「ほら、おやすみ」
「ねー。だから一緒に寝ようよー」
「断る」
カゲロウはジェニーの提案に断固拒否の姿勢を見せ、さっさと自らの部屋に戻...らず。結局戻ってもモスティマとフィアメッタがいるだけで全く休まらない。
と、なればやることはひとつ。
「遊びに行くかぁ」
なんだかんだあのポンペイの被害があったのはほぼ身内のみ、毒性も薄く、繁華街は火山からは離れていて被害は皆無。
明日(既に午前0時は回っているため)の試合もあるがシエスタに来たからには観光もしないとくたびれ損というものだ。
ちなみに、運動会に出場している選手は外出時に必ず順位表を携帯することを義務付けられている。夜の争奪戦(健全)を偶発させるためだ。
「...ほーん。居酒屋、定食屋、龍門料理店に...極東の料理店まであるのか!」
よりどりみどりである。特に極東料理はあまりお目にかかれない珍しいものだ。となれば決まりだ。
カゲロウはシンプルに何でも食べる。それが美味かろうと不味かろうと傭兵時代のレーションに比べれば須らく頬が落ちるほど美味いものなのだ。
「すみませーん。今やってま...す...」
「あいよ! やってるよ!」
「...さっきぶりだな」
「お? お姉さんのツレ? こちらへどうぞ!」
なんでおめぇが居るんだフロストノヴァ!!
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「これとこれと、あぁ後はこれも美味いぞ」
「全部酒じゃねぇか」
フロストノヴァの隣へと通されたカゲロウは、そのままオススメを聞いたのだが、帰ってきた返答は全てアルコールの欄に載っていた。
「俺は飯を食いに来たんだよ」
「じゃあこれだ。スシ」
「スシ?」
見れば米の上に生魚の切り身を乗せたものだった。なんだこれは(困惑)。そもそもなんで生魚なんだ。危なくないか? 当たったらどうするんだ。
「そんなに美味いのか?」
「あぁ、美味いぞ。今まで食べたものの中で上位に入る」
フロストノヴァが目をキラキラさせてスシのプレゼンを始めた。
なんだか楽しそうなフロストノヴァは年相応で、まだ20にも満たない少女であることが見て取れた。中身はやはり可憐なる乙女なのだ。
「じゃあこれにしよう。すみませーん」
「酒は飲まないのか?」
「今日は遠慮しておく」
「......そうか」シュン...
「...すみませーん。やっぱこの日ノ本酒ってのも追加で」
「カゲロウ...! 私も同じのを頼む!」
それからしばらくフロストノヴァとの談笑を楽しみながら過ごしていると、話題はやはり運動会の話になった。
「カゲロウは明日2位スタートだったか?」
「これを奪われなければな」
そう言ってフロストノヴァの前に「2位」と書かれたカードをヒラヒラと見せる。
フロストノヴァは確かこの運動会には参加していなかった。だから少しくらいなら見せても大丈夫だろうと判断したのだ。
「そうか。ぜひ頑張ってくれ。1位の龍門の奴らも手強いし、3位は光輝な一族、4位は私とアビサルの手練たちだったな」
「...ごめんアビサルの手練って誰だっけ」
「...同じロドスの仲間を忘れたのか...?」
知ってるよ。てか大体想像ついてるよ。ただの現実逃避だよこれ。うわうわうわ。嫌だァァァ!
