ娘と色黒の赤い勝負服を着た鹿毛のウマ娘が叫んでいる。

それに呼応するようにステージを囲む人々━━半分以上は年齢層も人間かウマ娘かもバラバラな男女、そして所々その姿がはっきりしない朧げで幽かなウマ娘が混ざっている━━の熱狂は高まり、叫ぶ声が大きくなる。

……ここはデッドマンズスペース、暗闇の世界に存在する“悪マ”達の領域。

悪マ崇拝組織“デッドマンズ”の本拠地である。

 

「おい!やめろ!離せェッ!」

 

そこに突如ステージの袖から歓声を切り裂くように男の悲鳴が響きわたる。

その声で舞台は静寂に包まれ、ざわざわとした囁き声が人々の隙間から漏れ出した頃、カツカツ……と革靴が床を鳴らす音が人と人の合間を縫って響く。

そして人々はすぐにまた熱狂を取り戻した━━その音を鳴らしていた本人、黒い長髪のスーツを着た女がステージに上がったと同時にだ。

 

「……苦しむ悪マ達を人間から開放し、下らない……間違った世の中の秩序を打ち破り真の世界を取り戻しましょう」

 

その一言と同時に観衆━━いや信者達のボルテージは最高潮に達し、耳をつんざく程の歓声が沸き起こる。

そして女が一つ身振りをすると歓声はまたも瞬く間に収まり、舞台袖から紙をクシャクシャにした骨のような、襤褸を纏ったゾンビのようでもある白い怪人━━ギフジュニアが先程悲鳴を上げた男をステージの中央に運んでくる。

 

『トレェェナァァ……』

 

「うおあ!?」

 

ギフジュニアによって男がステージの中央に転がされる、男は厳つい顔で、拘束服を着せられており堅気の人間には見えない。

護送途中の凶悪犯と言った風体である。

 

「お前ら俺に一体何をするつもりだ!?」

 

「……この男はこれまで人間の男を1人、女を3人、そしてウマ娘を1人殺した悪質な殺人者です」

 

黒髪の女が男を指差して彼の罪状を述べると、信者達から「許せない!」「ウマ娘に手を出すなんて!」「殺せー!」等と口々にブーイングの声が上がる。

だがその怒声も黒髪の女の手振りでやはり一瞬で静かになる。

 

「彼は許しがたい罪を背負ってしまいました」

「━━故に悪マとの契約によってその罪を贖わせなければなりません」

 

《マンモス!》

 

女は懐からマンモスの意匠が施された赤いバイスタンプを取り出すと、男の身体に押印する。

 

「う、うわあああああ!!?」

 

すると空にマンモスのシンボルマークが浮かび上がり、男の身体から巨大な“契約書”が飛び出す。

その“契約書”はクシャクシャに丸まりながら人の形を取り、一瞬だけウマ娘のようなシルエットになったあと赤黒い波動と共にマンモスの力を持った怪人━━悪マ獣“マンモス・デッドマン”へと変貌した。

 

━━悪マ獣だ!偽物の神を打ち滅ぼし我等に救いを与えてくださる聖なる獣!

━━悪マ!悪マ!悪マ!悪マ!悪マこそが真にウマ娘と人類を繋げてくれるんだ!

━━そしてそれを従える彼女こそ!あのお方こそ!

 

信者達が口々に“悪マ”と“女”への賛美の声を上げ始めると同時にステージの上の二人のウマ娘も叫ぶ。

 

「そうだ!このお方こそ我等を導いてくれるお方!現代の聖女!」

 

「私達悪マを!そして傷つけられた君達を!救ってくれる真の救世主!」

 

「「樫本トレーナーだああ!!!」」

 

《ダイオウイカ!》

《ウルフ!》

 

「「グラシアス!デッドマンズ!!」」

 

“デッドマンズ”を讃える叫びと共に二人は取り出したスタンプを自らに押印し、それぞれダイオウイカとオオカミ、そして自らの勝負服を模した怪人へと変身する。

 

━━ウオオオオオオ!

━━グラシアス!デッドマンズ!グラシアス!デッドマンズ!

 

「ココン、グラッセ。この子達をトレセン学園へ連れて行ってあげてください」

「そして思い知らせるんです、トレセン学園、そしてURAに……」

「……虐げられた者達の怒りを」

 

《ジュニア!》

 

“樫本”は宣言と共に“ギフジュニア”の意匠が刻まれたバイスタンプを起動する。

するとステージを囲っていた人々のうち、幽かな姿をしたウマ娘達がその中に吸い込まれていく。

スタンプが鈍い輝きを放ったことを確認すると樫本はダイオウイカの怪人━━リトルココンにそれを手渡す。

 

「分かっています、樫本トレーナー!」

 

「貴女が望むまま私達の望むまま、彼奴らの根城を蹂躙してみせましょう!」

 

「アタシ達デッドマンズの名の元に!」

 

「「グラシアス!デッドマンズ!!」」

 

二人の怪人が諸手を上げて雄叫びを轟かせる。

陶酔・崇拝・敬慕、様々な感情の混ざったそれは空間の全てに波及し飲み飲んで行く。

 

━━グラシアス!デッドマンズ!

━━グラシアス!デッドマンズ!

━━グラシアス!デッドマンズ!

 

「……グラシアス、デッドマンズ」

 

鳴り止まぬ歓声の中樫本は目を瞑り、呟いた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

━━放課後のトレセン学園、沈みゆく夕陽に赤く染められて人もまばらになり始めた2000mレースコースで走るウマ娘とそれを見守るトレーナーがいた。

 

「ハッ、ハッ、ハッ……!」

 

ダイワスカーレットである、コース全体を驚異的なスタミナによってもう10分程はそれなりのハイペースを殆ど落とすことなく駆け続けている。

 

「……5周!まだまだ落ちてない……流石だなスカーレット……!」

 

それをストップウォッチを片手に持ったダストレがコースの外から一周ごとのラップタイムを測る、持久走のトレーニングである。

ダストレがタイムを記入していると、彼の腰のあたりからにょきり、と何かが生えてくる。

 

「うわっ」

 

『ふぅン……凄まじいスタミナだね、彼女』

 

「……なんなんだアンタ一体」

 

ダストレは自分から生えている得体の知れないナニカ━━自分の敬愛する人物と同じ姿のナニカにジトッとした視線を向ける。

 

『私?私の事などどうでもいいだろう、それより今は彼女の話をしたい』

 

「どうでもよくねーよ!こっちはアンタをどう扱えばいいのか分からなくてパニクるんだよ!」

 

『ふぅーン……』

 

「アンタ本当になんなんだ?幻覚……にしてはハッキリとしすぎてるし」

「もしかしてアグネスタキオンさんの幽霊……?」

 

『幽霊……というのは違うな、それに私は“アグネスタキオン”ではないよ』

『君の知ってるそいつは半透明なのかい?そいつはもう死んでるんだろう?人間もウマ娘も死んだらそこで終わりだ。』

『だから私は“アグネスタキオン”ではない、ああ、決してね』

 

「なら一体……どうして“アグネスタキオン”と同じ姿をしているんだ?」

 

『さぁね……そんなこと、私が知るか』

 

「さぁねって、ええ……」

 

『それよりも、あっちだ』

 

“アグネスタキオン”っぽいものはスカーレットを指差す━━袖で隠れて指は見えていないが━━。

打てども大して響かない問答にダストレは肩を大きく落とす。

目の前のゲキマブウマ娘━━らしきもの━━は自分の疑問に答える気はなく、とにかく自分を押し通そうとする“気性難”タイプだと判断してダストレは一先ずあちらに話を合わせることにした。

 

「はぁ……ちょべりばー」

 

『なんかどっかで聞いたことあるねぇその言葉』

 

「……で?なんだよスカーレットのことで話したいことって」

 

『おお!こちらの話を聞いてくれるか!素直なモルモットは嫌いじゃないぞ』

 

タキオンっぽいものはウンウンと頷く。

 

「モルモット……?」

 

『まず彼女の脚質は?私の見立てでは逃げ、もしくは先行だと思うが……』

 

「よく分かったな、アイツの脚質は逃げ・先行だよ」

 

『やはりそうか!……変わりないようで良かったよ』

 

「え?」

 

ダストレは彼女の言葉に“引っ掛かり”を感じたがそれを指摘する前に二の句が飛んでくる。

 

『デビューはもう済ませているのかい?』

 

「……いや来年の6月の予定だ」

 

『ふむ……なら時間は充分ということか』

 

「アンタ、スカーレットのことなんか知って━━━━」

 

『最後の質問だ、君は彼女の足のこと……気付いてるかい?』

 

「━━━━!……ああ」

 

応えたあと、眼を細めてダイワスカーレットの走りを見やるダストレ。

その瞳は秋の夕暮れのような眩しくも仄暗く、暖かくも冷たい熱を帯びていた。

 

『……ならいい』

 

「……“ダイワスカーレット”は誰よりも先へ向かって走れるウマ娘だ、アイツの目指す“一番”ってやつは決して遠い場所じゃない」

 

『だろうね』

 

「アイツはこれからもっともっと……もっともっーと!速くなる!」

「だから俺はアイツを最後まで走らせてやりたい、アイツが夢を叶えられるその時まで……」

 

『……彼女の持つスタミナとバイタリティは驚異的だ、先行策を主体とするウマ娘として実に素晴らしい適性を持っている』

『逸材だよ、“ダイワスカーレット”は』

 

「だろ?でもそれだけじゃない、アイツは末脚の伸びも兼ね備えたハイブリッドなんだ」

「やっぱ凄いウマ娘だよスカーレットは……一番になるっつーのも全然フカシじゃない」

 

「ああ、今のトゥインクルの中じゃ二番目だがな」

 

━━二人の会話にビシッとスーツを着込み、質実剛健で真面目そうな顔が特徴のトウカイテイオーのトレーナー……テイトレが割って入ってくる。

 

「━━テイトレじゃないか!どうしたんだ?」

 

「ああ、いや、お前が何もない場所に話し掛けてるのが見えてな、少し心配になって……」

 

「あ、ああ……」 

 

ダストレは気不味そうにテイトレから目を背ける。

 

「……何か悩みがあるのなら相談に乗るぞ?」

 

「ははは……大丈夫大丈夫!俺は元気だよ!」

 

「そうか……スカーレットの方の調子はどうだ?」

 

「見ての通り、絶好調だよ」

「……フフッ、テイオーもいい調子だそうだな」

「この前のレースだって他の娘を突き放しての一着だったらしいじゃないか」

 

ダストレがスカーレットが走っているのとは別のレーンへ目を向けると、“トウカイテイオー”が坂路ダッシュをしていた。

何処か嬉しげなダストレの言葉にテイトレは目を細め、誇らしげな表情で答える。  

 

「当然だ、我が命を懸けて……俺はテイオーの夢を叶えてやると約束したからな」

「アイツを不調にさせるようなことはせん」

 

「相変わらず頼もしい奴だよお前は……頼んだぜ!」

 

心強さを感じさせる言葉と態度で自信満々なテイトレ。

ダストレは微笑みながらそんな彼の背中を軽く叩いた。

彼等は二人とも新米トレーナー、これから群雄割拠のウマ娘レース界で鎬を削っていくライバルとも言えるのだが……それと同時に俗に言う幼馴染でもあり、相手の活躍は自分のことのように喜べる友人同士でもあるのだ、閑話休題。

 

「……スカーレットさんもテイオーさんも好調そうですね……でもうちのミークも負けていませんよ!」

 

そんな彼等の元にお嬢様結びの女性……桐生院葵ことハッピーミークのトレーナーも体育館の方角から歩み寄ってきた━━二人とはトレーナー養成校の同期の関係であり、また友人である━━。

 

「きりゅ……ミクトレか、ミークはどうした?」

 

「あー……なんだか、私が理事長に呼び出されてしまいまして……」

「長話になるようだからトレーニングも見てあげられないし、ここ最近根を詰めてたところなのでちょうどいいと思って今日は早めに上がってもらいました」

 

