仮面転生者ΑGITΩ 〜人類審査のオーヴァーロード〜   作:ただのファンだよ。

18 / 40
_・)チラッ

_・)つ(次話) ポイッ

_-)))ソソクサ

<ティアキンオモシレー





迎え撃て! その光!!

 

 

 駒王町の駒王学園、その裏山に森林にて二体の影が向かい合っていた。一つは四つ足の巨大な獣、もう一つは二本の足で立つ人型の異形。

 

「ぐるるるぅぅ……ッ、アオォぎゃうんっ!?」

「ぎゃぃぃん!!」

 

 それは犬だ。()()()()()()デカイ犬だった。

 ヒト一人ぐらいなら丸呑み出来そうな大顎に、そんな頭部に相応わしい巨大の怪物。だが、その姿は既に傷だらけの満身創痍と言える状況であった。自慢であったろう鋭い犬歯は半ばから砕け、右の頭の片目が潰れ、左の頭の片耳が根本から千切れていた。今も、情けなく怯えながらも噛み付き、容易く避けられ反撃を貰っている。

 

 怪物の名は『オルトロス』。

 “ 地獄の番犬 ”として有名なギリシャの三つ首の魔獣『ケルベロス』の親類とされている魔獣だ。けれど、それはギリシャ神話に登場する原典(オリジナル)の話。神話の時代から悠久の時が過ぎ、ケルベロス及びオルトロスは個体名を表す怪物の名から種族を示す総称となった。*1

 神話に登場する個体を【オリジン】、或いは【キング】を冠名とした個体と違い、このオルトロスはキング・オルトロスの子孫………()()()()。何故なら原種であるオルトロスは神話の時代に大英雄ヘラクレスによって棍棒で撲殺されている。ならばこの個体は一体どういう事かといえば、繁殖したケルベロスの突然変異体。言い換えるならば頭が一つ少ない───障害を抱えて産まれた個体だ。頭を一つ失った代わりに何かしらの能力を得た訳でもなく、双頭だということ以外は通常個体と何ら変わりのないこの個体(オルトロス)は群から追い出されて、彷徨っている所を黒幕によって捕まりこの町に捨て駒として放たれた哀れな仔犬であった。

 

「ぐ、ぐぅぅ……」

「クゥーン」

 

 二つの頭の内、一つは弱々しく唸り、もう片方に至っては既に諦念を感じさせる声を漏らした。

 

「………」

 

 対面するのは金色の双角を持つ人龍の戦士。オルトロスにとっては恐ろしい怪人に見える戦士を前にじりじりと後退している。

 

「……」

「ッッ、ぎゃ、ぎゃうぎゃう!」

「がっ、がうがうぅ…!」

 

 戦士が一歩。たったの一歩足を進めただけでオルトロスは酷く怯え、怯えながらも激しく吠える。日本の諺にもある“ 弱い犬ほどよく吠える ”を体現している。そんなオルトロスの情けない姿に戦士───アギトである津上 翔介も可哀想に思えて戦う気が萎えている。

 元々は突如現れ、町を彷徨っている怪物を討伐する為に出掛けたが、いざ戦ってみれば余り苦戦する事なく──精々、デカさ故に少々タフだった──この状況に至っている。

 構えを解き棒立ちになる翔介。オルトロスも目の前の怪人から向けられる殺気が消失した事に茫然とし、次に怪人から向けられる眼光からこの地から大人しく離れれば手出しはされない事を悟り背を向ける。一度、片方の頭がチラリとアギト(翔介)の方を見るが変わらず立ち尽くすアギト(翔介)の姿に小さく安堵して足を進めようとした。

 

 その次の瞬間だった。

 何処からか放たれた()()()()()()()()()()()()()

 

「が、がぁぁ……」

「きゃぅん」

 

 オルトロスの横腹に一条の閃光が趨る。黒く硬い獣毛が生え揃う皮裘をぶち抜き、そのまま大地に突き立つ其れは翔介にも見覚えがあった。嘗てレイナーレや他数名の堕天使共が扱っていた淀んだ光によって形成された大槍。先端は恐ろしく鋭利な形でありながら全体像に見れば、もはやミサイルの様な太さとデカさを誇る光槍。そんな凶器(もの)に貫かれたオルトロスは崩れ落ち、その巨体を地面に倒れ伏させる。

 思わず手を伸ばしてしまった翔介の目の前で、オルトロスが小さく哭いて……力尽きた。

 

「……っっ、誰だ!」

 

