目指せ、異世界産アストナージ   作:悪白無才

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早くオリロボ書きたいナリ


デスマーチ明けは必ず体内時計が狂っている

さんざん頭を悩ませてくれたユリウス殿下専用鎧の開発が終了し、俺もようやく肩の荷が下ろせた訳だ。

本当ならとっととバークレー領に戻って自分の鎧を弄り回してるところだが、生憎とパレード当日までは不具合がないかの確認のため王都に滞在しなければならないのである。

作ったものはちゃんと最後まで面倒見ないとね。

まぁパレードが終われば正式にユリウス殿下もとい宮廷預かりになるからあと関われるのはそれくらいなんだけど。

 

「朝一番の珈琲は格別だなぁ」

 

パレード当日まで残り三日。

ただでさえデカく広い王宮内の中でも特に眺めのいい場所、王都の街並みを一望できる廊下で俺は珈琲を片手に何をするでもなくぼーっと突っ立っていた。

今の今まで休みなく頭を働かせていた反動か、最近はぼーっとして過ごすことが多くなった。

こういう時こそ鎧に触れて構想を膨らませたいのだが、そんな勝手な事をする訳にも行かないのでこうして暇を潰すしかないのである。

 

「二年後には学園に入学·····本格的に嫁さん探しが始まるなぁ·····やだなぁ·····」

 

そして、いつになっても付きまとう一番の問題。

婚約者探しという最も面倒なイベントが始まるまでもう猶予が無いということを認識せざるを得なくなった。

 

学園。そう学園だ。このホルファート王国唯一の教育機関。各地から貴族の子息子女を一点に集め教育を施す。在籍する全員が貴族であること以外は前世での学校とそう変わりないらしい。

あっでもこの世界魔法があるし、魔法の扱いとかもカリキュラムに含まれてたりするんだろうか。

どちらにせよ、俺にとっては学園に通う必要性を感じない。

この世界の一般常識はとっくの昔に仕込まれてるし、魔法の方も俺なりの扱い方をとっくに確立してる。

それでも行かなきゃならんのは一重に、暗黙上の学園の存在意義となっている将来の伴侶探しの為だ。

 

貴族間での婚姻は惚れた腫れたでするのでは無く、基本家同士の結び付きを強めるためにするものだ。

正直な話貴族の家に生を受けた時点でそういう事もあるよねと覚悟は済ませたつもりだったが、想定が甘かった。

前にも語った通りこの国に蔓延っている女尊男卑の思想は根が深く、特に男爵から伯爵家の子女はこの傾向が強い。

何故そうなったかをウチの家はある事情から知っているが、知っていたところでこの風潮を変えることは出来っこないので今は置いておく。

とにかく貴族の家に生まれ落ちてしまった男は皆揃って人生ハードモードを強いられているわけだ。

血筋を絶やすわけにはいかないので生涯独身を貫く者はそう居ない。

特に跡取りになる長男なんぞはそんな選択肢は以ての外だ。

じゃあ子どもを作れればなんでもいいのなら別に平民を嫁にしてもいいんじゃないか。とお考えのそこの君、甘いぞ。それこそ練乳のように。

貴族の家から嫁を貰わないということはそれだけ余裕が無いと見られ侮られる。

体裁を大事にする貴族にとっては十分に大問題だし、当然貴族社会からもいい顔はされない。

だからこそ男達は僅かな可能性を夢みてマトモな貴族女子とお付き合いができるように必死の婚活戦争を繰り広げるのだ。

もっとも、そのマトモな女性が一体どれだけいるのかという話だが。

 

「ユリウス殿下の件が終わったと思ったら、今度は第二皇子の分まで作れとかマジで言ってんの?というかジェイク殿下にはまだ早えーよいくつだと思ってんだ」

 

そしてやはりと言うべきか。シャスティフォンの完成度を目の当たりにした宮廷貴族のうち、第二皇子のジェイク殿下を次期国王として担ぎたいバカ共からそんなアプローチを最近になって受けるようになった。

ついでにうちの技術を取り込んで独占したい思惑が見え見えだ。

そもそも皇太子に鎧を与える必要性だよ。

ユリウス殿下は継承権一位だから象徴的な意味合いで鎧が作られたけどジェイク殿下はその限りじゃないし、本人の気質的に鎧乗りは向いてない。

明らか神輿として使う気満々じゃねぇか。

俺はNOと言える人間なんだ。王家の勅命じゃない限り従わんぞ。それにウチの技術は段階的に全体公開する予定だからお前らの利権になんぞならねぇよバァーカ!

