「歌が聞こえる日は襲われることは無い」

そんな港町での噂が大本営に届いた。

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幸福と平和の二重奏

 

 「歌が聞こえる日は襲われることはない。」

 

 とある漁業が盛んな地域でそんな噂を耳にした。

 

 半月ほど前から週に1回、決まった時間に歌が聞こえるようになったらしい。その歌が聞こえる日は深海棲艦に襲われたことは無く、深海棲艦に出会っても無視してどこかに行ったという話も出ている。

 

 大本営では深海棲艦の新たな戦術なのではないか、我々を油断させる手ではないかと言う話になった。深海棲艦の中には姫級と呼ばれる知性を持ち、人の言葉を話す存在がいることが確認されている。そのため、大規模作戦の前兆ではないかという噂が大本営で広がった。そうであれば早急に手を打ねばならないと大本営は一人の男に調査を依頼した。

 その男は元帥含め多くの人間、艦娘に信頼されている有言実行の男だ。

 深海棲艦に対して「和解することは可能だ」と自ら戦場へ向かい、対話を試み、和解したことがある。その実績から適任であると大本営の会議で決定。後日、その男に命令が下された。

 

 磯風香る賑やかな港町。深海棲艦が現れてから多くの港町は閑散としてしまったが、この町は大いに賑わっていた。

 そんな港町に一台の車がやってくる。一般的な白のワゴン車だが、その側面には「○○鎮守府」と書かれており、一目で鎮守府の物だと分かるものだった。そのワゴン車から一人の男と二人の女性が下りてくる。

 男は170センチほどの細身。白色のシャツに黒のズボン、黒の革靴を履いてネームカードを首から掛けている。手首には白のシュシュのようなものを付けている。

 女性2人は似たような服を着ており、1人は鉢巻と大きなリボンを付け、刀を差した侍のような凛とした姿、もう1人は忍者の様な姿だが、子供のようにはしゃいでいる。

 

「やったー!着いたー!提督!早く行こうよ!」

「姉さん!観光に来たんじゃないんですよ!私たちはあくまで調査のために…」

「まあ、そんな怒るな神通。調査は夜からだし、川内ぐらいとは言わないがリラックスして良いんだぞ?」

「しかし提督…」

「お前は真面目過ぎなんだよ。オンオフをしっかり切り替えてくれたら大丈夫だから」

 

 提督と呼ばれた男は神通の頭を少し撫で、先に町へ向かった川内を追いかける。川内は既に町で観光を満喫しており、港の名産を食べて回っていた。

 

「へいほふ~、ほへほいひいほ~」

「食べながらしゃべるなよ、行儀悪いぞ。」

「ハムハム、ゴクン。提督!これお土産に持って帰ろうよ!いろいろ安くしてくれるって!」

「お前、目的忘れてないか?」

「え?観光でしょ?」

「歌声の調査だよ、というか買ったついでに聞いとけよ。」

「だって美味しいものが多いんだもん。ハムハム」

 

 そう言ってまた食べる川内。太るぞ、と言う言葉をなんとか飲み込んで川内が買い食いしたであろう場所に向かい、聞き込み調査をする。

 

「すいません」

「お。いらっしゃい。さっきの嬢ちゃん、艦娘の提督さんかい?」

「ええ、まあ。よく彼女が艦娘だと分かりましたね。」

「あれだけ大声で『提督』って呼べば分かるさ。それに俺たち漁師にとっていなくちゃならない存在だからな。ほら。」

 

 そう言って店の人は提督の後ろを指さす。つられて後ろを見ると、川内と合流した神通が町の人たちに囲まれていた。町の人たちはみんな笑顔で川内達を歓迎しているようだ。

 

「あんたたちがいなかったら俺たちは何もかも失っていた。漁はここの生命線だからな。艦娘がいなかったらこの町は今ごろなくなっていたよ。」

「他の町は衰退してしまっているらしいですからね。ここはよく栄えているのが分かります。」

「最初は衰退していたけどな。でも、艦娘のおかげでここの被害が減ったからで人が戻ってきた。あんたたちには感謝しかないさ。」

「我々ではなく他のところですがね。」

「だとしても感謝させてくれ。ほら、お待ちどうさま。」

「どうも」

 