述べながらもミクトレは軽く目を左右に泳がせた。

そのすぐ下では両手の人差し指をくっつけたり離したりしていかにも気不味そうである。

 

「呼び出しか、優等生の君が珍しいな」

 

「ミクトレの事だし実家絡みじゃないのか?」

 

「それが……貴方達にも声を掛けて欲しいとのことで……」

 

ミクトレから自分達も呼び出されたことを聞くと二人は目を見合わせて驚いた。

 

「……やっぱ無断でトレーナー室にキッチンを増設したのは駄目だったかなぁ」

 

「いや、アレはむしろ『扶助!言ってくれれば私のポケットマネーから全トレーナー室に用意したものを!』って絶賛だったろ……」

「やはり俺が密かに夜間トレーニングで学園周囲をランニングしてるのにクレームが来たか……」

 

「いやぁ、理事長はそういうの気に入りそうですけどね……」 

「やっぱりこの前乙名史記者の取材を3人で受けた時、売り言葉に買い言葉でとんでもない記事になったことじゃないですか?」

 

「ああ……俺がノーベル物理学賞、ミクトレがオリンピック金メダル、テイトレがギネス記録をそれぞれ取ることになったんだっけ」

「……『叱責!誉れあるトレセン学園のトレーナーが出来ない約束をするとは何事か!』」

 

「言いそうだなそれ……」

 

うなだれるテイトレ、似てない物真似を披露するダストレ、頷くミクトレ。

トレーナー三人でああだこうだとざわついている間に、持久走を終わらせたスカーレットがトレーナーの元に戻ってきていた。

 

「トレーナー、ちゃんと記録取った……ってテイトレさんとミクトレさん?」

 

「こんにちは、ダイワスカーレットさん」

 

「調子が良さそうで何よりだ、ダイワスカーレット」

 

二人から挨拶をされたスカーレットは「こんにちは!」と優等生らしく元気な挨拶を返したあと、ダストレから━━話しながらもちゃんと記録していた━━ラップタイムが記されたバインダーを受け取り、機嫌よく耳を揺らした。

 

「絶好調だぞ、スカーレット!」

「これなら来年のメイクデビューは何も心配ないな!」

 

「ふふん♪当然でしょ!私は一番のウマ娘になるんだから!」

 

奇をてらうことのないあまりにも素直な称賛、そしてそれをまた素直に受け取ることが出来る彼らの関係。

競技ウマ娘とトレーナーの関係としては青臭いながらもある種理想と言える。

“ダイワスカーレット”のようなウマ娘であるなら尚更である。

 

「……ああ、本当に何よりだ」

 

「……ん、テイトレ?」

 

テイトレが何かに安心したかのように呟いた言葉にダストレは気を取られる

……と突然ドタドタと足音を立てながら背後から可愛らしい影が彼の腰に向かって猛突してくる。

 

「に・い・ちゃ〜ん!」

 

それは輝く三日月を伴った碧眼のウマ娘。

絶賛ジュニア級を駆け抜け中の売れっ子スターウマ娘、トウカイテイオーであった。

テイオーはその柔軟さからなるバネを活かした鋭い跳躍でダストレに飛びつくなり、彼の腰に弾丸のような勢いで抱きつく。

 

「ひっさしっぶりィ〜!」

 

「ぐわっ、ちょっ、ギブギブ!」

 

その衝撃で倒れこそしなかったものもダストレは「グヘぇ」と裏声の混じった悲鳴をあげながら逆エビの形に身体を折り曲げられ、さらにウマ娘の人を超えた腕力で腰を締め上げられたまらず降参のタップをする。

 

「ゔおお……て、テイオー……ヒトにじゃれる時は人間とウマ娘の力の差を考慮しなさい、っていつも言ってるじゃないか……?」

 

「えへへ、ごめんごめん!」

 

テイオーは一言だけ軽く謝って腕の力を緩めた後ダストレの腰を掴んだまま持ち上げ、彼を抱っこしてるような態勢で目を丸くしている自らのトレーナーの元へ駆け寄っていく。

 

「トレーナー!言われた分の坂路ダッシュ終わったよ!次はなに?」

 

「あ、ああ……そうか。なら今日のトレーニングは終わりだ、お疲れ様。」

 

「ほんとー!?よっし兄ちゃん!はちみー飲みに行こ!はちみー!!」

 

「わああ!?や、やめろってテイオー!」

 

「……相変わらず兄妹仲がいいな」

 

はちみー♪はちみー♪はちみー♪とご機嫌な歌を口ずさみつつ、テイオーはダストレを抱えたままタッタカタッタカと軽快なステップを踏み始める━━妙に距離感が近いが、彼らはなんと実の兄妹なのである━━。

幼めな少女が成人男性を抱き上げてはしゃぐ光景は愉快に見えるが、されている当人は上や下や右や左やに振り回され遠心力で徐々にグロッキーになって顔面蒼白間近だ。

 

「ちょっとテイオー、うちのトレーナーが死にかけのセミみたいになってるじゃない。そろそろ降ろしなさいよ」

 

「あっスカーレット、いたんだ?」

 

「アタシの存在に気づいてなかったの!?いたわよ!あんたが来るずっと前から!」

 

スカーレットの言葉でダストレはテイオーから解放された。

が、先程のシェイクアップで内臓が掻き回され、吐き気で沈んでいた。

 

「うげええええ……」  

 

「もう、だらしないなあ兄ちゃん!ほら、えずいてないで行こうよぉ〜!」

 

「悪いがテイオー、こいつも俺達も理事長に呼ばれててな、付き合えそうにはなさそうだ」

 

「えー!?そんな〜トレーナー〜!」

 

『……ふぅン……?』

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

━━トレセン学園、理事長室。

 

「歓迎ッ!よく来てくれたな二人共ッ!」

 

「空高くからはるばるようこそおいでくださいました、“シンボリルドルフ”司令、“アグネスデジタル”博士」

 

頭に猫を乗せたただならぬ雰囲気の少女━━トレセン学園理事長“秋川やよい”と彼女に仕える秘書“駿川たづな”は二人の客人を迎えていた。

 

「いえ、こちらこそご多忙の中時間を作っていただきありがとうございます」

 

「いやー、昔から変わらずここのウマ娘ちゃん達はスペシャルに尊いですね!理事長さん!さっきからあたし尊みの波動感じマクリスティですよ!」

 

「うむ!我が学園の生徒達も教員達も日夜よく励んでくれている!それはまさしく尊いものだ!」

「━━故に!当然ッ!いつも生徒達も含む人々を守るため働いてくださっているお二人を手厚く迎えるのは無論のことです!ありがとうございますッ!」

 

やよいは“感謝ッ!”とデカデカと書かれた扇子を広げて高笑いを上げる。

……彼女は二人をもてなす側であるはずなのだが、この空間で一番偉そうなのもまた確実に彼女である。

 

「人々を守る……ええ、今日はそのための話をしに来たんです」   

 

「……うむ」

 

ルドルフの言葉にやよいはビシッと口を真一文字に締め、シリアス全開な表情になる。

 

「……本当に我が校のトレーナー……それもあの3人でなければならないのですか?」

 

「アグネスデジタルが言うには、ですが……詳しい説明を頼むよ」

 

ルドルフはデジタルに視線を向ける、とそれに合わせやよいとたづなもデジタルの方を向く。

意を察したデジタルは手にしたアタッシュケースを机の上に開き、やよい達にその中身━━“リバイスドライバー”と“レックスバイスタンプ”を見せる。

 

「リバイスシステムを初めとするライダーシステムの原型は“あたしが科学の道を歩む原因になったあるウマ娘さん”の作った他種生物の遺伝子を人間・ウマ娘用に最適化するエピゲノミクス・リプログラミングシステムにあります」

 

━━リプログラミングとは簡単に言えば生物の遺伝子を人為的に弄くり回す技術のことである━━。

 

「それを使って悪マの器となる強力な最強生物のDNAに悪マを制御するのに最も適したウマ娘ちゃん達のデータ“U因子”、それも優秀な成績を残しているグレェート!なスターウマ娘ちゃんやアメェイジング!なレジェンドウマ娘さんの因子を基とし

た最適化を行いそれを人体に直接入力することでヒト・ウマゲノムに隠された生物の遺伝子を呼び起こしエネルギーを抽出、変換、能力化……使用者を“超人”に変身させることが出来るんです」

「システムの根幹にそれらを組み込んでいる以上ライダーシステムを扱う者はウマ娘ちゃんの知識に精通し、かつそれなりの戦闘能力を見込める者であるのが望ましい……」

 

「それでこの三人か……」

 

やよいはたずなに指示し、トレーナーノートを持ってこさせると、それから机の上に“ダストレ”、“ミクトレ”、“テイトレ”の三人のデータが記された書類を抜き出して広げる。

 

「あたしとしてはこの中で最もウマ娘ちゃん知識に優れた秀才の“ダストレ”さんを推してるのですが……」

 

「……いや、駄目だ、彼は……駄目だ」

 

ルドルフは少しばかり顔を青くしながら大きく首を横に振ってデジタルの意見に難色を示した。

 

「あたしが言うのもなんですが、仕事に私情を持ち込むのはどうかと思いますけどネ」

 

「……私としては知識だけでなく運動神経にも特に優れ、家柄的にもエリートな“ミクトレ”くんを推させてもらうよ」

 

ルドルフはデジタルの言葉を無視して“ミクトレ”の書類を手に取って掲げる。

 

「うむッ、彼らは皆優秀なトレーナーだ、君達からの大任も無事に果たしてくれるだろう……」

「だがッッッ!!」

 

「……貴女の言いたいことはよく分かります」

 

やよいが二の句を次ぐ前にルドルフとデジタルは彼女に向かって深々と頭を下げる。

低頭平身というばかりなその姿にやよいは露骨に動揺し目を白黒させる。

 

「今回貴女のトレセン学園に所属するトレーナー達を不要な危険に晒してしまう事になったのはひとえに我々“フェニックス”が至らぬばかりであるが故です」

 

「あたし的にも本当はトレーナーさん達には尊いウマ娘ちゃん達を育てるのに専念して欲しいですが……そのウマ娘ちゃん達を守るために必要なことですからね……」

 

「な!?ま、待ってくれ!」

「……君程のウマ娘に先にそこまで言わせてしまってはこちらとしても言いたいことが言えなくなるだろうッッ!」

 

「……申し訳ありません」

 

ルドルフは一層に頭の角度を深くする。

 

「制止ッ!やめてくれッ!」

「分かった、君達の言い分は十分に理解出来た!」

「……“デットマンズ”はこの府中市を中心に活動しているテロリストだ、当然ッ野放しにしていたら我が校の生徒にも被害が出かねん」

「故にトレセン学園としても出来る限りの協力は惜しまないつもりだ、そのつもりだが……」

 

やよいは少々苛立ち気味に閉じた扇子でもう片手のひらをカツカツと叩いている。

彼女はトレセン学園の全て、トレーナーも生徒達も例外なく自らの子供の如く愛している。

どちらにしろその愛する者達を危険に晒してしまうこの状況は内心穏やかでいられない、文句の一つも言いたくなるものなのである。

 

「……心中お察しします」

 

「遺憾ッ!だが私からの文句は取り下げよう」

「もし彼らが了承するのならもう何も言わぬ!」

 

「ありがとうございます、秋川理事長」

 

やよいの言葉にルドルフはバッと顔を上げる。

対してやよいは放任ッ!と書かれた扇子を広げてヤケクソ気味に笑った。

 

「なに、今後我が校が直接狙われることもあるかもしれない!そうなったら今日のことを果報だったと喜べる物だ!」

 

やよいがハーハッハッハ!と景気の良い笑い声をあげると

 

バゴオオオオオォォォ────ォォォン!!