 

「ん、おや·····?」

 

不安しかない未来予想図と権力欲の塊な自称重鎮共に心の中で怒りを募らせていると、誰かがこちらへと近付いてくるのに気付いた。

 

「こんな所で何をしているのだお前は」

 

「おや、これはこれは。おはようございますアンジェリカ様」

 

そこに通りがかった女性を見て、俺は笑みを浮かべながら会釈をした。

見るも美しい煌びやかなブロンドヘア。気品さに溢れた切れ長の瞳を湛えた凛々しき表情。

同性であっても羨むより先に感嘆といった所感を抱くだろう女性として理想的なプロポーションは、俺と同い年の十三歳の時点でこれだけの美貌なのだから恐らくまだ成長の見込みがあるのだろう。

そんなパーフェクトボディの持ち主を、俺はただ一人知っている。

 

アンジェリカ・ラファ・レッドグレイブ。

 

件の皇太子ユリウス・ラファ・ホルファートの婚約者だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここのところ忙しない日々が続いているなと、アンジェリカはまだ日が登って間もない時刻に起きてしまった自身の身体に辟易としながらも、心の中でそう独りごちた。

 

それもこれも、もうじき開かれるパレードを成功させる為と関係各所を東奔西走し続けたせいだ。その結果、思ったように身体が休まらないでいた。

本来こういった仕事はアンジェリカの職分では無いのだが、アンジェリカ自身の強い要望で今回のパレードの運営に携わらせてもらっている。

というのも、今回のパレードにはアンジェリカの婚約者であるユリウス・ラファ・ホルファートが完成したばかりの専用鎧を駆って、目玉となる演武を執り行うからである。

親同士が決めた婚約者ではあるがアンジェリカにとってはそれは些細なことでしかなく、心の底からユリウスという人間を慕っていた。

だからこそこのパレードは絶対に成功させたい。何より自分の手でユリウスの手助けをしたいと。その一心で父を説得し、なんとか関係各所の調整役としての仕事をもぎ取った。

仕事事態は滞りなく進みなんの問題も起きなかったが、気合を入れすぎたのかここ最近は疲労がいまいち抜けずにいた。

 

「なんたる無様か·····」

 

それを見咎められ父からは直々にお叱りを受けたのは記憶に新しく、罰を兼ねて暫くは休養に努めるようにと厳しく言いつかっている。

しかし最近まで忙しなく動いていた身体からは思うように疲れが取れず、こんな早い時間の起床となってしまった。

 

「ん·····?」

 

外の景色が見える王宮内の廊下はまだ少し薄暗く、人気もさほど無い時間帯。

しかしアンジェリカの進行上には確かに一人分の、うっすらとした気配がそこにいた。

それは、ここ最近になってよく顔を合わせるようになった男だった。

 

三白眼と形容される少し不気味に、それでいてやる気というものが微塵も感じられない気だるげな見える瞳。

ありふれた黒い髪は体質なのか硬くしかもクセが強く、所々がハネている。しかも当人はそれを矯正する気が無いのかセミロングの髪をポニーテールにして纏めるくらいの事しかしていない。

そしてもはや彼のトレードマークと言っても過言でない、式典などの公の場を除いてはどこであっても服の上から袖を通している真っ白な白衣。

アンジェリカの中でそんな人間に心当たりは一人しかいない。

 

アスティナージェ・フォウ・バークレー。

アンジェリカの婚約者の鎧を手がけた、ホルファート王国最高峰の技術者。

そんな現在進行形で宮廷の話題を掻っ攫っている男が、何故かこんな時間からマグカップを片手に廊下で黄昏ていた。

 

「おや·····?」

 

視線を感じたのかアスティナージェの方もアンジェリカの存在に気付き、覇気の欠片も感じられない瞳をアンジェリカへと向かわせる。

 

「こんな所で何をしているのだお前は」

 

「おや、これはこれは。おはようございますアンジェリカ様。いやぁ何分早くに目が覚めてしまいましてね。二度寝するような気分でも時間でもないですし、そういえば王都の街並みをまともに見てなかったので帰る前にこの目に焼き付けておこうと思った次第で」

 

へらへらと締りのない表情でそう言って、右手にあるマグカップの縁に口を付ける。

香ばしく香るこの匂いは珈琲か。いまいち好きになれない苦味の権化。されどその香りは紅茶とはまた違った趣きがある黒色の飲み物を思い浮かべる。

 