 川内が食べているものと同じものをもらい、しばらく世間話をした後にようやく本題に入る。

 

「実は聞きたいことがありまして…」

「歌声のことかい?」

「…!なぜ、歌声のことだと?」

「ここに提督さんが用事もなしに来ないだろう。ここは国道から外れた田舎道を最低30分は通らないと来られない。だから休憩や立ち寄ったというのもあり得ない。それなら歌声の噂を聞いたというのが妥当だ。」

「確かに、分かりやすかったですね。」

「ああ、今日がその日って言うのも分かりやすいな。それで、色々聞きたいんだろう?」

「はい。」

「分かった、ちょっと待ってろ。お前ら!そこの嬢ちゃんたち連れて集まれ!例の事を聞きたいらしい!」

 

 その一言で多くの人たちが集まってきた。どうやらこの店の人はこの港町で漁業をしている人たちのリーダーらしい。屈強な男たちが集まり、例の歌声について教えてくれた。聞いた話で以下のことが分かった。

 

・歌は夜の間、23~5の間のどこかで聞こえる。

・上記の時間は攻撃されない

・歌が聞こえる場所はここから少し離れた孤島。

・歌の途中に近くで戦闘が始まると歌が終わる。

 

 聞いた情報をまとめると大きく4つのことが分かった。

 提督はその中で一つ気になることがあった。

 

「歌の途中で戦闘が始まったら歌が止まるとは一体?」

「いつも通り歌が聞こえているときにどこからか砲撃?の音が聞こえてな、その音が聞こえた日は歌が聞こえなくなったんだ。」

「砲撃音があると歌が聞こえなくなる……」

「……?提督、どうしました?」

「いや少し気になってね。それが聞こえたのはいつ頃ですか?」

「最近だと3日前ぐらいだったはずだが。」

「……………」

 

 提督は「砲撃」が気になってしょうがない。

事前に大本営が用意してくれた資料に目を通したが、戦闘の報告書は上がってきていない。もちろん自分で調べたり、近辺の鎮守府にお願いして報告書を見せてもらったが、戦闘は起きていないのだ。

 

「……やっぱりおかしい。」

「提督、今は悩んでいても仕方ありません。予定までまだ時間はありますから今は休みましょう。そして自分たちの目で確認しましょう。」

「ああ、そうだな。俺は先に休ませてもらうよ。2人も時間までゆっくりしてていいからね。

それでは解散とします。皆様、ご協力感謝いたします。」

 

 提督は町の人に感謝し、一足先に休むことにした。休むと言っても少し街を回り、鎮守府のみんなのために保存のきくものを買ったりした。その時に休めるようにと町の人たちが色々くれたり、食事を提供してくれたりしたため、しっかり休むことができた。

 そのおかげで予定の時間になっても調子が良く、川内たちも色々貰ったらしくやる気満々のようだ。特に川内は「夜戦だ!」と大はしゃぎしていた。

 

「夜戦!夜戦だ!久々の夜戦だ~!」

「姉さん!静かにしてください!近所迷惑です!」

 

 いつまでもうるさいので、とりあえず口に昼に食べていたものと同じものを口に突っ込んで川内を何とか静かにさせた。いくら戦闘が起きないとはいえ、いきなり大声で「夜戦だ!」などと言おうものなら、どうぞ狙ってくださいと言わんばかりの行為となる。それに相手がいくら攻撃しないと言っても姫級がいるならそれが戦闘の開始の合図になりかねない。

 ひとまず川内を黙らすことに成功した提督たちは歌声を待つ。漁師の人たちに聞いたところ、歌声を出発の合図にするといい感じに漁が終わるという。

 その歌声が聞こえるまで提督は漁師たちに借りた小型ボート*1で待機していた。公道から離れているだけあり、静寂に包まれた暗闇に船のエンジン音と波音だけが響く。次第にエンジン音すらも消してしまうのではないかという錯覚に陥りそうな静けさだ。