「...酔っ払ったのか? ものすごい動きだぞ?」
「ごめんフロストノヴァ、今ちょっと現実逃避中」
「珍しい事もあるのね。現実主義のあなたが現実から目を背けるなんて」
「どわっしょい!?!?」
変な声出た。いつの間にか頬と頬がくっつきそうなくらいの距離にスペクターの顔があった。
驚くこちらを見てクスクスと笑うスペクター。その後ろにはスカジとグレイディーアも立っていた。
「こんばんは2人とも。いい夜ね」
「やぁスペクター。体の調子はどうだ?」
アビサル組とフロストノヴァは直接的な関係はあまりないが、どうやら仲は悪くないらしい。
もちろん今夜が「いい夜」かと言われると首を全力で横に振るが、フロストノヴァとお酒を飲んで幾分かマシにはなった。
かと思ったらアビサル組が出場していると聞いてどん底だよ。どうなってんだおい。
「お前ら4位だったんだな。もっと上に行けただろ」
「...あれはルールが悪いのよ」
「...?」
スカジ曰く、「水が出ればそれは全て水鉄砲」というルールを読み、スカジは水を纏わせた大剣を、スペクターは丸鋸を使ったが、さすがにそれはダメだろとツッコミが入り、2人はペナルティを受けたらしい。その間にグレイディーアが周りの人間をボコボコにし、ほぼグレイディーア1人の活躍で4位にまで上り詰めたと言う。
「倫理観どこ行っちゃったの」
「海の底」
「...シャレになってねぇよ...。大丈夫だよな? 人殺したりしてない?」
「.........」プイ
「ねぇ? なんで黙るの? スカジさん? おい目を逸らすな何したんだテメェら!? おい!?」
「大丈夫よ。怪我人は0だと発表があったでしょう?」
「グレイディーアさん? 怪我人の内に死人は含まれてますか?」
「.........」プイ
「図星かよお前!」
どうやら開幕相対したセクハラ親父にスカジがブチ切れて殺ってしまったとの事。ちなみにたまたまソイツが指名手配犯だったが故にスカジは不問とされた。
「常日頃から頭の中で「王の子を孕め」ってうるさいのよ。だからついカッとなって...」
「...それ俺が聞いていいやつ?」
「...聞かれちゃったわね...」
スカジのターゲット欄にドクター以外の名前が刻まれた瞬間である。合掌。
「まぁ、なんでもいいけどよ。酒飲むか? それともスシ食う?」
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「うゅ〜〜〜〜」
「あはっ! あっははははははは!!!」
「......zzz」
なんだコイツら酒癖悪っ!!
スシに関してはもう本当に凍てつく視線を浴びせていた。スシが何をしたんだ...。
アビサル組曰く、「魚食べるとか、バカか?」との事である。言われてみれば確かに彼女たちはそういう感想になるのも無理は無いかもしれない。なんせ故郷や付近のイベリアで取れる魚と言えば...止めておこう。闇が深すぎる。
三者三様の酔い方をしているが、誰がどれかは皆さんのご想像にお任せしよう。
確かにこの日ノ本酒って強いお酒だしね。ホシグマが飲んでた「鬼殺し」も日ノ本酒の一種だった気がする。
「ふむ、何杯でもいけるな。おかわりを頼む」
「...マジ?」
一方フロストノヴァは既に10杯目だ。なんだコイツ。化け物か?
俺はそろそろ...眠く..........
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「はっ!?」
いつの間にか眠っていたらしい。見覚えのないベッドだった。即座に周囲を確認すると、時計と窓があるのが確認できた。時計は午前の7時を指しており、窓からはシエスタの海が一望できる。
「ここは...一体」
「私たちの部屋よ」
「ひょっほぉぅ!?!?」
また変な声出た。音もなくすぐ側に寄るのやめて貰えませんか?
...ん? スペクターたちの部屋?
「......」冷や汗ダラダラ
「ふふっ。思い出したかしら? 凄かったわぁ...。私たちとフロストノヴァを相手にあんな激しく...。まだ腰が痛いもの」
「あら起きたのね。もう少し寝ているかと思ったわ」
「スカジ...」
「...昨日は遅くまでお疲れ様。楽しかったわ。初めてあんなに熱くなったわね...。あなたも汗かいているでしょうし、シャワーでも浴びてきたら?」
「...グレイディーアは?」
「彼女はあの後も私たちとずっとやってたわよ。困っちゃうわ。隊長ったら1度火がついちゃうとなかなか冷めないんだから。何回やられたか...」
「......」
「あら、フロストノヴァのことを気にしているのかしら? 彼女ならほら、隣で寝てるじゃない」
「...........」ダラダラ
こんな問答を繰り返していると、ドアが開いてグレイディーアが入ってきた。
「あら、お目覚めね。ならもう一度やるわよ
スマ○ラ」
「いや...早く帰らないとモスティマとかにドヤされる...」
「諦めなさい。さっきも言ったけど隊長は1度火がつくと中々消えないのよ」
「勝ち逃げなんて許さないわ」
「いやほんっと...。勘弁してくれ...」
そしてカゲロウはアビサル組に連行された。
その後、少し遅れて目覚めたフロストノヴァ。
モゾモゾとベッドで起き上がると、おもむろに下腹部に手を置き...
「......んっ...。暖かい...」
「はっ」
「どうしたのモスティマ」
「なんかカゲロウに不幸が降り注ぐ気がする...」
「...どうせまた女に拉致られてるんでしょ。とりあえずホルンさんの部屋見に行ってみましょ」
もはや安心と信頼のカゲロウクオリティであった。
強敵、アビサル+フロストノヴァ。
...というかなんだヤトウその格好。叡智すぎんか?