「……」
すべての話を聞き終えた十時はどう答えれば良いものかも分からず、ただ視線をさまよわせることしかできなかった。
突然、現れた謎の存在に言われ、責任ある軍令部総長が貴重な物資を使ったというだけで頭を抱えてしまうが、それで出来たのが少女だというのだ。
ちらりと金剛のほうを見ると、それに気づいた彼女からは明るい笑顔が返ってきた。艦娘の材料であると聞いた冷たいものでこんなものができるとはとても思えなかった。
十時は内心、からかわれているのではないかと言う疑念をぬぐいさることができず、苦虫を噛み潰す思いであった。しかしいつまでも黙っているわけにはいかず、なんとかこの荒唐無稽な話に付き合うべく口を開いた。
「……総長、お話は分かりました。しかしなぜそうようなお話しを私に?」
「うむ。実はな、妖精さんが『艦娘は人との絆で強くなる』というのだ。貴様には彼女が多くの人との絆を結ぶ手助けをして欲しい」
「……」
絶句。あいた口がふさがらなかった。
絆で強くなるなど、娘が見ていたアニメでそんな展観があったと益体もないことを思い出してしまうぐらいには十時の理解の範疇にはない命令であった。いかに上官の命令は絶対とは言え、こんな世迷い言まで頷いて見せるのは幇間さながらの手管で出世を重ねている
胃のあたりが痛くなるのを自覚して、なんとかこの馬鹿げた命令からうまく逃げる算段を探し始めた。
そしてその答えはすぐに見つかった。擦り付けてしまえば良いのだ。幸い十時にはこんなことを喜んで引き受けそうな人間がすぐに思いついた。
「総長、己の無能をさらすようで大変申し訳ないのですが、私は今いただいている任務で手一杯であります。代わりといってはなんですが、第一艦隊司令長官の
「ああ、私もそう思って――」
「そうでしょう。あの方は随分と女性の扱いにもたけている聞き及んでいます」
「まあ、そうあわてるな」
十時のあまりに必死な様子に苦笑しながら、勝幡は新しいたばこ火をつけた。
「実はな、新発田には別の艦娘をすでに任せているのだ。奴め、貴様とは違って随分と乗り気であったぞ。どうだ貴様もここで奴を越える功績を上げられれば一気に私の後任になることも出きるかもしれんぞ?」
「うっ、いや、それはその……」
内心でくすぶっていた不純な気持ちを見透かされた羞恥心と、言い聞かせるかのような言い方への怒りから十時は口ごもってしまう。
それとは別に、おそらくは何をいってもこの男は自身にこの命令を承服させるつもりなのだろうと理解してしまったことも十時の舌鋒を鈍らせた。しかしここで諦めて上官の言うとおりにするぐらいの物わかりの良さがあれば、彼の階級はもう一つ進んでいたことだろう。
「……すでに一人預けているのであれば、この際二人になっても問題ないでしょう。私は兵士、軍艦の扱いであれば自信もありますが、女性の扱いは全く心得がございません」
「ハッハハ……! そうであろうな。随分と結婚もしないから心配していたのだぞ? それでもあのように出来た細君を最後には射止めたのだから、良いではないか」
「妻とは見合い婚です。そのように言われましても困ります」
「いやな、別に上手くエスコートをしろと言っているわけではないのだ。艦娘という存在にどういった環境が最適なのかは未だに分かっていない。だからこそ多くの例が欲しいのだ。全てを新発田、一人に任せてリスクを高める必要もあるまい?」
勝幡の言葉は理屈としては間違っているとはおもえなかったが、それでも納得出来るかどうかは別である。
最後の抵抗とばかりに十時を沈黙もって、問いへの返答とした。
「はぁ……相も変わらずの頑固者だな。よし! 貴様にも艦娘の力というものを実際見せてやろう。本日は霧島が砲撃訓練を行っている。それをみてから決断を下せばよい。車を出させるからしばしば待つように」
「……畏まりました」
十時からすれば何をみようとも自分が頷くことは決してなく、無駄な時間になることは分かりきっていた。断ろうと思ったが、上官への一応の義理と、ポツポツと突然浮かんできたなにか得たいの知れない感情から十時はいつの間にか誘いへ頷てしまっていた。