「して、アンジェリカ様こそ何故?というよりもいつもこの時間には起きてらっしゃるのですか?」

 

「いや、たまたまだ。どうにも目が覚めてしまってな」

 

「ふむ·····」

 

違和感を持ったのかアスティナージェはアンジェリカを注視しようと目を細める。

ただでさえ不気味に見えてしまう目付きがより険しいものになり針のように鋭い視線がアンジェリカを射抜く。

 

「思うように休めていない。というよりも身体が力の抜き方を忘れてしまったというようなものですかね。殿下の晴れ舞台の為にとはりきるのは結構ですが、それでアンジェリカ様が倒れられては元も子もありません」

 

「う·····自覚はしているのだが」

 

「よりタチが悪いです」

 

心なしか自分を見る目がまるで残念なものを見るかのようなものに変わっている·····?とアンジェリカは思い、居心地悪そうに目を逸らした。

実際その通り。アスティナージェの三白眼はジト目のそれに変わり咎めるようにアンジェリカを見つめている。

 

「気休めにしかならないかもしれませんが、知り合いに取り寄せてもらったリラックス効果のあるアロマキャンドルをお送りしますので就寝の際にお試しください。無用であれば捨て置いてくれて構いませんので」

 

「それはありがたいが、そういうお前も同じだろう?」

 

思うように休めていないのはアンジェリカとて自覚している。だからどうにかして無理矢理でも体を休めようとしているが、どうも上手くいかない。

ただ休むだけの事がこんなに難しくなるとは露にも思わなかった。

しかしそれはそれとして、同じく早くに起きた目の前の如何にも不健康そうな人物からそれを指摘されるのは何だか納得いかない。

 

「ここ最近までずっと働き詰めでしたもので。肝心の鎧は完成しましたが、引き継ぎの資料の方はまだ纏まっていなかったのですよ。我々も何時までも王宮に留まる訳には行きませんし、パレードが終われば正式に王宮預かりになりますからね。鎧のスペックや各種機能の詳細、整備時の諸注意等を書き記す作業をつい最近終わらせたばかりでして。ぶっちゃけ寝る時間帯がずれ込んで変な時間に目が覚めてしまいました」

 

もちろん睡眠はしっかり取れましたよ?彼はそう言って締めくくった。何しろ鎧開発の後半辺りは徹夜作業なんぞ当たり前。仮眠も一時間弱ですませていたので、開発明けにはアスティナージェ以下開発スタッフ達の時間の感覚も狂いに狂いまくっていた。

引き継ぎ資料の作成も合わさり変な時間に眠ったり起きたりがここ最近の睡眠事情だ。その代わり睡眠自体は浅く短くではなく深く長い良質な睡眠を取れていた。

 

「それにしても、よくもあれほどの鎧を作り上げたものだ」

 

「色々とギリギリでしたがね。私含め開発陣は常に阿鼻叫喚でした」

 

これ以上は言っても無駄と判断しアンジェリカは話を切り上げ、今話題の鎧について話を振る。

無事に完成したユリウス専用の鎧、与えられし名称は『シャスティフォン』。

初めてあの鎧を見た時、決して詳しくないアンジェリカであってもそれがどれだけ優れた物なのかを理解させられた。

見上げた全ての者が思わず息を飲むほどの威容を備えた白銀の騎士。

間違いなくホルファート王国の中で最も優秀な鎧と言える。

 

「私も侍女たちの話を又聞きした程度にしか知らないが、随分と苦労をかけたようだな」

 

「アハハ、鎧の開発にトラブルは付き物ですからねぇ───とはいえ、あそこまで大変な事になるとは私も思いませんでしたが」

 

それが生み出されるまでの過程は、当事者でない又聞いたアンジェリカであっても顔を顰める程のものだった。だからこそそれを完遂させた事がどれ程凄いことかもよく分かる。

 

「完成させるためとはいえ、随分と大胆な手に出たものだな」

 

「本当なら私もこんな事したくはなかったんですがね。ですがダウングレードして無理矢理の間に合わせを作ったとあっては、私を技術顧問として推薦して下さったさるお方にも申し訳が立ちませんからね。どうにかする為の足りない物を引っ張ってくるには、それ相応の権限が必要でした。

不謹慎ではありますが、そういう意味では前任者にリタイアしてもらったのは僥倖だったとも言えます」

 

