ホワイトルームに魔があるなら悪もあっていいよね 作:ナチナチ
ホワイトルーム。
ある男によって作られた日本の将来を担う人材を超高効率に育成するための機関である。その特徴は、真っ白な施設設備とスパルタかつ弱者を許さぬ絶対的な弱肉強食なシステム。脱落者は容赦なく切り捨てられ、勝者は称賛される。
そこはまだ幼さの抜けない子供たちを強制的に教育する監獄とも取れるほどの憎悪が渦巻く地獄である。
そして、ホワイトルーム第4期生は『よう実』の世界において『魔』と称される。それはホワイトルーム最高傑作である『綾小路清隆』が今までのホワイトルームの教育経験を総動員した最高で最難関な教育を乗り越え、他の学徒は全て落第となったからである。その最高傑作を讃え、畏怖する象徴として『魔』という表現が用いられる。
ではその前の世代はどうなのか。前の世代が言及されることはなく、4期生の経験値になったとしか考えられない。
これは異なる世界、第3期生において原作主人公と並ぶ才禍がいた。
その渦はホワイトルーム全体に行き渡り、ホワイトルームはその『悪』に塗れ教育『対象』をすべて破棄するに至ったのだ。
その『純粋な白』に戸惑うことも、躊躇することもなく『純粋な黒』に染め、昭和の教師も驚くそのスパルタ施設を、ただの地獄へと変えた『魔王』とも呼べるその中学生は、不幸にも憎悪渦巻く実力至上主義の高校へと入学しようとしていた。
これは、ホワイトルームにおいて最悪と称された作品の物語である。
春。それは古来より生命の息吹を感じられるものとして、『花』を題材として多くの創作の中に組み込まれてきた季節である。桜の桃色が、女性や幼児の頬の色に似て艶かしかったのか。風流を重んじる古代人たちにとって、都合が良く、好ましいものだったのだろう。また、適度な涼しさと風を心地よいと感じるのもあるかも春の長所で、好かれた要因かもしれない。少なくとも古来に憧れるオレはそうである。
そんな節にオレは高校へと入学するためのバスへと乗り込んでいた。
周りの生徒は落ち着かずに目を泳がせるか、本やパンフレットに目を通すなど見た目と違わず年相応の様子である。さすがに大音量で音楽を聞いたり、叫んだりなどはしていない。オレ自身が達観してしまっているのかは分からないが、周りは他者を気にする余裕はないようである。はたまた、興味がないか。
まあ、前者の方が多いであろう。少し前までただの中学生であった者たちが、外部との接触を禁止され、寮で暮らすことになる。進路は自身の決断が主を占めているとしても緊張し、動揺はするものだ。
バスの中は車内の揺れ以外に音はなく、会話は殆ど存在しない。この空気を死んだものと捉えるか張り詰めたものと捉えるか。言語に美意識を持つ日本人としてはこの空気は、新たな生命と出会いの息吹であるがために、『死んだもの』とは捉えたくない。初々しさからも『張り詰めた』が適切であろうか。
そんなことをぼんやりと考えていると、いかにも陰陽玉の白が似合いそうな金髪の生徒と目があった。どうやら、オレのことを注視しているようであり、その口元には『ニヤッ』といったイヤらしい表現が似合う三日月を携えている。
距離は話しかけるには遠く、ジェスチャーを取ると言っても恥ずかしく感じる近さ。知り合いでなければこの雰囲気を打破する仲良し感は出せないだろう。つまり、それ以上の接触は試みないだろう。
「なあ」
金髪の男が声を打ち出だす。どうやらこの男にとって周りの圧力など気にするものではないようだ。髪の色からも『特別』な経験を積んでいると考えても良いだろう。
「おい、そこの銀髪野郎」
「なにか?」
「暇だ、なんか話そうぜ」
オレはこの男のことを舐めていたのかもしれない。周りの視線など気にすることもなく、オレの隣へと腰掛けてきた。オレの隣に触っていた女性に断りをつけて。女好きな質であるのか慣れているのだろう、さっきとは打って変わって爽やかな好青年と言うべき雰囲気をぶつけ、女性を退かしてしまった。
「ふむ、どこかで話したことがあるか」
「いや、初対面だ。覚えるかぎりは話したことも目が合ったこともねえ。その特徴的な蒼と紅は他に見たことねえからな。」
「そうかオレオッドアイは珍しいと自負している。オレは羽柴 景虎という。名と容姿のギャップについては気にしないでくれ」
「おう、俺は南雲 雅。よろしくな」
南雲は先の女性に見せたような『好まれる』笑ではなく、『嫌われる』笑を形作る。仲良くなりたいのかなりたくないのか分からないな。そんな南雲の容姿は普通にイケメンで体つきも、女ウケしそうなものではあるが笑みが最悪である。その顔は悪巧みをするお代官と同じだ。これが本性であるのならば、オレの質も見抜いているのか?