 伸ばした手を強く握り締めて翔介が───覚醒者アギトが下手人が居る空を見上げる。覚醒者の兆しである超能力として高位の気配察知能力を持つ翔介ですら直前まで感知出来なかった──否、正確には感知していたがこの場から遠い位置に居た存在が急速に接近してきたのに反応出来なかった──相手は夜天に浮かぶ満月の背景に漆黒の五対の、十の翼の広げて君臨していた。

 

「………」

 

 十の黒翼の持ち主は事切れた双頭の魔犬を酷く冷めた目で蔑む様に見つめ、やがて興味が失せたのかアギトに視線を集中させた。

 

「くく、ククク。アギト……ΑGITΩ、か。その姿を見るのは本当に久しい」

「………」

 

 ΑGITΩ(アギト)を捉える瞳に仄かに憎悪の(ねん)が燻るのを感じてアギトが身構える。

 

「お初にお目に掛かる、新たなΑGITΩよ。……と、いってもキサマが俺の知るΑGITΩとは別なのかは見分けがつかんがな……まぁ、いいだろう。我が名はコカビエル」

「………」

「……ふむ、愛想の無いヤツだな。名乗られたのなら名乗り返すのがこの国の礼儀じゃないのか?」

「ーーッ!」

 

 コカビエルの言葉を無視してアギトが跳ぶ。足場にした地面が砕け、一部が捲れ上がる程の脚力を持って上空に浮かぶコカビエルに届き、その頸をへし折る気で戦斧の如き豪脚が放たれる。

 

「ほぉ」

「……っ!!」

 

 ()()()()()()()。アギトの横薙ぎの蹴りはコカビエルが軽く掲げた手の甲に遮られ、直撃すると同時に重く巨大な轟音を響かせる。衝撃が広がり大地に届いて揺らす。

 金のアギト───人智を超えた超越肉体から繰り出された横蹴りはコカビエルの腕を痺れさせ、感嘆の声を吐き出させる。

 

「なかなかやるな」

 

 にぃ、と邪悪に笑ったコカビエルが防御した腕で受け止めた足を掴み捕捉すると同時に反対の腕を引き絞る。ぎゅ、と固められる拳にアギトの戦士としての感に悪寒が走る。

 

「お返しだ…!」

 

 コカビエルの魔拳が解き放たれる。大気を裂きながら突き進む拳を前にアギトは───掴まれていないもう片方の足で蹴りを放った。狙いは迫り来る拳の内側、コカビエルの二の腕だ。

 

「ぐっ……!」

「ぬぅ」

 

 コカビエルにとって予想外の一撃は間違いなく拳の強打の威力を削ぎ、けれど減速させる程度に留まり、直撃までの時間が僅かに拡張された小さな隙で軌道上の先に交差した両腕(クロスガード)を配置する事が出来たアギトが吹っ飛ばされる。

 

「ほほう、いい蹴りだ。咄嗟の機転も効く、追撃を許さぬ様に即座に身構える事も出来る。………くくく、いいぞォ! キサマは上質なΑGITΩだっ!!」

 

 コカビエルの顔が獰猛に歪む。げらげら、と腹を抱えて大笑いし、アギトの実力の高さに嬉々とする。

 そんなコカビエルの姿にアギトに何ら反応を示す事はなく。これから戦い、倒す相手の趣味嗜好など興味がなく、関係もない。彼にとって敵は何処までいっても“ 敵 ”に過ぎない。

 無機質で徹底的、もはや戦闘マシーンだと例えられる程に“ 戦士 ”であるアギトの在り方にコカビエルは一層笑みを深め右腕を天に翳す。

 

「面白い! この町にはあくまで聖剣の仕入れと戦争を起こす為だけのつまらん作業のつもりでいたがキサマとなら本番前の前哨戦として大いに愉しめそうだ!!」

 

 コカビエルの掌に光が産まれる。不明瞭な光の塊は段階を得て槍状に精錬され巨槍型の光力兵器となる。

 

「さぁ、簡単に死んでくれるなよΑGITΩ」

 

 今にもコカビエルの光槍が投擲される寸前で、コカビエルの動きが止まった。ふぅ、と手の中の光が霧散して忌々しいものを見た様な顔で舌打ちを漏らす。コカビエルだけではない、相手をしているアギトすらコカビエルから顔を背け、あらぬ方向を向けている。

 二人の視線の先には三人の人物が。青い髪と栗毛の少女二人と金髪の魔剣使いが一人。

 

「フリードとバルパーを追っているつもりだったが。まさか今回の騒動の黒幕が居ようとは、な」

「ええ、都合が良いわね。敵のボスを倒してその後に残党討伐と行きましょう」

 