 

……その直後窓の外から突然爆発音が響いた。

 

「ハ…………?」

 

あまりにも突然のことにやよいは目を丸くし、たづなの方に向き直る。

 

「理事長、さっきのは迂闊な発言だったかと」

 

「濡衣ッ!私か!?私が悪いのか!?いくらなんでもフラグ回収速度が速すぎるだろうッッッ!!」

 

やよい達がそうしてる間にルドルフはスマホ━━のようなもの━━を取り出し、自ららの本丸へ連絡し状況の確認を図っていく。

 

「スカイベース!応答してくれ!私だ!ルドルフだ!」

「先程トレセン学園近隣で爆発が起こった筈だ、そちらで何か確認していないか!?」

 

『そ、総司令!大変です!学園正門にデッドマンが三体も出現しました!』

 

「……三体!?」

 

━━ルドルフから連絡を受けたスカイベースオペレーターのウマ娘が状況を説明する。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

━━トレセン学園正門附近。

爆発、爆発、更に爆発。

先程までのどかであった校門前に爆音と生徒達の絶叫が鳴り響く。

渦中の真ん中、その原因となる者は三体の怪人達。

その中の一人、全身に狼のモチーフと鋭い牙を持つ口、頭にはカブト虫のような装飾も見られるいろんな生物を継ぎ接ぎしたキメラのような姿に、その上から帽子と赤い勝負服を纏った怪人━━ウルフ・デッドマンが手に持つ捻れたライフル銃“ルヒール”から何度も光弾を発射している。

光弾の威力はとても強力で、何かに着弾するたびに周囲に火花と瓦礫、爆音を撒き散らかす。

 

「フゥゥ━━フフフッ━━ハハハハッ!!」

 

怪人は頭上の大きな口の付いた帽子を深被りし、時折笑い声が漏れ出る頭部の口━━普通の人間で言うと眼孔が存在する部分に2つ付いている━━を隠しながら“ルヒール”から更に弾を発射し破壊を拡散させる。

 

「ちょっと、さっきからバカスカ撃ち過ぎじゃない?グラッセ……」

 

そんな様子を傍らにいる彼女の相棒……イカの足と吸盤を四肢と胴体に配置し、頭部はイカの頭ともエイにも見え3本の角を首元から生やしている、そんな悍しい容貌の上からフードと青い勝負服を纏った怪人━━ダイオウイカ・デッドマンが窘めるようにウルフ・デッドマン━━ビターグラッセの肩を引く。

 

「「大丈夫、ちゃんと生徒には当たらないよう撃ってるさココン、君じゃないんだから」」

 

グラッセは帽子のツバを持ち上げるとを2つの口でカチカチと小気味の悪い音を鳴らしながらダイオウイカ・デッドマン━━リトルココンに笑い掛ける。

 

「声が二重になってキモいからそっちの口で喋んな」

「つーかそれどういう意味よ……」

 

「「これは失礼、さっきまでウマ娘の姿だったからどうもね」」

 

グラッセは帽子の口をココンの方へ向ける。

 

「……私達の敵はあくまでトレセン学園という主体であってそこに在籍するウマ娘達ではない」

「故にイタズラに生徒達を傷つけるのは良くないことだ……少なくとも樫本トレーナーはそう思っている」

 

「……めんどくさっ」

 

「ハハハハッ!でもそういうところが好きなんだろう?」

「それに……手を出すなと言われてるのは生徒達だけだし、それもあくまで“私達は”だ」

 

グラッセは口元をぐにゃりと歪めると彼女達の元に近づいてくる大勢の硬い靴音に向き直る。

トレセン学園で度々起こる“有事”のために駐屯している“フェニックス”の分隊が、轟音を聞きつけ出動してきたのだ。

あまりにも唐突なことで統率が取れていないのか、隊員の数は疎らで動きもバラバラである、がそれでも士気自体は高くウマ娘である“分隊長”の号令と共に隊員達は怪人達を取り囲んでいく。

 

「そこまでだ!デットマンズ!」

 

分隊長が声を張り上げると取り囲む隊員達は一斉に拳銃をグラッセとココン達に向ける。

彼女の耳は強く絞られ、尻尾はピンと張り詰められており、緊張が伝わってくる。

それに対してグラッセは「おおっ、こわいこわい!」と戯けて大袈裟に驚いだフリをしたあと、両手を上げて降参のポーズをする。

反対にココンは呆れたように溜め息を一つこぼすと片手を隊員達へ突き出す。

 

「……すっとろい奴ら、何もなかったらこんな場所5回は平地にしてるっつの」

「そのくせ声だけ大きくて私は仕事してますよ〜……って感じ、ホントムカつくね」

 

ココンは表情を読み取れない怪人としての顔を僅かに俯かせると、手から墨を思わせる真っ黒な波動を隊員達へ向かって放射する。

それを見た分隊長は反射的に退避命令を出すも、逃げ遅れ波動に触れてしまった隊員達は苦悶の声を上げながら地面に倒れ伏してしまう。

 

「ッ……みんなっ!」

 

「相変わらず君は手が早いな」

 

「……なに?なんか文句あんの?」

 

「フッ……私の分が無くなっちゃうじゃないかッ」

 

グラッセは上げていた手の片方を頭の辺りまで下げ、前掻きのような動作をすると肩と肘に配置されている口がもぞもぞと蠢き、牙が突き出てくる。

そのまま腕を振りかぶると鋭く尖った鋸のような赤い衝撃波が発生し、空を切り裂きながら後ろに下がっていく隊員達に襲いかかる。

 

「キャアアア、アア゛ッッ!!」

 

「ああ゛あ゛!!グアッ……グッ!」

 

「グッ……よくもみんなを!」

 

胴を裂かれた者、足を切り落とされた者、形すら残らず細切れになってしまった者……そこには惨状が広がっていく。

どうにか二人の攻撃をかいくぐった分隊長は部下達を傷つけられた怒りから銃を二人に向かって乱射する。

だがグラッセに当たった弾はその強靭な表皮や剛毛に弾き飛ばされ、ココンに当たった弾はその体表のぬめりにより全て受け流され有効なダメージを与えることは出来ない。

 

《ジュニア!》

 

そんな彼女を尻目にココンは樫本から預かったバイスタンプを取り出し地面に押印する。

すると地面にギフジュニアの紋章が浮かび、そこから大量の契約書と黒いモヤが吹き出すと同時に大量の“ギフジュニア”が湧き出てくる。

 

「ハハハッ!ほらっ君も行くといい!」

 

グラッセは二人の後ろに控えていた怪人━━“マンモス・デットマン”の肩を掴み前に押し出す。

 

「━━━━━!━━━━!!!」

 

マンモス・デッドマンは低い唸り声を上げながらギフジュニア達と共に突進していく。

 

「みんな!頑張ってくるんだよッ!根性だ!ド根性ー!」

 

「……ハァ、バッッカみたい」

 

ギフジュニアとデッドマンを見送った二人の怪人は学園へ背を向け場を去ろうとする、が。

 

「待てッ!」

 

……分隊長が銃を構え二人へ叫ぶ。

 

「なんだ、まだいたのか君」

「私達はもう帰る、あっちを対処しに行った方がいいんじゃないかい?」

 

グラッセは自分たちで送り出した怪人たちの方を指差す、が分隊長はそれを無視して更に叫ぶ。

 

「お前たちの目的はなんなんだ!なんでトレセン学園を襲う!?」

 

「ハァ、目的か。確かにそれは大事だ」

 

「そんなのあの人の為、それだけに決まってんじゃん」

 

「あの人……?」

 

「それだけじゃ分かるものも分からないさ」

 

分隊長へ吐き捨てるココンの前に歩み出たグラッセは両手を大仰に広げて語りだす。

 

「私達の目的はウマ娘の社会に……ひいてはこの世界に蔓延する下らない秩序を破壊することッ!」

「偽りの幸せを終わらせる事だッッ!!」

 

「い、偽りの幸せぇ……?」

 

「理解しようとしなくてもいい、ただ受け入れろ、悪マを!」

「そうすれば導いてやるッ!何者でも無いお前たちをなッ!」

 

「そして全てが解った時!君達はこの言葉を叫ぶだろうッ!!」

 

「「グラシアスッ!デットマンズッッ!!!」」

 

ヒトの姿を捨て去って、彼女達は叫ぶ、高らかに。

自分達の正しさを微塵も疑ってはいない、まさに殉教者とも言うべき狂信と共に。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

ドォォォン……

 

「ん、なんだ……?」

 

正門で騒動が起きている頃、ダストレ達3人はそことは地理的に反対の場所、トラックにおいて三人一緒に理事長の元へ向かう為にトレーニングの片付けをしていた。

 

「なんだか凄い音が聞こえたな」

 

「というか現在進行形でドンドン言ってますね……」

 

自らがいる所とは校舎を挟んで真反対の場所から聞こえてくる物々しい騒音に三人はまた生徒が痴話喧嘩でもしているのか?等とヒソヒソと恐察する。

 

「勘弁してくれよ、せっかくテイオーを宥めた後だってのに」

 

「……大変だったな」

 

--------------------------------------------

 

「やーだ!やーだ!一緒に来てよー!」

 

「だから無理だって!仕事なんだからさ……!」

 

「むー!むー!」

 

「あーもう分かった!じゃあ今度カレー作ってやるから!お前の好きだったとびきり甘いやつ!」

 

「え!?ホント!?」

 

「ああ!兄ちゃんに任せとけ!」

 

「にっしし!約束だよ!」

 

--------------------------------------------

 

……この後テイオーは少しだけ上機嫌に寮へと帰っていった。

一緒にいたスカーレットの方は自分も片付けを手伝うと主張したものの3人の「トレーニング終わりで疲れているウマ娘にそんなことさせられない」という言葉に渋々と従いテイオーについていったのだった。

 

「フフッ……“兄ちゃん”も大変ですね?」

 

「……あいつもまだまだ子供だからなあ」

 

「いや、お前にはああってだけで他人にあそこまでぐずるのは中々ないぞ」

 

シレッと言うテイトレにダストレは手を振って「いやいや〜」と苦笑いする。

彼からすれば妹はいつまでも子供に見えるようである。

 

「……で、どうする。様子見に行く?」

 

ダストレはクイクイっと親指で校舎の方を指しながら二人に尋ねる。

本当にウマ娘が暴れているのなら自分達のような若い身分の人手があったほうが良い、生徒達に鎮圧を任せる訳にはいかないし、駐屯しているフェニックスの隊員に任せるにしても周囲の生徒たちのケアなど事後処理は学内の者が行ったほうが良い。という判断である。

 

「俺は行こう、命を懸けるのは得意だ」

 

「でしたら私も、こういう時のために武道の心得は十分にしていますから!」

 

二人もそれに同意し三人は爆音鳴り響く修羅場へと歩を進めていく。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「━━━━二体のデッドマンはそれから行方をくらまし、残ったデッドマンが正門付近で隊員達と交戦中。湧き出てきた雑兵達もなんとか校舎前の広場に留められていますが……」

 

一方理事長室では、オペレーターからの状況説明を聞いたルドルフが頭を抑え表情を曇らせていた。

 

「……そうか、分かった。」

「早急に近隣に配属されている動けそうな隊員達にトレセン学園へ向かうよう伝えてくれ、スカイベースからも援軍を頼む」

 

『分かりました』

 

「状況に変化が起こったらすぐ私のガンデフォンに掛けてくれ」

 

ルドルフはそれだけ言うと通信を切り、やよい達の方へ顔を向ける。

 

「……申し訳ありません秋川理事長、状況はかなり悪いです」

 

「うむ……だろうな」

 

やよいもルドルフも表情を暗くしながら一瞬目線を落とす。

 

「……とにかくたづな、校内に緊急避難の放送を頼む。」

「もう日暮れとはいえ校内に残ってる生徒や教師がいるかもしれんからな!」

 

「わ、分かりました!」

 

やよいに命ぜられるとたづなはすぐさま内線電話に手を掛け校内に不審者が侵入したときのための暗号放送を流す━━小学校等において緊急時の放送に隠語を用いるのは有名だが、やたら事件の多いトレセン学園では特に緊急性の高い物で同じことが行われているのだ━━。

 

「青天霹靂だ……やってくれたなデットマンズ!」

   