前任者が倒れ計画は一時中断。しかし開発計画そのものをなかったことには出来ず、時間だけが刻々と過ぎていく状況に一石を投じたのが何を隠そうアスティナージェだった。

もし彼が名乗りを上げる事が無かったら、鎧自体が完成しないままパレード当日を迎えていたかもしれない。

 

「今のは聞かなかった事にしておこう·····しかし、貴様はこれからどうするのだ?」

 

「あぁ、どうしましょうねぇ·····」

 

アスティナージェが敢えて無視していた問題。

アスティナージェ、並びにバークレーの名は既に宮廷中に広まっている。これまでは辺境近くのそんなに名の知れていない男爵家だったが、こうして目を付けられた以上はどこかの派閥に身を寄せなければならなくなる。

 

「ひとまず考えているのは中立派ですね。表向きには他派閥との諍いもそう無いですし、無難ではないかと」

 

「まあそうなるだろうな」

 

「レッドグレイブ派に与する事も考えましたが、他派閥の貴族らに要らぬ刺激を与えることになりかねませんので」

 

「それだけの技術を持ちえていながらか?」

 

「誇れる技術があっても守れるだけの資産と権勢が無ければ意味がありません。なによりバークレー家は男爵家。爵位は下から数えた方が早く影響力もほぼありません。ウチ由来の技術を取り込ませれば鎧関連では無視出来ないほどの影響力を持ち得たでしょうが、正規軍の鎧もつい最近更新されたばかりですからねぇ。出来たとしても数年は先でしょう」

 

「残念だな。貴様にも殿下を支える柱の一つになってほしかったのだが」

 

「御安心を。派閥が違えども国の為とあらば全力をもってお支えしますとも。そういう意味でも中立派は都合が良いですし」

 

どの道、次代の皇太子達を筆頭にしてこの国は纏まっていくのだ。

王家の勅命とあらば足並み揃えてやっていくだろうし、少なくともアスティナージェはそう見積っている。

なんにせよ、これからの立ち回り方には一層気をつけていかなければならない。

 

「まぁそれよりも、私としては二年後の問題の方が厄介なのですがね」

 

「二年後?というと、学園か?」

 

「えぇ。ほら、あるじゃないですか。婚活が」

 

それよりもなによりも。アスティナージェにとってはそう遠くないうちに起こる、未来を賭けた戦いこそが気がかりだった。

どこか遠い目をして語るアスティナージェにアンジェリカは得心がいったように頷き、彼女もまた遠い目をするように廊下からまだ明けきっていない空を見上げた。

ホルファート王国の貴族間には女尊男卑の風潮がある。それも酷く歪な、あまり裕福な方ではない貴族男子など最早人間扱いされてないんじゃないかと言える程のそれが。

男は基本金ヅル扱いで恋愛結婚等無いに等しい。

挙句の果てには愛人を養えと強要する者も多く、そのせいで発狂してしまう男子も多いと聞く。

そもそも貴族間の婚姻に愛を求めるのが筋違いではあるが、だからと言ってこの現状はあんまりだとアンジェリカは思う。

 

「我々にとっては死活問題ですからねぇ。いやぁユリウス殿下が羨ましい。既にアンジェリカ様のような方が婚約者として居られるのですから」

 

「·····まさか、私を口説いているのか?」

 

「それこそまさか。そんな事になれば私の首が飛びますよ。でも本当に羨ましいと思います。政略結婚とはいえこれだけ思ってくれる人が御相手なのですから」

 

色々な面倒事が着いて回る次期国王最有力候補の皇太子という立ち位置は御免こうむるが、それを差し引いてもアンジェリカのような女性が婚約者として決まっているのは死ぬほど羨ましいと彼は思う。

器量よし。性格よし。口調は少々高圧的に取られがちだが、ラファの名が指すとおりの高貴な血筋である彼女にとってはそれこそが自然であり、つしろ自らに自信を持っている事の表れである証左といえる。つまりなんの問題も無い。

ぶっちゃけ何のしがらみも無いのなら今すぐにでも求婚アタックを敢行する所存である。

 

「しかしまぁ、だからこそ昇進なんてしたくはなかったんですがねぇ·····」

 