 そんな静寂に包まれたこの空間に、暗闇に綺麗な音色が響き始めた。

 夜の静けさが歌の雰囲気を作っていく。

 提督は一瞬聞き入ったが、すぐに正気に戻って出発する。漁師たちが先導してくれるため、その後ろをついて行く。

 次第に歌声は大きくなり、漁師たちも速度を落とし始めたため、提督と川内達も徐々に速度を落としていく。漁師たちが「あれを見ろ」と指を指すのでそちらを見る。そこには空母ヲ級を先頭とする深海棲艦の艦隊が進行方向に対して左から右に抜けていく姿があった。ヲ級が一度こちらを見たが、すぐに進行方向を向いて進んでいく。

 提督は漁師たちと別れ、その艦隊の後ろを電探で確認できるギリギリで追うことにした。

 後を追いながら神通が疑問を口にする。

 

「どういう事でしょうか?こちらを見ても素通りするなんて。」

「とりあえず報告通りということが分かった。後は自分たちの目で確認するしかなさそうだね。」

「そうですね。姉さんはできるだけ静かにしてくださいね。」

「分かってるって。さすがに静かにするよ。」

 

 できるだけ静かに、離れ過ぎず、近づき過ぎずについて行く。

次第に歌声がはっきり聞こえるようになり、その先に明かりが灯る孤島が見える。すでにその島から1キロほどの範囲に入っている。提督はさらに警戒するように指示し、徐々に速度を落としていく。500mほどのところで一度停止して、持ってきていた双眼鏡で確認する。

提督はその光景を見て驚愕する。

 

「なんだ、これは………」

「どうしたの、提督?顔が青いよ?」

「まずいぞ、これは……」

 

 提督が見たのは歌を聴いている深海棲艦と姫級たち。「たち」と言うように一人ではない。今まで海域攻略で苦戦した姫級が勢ぞろいしているのだ。

 空母棲鬼、戦艦水鬼、防空棲姫に北方棲姫などなど。どうやってバレずにここに集まったか分からないが、とてつもなくヤバいことが分かった。

 提督は震える手を何とか抑えながら姫級の中にいるはずの歌の張本人を探す。そしてようやく歌っている本人を見つけた。自分で削ったと思われる岩のステージの上でマイクを持って歌う軽巡棲鬼の姿を。

 歌っているのが軽巡棲鬼と分かり、すぐに川内達に伝えようとしたとき、ボートの後ろにあるトランサムが爆発した。いきなりの爆発に提督はボートの前方に飛ばされる。

 

「ぐあ!」

「提督!きゃあああ!」

「提督!神通!一体どこから⁈」

 

 2人がやられて川内は周囲を確認する。しかし、どこにもその姿が見えない。そんな川内の目の前から急に砲弾が飛んできた。

 

「え…。うわあああ!」

 

 いくら姫級を見たことで取り乱していたとはいえ、警戒している中に急な攻撃を食らったことで対処が遅れてしまった。提督はボートに背中を打ち付けられたせいで体が動かず、神通は中破してしまった。川内は当たり所が悪かったのか気を失ってしまったため、神通が何とか抱きかかえる。

 

「姉さん!提督!しっかりしてください!」

「っ!神通…お前だけでも…早く逃げ……」

「ダメです、そんなこと!一緒に逃げ…!提督危ない!」

 

 神通は提督の服を掴んでボートから離れる。するとすぐにボートが爆発し、その爆風で3人とも飛ばされる。神通は2人を爆風とボートの破片から守るように体の向きを変えたことで背中にダメージを受ける。

 

「ああああああああ!」

「神通!」

 

 神通はその衝撃から気絶し、提督は破片を浴びずに済んだものの、人間であるためそのまま沈んでしまう。だが軍人としての教訓が生き、少し焦りはあるものの冷静に浮上していく。