ルドルフは怒りで奥歯を噛み、床をカツカツと爪先で鳴らす。

 

「ソーザッツ……お怒りごもっとも、あたしも同じ気持ちです」

 

デジタルもルドルフ同様デットマンズの暴挙に対し強い怒りを覚えウマ耳を尖らせ表情を強張らせている。

レースの世界を駆け抜ける競技ウマ娘にとってトレセン学園は原点にあたるもの、彼女達の夢は全てはここから始まっているのだ。

そんなまさしく聖地と呼ばれる場所を荒らされるのはレジェンドウマ娘である二人からすれば到底許せないことである。

そして勿論……

 

「激怒ッ!許すまじデットマンズだッ!!」

 

━━そんなトレセン学園を取り仕切り、ウマ娘をこよなく愛する秋川やよいにとっても許すことの出来ない事であり、彼女の中でとてつもない憤怒が爆裂していた。

そして何より“即断即決”を是とする彼女にその怒りは行動力を与えるのには十分であった。

 

「失礼ッッ!」

 

「ワッツ!?ちょっと!?」

 

やよいはデジタルの手から“リバイスドライバー”の入ったアタッシュケースをひったくると一直線にドアへ向かった。

 

「私はこれを“彼等”に届けてくるッッ!」

「たづなッ!私の代わりに業務とこの子を任せるぞッッ!ルドルフ殿も学園を守るためにも“フェニックス”の指揮を是非ともよろしく頼むッッ!!」

「ではさらばだッッ!!!」

 

たづな達に指示をし、頭上の猫を投げ渡すやいなや、やよいは理事長室を飛び出し直線一気に駆け出して行った。

 

「あら……行ってしまわれました、流石理事長。決断がお早い」

 

やよいの身軽な即決振りにたづなは彼女の猫を抱き上げながら感心してるような素振りを見せる。

そのなんだか呑気な様子にルドルフは吠える。

 

「言っている場合ですか!校内は危険な状態なんだ、早く止めないと……」

 

「……“あの子の言うことを聞いてやってくれ”という契約ですからねえ」

 

「……は?」

 

「私は理事長の指示を優先します」

 

「ッ……なら私が!」

 

「ストーップ!その必要はありません」

「“子供達”がいるからって焦らないで」

 

自分もまた部屋を飛び出しやよいを追いかけようとするルドルフにデジタルは手を突き出して待ったを掛ける。

 

「デジタル!君まで何を言って……!」

 

「━━私が追いかけます、ルドルフさんには司令官としての仕事がありますしね」

「それに“悪マを制することが出来るのは悪マだけ”」

「こうなってしまった以上実地で“リバイス”を試すしかありません、理事長さんの判断は決して間違ったものじゃないでしょう」

「なら“リバイス”のことを“今”この世で一番理解しているあたしが行くのが道理です」

 

デジタルは胸に手を当ててルドルフに建言する。

学生時代の彼女を知っているのなら━━相手がウマ娘なのもあって━━信じられないほど理知的な物言いで、ルドルフは頼もしさを覚える。

 

「いや、むしろ知崇礼卑だったか。君は」

「……頼んだよデジタル!」

 

「かしこま!」

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

トレセン学園中央噴水広場、普段は多くの生徒が行き交い、憩いの場とする学園の名物スポット。

ウマ娘達を見守る三女神の像がある神聖なこの場所も今は銃声と怪物のうめき声が木霊していた。

 

「━━━━━━━!」

 

「この……っ!」

 

増員のフェニックス隊員の一人が襲いかかってくるギフジュニアを躱し、その顔面に銃弾を撃ち込む。

ギフジュニアは大きく怯むが、それでも倒れることは無く体勢を戻すとすぐさま再び隊員に襲いかかる。

 

「う、うわっああ!!」

 

隊員はギフジュニアに向かって再度発砲するも弾が胴体や腕部など装甲に覆われた部分に当たって効果は薄く、そのまま組敷かれ押し倒されてしまった。

 

「わっ、やめっ、やめて……!」

 

……他方でも同じような光景が広がっている。

隊員達は必死に応戦するもその装備は精々対ウマ娘を想定したもので人外の怪物である悪マに致命傷を与えるのには威力が足りず、逆に悪マの力に捕まるとそのまま━━されてしまう。

その中でもウマ娘の隊員達はその身体能力を活かしてある程度イニシアチブを取った立ち回りを出来ているが、それでも敵を倒すには中々いたらず逆に味方は倒れていくこともあって俄然に状況は不利になっていく。

 

「うっ……どうしてこんなことに……」

 

そんな中ダイワスカーレットは広場にあるベンチの裏に隠れていた。

彼女はトレーニングが終わったあと寮に直帰するつもりであったものの“走り足りない”ので学園周辺をランニングしようと校門に向かっていた。

ところがその校門が突如爆発、気の強い彼女はそれから逃げることなく遠くから様子を伺っていたら巻き込まれてしまったのだ。

その後なんとか隙をついてこの場所から離れようとしているが大量のギフジュニアがいる手前それも出来ず結果隅で縮こまってしまっている。

 

「……これからどうしよう」

 

怪物と特殊部隊の隊員達が乱戦をしている、映画のような状況であるが周囲に撮影用のカメラなんて見当たらない。

つまりこれは現実である、だがこのあまりにも非現実な状況は彼女から冷静な判断を失わせていた。

━━自分はウマ娘、それも卵とはいえ競技ウマ娘、更にその中でも逃げウマである。あの怪物達も力は強そうだが動作自体は緩慢だ。本気で走ればここから逃げるのも簡単なのでは?

彼女の競走バとしての自信と一番のウマ娘になるという自負がそんな思考を頭にもたげさせていた。

 

「イケる……!私なら……ッ!」

 

根拠のない自信、若さゆえの過信、それが彼女の身体を駆り立てた。 

広場から繋がる別校舎は今の時刻では施錠されていて、正門付近では激しい戦闘が行われている。故に目指すは本校舎の玄関、彼女の現在位置との最短距離はざっと150mほど。

ウマ娘の健脚ならば一瞬で到達出来る距離だ。

 

「行け……るッ!」

 

更に彼女━━とそのトレーナー━━はコンセントレーション……集中力を上げてスタートダッシュを早くする競走バの特殊技能教習を履修していたため出遅れなく理想的なスタートダッシュを切っていた。

あっという間に乱戦の傍らを過ぎ去り目標は目前、そのまま彼女の想定通り瞬く間に玄関へと辿り着くかに思えたが━━

 

「━━━━━━━!!」

 

━━ギフジュニアのうち一体がスカーレットの目の前に立ちはだかる。

動作は緩慢でも、悪マの単純速力はウマ娘並かはたまたそれ以上であったのだ。

 

「…………っ……!」

 

このままではスカーレットはギフジュニアと正面激突してしまう、早急にブレーキをかけるなりカーブするなりが必要だがスピードの乗った状態では間に合いそうにない。

だがしかし彼女は逆に地面を強く蹴り“跳ねた”。

そのままギフジュニアへ強烈な飛び蹴りを見舞う。

 

「━━━━!━━━!?」

 

装甲の集中している上半身ではなく無防備な下半身、それも柔らかい腹部を狙った強烈な蹴りにギフジュニアは大きく吹き飛ぶ。

対してスカーレットはこれで後ろに大きく飛ぶことになったが、減速に成功し安全に着地することにまた成功する。

だがしかしそれは乱戦の渦中で停まってしまったということであり……

 

「……うっ!?」

 

「━━━━!」

 

「━━!━━━━━!」

 

「━━スカー……━━━!」

 

スカーレットの周囲を3体のギフジュニアが取り囲んで行く。

様子見をするように身体を揺らしながらじりじりと距離を詰めていく3体の怪人。

スカーレットは後ずさりして距離を離そうとするも彼女の背後では銃撃戦が繰り広げられ、下手に動けば巻き込まれる、しかし動かねば怪人の餌食か流れ弾に当たるか。

前門の虎、後門の掛かりウマということわざを彼女は思い出していた。

 

「どうすれば……!」

 

スカーレットはキョロキョロと眼を振り回しなんとか道を見つけようとする。

怪人達は虚ろの目で彼女を見つめている、その中にあるのは殺意か敵意か、はたまた別の何かか、節穴のようなそれからスカーレットは何かを見出すことは出来ない。

 

「━━!」

 

直後先程スカーレットが蹴飛ばしたギフジュニアが突然起き上がり、その勢いで前に折れ中腰になりながらも彼女へ向かってがむしゃらに駆け出す。

 

「あ━━━━━━」

 

一度打ち倒したはずの、意識の外側にいた者が不意を打って襲い掛かってきたのだ、スカーレットは反応が遅れただ呆然とすることしか出来なかった。

ギフジュニアは腕をめちゃくちゃに振り回しながら迫る。

一歩二歩三歩と確実に彼と我の距離は縮まり、それがほぼ0になった時鈍い音と共にスカーレットの視界は赤く染まった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ガツンッ!と鈍い音と共にスカーレットは正気を取り戻した。

 

「え……!?」

 

目の前には赤い筒……つまりは消火器。

それを手に持つのは━━━━

 

「俺の担当にッ手を出すなァ!」

 

彼女、ダイワスカーレットのトレーナー、つまりはダストレである。

 

「トレーナー!」

 

「スカーレットッ!怪我は無いか!?足は無事か!?何もされてないか!?」

 

ダストレは先程の一撃でダウンしたギフジュニアに追撃の消火器を叩きつけつつスカーレットの安否を確認する。

それに対してスカーレットは困惑気味に無事であることを伝えた。

 

「トレーナー、どうしてここに……?」

 

「物騒な音が聞こえたから様子を見に……どうやら来て正解だったみたいだな!」

「……っおっと!」

 

先程まで様子見をしていたギフジュニア達がダストレの事を確認するや否や彼に手を振り上げ襲いかかってくる。

ダストレはその拳をなんとか避けるがギフジュニアは躊躇なく二の矢を打ち込もうと腕を上げる。

 

「ハアァッ!」

 

その時女性━━ミクトレの掛け声と同時にその内の二体のギフジュニアが上げた腕を彼女に取られ、そのまま“合気”の要領で後ろに引き倒される。

 

「━━━━━━!?」

 

「━━うおおおおおっ!我が命を懸けてぇ!」

 

残ったもう一体のギフジュニアが倒れた仲間の方を振り向くと、そこに刺叉を手に持ったテイトレが駆け込んで来てギフジュニアの腹を必死に突き押す。

テイトレはそのままギフジュニアの周りを半周し、スカーレット達から離れるように押す角度を調整する。

驚いたギフジュニアは刺叉を破壊しようと腕を振り回すが、対ウマ娘用の超強化プラスチックで出来たそれには有効打にはならない。

 

「うおあああ!長くは持たんぞ早く離れろ!」

 

ダストレは頷くとスカーレットの手を引っ張って走り出し噴水近くの植木の陰に隠れる。

そして二人が行ったことを確認したテイトレはギフジュニアを刺叉でさらに殴打して怯ませた隙に二人に続く。

 

「━━━━!━━!?」

 

テイトレから解放されたギフジュニアは残ったミクトレに襲いかかろうとする。

がしかしそうしようと伸ばした腕を脇に回り込まれる形で避けられてさらに肘関節を捕らえられ、勢いをそのまま利用されて倒れた仲間達の上に叩きつけられる。

 

「……脇が甘いですね」

 

倒れ、積み重なったギフジュニア達を横目にミクトレもダストレ達を追いかけた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

「ったく……スカーレット、トレーニングが終わったらまっすぐ戻れっていつも言ってるだろ?」

 

「うっ……ご、ごめんなさい……」

 

「しかもあんな無茶までして……俺達がギリギリ間に合ったから良かったものを」

 

「返す言葉もございません……」

 

無謀を咎めるダストレの言葉にスカーレットはぺしゃりと耳を倒して落ち込む。

それに気付いたダストレは慌ててフォローをしようと口を巻く。

 