「まあまあ、柔らかくいこうぜ。これから3年間同じ敷地で過ごすんだからよ」
「それはそうだな。同じクラスではなくとも友になって損はないだろう。少し緊張していてな」
「全然そうは見えねえけどな、他の奴らと違って」
こいつの性格の悪さは筋金入りなのか。わざわざ他と『比較』するなど、第一印象から恨みを買いに行くようなものだ。ただでさえ張り詰めていた空気が、周りの怒りを反映するように赤く、熱気が混じった気がする。
「そう言うな。新たな門出など緊張して然るべきだろう。オレやお前が可笑しなだけだ」
「ふん、存外に食えねえやつじゃねえか。まるで自分に絶対の自信があるのが透けて見えるぜ」
「お前もわかっているからこそ、わざわざ話しかけて来たんだろう、性悪」
「違いねえけどな、性悪」
オレらの本質は似通っている。その行先が女か、その他かそれくらいしか違いがない。どちらも嫌悪すべき性悪であり、七つの大罪に例えるなら、傲慢や色欲なんかには必ず当てはまる筈だ。同類であるからこそ、腹を割って話すことができる。これは、例の育成機関では出会えなかったタチの悪さだ。
他愛もない会話を続けていると、バスは橋を越えて水上都市とも言える高度育成高等学校の敷地内へと車輪を跨ぐ。広い敷地に壮大な施設の数々、次世代を担う者を育てようという政府の切実な思いが込められているのだろう。その成果が、『希望する進学、就職先にほぼ100%応える学校』なのだろう。
バスを降りて桜を堪能する。出迎えてくれるような花に笑みが溢れる。本当ならここで一句ぐらい読みたいところではあるが、隣の性悪はそれを許せないようだ。
「は?なんだその顔。気持ち悪いぞ」
「………」
やはり性悪。人に嫌われる笑みと語彙を持ったモンスターめ。お前のせいでせっかくの風流が台無しだぞ。誰にだって趣味や好きなものはあるだろうが。お前の女好きとオレの日本好きは同じことなんだぞ。
「……お前にだけは言われたくないが、精々惰眠と快楽を貪っておけ、風流も分からぬエロ猿が」
「はん、俺は花より団子なんでね。据え膳食わぬは男の恥、お前は一生童貞だよバルバロイが」
お互いがお互いの欠点を指摘し合うその様は、バスの中にいた連中からするとさぞや滑稽に見えただろう。自分達を馬鹿にした奴らが。学校の敷地内にたどり着いた途端にそれ以下の、ただのガキに成り下がったのだから。そいつらの憐れみの視線にさらにイラついたオレたちは、足早にクラス分けの掲示されるところへと向かい、同じクラスであることに不満を垂らしながら教室へと向かった。
「ちっ、なんで隣が女じゃなくてお前なんだよ。せっかく窓際一番後ろなのに、俺の華やかな生活を邪魔しようとすんじゃねえよ」
「ふん、そっくりそのまま返してやる。お前のせいで窓の外を見ようと思ってもデカい種無し向日葵がこっちを向いてくるのでな。桜が穢れるであろうが」
「ちっ、一々癪に触るぜ。」
「ふん、まったくだ」
教師によるこの学校の概要の説明を聞き終わると、南雲は教卓へと足を運んだ。その足取りは退室を許さないものであるが、その笑みはしっかりと人好きされるものに切り替えられている。先ほどまでは、退屈で仕方ないという様子だったのにだ。
「俺は南雲 雅。俺はこのクラスのリーダーになって、学年すらも引っ張っていきたいと思っている。もし、お前らの中に他に頭領をやりたいやつがいるなら今、異議申し立てろ」
突然のリーダー宣言にざわつきはない。異議申し立てろと口では言うが、態度や空気は許してはならないと圧力をかけて来ている。これは、中学生には耐えられないものだろう。リーダーになるものにはそれ相応の覚悟とカリスマが必要だが、南雲を越してやろうという息のあるものは誰もいない。誰もが南雲を見上げていることからも違いないだろう。
「少しいいか」
「なんだ?」
「オレはまだ出会って間もないやつにリーダーを任せるのは不安だと考える。他に候補がいないのであれば、お前を仮のリーダーとして認め、一ヶ月後にもう一度多数決を採るという方が確実だと思うが、どうだろうか」