 無事に浮上し、流れてくるボートの破片にしがみつき、気絶している川内と神通を掴む。

 

「神通!川内!しっかりしろ!」

 

 そう声を掛けるが返事は返ってこない。なるべく顔を海面に出し、沈まないように何とか浮く。近くでいくつかの爆発音が響く中、提督はあることに気づく。

 

「歌が…聞こえてこない。」

 

 漁師たちの証言にあった「歌の途中に近くで戦闘が始まると歌が終わる。」と聞いたように、本当に歌が終わっていた。それと同時に提督は1つ最悪なシナリオを考えてしまう。歌が終わったことで姫級がどうするのか、と。そして、それは的中してしまった。

 

「ブザマダナ、ニンゲン」

 

 その声は自分たちを覆う大きな影と共に聞こえてきた。

 提督が後ろを振り向くとそこには戦艦水鬼が立っていた。

 提督は直ぐに二人を守るように向きを変える。

 

「ニンゲンガ、カンムスヲマモルトハ、オロカナコトダ。ダガ、ソレモイイ。」

 

 そう言って戦艦水鬼は自分の艤装に指示を出すと、艤装は一方の大きな手で提督と川内達を掴み、そのままもう一方の手のひらに乗せる。

 

「一体何を…?」

「ケイジュンセイキガ、オマエヲヨンデイル。カンムスガイレバ、ツイデニツレテクルヨウニ、トモイッテイタ。ソレト、オマエタチヲ、コウゲキスルコトハ、ナイ。」

「それを信用しろと…?」

「シンヨウスルカ、ドウカハ、オマエガキメロ。ダガ、キョウハ、ウタノヒダ。オマエタチヲ、オソッタ、ブスイナヤツラヲ、シマツシタノガ、ワレワレダトイウコトモ、オボエテオケ。」

「……………」

 

 提督は大人しく運ばれながら考える。

 戦艦水鬼の言う「ブスイナヤツラ」とは先ほど自分たちに攻撃をしてきた奴らのことだろう。彼女の言葉を今までの情報から解釈すると

 

「歌は近くで戦闘が起こると終わってしまうため、その歌を楽しみにしている姫たちは、艦娘や人間を見ても襲わないようにしている。

 そして、今回のように戦闘が起きた場合、戦闘を行ったものを敵味方関係なく始末する。」

 

 ということになる。

 自分たちが殺されなかったのは一方的に攻撃されていたからと言うのもあるだろうが、軽巡棲鬼のおかげだろう。何故生かされたかは自分を呼んでいる本人に聞くことにして神通達のことについて考える。

 出来れば神通達を治療したいが、あいにく今は高速修復材も施設もない。大破状態の二人が仮に意識を取り戻したとしても近くの鎮守府につくまでに攻撃されないという保証はない。到着前にやられてしまうだろう。

 はやくどうにかしないといけない。そう考えていると戦艦水鬼が声をかけていることに気づく。

 

「……!…イ!オイ!キサマ、キイテイルノカ!」

「え⁈す、すまない。聞いていなかった。」

「ハァ、ツイタゾ。」

 

 そう言って艤装が提督を掴んで地面に下ろす。

 そこには軽巡棲鬼がおり、その後ろに重巡ネ級と軽巡ツ級が何かの液体が入ったバケツを持って待機していた。

 

「マッテイタワ、○○テイトク。」

「なぜ俺の名前を!」

「シッテイルワ、アナタノコトハダレヨリモ、ネ。デモ、ソレヲハナスマエニ、ヤルコトガアルデショ?」

 

 軽巡棲鬼は後ろの二人に合図を出すと、ネ級とツ級はそのバケツを提督に渡して、また後ろに下がる。

 

「これは、高速修復材⁈なぜこれが⁈」

「ココニハシュウフクザイノゲンセンガアル。ダカラ、ヨウイスルノモカンタンナノ。ワタシハ、アラソイヲノゾマナイ。ダカラ、カンムスデモ、ニンゲンデモカンゲイスル。トクニアナタハネ。サア、ハヤクソレデオネ…、カンムスヲナオシテアゲナサイ。」