「いやあでもそういう努力家なところがスカーレットのいいところでもあるからな!」

「それにやると決めた時の思い切りの良さも競バには必要だ!やっぱりお前は凄いウマ娘だよ!」

「なあ!テイトレ!?」

 

「……この状況で担当自慢を始めるお前の肝の太さも大概だと思うぞ」

 

呆れたようにテイトレは口を尖らせる。

……スカーレット達は大きな植木の陰に隠れてフェニックスと悪マの戦闘の様子を伺っていた。

戦況は一向に良くならず、地面には傷付き倒れ伏す隊員達が死屍累々の恰好を作っていく。

 

「……これからどうします?」

 

惨状を前にミクトレは重々しく口を開く。

フェニックスの部隊が押されているということは悪マ達がそれだけ自由に動ける状態にあるということであり、つまり自分達が動く危険性も高まっている。

しかし動かなければ状況は悪くなるばかり、前門の虎、後門の掛かりウマである。

……そう、彼等が今陥ってる状況は先程のスカーレットの状況と全く変わらない、余談を許さない状況である。

むしろ人数が増えている分厄介さは増えている。

 

「とりあえずスカーレットだけでもここから逃さないと」

 

「ああ……」

 

「トレセン学園はウマ娘ファーストが鉄則……ですもんね!」

 

ダストレの言葉に二人は深く頷く。

 

「そんな……!私のせいで皆さんまで巻き込んでしまったのに……!」

 

スカーレットは心苦しそうにトレーナー達へ漏らす。

彼女は自己評価や目標が高い分責任感も相応なのだ。

 

「むしろ私が囮になってでも皆さんを……っ」

 

「やめるんだ……君のせいじゃない、なんだか分からんが勝手に暴れてるあの化け物共が悪いんだからな」

 

「テイトレの言う通りだ、お前は余計なこと気にせずに明日のトレーニングどうするかだけ考えてな」

 

スカーレットは━━浅慮ではあるものの━━自らの失敗を取り返そうとした策をすげなく却下され顔を俯かせる。

……そうして偶然ながらウマ耳が正門の方へ倒れ、トレーナー達人間では乱闘の喧騒の中、他と区別出来ない“轟音”を彼女は聞き取った。

 

「……!待って!こっちになにかやってくる!」

 

「なにか?」

 

「ドスドスって重い足音で……これヒトの物じゃない、像とかそのへんの……」

 

スカーレットが掛かり気味に知覚したものを説明しようとしていると、突然強風に煽られその細長いウマ耳がふわりと揺れる。

 

「うわっ……へ?」

 

「ッ……伏せろスカーレット!!」

 

ダストレは咄嗟にスカーレットを庇うように抱きかかえ、ウマ耳が隠れるように彼女の頭を押さえつける。

その直後今日何度目かとなる爆発音━━彼等の背後をたまたま広場に駐車してあったであろう車が周囲に風鳴りを散らしながら横切り、校舎の玄関へ激突したのだ。

対ウマ娘用超強化ガラスが張られたドアはその衝撃で粉々になり、それほどの勢いで突っ込んだ車は原型がなくなるまでひしゃげ、壊れたバッテリーは火花を吐き出し漏れ出たガソリンを加熱する。

ガソリンは沸点が低く、それだけで容易に気化し始めそして燃え広がり始める━━つまりは爆発したのだ。

 

「テイトレさんも伏せて!」

 

「うおっ!?」

 

爆発は衝撃波を生み、それは本来なら皆を守るために採用されたであろう強化ガラスや強化プラスチックの破片を周囲に飛散させた。

 

「うわあああっ!」

 

飛び散った破片達は広場にいる者たち……フェニックスの隊員や悪マを無差別に襲った。

人間の隊員達は当然、さらにはウマ娘達でさえ爆発音に怯み回避が遅れたのかそれらで傷付いていく。

反対に悪マ達……ギフジュニア達は爆発音に驚いた様子を見せているものの、骨のような装甲に覆われた上半身のお陰かほぼダメージを受けず。

たとえダメージを負ったのだとしてもその頑強さからなんの問題もなく活動を続け、傷付いた隊員達に襲いかかるだろう。

 

「うっ……な、何が起きたんだ?」

 

「大丈夫ですかテイトレさん……?」

 

「と、トレーナー……?」

 

「ッ……“あ れ”、は……!……?」

 

一方トレーナー達はダストレがスカーレットを、ミクトレがテイトレを庇って地面に押し倒し身を屈めた━━周辺の植木や植え込みが礫を防いでくれたこともあり━━事でなんとか大した怪我もなく凌ぐことが出来た。

テイトレは突然のことに目を白黒させ、ミクトレはそんな彼を心配している、スカーレットはダストレが彼女の耳を塞いだお陰で爆音に耳を痛めることもなかったがそのせいで何が起きたのか把握することも出来ず辺りをキョロキョロしている。

そしてダストレはスカーレットから手を放し、立ち上がってそのまま固まってしまっている。

 

「ダストレさん……?どうかした……ッ」

 

ミクトレもまた立ち上がりダストレの側に歩み寄ると“それ”を視認して言葉を失った。 

 

「━━━━━━━!!!」

 

死屍累々で随分と静かになった広場をドスドスと音を立てながら歩く一体の怪人━━正門前で交戦していた隊員を全員倒したのであろうマンモス・デッドマン。

それはクシャクシャになった折り紙で作られたマンモスの顔のような胴体、太く厚く強靭な豪腕、表情の読めない苔むした仮面のような頭部、同じく緑色で虫のような下半身を持つ……そこらを跋扈しているギフジュニア以上の明確な異形。

その場にいた者は皆本能的にその異質を感じ察していた━━先程車をふっ飛ばしたのはアレだ。

━━アレは人間にもウマ娘にも立ち向かう事の出来ない不条理な危険、アレは逃げ出さねばならない災厄そのもののような存在である。

……と。

 

「なんだよアレは━━」

 

「ダストレさんっ!スカーレットさんをっ!」

 

呆然とするダストレを尻目にミクトレはテイトレの襟を掴んで無理矢理立たせるとそのまま走りだそうとする。

声を掛けられたダストレの方もスカーレットの肩を引っ張り立ち上がらせその場を離れようとするが……

 

「━━━━?━━━━━━!!!!」

 

動くものに目を引かれたのかマンモス・デッドマンは軽く前掻きをすると逃がすか!とばかりにトレーナー達の方へ向かって勢いよく猛進して行く。

トレーナー達がそれに反応するより早く、デッドマンは彼等の元へたどり着き、彼等が隠れていた植木を薙ぎ倒し弾き飛ばす。

その暴威に直接晒されることはなかったものの、衝撃の余波でトレーナー達は軽く吹き飛ばされ地面に転がされる。

 

「ぅ……このぉ!」

 

4人の中でダストレがいち早く立ち上がると先程の消火器を拾い上げ、マンモス・デッドマンに殴りかかる。

消火器はデッドマンの頭部に直撃するがデッドマンはそれでたじろぐことすらなく、返しとばかりにそのマンモスの耳を模した腕でダストレに殴りかかる。

ダストレはなんとか消火器を盾にするが、受け止めきれずに「うぐぅ!」と低いうめき声をあげながら大きく吹き飛ばされ遠くの植木に叩きつけられる。

 

「トレーナー!?」

 

「ダストレ!?貴様ァ!」

 

一瞬呆けていたものの、親友を傷付けられたテイトレは激昂し先程の刺叉を手に取りデッドマンを殴りつける。

だがそれは有効なダメージにはならず、どころか逆に武器にしていた強化プラスチックの刺叉をへし折られてしまう。

 

「な、そんな!?」

 

「よくもアタシのトレーナーをー!」

 

スカーレットもすかさずデッドマンの腹部に横蹴りを放つがウマ娘の膂力であってもこの怪人には有効打になりえず、デッドマンは微動だにしなかった。

 

「ウソでしょ!?」

 

「━━━━━━━━!!」

 

マンモス・デッドマンは唖然とする二人へ腕を振りかぶって襲いかかる、がミクトレが二人を庇い空振りする。

二人はそのままミクトレに引っ張られて距離を取るも、それを追撃しようとデッドマンは身を屈めて突進の構えを取る。

あわや怪人がトレーナー達に迫ろうとした瞬間、出し抜けに良く通る叫び声が響いた。

 

「到着ッッ!!やはり現場にいたか君達ッッッ!!!!!!!」

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

……マンモス・デッドマンに吹き飛ばされて気を失ったダストレは瞼の裏で自分を呼ぶ声に気付いた。

 

『……おーい!君!』

 

「ぅん……?」

 

呼び声に意識を取り戻したダストレが瞼を上げると、眼前には半透明な栗毛のウマ娘の顔が接触ギリギリの距離で広がっていた。

 

「うっおおお!?あ?うん!?」

 

ウマ娘に過剰な接近を許してしまったことにダストレは焦り驚き、即座に身体を起こす━━とそこに間髪入らず先程まで頭のあった地面にギフジュニアの脚が踏み落とされる。

 

「うわっ!?」

 

間近に発生した暴力的な衝撃でダストレはぼやついていた意識を即座に覚醒させる。

 

「そうだった!俺は今変なのに襲われてて……寝てる場合じゃなかった!」

 

目覚めたダストレはすぐさま起き上がり離れようとするが、ギフジュニアは一息つく間も与えずに襲いかかる。

ダストレは迫る怪人に先程の一撃で凹んだ消火器を投げつける。するとその勢いで消火器が壊れ、破裂・爆発しギフジュニアを吹き飛ばした。

 

『お見事、目は覚めたかな?』

 

なんとかギフジュニアを振り切り、肩で息をしながら庭木に寄りかかるダストレに、彼の身体から下半身が伸びている半透明なウマ娘が話し掛ける。

 

「ああ……アンタが俺を起こしたくれたのか、ありがとう」

 

『礼には及ばないよ。君と私は一蓮托生、君が死ねば私も死んでしまうからね』

 

「え!?それってどういう……」

 

ダストレが半透明なウマ娘に問おうとしたその時、横合いから爆発的な大声が叩きつけられた。

 

「到着ッッ!!やはり現場にいたか君達ッッッ!!!!!!!」

 

トレセン学園理事長、秋川やよいが二階校舎の窓から身を乗り出し、トレーナーたちへ向かって叫んでいるのだ。

威風堂々としたその声はどこか頼もしさを感じさせるものであったが、しかしあまりにも大きすぎたが故にトレーナー達も残っているフェニックスの隊員達も反射的に耳を塞いで……どころかデッドマン達ですら突然のことに右往左往してしまっている。

 

「感心ッッッッ!!!トレセン学園の危機に自ずから飛び込んで生徒を守ろうとするとはッ流石は我がトレセン学園のエリートトレーナーだッッッッッッ!!!!!!!!」

「しかし無謀ッッッ!!!此度の案件は本来ただのトレーナーが関わっていい物ではないぞッッッッッッ!!!!!!!!」

 

「理事長!声!声大き過ぎです!!!ちょっとだけ抑えて!!!」

 

「トォッ!!!」

 

テイトレの静止もなんのその、やよいは窓から颯爽と飛び降りると華麗に地面に着地し、そのままトレーナー達のもとへ駆け出して行く。

 

「タァーットゥーッ!!」

 

呆然とするギフジュニア達の足元を人間のそれとは思えない速度で掻い潜り、トレーナー達の目前へと到着するやいなや、やよいは手に持ったアタッシュケースをミクトレに投げ渡す。

 

「うわっ!?これは!?」

 

「ミクトレくんッッ!君がそれを使う第一候補らしいッッッ!!」

「それを使えば悪マと契約しその力を操れるッッ!それをつかって我が学園を守る戦士“仮面ライダー”になってほしいんだッッッ!!!」

 

「悪マ?それに仮面ライダーって……」

 

「……本来なら君たちトレーナーにはウマ娘のことだけに集中して欲しい、だがッッッ!!!」

「今トレセン学園を襲っている危機は未曾有のモノだッ!遺憾ながらそれを使いこなせる君達にこれを託すしかないッッッ!!」

 

