艦隊これくしょん 数字の底にあったもの   作:江藤青市

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1995年 1-6

 

 

 ……どれほど現実逃避の回想をしていたのだろうか、と十時が時計に目をやると時間はまだ20分ほどしか進んでいなかった。

 もちろん、彼の目の前にはニコニコという言葉がピタリとくるような笑みを浮かべた金剛が紅茶を楽しんでいた。相手が黙り込んでいる時間ずっとそうしていたのだろう、お茶請けで出されたスコーンもだいぶ減ってきている。

 

「お茶かえますカー?」

 

「いや、いい。それで……あれだ……最近はどうかね?」

 

 なんとも歯切れの悪い情けない言葉だった。そんなぼんやりとした問いかけにも金剛はさらに笑みを深めて、紅茶を買いに行った際に公園で子供と遊んだとか、今度は洋服を買いにいってみたいとか、色々と楽しそうに報告してくれる。しかし、それを受ける十時はどうしても笑みを浮かべることができず、黙って腕を組みながらただ相槌を打つだけしかできなかった。

 あの日、任務を受けて以来、彼はこの少女をどう扱えばよいのかわからず、とりあえずそこそこ格式の高いホテルに宿泊させて好きに行動させるようにしていた。一応、危ないこと以外は色々としてみなさいと指示を出してはいたが、そんなもので結果が出るわけもなかった。勿論、十時もそのことは重々承知していたが、案というものが何もうかばないのだ。男所帯の軍隊で半生を過ごし、見合いで結婚するまで女性の手を握ったこともなかったのだから、いくら軍艦といえど女性の形をしている金剛の世話をしつつ、人々との絆云々という任務をこなせというのは十時にとって大きな難問となっていた。

 くわえていえば、同時期に艦娘を預かった組はそれなりに成果を上げているというのも彼を追い詰め、焦りが頭の動きを鈍らせていた。

 

(やはり自分には向いていないどころの話ではなかった……。このままでは勝幡の足を引っ張るだけだ、代わりを用意してもらおう。やはり自分は新兵器開発の指揮を執る方がまだいい。明日、早朝にそう申し上げよう)

 

 まだ金剛の報告は続いていたが、十時はそれに対する相槌すら忘れ、心の中でそう決心した。

 

 

 

 

 翌日、軍令部総長室を訪れた十時に対して勝幡は随分と機嫌よくあれこれと話をしてくれていた。おそらく経過報告でいい結果をきけると期待していたのだろう。

 しかし、それを続けているわけにもいかず、なんとか決心して十時がこの任務を別の人間に任せたいというと、勝幡は最初唖然としてなかなか次の言葉は出てこない様子だった。

 受け入れてもらえたのだろうか、そんな淡い期待を十時が抱いた次の瞬間、砲音もかくやという怒声が響いた。

 

「こん、たーけが!! おみゃー、一度うけたことじゃにゃーか!! おおちゃくこきやがって!」

 

 普段の怜悧な様子が嘘のように勝幡は顔を真っ赤にし、目の前で所在なさげにする十時へと罵詈雑言の荒らしを浴びせてきたのだ。興奮のあまり普段は出ないお国言葉まで飛び出しているのが、彼の怒りがすでに頂点に達していることを明確に示していた。

 

「……申し訳ないことだとはおもいますが、やはり私には荷が重く――」

 

「ぐだぐだ言うんじゃにゃー!! おみゃーはどうすりゃ任務を達成できるかだけ考えればいい!! なんもできにゃーだけならともかく、投げ出して、申し訳にゃーですなんて通るわけにゃーだろうが!!」

 

「しかし――」

 

 十時の反論に帰ってきたのはクリスタル灰皿の投てきだった。

 まだ理性が残っていたのか、見当違いの方向に投げられたそれは壁に当たり木端微塵になった。

 

「ちっ!」

 

 あまりの剣幕にたじたじになっている十時の様子と灰皿を壊したことで少し怒りが収まったのか、勝幡は大きく舌打ちして煙草に火をつけた。

 それ以上の追撃が来なかったことにホッとする十時だったが、いまいち上官がこれほど激する理由もつかめずにいた。できない人間にいつまでも拘泥して時間を無駄にするほど勝幡はお人よしではない、任にたえられないとみれば冷静に更迭するはずだというのにそのことを言ってこないことが理解できなかったのだ。

 それから煙草が一本灰になるまで重い沈黙がその場を支配した。

 

「……はぁ、仕方ない。妖精さんに干渉しないように言われていたのだがなぁ」

 

 なかばあきらめたようにぽつりとつぶやき、勝幡は正面にいる部下へと諭すように語りかけ始めた。

 

「まぁ、貴様が相手が女というだけでここまでダメになるというのは知らなかった」

 

「申し訳ありません」

 

「……貴様の子供をつかえ」

 

「は? いや、それはどういう――」

 

「わからん奴だな。艦娘という存在に母性本能や子供をかわいく思う心があるのかは知らんが、もし人間と同じようにそれらがあるのならば有効な打開策になるだろう」

 

「……」

 

「返事はどうした!」

 

 自身の無能のしりぬぐいを家族にさせるというのはどうにも気が進まなかったが、こうなってしまえば頷くよりほかに十時には手がなかった。たとえ代案を示してもここまで結果を出せていない自分の案に勝幡が理解を示すと思えなかった。 

 

「……畏まりました」

 

 不承不承ながら十時は了承の返事を絞り出したのだ。

 

 




 コンマをとっていないキャラの好感度なんですが、どうしたもんかなぁと。
 私がダイス振って決める以外で何かいい方法ありましたら感想欄かツイッターで教えていただけると大変ありがたいです。
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