オレの一声でクラスの奴らの殆どは頭を動かし始める。確かに、と言った声もまばらにある。いくらカリスマを感じるとは言えど、まだ出会ったばかりの南雲を信じてしまった自分達を反省しているだろうか。ヤツのアレは一時的な洗脳ともいえるものだ。ヤツは使えるものはなんでも使うことで、今までのし上がってきたのだろう。
オレの立ち位置は南雲の抑制、民意の統制といったところで良いか。
「ふん、羽柴の野郎の発言にも一理ある。お前らも完全に俺を信頼してねえと意味がねえからな。一ヶ月、俺がお前らのリーダーに相応しいかよく見ておけ」
「そういうことだ。オレらはクラスとして一つである以上『協力』しなくてはならない、『依存』と『支配』を許さず、自身の意見に自信を持て。率いる力がなかったとしても、それだけでクラスへの貢献になる」
もっとも南雲はそんなこと求めていないだろうがな。そんな出来レースを露知らず、クラスメイトたちは拍手で応じる。ヤツの中ではオレも同じことをしていると映るだろう。民意を操作し、綺麗事を並べる。相手を煽て、称賛することで助長する。社会経験のない大人にはそれが重要だ。無駄にプライドがあり、自尊心を重視する。思考は大人と同程度であっても、その根は子供と違わない。
今までのようにただ『支配』し、『依存』する手法は難しくなる。それは特別な才能や、相手の事情次第になってしまうからだ。独裁者やヒモ男は程度は違えど、自分の好きなように相手を動かす。リーダーに必要なのは『操作』する力だ。その手法が相手のレベルアップによって、工夫しなくてはならないようになっただけである。
「ちっ、お前に突かれたのは俺も気付かなかったとこだ。お前が指摘しねえと後で反乱するやつが現れて来ただろうな。そんなやつは全員潰していこうと考えてたが、先に『種』を潰しとけばそもそも芽吹かないってことか」
「その通りだ。最短かつ効率的に権力を手に入れるためには、民意を味方に付ける必要がある。やつらは愚かで個としては役に立たないが、一人染めて終えば、一気に軍隊の出来上がりだ。かのナチスも実績と共通の敵を以てドイツという国を支配した」
「なるほど、次は敵か」
「そうだ、お前も分かっているだろう。この学校はクラス間による闘争が行われている」
「そうだな、プライベートポイントも毎月振り込むとしか言ってなかった。それに加えてお前の一ヶ月後という発言、あれも味方内ではなく外敵に目を向け始める期間ってことか。それで、俺たちは最初からそれが分かっていたとネタバラしする。ケケッ、最高じゃねえか。無駄がねえぜ、おい」
「実力の測り方、それはどうしても相対的なものになる。となると比べるのは個人によるものか、それともクラス単位によるものかはたまた学校、学年か?。しかし、個人であればクラスに分けたことに矛盾が生じる。そうするのであれば、大学のように単位制度にすれば良い。学年ごとであればクラスという枠組みに納め派閥を作らせてしまうのはおかしいし、体格や経験の違いから殆ど勝負にならないだろう。学校ごとであれば、人が増えてしまう以上は何かこの学校に関する情報が漏れ、情報の断絶はほとんど不可能なはず。」
「いや、そんな場合があるってことは益々今回のは都合が良いだろ。俺が少なくともこのBクラスの方向性を決められる。後ろから刺すのも、組むのもアレ次第ってわけだ」
「で、お前は俺に付くのか?」
「ふん、そんなの決まっているだろう。オレはお前の横に立つ、お前の成長を見ておこうじゃないか」
「偉そうにしやがって、いつか食い破ってやるぜ。化け物が」
「お前には言われたくないが。ナルシスト」
『悪』の歩む道には光は灯っていない。あるのは、黒の蠢く闇ばかり。彼らを刺すのは、光か、それとも更なる深みか。少なくとも、今年中には起こり得ないことだ。
作者は批評を求めています。感想と評価は続きが欲しければ下さい、モチベーションの維持に繋げて見せます。
クラス闘争を予測したところは、少しこじつけ感があると思います。これは自分では序盤で持つベストな思考だと思っているので、矛盾点やおかしなところがあったら指摘してください。