 

 提督は言い直した言葉が気になったが、すぐに修復材を2人にかける。すると傷がどんどん治っていき、次第に目を覚ました。

 

「んん、あれ…ここは?」

「私たち…やられて……。」

「二人とも!よかった、目が覚めた!」

「提督、これは一体?」

「これ、どういう状況なの?」

 

 目が覚めた2人は戸惑い始めた。周りを深海棲艦、姫級に囲まれている。それに、さっきまであったはずの傷や痛みがどこにもないのだ。

 

「大丈夫だ。彼女たちは襲ってこない。だから、戦うことはやめてくれ。」

「こんなに囲まれたら最初からでしょ。」

「私は無駄な争いが起きないのなら。」

「ありがとう。それで、教えてくれないか?なぜ俺の名前を知っているのか、歌についても。」

 

 提督は軽巡棲鬼の方に向き直して質問する。

 

「ソンナノ、アタリマエジャン!アハハハハハハ!」

 

 軽巡棲鬼はいきなり笑いだす。周りの姫たちは納得しているが、深海棲艦たちと提督たちはこの笑いに疑問に思う。

 

「何がおかしいんだ?」

「ダッテ!テイトクッタラ、ゼンゼンキヅカナインダモン!ア~ア、オモイダシテクレナインダ。チャントソノテニツケテクレテルノニ。」

「え…………」

 

 その言葉で提督は自分の手首を見る。

 そこについているのはかつて大切な相棒が身に着けていたシュシュ。

 戦場で姫級に話をするために一緒に行動してくれた相棒。

 得意な歌で姫たちの心を掴んだ相棒。

 殿を務め、海の底に沈んでいった相棒。

 提督はその相棒の名前を口にする。

 

「お前なのか、那珂。」

「ソウダヨ、テイトク。ヒサシブリ。」

 

 提督の相棒であり、川内と神通の妹である那珂。提督と唯一ケッコンカッコカリしていた艦娘でもある彼女は軽巡棲鬼として過ごしていた。

 

「いつからその姿に?」

「アノタタカイガ、オワッタアトダヨ。ウミノウエデメガサメテ、コノコタチガイロイロオシエテクレタノ。」

 

 そう言って軽巡棲鬼改め、那珂はネ級とツ級を見る。2人は照れくさそうに顔を赤くしていた。

 それからどうしていたのかを、那珂から聞くことができた。

 那珂は軽巡棲鬼として生まれた後、ツ級とネ級に近くの島に運ばれて今の自分について知らされた。そこで那珂は多くの海域に赴き、歌を歌ったのだという。今ここにいる姫たちもその時に歌を聞いて気に入ったらしい。

 それから何年か経ち、数か月前からここを拠点として活動をしているそうだ。週に一回決まった時間に歌うようにし、その日だけは平和な日を決めたらしい。

 そのため、戦闘が起きてしまえばその日は歌わないという約束も付けたらしい。こうして、平和な時間を過ごしてきたそうだ。

 提督は那珂が記憶を持ったまま深海棲艦として生きていることに驚きと同時に嬉しさが溢れる。今すぐにでも抱きしめたいという気持ちを必死にこらえる。その様子を見た那珂は自分から抱き着いた。

 

「フフフ、エイ!」

「うお!那珂、いきなりなにを⁈」

「フフフ、ホントウハダキツキタカッタンデショ?テイトクガナカチャンニダキツキタイトキハ、テヲトジタリヒライタリスルンダモン。スグニワカッタヨ。ダカラネ、ガマンシナクテイインダヨ。」

 

 そう言って那珂は歌いながら提督の頭を撫で始める。その姿はまるで赤子を癒す母親のようだった。周りの姫たちは羨ましそうに、深海棲艦たちは恥ずかしそうにその様子を見ていた。