結局、アスティナージェの言いたいことはこの一言に尽きた。

今回の鎧開発による王家への忠義、その功績を認め将来的に独立。男爵家の爵位と宮廷六位下という地位を得ることとなった。

国に働きが認められたという大変名誉なことなのだが、生憎とそれを素直に喜べるだけの能天気さを彼は持ち合わせていなかった。

アスティナージェはバークレー家の次男坊だ。長兄が死亡、或いは何らかの要因で後を継げない限りはアスティナージェは跡継ぎから除外される。

そもそもとしてとある理由からアスティナージェは元々継承権の順位が低かった。

それも将来的な独立が約束された事によって新バークレー領の次期領主となる事が確約されてしまっている。

先の学園では上級クラスと普通クラスに分けられ、その中でも跡取り達は上級クラスに編入される。そしてアスティナージェも将来的に領地を得る事が決まってしまっているので、必然的に嫁の貰い手にもこれまで以上に難儀する事となる訳だ。

 

「この話、無かったことにできませんかねぇ」

 

「然るべき功績には然るべき賞与を。これを怠るという事は王家の威信を損なう事になる。同情はするが、大人しく受け入れろ」

 

「それくらい分かってますよぉ·····」

 

力が抜けていくように頭を垂れながらアスティナージェは毒づく。あたかもこの世全ての悲哀を背負ったような落ち込みようだが、それはこの世に産まれた貴族男子共通の悩みである。そう思ったがアンジェリカだったが、それをハッキリ言ってしまえば最後のトドメとなるので口を噤んだ。

言わぬが仏、武士の情け。空気を読めるアンジェリカは沈黙を選んだ。

しかして、前途多難な男子諸君に幸あれ。

今すぐに変えられるものではない以上どうしようもないので、アンジェリカはせめてそう願うのだった。

 

「しかしそうだな、派閥は異なるだろうが肩入れしない程度には助けになろう。何も不倶戴天の敵という訳でもないしな」

 

「おや、いいんですか?」

 

「代わりといっては何だが、一つ頼みたい事があるのだがいいだろうか?」

 

「はい?私にです?」

 

突然の申し出になんだろうかとアスティナージェは思考する。派閥の話かと一瞬頭をよぎったが即座にそれはないかと思い直す。

さっき断ったばかりだし、先の勧誘もアンジェリカはダメ元で聞いたくらいだろう。

次に思い浮かんだのは鎧の建造。

レッドグレイブ家にも何か作れということだろうか?或いはもっと根本的、バークレーとの繋がりを作る事だろうか?

今回の鎧建造にはアスティナージェだけでなくあとから引っ張ってきたバークレーの技術陣も参画している。そもそも推進機関にはバークレー印のモノを採用していたし、それも既に建造に携わったスタッフを中心に話が広まりつつある。

ならばレッドグレイブはその技術等を将来的にモノにしたいのだろうか?アスティナージェは瞬く間に考えを巡らせていきながら、アンジェリカ自身の口から告げられるのを待つ。

 

「その、だな··········私に、鎧についての知識を教えてはくれないだろうか」

 

「··········アンジェリカ様が?どうしてまた?」

 

それはなんとも予想外な、それでいてなんてことは無いお願いだった。

 

「知っていると思うが、殿下は今あの鎧を乗りこなす一心で訓練に励まれていてな。その、私にもなにか殿下の手助けとなれる事がないだろうかと思って·····」

 

「··········あー、なるほど」

 

要するに、好きな人の助けになりたいのと好きな人が打ち込んでいるものを共有したいと。

妙に口ごもる様子からアスティナージェはそう解釈した。

 

「父上からも休養に努めるように言われているからな。気分転換がてら学ぶのにもタイミングとしては丁度良い、はずだ。バークレーも暫くは時間が空いてるのだろう?だから、その·····」

 

「おーけおーけー、分かりました。そうですねぇ、暫くは暇な時間が続きますし、丁度時間が余ってたんですよねぇ。だからといって勝手に王宮から出る事も出来ないのでやる事が皆無でしたし」

 

叶わぬ事と分かりながらも、やはり心底殿下を羨ましく思う。

これだけ思ってくれて、支えようと手を尽くしてくれる人が居るのだから。

例え始まりは親の取り決めた婚姻だとしても、その婚姻に込められた意味には最初から愛など勘定に無くても、芽生えた思いは紛うことなき愛であった。

 

「アンジェリカ様さえ宜しければ、鎧についてご教示をさせていただきます」

 

「!ああ、よろしく頼む!」

 

今日の予定は決まったなと笑い、少し温くなり始めた珈琲を啜る。

 

無糖のはずの珈琲が少し甘く感じた。

 

 




この後、アスティナージェとマンツーマンではちみつ授業(その実態はオイル)に勤しむアンジェリカちゃんの姿が·····!

あと二話くらいで主人公周りの設定を書き切りたい。
その後はオリロボを思う存分書くぞー!(願望)

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