やよいに促されるままミクトレはアタッシュケースを開き、その中に入っていた“バイスタンプ”と“リバイスドライバー”を手に取る。

 

「これは……?」

 

『そうだ葵……それを使え……それを使って俺を解放しろ……』

 

「!?」

 

突然不気味な声が頭の中に響きミクトレは周囲を見渡す。

すると三女神像の噴水に映る自分の姿がツンツンとした髪型のウマ娘によく似た黒い影に変わっていくのを目撃してしまう。

 

「な……!?」

 

『葵ィ……それを使え……そうすれば皆がお前を認めてくれる……立派なトレーナーとしてなァ……』

『お前の……望みをォ……俺が叶えてやる……』

 

目を黄色く光らせながら語りかけてくる黒い影。

それと1つ2つと言葉を交わすとミクトレはスタンプとドライバーを手から落としてしまう。

 

「あ……ああ……」

 

「……ミクトレ?」

 

『……アア?なんだ……ビビっちまったのか……?』

『チッ……ロジカルじゃねェ……』

 

「ミクトレ!おいミクトレッ!!」

 

肩を抱きながら震えるミクトレにテイトレは呼びかけるも反応は返らない。

尋常ではない様子のミクトレの前にテイトレは意を決したようにスタンプを見つめる。

 

「ミクトレくんッ!大丈夫か!?」

 

「理事長ッ!!」

 

「!?」

 

テイトレはドライバーとスタンプを拾いながらやよいに問いかける。

 

「……これは俺にも使えるんですか!?」

 

「あ、ああ!君もそれを使う候補の一人だったッ!それを腰に着けるんだッッ!!!」

 

テイトレは“リバイスドライバー”を装着し、決意の篭った瞳でデッドマン達を睨みつける。

 

「……お前たちが何処の誰で何なのかは知らない」

「だが!この学園は皆の夢が集う場所だ!そんな場所を荒らすお前達を許すわけにはいかない!!」

「我が命を懸けて……この学園の生徒達は!ミクトレは!皆は!俺が守る!!!」

「これは……ここか!!」

 

《レックス!》

 

テイトレはスタンプの天面のボタンを押し、高く掲げ振り下ろし“リバイスドライバー”の目を引く大きな台━━オーインジェクターに押印しようとする。

 

バチバチバチィッ!

 

……しかし“バイスタンプ”と“オーインジェクター”の間に斥力を伴うエネルギーが発生し弾かれてしまう。

エネルギーはテイトレの身体へと逆流し、悶える彼の身体から巨大な契約書が飛び出す。

 

「なっ!?」

 

契約書はクシャクシャに丸まりながら形を変え、T−レックスの意匠を持つ悪マ獣“レックス・デッドマン”へと姿を変えた。

レックス・デッドマンはテイトレを殴り飛ばし、彼の持っていたスタンプとドライバーはあらぬ場所へ飛んでいった。

 

『おっと……ククッ、悪マが増えてしまったねえ?』

 

「テイトレェ!?」

 

「━━━━━━!!!」

 

遠巻きに事態を見ていたダストレはテイトレが吹き飛ばされたのを皮切りに彼等に駆け寄ろうとするが目の前にギフジュニアが立ち塞がりそれが出来ない。

 

◆◆◆◆

 

……一方アグネスデジタルはやよいを追って校舎を彷徨い、やよいが飛び降りた校舎の窓に着いていた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……引退してから引きこもりだった私には……いきなり運動するのは少しばかり堪えますねえ……」

「理事長さん、何処に……?」

「って……あーっ!?」

 

デジタルがふと窓から外の様子を確認すると、広場の惨状を目の当たりにしてしまう。

 

「うおおおおお!実働隊のウマ娘ちゃん達が傷付いておられているぅ!?それにアソコにおわすは今大注目株のダイワスカーレットちゃん!?しかもデッドマンに囲まれて大ピンチ!?こうしちゃおられねえッ!!!」

 

尊い推し達のピンチを目撃したデジタルはいてもたってもいられずに窓から飛び降り、スカーレット達のもとへ駆け出して行く。

 

◆◆◆◆

 

「テイトレさんっ!ミクトレさんっ!しっかりしてください!」

 

テイトレはデッドマンに殴られて気を失い、ミクトレは何かに怯え正気の状態ではない。

理事長も動き出したギフジュニアに迫られ迂闊に身動き出来ない状況。

自身のトレーナーの方を見るとギフジュニアに囲まれているのが見えた。

フェニックスの隊員達も自分達のことで精一杯で誰も助けに来れるような状態ではない。

━━━━ダイワスカーレットは三度の窮地に立たされていた。

 

「━━━━!!」

 

「━━━━━━━━!!」

 

マンモスとレックス、二体のデッドマンが唸り声を上げながらスカーレット達へ迫る。

目の前の確かな脅威、逃れ得ぬ暴威、ウマ娘の能力を持ってしても振り払えぬ絶望。 

それに対してスカーレットは……真っ向から立ち向かおうとしていた。

ポジティブな感情からではない、圧倒的な不利からの揺り戻し……要するに掛かっているのだ。

 

「……掛かって……来なさいよ……っ!」

「アタシがこんなところで終わるわけないんだから!アタシは!アタシにはーッ!」

 

「やめろっスカーレット!逃げろ!逃げてくれ……!」

 

ギフジュニア達を躱しながらダストレは叫ぶ。

しかしその声は掛かっているスカーレットには届かない。

 

「クソッ!どうすれば……どうすればいい!?」

 

『ふぅン……君、そこに落ちているハンコを拾いたまえ』

 

「!?」

 

ダストレは掛けられた声で先程テイトレが手にしていたスタンプが足元に転がっているのに気付き、すぐさま拾う。

 

「これは……」

 

そして透明なウマ娘は「我に妙案あり」とばかりな笑みを浮かべながらダストレへ語りかける。

 

『ククッ、自分の担当を助けたいだろう?ならば私の言うことに従うんだ』

『その“バイスタンプ”を身体に押せ、そしてこの私と契約しろ』

『そしたら私がこいつらをぶっ飛ばしてやろうじゃないか!』

 

「バイスタンプ?それに契約って……アンタなんなんだよ!?」

 

『フッ……私は君の悪マ……そうだね、今君達を襲っている連中の同類さ』

 

「なっ!?」

 

驚愕に表情を染めるダストレへ待ったを掛けるように透明なウマ娘は袖に隠れた手を突き出す。

 

『おっと、勘違いしないでくれよ。私はこいつらと違って良い悪マなんだ、現に君を助けようとしているだろ?』

『契約には対価が必要だが……まぁ気にするな。精々一生この私のモルモットになるって程度の軽いものさ!』

 

「も、モルモットって……」

 

『それで命が助かるんだ、安いものだろう?』

『ほら、早く!……はーやーくー!契約したまえよー!』

 

“悪マ”は手を叩きながらダストレに契約を催促する。

ダストレは一瞬だけ逡巡した後、肚を決めて悪マに問いただす。

 

「……本当にこの状況をなんとかしてくれるんだよな?」

 

『任せたまえよ、トレーナーくん。悪マは嘘を吐かないし、私自身も嘘は好かない』

『“こんな奴らぶっ飛ばしてやろうじゃないか!”』

 

両腕を腰の位置で開く独特なポーズで大見得を切る悪マ。

そんななんだか“アクマ”という物騒な響きからはらしからぬ姿を見て湧き上がる微笑ましさを抑えながら、ダストレは胸にバイスタンプを構える。

 

《レックス!》

 

「悪マと契約する……つまり悪マのトレーナーになれってわけか」

 

『ン?まぁ……そういう解釈でもいいかもねえ』

 

━━━━夕焼けが二人を照らす。

いつかどこかの彼等のように、きっとありえた彼等のように。

一瞬だけ猛烈な既視感が二人の身体を硬直させる。

それはまるで白昼夢、魂に刻まれているのかもしれない光景。しかし彼等の記憶と記録にそんなものはない。

その一瞬は彼女の記憶に残ることはなく、その一瞬を振り切って彼は腕を振り下ろした。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

「このっ……退いてッ!」

 

デジタルは倒れている隊員から回収した拳銃を使ってなんとかギフジュニアに対応していた。

 

「勢いで飛び出してきたはいいですけど……あたし戦うのは専門外なんですよね……」

「このままじゃウマ娘ちゃん達を助けるどころか私まで……」

 

その最中にふとスカーレット達の様子を見るとデジタルの眼にダストレが“バイスタンプ”を使おうとしている光景が入ってくる。

 

「……!?待って!!」

 

《〜!♪》

 

ダストレの身体から巨大な契約書が飛び出て来る。

契約書は折りたたまれながらその姿を変えていき…………

 

「あ、ああ……まさかトレーナーさん達の中からバイスタンプを使ってしまう人が出てくるなんて……」

「それもよりにもよって彼が……ルドルフさんに何と言えば……!?」

 

悪マの契約書はクシャクシャになりながらも整ったヒトの形へと変わり、最後には一人のウマ娘の姿へと成った。

 

「なっ……そんな、あれは、なんで!?」

「た、タタタ……タキオンしゃんっ!?」

 

━━━━その姿は、かつてターフを駆け抜けた優駿の一人“アグネスタキオン”と寸分も違わぬものであった。

 

「クククッ……ハーハハハハハハハハハハッッ!!!」

「大気が肌を擦り確かな輪郭の存在が私の脳内に流れ込んでくるっ!」

「そして何よりこの地に足を付ける感覚……これは私の身体だっ!!“私は現実に立っている”!!」

「素晴らしい!実に素晴らしいぞ!!ハハハハハハッ!!」

 

実体化した悪マは実に愉快そうに高笑いをあげた。

まるで長年待ち望んだ物を手に入れたかのように、まるで喪った宝物を取り戻したかのように。

 

「━━━━━━!!」

 

「━━━━━━━━━━!!!」

 

そんな悪マの前に複数のギフジュニア達がゾロゾロと蠢きながら立ち塞がる。

 

「……おっと、ハイになってる場合じゃなかったな。契約を果たさねば……ねっ!」

 

悪マはその腕を振るうと、彼女の纏う勝負服の長い袖がさらに伸長する。

 

「とうッ!!」 

 

そのままその袖を鞭のごとくしならせながらギフジュニア達へ薙ぎ払い、爆散させる。

 

「す……スゲェ……」

 

「フフッ!さて次はッ!」

 

悪マは前傾に身構えた後まるで消えたかのような速さでデジタルの元へ駆け寄る。

そしてそのままデジタルを囲むギフジュニア達をフックの容量で彼方へと殴り飛ばした。

 

「うぇっ!?」

 

「……フッ」

 

悪マは一瞬だけデジタルを見澄ますと、すぐさまスカーレットの方へ向き直りそのまま高く跳躍する。

そしてそのまま二体のデッドマンへ隕石のごとく強烈な飛び蹴りを放ち、瓦礫の山へと吹き飛ばす。

突然自らを助けに飛び込んで来た見知った顔━━それも本来なら当の昔に死んでしまっている━━に助けられた二人は目を丸くして驚いていた。

 

「えっと……貴女、は」

「アグネス、タキオン……さん?なんですか?」

「……ありがとうございま━━━━」

 

スカーレットは困惑しながらも自分を助けてくれた悪マへと礼を言おうとする……だがしかし、彼女の纏う雰囲気が一変し足を止めてしまう。

悪マは先程までの愉悦を漂わせる表情とは打って変わり、苦虫を噛みつぶしたかのような沈痛な顔色を作っている。

 

「……何故だ、何が違う。なぜ満たされない!?」

「今私は確実に地を駆けたのだぞ!?だのに……!」

「ああそうか……私の足はとうに死んでいるのだ、この足にもう可能性などないのだッ……」

 

「あの……」

 

ブツブツと何かを呟く悪マにスカーレットが声をかけると悪マはギョロリと首を彼女の方に振り向けて、睨みつけた。

その仄暗く赤く光る瞳の中には何か深い執念や妄念を感じさせるものがあり、スカーレットは底知れぬ威圧感を感じ、思わず息を呑んだ。

 