 撫でられている提督は満足そうに嬉しそうな顔で涙を流す。しばらくの間、その時間を満喫した。

 歌が1曲終わり、那珂は提督を離す。提督もすっきりとした顔で中の顔を見る。

 

「那珂は、これからどうするんだ?」

「イツモドオリ、ココデウタウヨ。ソレイガイノヒハ、イロイロナトコロヲタビシテルケド。」

「それなら、一緒に暮らさないか?」

「エ…?」

「歌の日以外なら大本営に頼んで色々なところにも行けるし、家ならみんな受け入れられる。」

「……………ン~。ウレシイケド、イマハイイカナ。ワタシハヒメダカラ、オオクノコタチガイルシ、コノコタチヲオイテハイケナイヨ。ソレニ、イロイロマワルノニ、コノコタチトノコミュニケーションモタイセツダカラ。ソレト……」

 

 那珂はニヤニヤしながら提督の耳元でささやく。

 

「テイトクハ、ナカチャンノタイセツナマネージャーナンダカラ、チャントオムカエシテクレナキャダメナンダヨ。ダカラ、イツカチャントムカエニキテネ。」

「…ああ。その時を待っててくれ。」

 

 今度は提督から抱きしめる。その光景を見た川内と神通は少し羨ましそうにしていた。

 しばらく抱き合った後、日が昇り始めたのを合図に提督は那珂を離した。

姫たちもそろそろ自分の場所に戻らないといけないらしく、帰宅の準備を始めていた。

 

「みんな帰るんだな。」

「ウン、ミンナソレゾレモドルバショガアルカラネ。」

「それなら、あの歌を歌おうか。」

「アノ、ウタ?」

「俺たち2人で作った平和の歌。」

「ウン!」

 

 2人は専用のステージに立って、少し発声練習をしたあとに朝日の方へ向く。

 そして朝日が完全に登ったのを合図に歌いだす。

 

『~~~~ 』

 

 朝日に向かい発せられる2つの音色。それは朝日の歓迎と共に平和を望む歌声だった。いつもの歌とはまた違う温かな歌。1つの音色は全ての物の幸福を願い、一つの音色はこの世全ての平和を望む。

2つの音色が響く朝に姫たちは満足しながら帰っていき、その上を白い鳥が飛んでいく。その姿は太陽の光によって照らされ、まるで不死鳥のように輝いていた。

 

 

川内型軽巡洋艦3番艦那珂。

川内、神通の妹であり、アイドルの様な姿をしている。

自身で作曲した歌を歌うなどの活動をして鎮守府のムードメーカーをしている艦娘だ。

提督の相棒であった那珂も同じように活動しており、深海棲艦と話をするときは必ずと言っていいほど付き添い、歌を披露することで心をつかんでいた。

だが数年前に大規模作戦で殿を務め、全艦隊を撤退させた。味方の戦力は那珂一人の轟沈と最小限の被害で収まったらしい。

その最後の時まで彼女は歌い続け、敵味方問わず撤退するもの全員の心にその歌声が刻みこまれたそうだ。

 

*1
トレーラブルボート。ハンドルと風防フレームがある。




「幸福と平和の二重奏」をご覧いただきありがとうございます。
作者の猫神と申します。

今回初めて短編小説を書いてみました。
今まで「深海棲艦が歌う」という発想はあったのですが、中々構想が浮かばず…。
元々ヲ級が様々な戦場で歌い、戦闘を終わらせるという設定にしていましたが、それだと終わらないと思ったため、1から考え直した結果、那珂ちゃんが軽巡棲鬼となって歌う形になりました。

元々、文章構成が下手だったり言葉の引き出しが少ないので、おかしな言葉や変な文章、話が噛み合わないところがあると思います。
その点におきましては「まだまだ勉強中なんだな」ぐらいに受け止めてくださると幸いです。

長くなりましたが、改めてご覧いただきありがとうございます。
感想、質問、誤字脱字、色々くだされば幸いです。

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