「……生きた足か」

「ククッ……君はダイワスカーレットくん、だったかな?」

 

悪マは屈託のない笑みを見せながら両手を広げてゆっくりとスカーレットとの距離を詰めていく。

朗らかに爽やかに、決して相手に恐れられることは無いように。穏やかなそれはしかしまるで獲物を狙う獣であった。

 

「は、ハイ……」

「えっと、その、助けて頂きありがとうございます……?」

 

「そう畏まらないでくれよ、さっきのは彼との契約が故のことだしさ」

「……もし何か返礼がしたいというのなら君も私と契約をしないか?」

 

「契約……?」

 

言うやいなや、悪マはスカーレットの目前に目にも止まらぬ速さで移動すると彼女の片足を掴みそのまま地に組み敷いた。

 

「痛……っ!?」

 

「━━━━私は足が欲しい、可能性に満ち満ちた君の足が欲しい。」

 

「え……」

 

悪マは掴む力を強める。

壊れないように優しく、だが腕から離れ落ちないようにしっかりと。

空いてる手は腿に添えて筋肉の形を確かめている。

卵とはいえアスリートらしく鍛えられた大腿筋にはしなやかな力強さが秘められているも、未だ未熟であるそれの感触に悪マは口の端をあからさまにニヤァと吊り上げた。

 

「ヒャッ……」

 

「素晴らしい……君の足はまさしく削り出す前のダイヤモンドだ。いや……私からすればそれ以上、100カラットのダイヤですらこの輝きの前には霞むだろう」

「少々懸念材料もあるが……アレから私は数多のモルモットを使ってデータを蓄積してきた、“次は上手くやれる”」

「だからさ━━君の足を私に譲ってくれ、代わりに私のこれをやるからさ」

 

その時、悪マの瞳は濁りを更に深め腿に添えた手はスカーレットの首へ回り彼女を押さえつける。

 

「ぐへっ……は、離してっ!」

 

「一言、一言だけ。“私と契約する”と……それだけ言ってくれたらいいんだ」

 

迫られるもスカーレットは空いたもう片足で悪マを蹴りつける。

だが体勢のせいで力も乗らず蹴られた悪マは少したじろぐ程度で痛がりもせず更にニヤニヤとした余裕の笑みを強める。

 

「もう!!またァ!!?」

 

「おや……いけないな、君の足はただ走ることだけに消費するべきだ。」

「ウマ娘の寿命は短い……足は大事にしたまえ」

 

「おい!?何してんだ!?」

「契約(はなし)と違うぞ!スカーレット達を助けてくれるって……!」

 

「なんのことだね?」

 

突然の凶行にダストレは叫ぶ、が悪マは興味なさ気な態度で一瞥もくれずに返す。

 

「君と私が交した契約は“状況をなんとかする”と“こんな奴らぶっとばしてやる”だ」

「さしあたり君達を囲っていた悪マは排除したし、とりあえず君の命の危機という最悪の状況はなんとかした」

「つまりこれで契約完了さ」

 

「ふざけんなっ!お前が暴れてんなら意味ねえだろ!」

 

ダストレは悪マに殴り掛からんとする勢いで駆け出すが何度目か複数のギフジュニアがその前に立ち塞がり急停止を余儀なくされる。

 

「のけっ!のけよっ!!」

 

「やれやれ、まだ来るか。少し保たせてていたまえ、すぐに済ませる」

 

そう言い悪マはスカーレットを押さえる力を更に強める。

 

「スカーレット!スカーレットッ!!」

 

担当の危機に冷静でないダストレは無理矢理にでもギフジュニア達の間を押し通ろうとするが、逆に押し返され呻きながら地面を転がる。

倒れたダストレにギフジュニアが襲いかかろうとするが、背後から銃弾が飛んできてその動きが止まる。

アグネスデジタルがギフジュニアに対して撃ちかけたのだ。

 

「そこのウマ娘ちゃん好きトレーナーの君!」

「そのドライバーを使ってあのタキオンさん……いや君の中の悪マを制御するんですっ!」

「上手くいけば君自身の力でスカーレットさんを守れるはずです!」

 

「ドライバー……?」

 

アグネスデジタルが指差す方向を辿るとそこには先程テイトレが装着した“リバイスドライバー”が吹き飛ばされ落ちているのを見つける。

ダストレはギフジュニアを潜り抜けそれを素早く拾って腰に装着する。

 

《リバイスドライバー!》

 

 

◆◆◆◆

 

「駄目、私はこの足じゃないとダメなの……!」

 

「……ふぅン」

 

悪マに地に縫い付けられながらもスカーレットはその瞳に滾る炎を消すことはなかった。

赤い瞳孔は悪マを捉え、その容貌を余すことなく反射し悪マの眼へとぶつけている。

 

「なぜ拘る?先程この脚の性能は見せたはずだが、これならばどんなレースにだって負けないだろう?」

 

「……アタシには夢があるから、トレーナーと一緒に叶えてみせるって約束した夢が!」

「その夢には自分の足で走っていかないといけないの!そんなドーピングみたいなこと……絶対に頼らない!」

 

「夢……」

 

悪マは一瞬目を見開き何かを思い詰めた表情をしたあと、スカーレットを拘束する力を緩めた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「えっ……」

 

「ああ……そうだね。私もドーピングは好かないよ」

 

《リバイスドライバー!》

 

「ん?…………んおおおおおお!?!?」

 

ダストレが“リバイスドライバー”を装着すると悪マは猛烈な引力に引っ張られダストレの身体に取り込まれていく。

 

「うおっ!?……こいつは……湧いてきたぜ!!」

「俺の担当は……俺が守る!」

 

ダストレは“レックスバイスタンプ”を突き出すように構え天面のボタンを押す。

 

《レックス!》

 

「ハァ〜……」

 

そして“バイスタンプ”の底面、T-レックスが意匠されているマークに息を吹きかける。

それと同時に彼の背後にメッセージアプリのような物が表示された液晶が出現する。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

おい悪マ!よくもスカーレットに手を出しやがったな!>

 

<湧いてきたぜって……何が湧いてきたんだい?

 

えっ、ダイワスカーレットとのトレーニングに活かせるかもしれないアイディア?>

 

<……こんな時に呑気だねえ君は

 

ご、ごめん……>

 

……ってなんで俺が怒られてるんだよ!?>

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

そのまま“オーインジェクター”に“バイスタンプ”を押印する。

すると“リバイスドライバー”から変身を認証したという趣旨の待機アラートが発せられる。

《〜♪Come on!レ・レ・レ・レックス!》

《〜♪Come on!レ・レ・レ・レックス!》

 

『フッ……ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ッ!!』

 

そしてダストレの身体から悪マ……アグネスタキオンのような姿を模した影が飛び出し、高笑いを上げながら彼の周りを飛び回る。

 

「えぇ……?」

 

「バイスタンプをセットして……“変身”ですっ!」

 

「っ……変身ッッ!!」

 

ダストレは困惑しながらも“リバイスドライバー”に設けられた“バイスタンプ”の装填スロット……“バイスタンプゴースロット”に“レックスバイスタンプ”を装填し、そのままレバーのように操作する。

 

《バディアップ!》

 

『よいしょっと!』

 

すると悪マの手に巨大な“バイスタンプ”を模したエネルギーが生成され、悪マはそれをダストレに被せる。

その後変身のためのプロセスが完了したことを告げる音声が“リバイスドライバー”から流れ出す。

 

《〜♪〜♫ オーイング!ショーニング!ローリング!ゴーイング!》

 

ドライバーにより“バディアップ”が実行され、ダストレに被せられた“バイスタンプ”に“リバイスドライバー”から供給されるエネルギー“ウマゲノムパワー”が満ちていきダストレの身体に纏わりついていく。

 

《仮面ライダー!》

 

ダストレの周りの“ウマゲノムパワー”が戦闘用の装甲を形成していく。

そして背後の液晶から悪マを制御・強化するためのプロテクターが飛び出し、悪マへと装着され彼女を実体化する。

 

《タキオン!モルモット!タキモル!》

 

“バイスタンプ”が砕け散り、中を満たしていた“ウマゲノムパワー”の残滓が飛び散る。

悪マとダストレは白亜紀に君臨した“最強”の恐竜“ティラノサウルス”と少ないレース数ながらもその後に活躍することとなる優駿達を打ち倒した“最強”の名を噂されるレジェンドウマ娘“超高速のプリンセス アグネスタキオン”、そのそれぞれの力を受け継いだ“最強”戦士達“仮面ライダータキオン”と“仮面ライダーモルモット”へと変身した!

 

 

 

「ワーオ……これは……」

「クククッ……ハハハハ!実に、実に興味深いな!面白いっ!!」

 

「こ、これが……仮面ライダー」

 

 

【挿絵表示】

 

 

◆◆◆◆

 

「ト、トレーナーが……変身しちゃった……」

 

「ダストレくん……変身してしまったか……ッッ!!」

 

「オーケェイ……エンダアアアアアアアア!!!」

「ちょっと変身音違ったけど……仮面ライダー!誕!生!」

 

困惑、慚悔、歓喜。

スカーレット、やよい、デジタルはダストレ達の変身に三者三様の反応を返す。

周囲のフェニックス隊員達は何処からか連絡を受けると負傷者を回収して撤収の準備を始めた。

 

「おい悪マ!!」

 

モルモットはタキオンを“左手で薙ぎ打つ”、それが“左腕で受け止められる”と今度は“はたこうとするもまた受け止められる”。

 

「ククッ……いきなり随分なことじゃないか」

 

「ダァーッ!」

 

叫ぶと“モルモットは裏拳を放つがタキオンはそれを手のひらで受け止めた”。

 

「何をそんなに怒っているんだい」

「さっきのはほら……悪マ式のジョークじゃないか」

 

「ジョークで済むか!」

 

「今はそれよりもあっちじゃないか?」

 

タキオンはギフジュニア達を差す。

モルモットは一瞬逡巡した後答えを返す。

 

「……分かったよ!お前を殴るのは後にする!まずは━━」

 

モルモットはその場で軽くステップを踏む。

すると地面から輝く数式がぞろぞろと浮かび出て来てモルモットの目の前へ集まる。

 

「━━アイツらだ!」

 

モルモットは数式を回し蹴りで蹴り飛ばし、やよいの周りにいるギフジュニアの集団へとぶつける。

直撃したギフジュニア達は揃って爆散した。

 

「たぁーっ!ていっ!」

 

タキオンはギフジュニアの一人へと駆け出し、アッパーカットを見舞う。

受けたギフジュニアはめちゃくちゃに回転しながら上空へ吹き飛びその威力で爆発した。

 

「ダストレさん!この“リバイスシステム”にはウマ娘ちゃん達のデータが込められています!」

「特にレックススタンプはアグネスタキオンさんの力を宿したスタンプです!即ち……先行策で戦ってください!」

 

「先行策……なるほどな!」

 

アグネスデジタルからアドバイスを受けたモルモットはギフジュニア達に先を制するように怒涛の、しかしクールなコンビネーションを繰り出していく。

 

「ハアァ!!デヤァ!!」

 

モルモットのパンチはギフジュニアの装甲を容易く砕き、キックの威力はその身体をひしゃげさせる。

 

「ふぅン……人間の性能をあそこまで強化するとは」

「デジタルくんめ、中々良いものを作ったじゃないか……クククッ━━ほっ!」

 

タキオンが“リバイスドライバー”の性能に感心しているとギフジュニアが背後から彼女に襲い掛かってくる。

だがタキオンは動じずに肘打ちでカウンターを喰らわせる。

 

「━━━━!!!」

 

「━━━━!!!」

 

タキオンとモルモットがギフジュニア達に応戦していると瓦礫の中から二体のデッドマンが復活してきた。

マンモス・デッドマンは迷うことなくモルモットへと一直線、レックス・デッドマンはキョロキョロと周囲を見渡したあとスカーレット達へ襲い掛かった。

 

「あっ待て!この━━━━━━っ!」

 

モルモットはスカーレット達の助けに入ろうとするもマンモス・デッドマンに阻まれ動けない。

 

「━━━━━━━━!!」

 

「……危機ッ!」

 

「きゃっ……」

 

「おっと危ない」

 

シュルシュルシュルッ!

 

タキオンは突進するレックス・デッドマンを両腕の袖を伸ばして拘束する。

デッドマンは長く伸びた袖に全身をギチギチと締め付けられ小さく呻きながら悶える。

タキオンはそのまま袖を振り回しモルモットと取っ組み合っているマンモス・デッドマンにレックス・デッドマンを叩きつけ吹き飛ばす。

 

「うおっ……悪マの癖にいいとこあんじゃねーか」

 

「フッ、何……少々彼女のことを気に入ってね」

「それよりももっとそのドライバーの力を見せてくれよ!」

 

「もっとって言われてもな……ん?」

 

モルモットはふとドライバーから“バイスタンプ”を取り出すと、底面に描かれたマークが自らの胸にあるものと同一であることに気付く。

 

「もしかして……」

 

《〜!♫》

 

「おっ……うおお?」

 

モルモットが胸に押印すると“リバイスドライバー”がシステムの調整を行い、モルモットの脚部がより恐竜のそれらしいものに変化していく。

 

「なんだこれ……ヘヘッ」

 

モルモットは変化した足を活かしてデッドマン達に強力なスタンピングを仕掛けて蹴飛ばした。

 

「━━━━━━!」

 

「━━━━━━━━!!」

 

自分たちを容易く蹴散らしていく仮面ライダー達の脅威を認識したギフジュニア達は何処からか取り出した白いナイフで武装し、モルモットたちに襲い掛かってくる。

 

「フフッ、私も良いところを見せないと……ねっ!」

 

対しタキオンが空に何かを書く動作をすると、そこに光る数式の壁が現れる。

それをギフジュニアへ向けて蹴飛ばすと、数式がギフジュニア達に絡ま付きり動きを阻害し封じ込めた。

 

「しかし武器を持ち出してきたか……面倒だねえ」

 

「そこの君!これ、ちょいと使ってみて!」

 

「ん……?」

 

戦闘の隙間を縫い、アグネスデジタルがモルモットにスタンプを投げ渡す。

 

「……なんだこれ?」

 

「ハンコなんだから押すんじゃないかい?」

 

「なるほど……ほいっ」

 

PONG!

 

モルモットが渡されたスタンプを手のひらに押印すると、スタンプの天面からドライバー同様“オーインジェクター”が備えられている大きめな斧が生成されていく。

 

「おっ……おおー!」

 

「ほう……ハンコを押して敵を倒すからオーインバスターと言ったところかな?」

 

「へぇ……いいね。採用!」 

 

モルモットはギフジュニア達に向けてオーインバスターを振り下ろし、斬撃を放つ。

攻撃を受けたギフジュニアは装甲の上からその身体を破断されバラバラに砕け散っていく。

 

「モルモットくん、合わせたまえ!」

 

タキオンは両袖を伸ばして散らばった残りのギフジュニアの集団をまとめて拘束し上空へと放り投げる。

 

「よーしっ!」

 

それに合わせモルモットはオーインバスターの根本のスタンプを取り外し、オーインジェクターへと押印する。

 

《スタンプバイ!》

 

すると刃先にエネルギーが集中していき、オーインバスターから必殺技発動の待機アラートが流れる。

 

《〜♪〜♫〜♫〜♫》

《オーイングスラッシュ!》

 

モルモットが持ち手のトリガーを引きオーインバスターを振るうと“オーイングスラッシュ”が発動し、刃から複数に分かたれた斬撃がギフジュニアへ向けて飛んでいく。

 

「━━━━━━━━!?」

 

斬撃を受けたギフジュニア達には悪魔の顔のような押印エフェクトが発生した後空中で木っ端微塵に全滅していった。

 

「フフッ、私達中々良いコンビになるんじゃないか?」

 

「ああ?……俺の相棒はスカーレットだけだっつーの!!」

 

「━━━━━━━━━━!!!」

 

モルモットは雄叫びを上げて突っ込んでくるレックス・デッドマンの攻撃をに飛び上がって躱し二段蹴りを浴びせる。

 

「全く、釣れないねえ……ふんっ!」

 

タキオンはモルモットが向かった方向とは反対方向のマンモス・デッドマンに向かっていくと相手が反応する前にラリアットを仕掛けダウンさせた。

 

「これにはウマ娘の力が込められている……それを最大限に活かすならこれだ!」

「一気に行くぜ!」

 

モルモットはドライバーのスタンプをレバー操作する、すると“リバイスドライバー”から必殺技発動の警告アラートが流れ出し彼の足先にエネルギーが集中していく。

 

《〜♪〜♪〜♫〜♫》

 

「ハァーッダアッ!」

 

マンモス・デッドマンに膝蹴りを繰り出しながら回り込み、飛び後ろ回しで空中へと吹き飛ばす。

 

「ほう……なるほど。なら今度は私が彼に合わせるとしようか!」

 

モルモットのレバー操作に合わせてタキオンの足にもエネルギーが集中する。

タキオンはダウンするマンモス・デッドマンを無理やり起こすとその場でサマーソルトキックを繰り出して片方のデッドマンと同じ方向へ飛ばした。

 

「ハァッ!」

 

「とうっ!」

 

モルモットとタキオンはタイミングを合わせて空中に飛び上がり必殺の体勢を取る。

そしてモルモットはもう一度スタンプをレバー操作した。

すると彼等の足に“バイスタンプ”を模したエネルギー体が装着される。

 

《レックス!スタンピングフィニッシュ!》

 

ドライバーにより“スタンピングフィニッシュ”が発動し、彼等は交差するように必殺の飛び蹴り━━ライダーキック━━をデッドマンに向かって放つ。

 

「ハアァァァッ!!ハァッ!!!!」

 

「とおおおっ……でえい!!!!」

 

ドオォォォォン!!

 

二人の蹴りはまるでハンコを押すかのように威力が貫通し、デッドマン達を地面に叩きつける。

叩きつけられたデッドマン達はそのあまりの威力に身体の限界が来たのか見事に爆散していった。

タキオンとモルモットは火花散る地面へと華麗に着地する。

 

「ハァ……ハァ……終わった……のか?」

 

「ふぅン……私達の勝利、だねえ?」

 

「ブラーボォー!ありがとう仮面ライダーさん!!」

 

アグネスデジタルは勝利を確認している二人の元へ拍手をしながら歩いて来る。

 

「ハッ!?あなたはよく見たら……あの“勇者”で有名なアグネスデジタルさん!?バ場や国すら問わずにレースで勝ちまくった━━━━━━」

 

早口長文が出そうになるモルモットを無視してデジタルは二人の肩を掴む。

 

「貴女が仮面ライダータキオンで……貴方が仮面ライダーモルモットですねっ!」

「二人合わせて……仮面ライダータキモルってとこでしょうか!!」

 

「タキオン?私が?……難儀だねえ」

 

「……モルモット?俺そんなダサい名前なんですか!?」

 

「だって、ドライバーがそう認識しちゃったようですし……」

「本当はリバイって言うんですけど……仕方ないですよね?」

 

「いやいやいや!リバイ!リバイでいいです!リバイでお願いします!」

 

「そう言われましても……」

 

「……見事ッッッ!!任を果たしてくれたようだな、ダストレくん」

 

困惑しているモルモットの元にやよいも腕を組みながらやってきた。

 

「……そして謝意ッ!これからも君に戦闘を強いてしまうやもしれないッ!!」

 

やよいはモルモットに対して全力の謝意を込めて頭を下げる。

 

「理事長!?やめてください!」

「トレセン学園は俺にとっても大事な場所なんです、それを守るためならこれぐらい……」

「……俺の方こそ目の前で傷つけられる生徒達を放っておけませんよ!」

 

モルモットの言葉を聞いたやよいは少し複雑な顔をしたあと、直ぐにいつもどおりの自信満々な表情に戻り大きく頷いた。

 

「……依頼ッ!我がトレセンをよろしく頼むぞダストレくん!……いや、仮面ライダーモルモットッ!!」

 

「いやそれは本当にやめてください!?やめて!!!」

 

「ハッハッハッハッハ!!まぁいいじゃないかモルモットくん!」

 

「あー!というかお前さっきからナチュラルに人のことモルモット呼びしやがって!人のことなんだと思ってるんだ!?」

 

「君は私のモルモットだよ?そういう契約だろう?」

 

「あんなもん不成立に決まってんだろ!」

 

「えー!?」

 

モルモットに真正面から契約を否定されタキオンは露骨に驚きましたー!という感じの声を上げる。

 

「ハァー……まぁいい」

「とにかく君と彼女にはこれから色々と働いてもらわないといけない」

 

「……?どういうことだよ?」

 

「私も彼女の夢をサポートしてやるということさ」

 

「はぁ!?」

 

「ククッ……これからよろしく頼むよ?モルモットくん?」

 

タキオンは笑いかける。

彼女の瞳と同じく、赤く冷たく情熱的に輝く夕陽を背にして。

それはいつか、どこかで確かに出会い運命を交わらせた二人が見たものと同じもの。

 

「どういうことだよ!詳しく説明しろ!」

 

「フフッハハハハハッ!これから忙しくなるぞー!ふふふふっ!」

 

「あっコラ!逃げんな!」

 

色の無い夢の中で彼等は笑う。

尽きたエントロピーは整合性を冷たく揃え、摩天楼の先の空は既に昏く、暴き出されるはずだった物は永遠に失われた。

━━━━それでも二人は出会った。

 

「待てーっ!」

 

「フフッ、フフフッ!」

 

━━これは再誕の物語、“悪マ”と“仮面ライダー”という大いなる誤算は、出会えなかった彼等をどうしても引き合わせ動かし始める。

━━これは青春の物語、失われた彼等の青春はもう一度走り出す。

……彼ら自身の足で、その先にあるものがどんな苦悩だろうと、試練であろうとも。

 

◆◆◆◆

 

「トレーナー、ただいま戻りましたー」

 

ココンとグラッセはデッドマンズベースへと帰還すると、その一室に立ち寄り樫本へと経過報告をしに向かう。

 

「ああ……二人ともおかえりなさい……食事の準備は出来てますから少し休んでから摂りましょう……」

 

対して樫本は気だるげにソファーに座りながら二人を労おうと言葉を掛ける。

 

「……なんだかお疲れのようですね」

 

「す、すみません……本当なら仕事をしてきた二人の方が疲れているはずなのに……」

「しかしどうもあの場所に立つのは体力を使ってしまい……」

 

「大丈夫、トレーナーの体力の無さはよく知ってるから!」

 

言うとココンは樫本の背に周り彼女の肩に肘を乗せ肘圧し始めた。

 

「ああっいけませんココンッ!本来労いを受けるべきは貴女達のほうで!」

 

「いいからいいから、大人しくしててください」

 

「相変わらず仲がいいなぁ……」

 

仲睦まじい二人を尻目にグラッセは机の上に置いてある“バイスタンプ”へと手を伸ばす。

 

「トレーナー、確かに植え付けてきましたよ。あの学園に悪意の種を……」

 

「……でしたらそれに芽を出させましょう」

「グラッセ、頼めますね?」

 

「任せてください」

「さーて、次は……フフフッ」

 

グラッセはカマキリの意匠が刻まれたそのスタンプを眺めながら不敵な笑みを溢した。

 

◆◆◆◆

 

仮面ライダータキモル!

 

「トレセンで何やら揉め事があったと聞きましたが……大丈夫でしたか?」

 

謎の喫茶店のマスター!その正体は!?

 

「君達はこれからチームリバイスだ!」

 

新チーム結成!!

 

「キングちゃんに謝って……」

 

「もうこんなことはしないでくれタキオン!」

 

「君の夢を思い出すんだ!」

 

《荒ぶる高ぶる空駆けめぐる!イーグル!イーグル!》

 

第二話『チーム結成!二人は仲違い!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。