 オルトロスを貫いたコカビエルの光の槍、それとアギトの蹴りによる轟音。その二つを察知してつい先程まで撤退したフリード・セルゼンとバルパー・ガリレイを追っていた彼女らが駆け付けた。

 教会からの使者。聖剣を携えた二人の女戦士は天に座すコカビエルを見据え、それぞれの聖剣(えもの)を構える。

 

()()()()()()───」

「───()()()

 

「───ΑGITΩを討つぞ!!」

「───ΑGITΩを討つわよ!!」

 

 駆け出す二人の麗しき女戦士、聖なる波動で反射する光沢の様に刀身を輝かせ目前の背徳者に向けて襲い掛かる。

 これに驚愕したのは魔剣使い───木場 裕斗只一人だ。裕斗が二人を止める間もなくアギトに迫り、聖刃が放たれる。

 

「ふっ」

「ちっ」

「もうぅ!」

 

 二人の殺気が自身に向けられているからこそアギトはコカビエルなら二人に視線を向けたのだ。そんなアギトが二人の剣を対処出来ない筈もなく二つの刃を軽く躱す。

 一撃を回避され、勢い余ってアギトを通過した二人が反転しながら身構える。

 

「な、なにを…? 何をしているんだ君達は!!」

 

 ここで漸く裕斗が行動する事が出来た。二人の突然の狂行に声を荒げる。

 

「『何を』……だと? 見てわからないのか、ΑGITΩを討伐している最中だ」

「そうそう。偉大な主様に背く悪虐の徒であるΑGITΩを滅ぼす事こそ私達“ 神の刃 ”たる教会の戦士の役目なんだから!」

「…………は?」

 

 理解不能。

 裕斗には二人が言っている事が一欠片たりとも理解出来なかった。だが、これは教会の戦士ならば誰もが同じ様に起こす行動である。

 彼女達にとってアギトは───“ 背徳者ΑGITΩの殲滅 "とは何よりも優先すべき任務だ。聖書にはΑGITΩは神により『悪魔や堕天使よりも悪』だと記されている。

 

 ΑGITΩの根絶こそが彼らの使命。

 ΑGITΩを滅ぼす事こそが彼女達の懇願。

 ΑGITΩ亡き世にこそ天上の主による救済が行われるのだと本気で信じているのだ。

 

 故に彼女達は剣を振るう。与えられた任務の根幹となるコカビエルが目前に居たとしても、例えこの場にフリードとバルパーの二人が居たとしても、もしも奪われた聖剣を奪還出来る絶好の好機だとしてもΑGITΩを斬る事を優先したと断言出来る。

 女戦士二人の剣を躱し、逸らし、弾く。アギトの相手は完全に二人に置き換わり、コカビエルは蚊帳の外となる。

 

「………」

 

 コカビエルは苛つきを隠す事なく表情に曝け出す。曝け出しながらも三人の戦闘を見届けている。アギトが二人をさっさと片付けて際程の続きを行いたいが為だ。

 けれどコカビエルの意に反してアギトが二人に反撃する事はなく、二人の剣もアギトを真に捉える事なく時間だけが経過していく。

 

「……ッッ、ΑGITΩォォ!!」

「「!?」」

「……」

「いつまでその様なザコ二匹を相手に遊んでいる!」

「なにを…っっ」

 

 青髪の女戦士の反論を一睨みで黙らせ、コカビエルが続ける。

 

「早くそいつらを始末しろ。そいつらはΑGITΩが居ると知れば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()様な連中だ! キサマが気遣ってやる必要は無い!!」

「……!」

 

 コカビエルの言葉にアギトは二人に目を向ける。疑心、コカビエルの言葉を信じた訳ではないが疑う気持ちは浮かぶ。

 

「……そう、だな」

「……っ」

 

 視線を向けられた女戦士の一人は、剣を構えながらもコカビエルの言葉を肯定する。

 

「この町にΑGITΩが居ると知った。ならば何を犠牲にしてもコレを討つ! 例えこの場は逃したとしても、与えられた任務を終わらせた後に誘い出してでも!!」

「ええ、絶対に! ΑGITΩのチカラは継承される。血の繋がりがある者も、身体だけの関係だとしても。ΑGITΩと関係を持つ人が何も知らない無辜な民だとしても!!」

「だから言ったであろう」

 

 コカビエルが頭上から言い放つ。

 

「キサマが加減して、その結果そいつらが生き残った場合。そいつらはキサマの周りの人間を殺す、キサマの大切な人間を殺す。嫌なら殺せ! その他に手はない!!」

「………」

 

 コカビエルの言葉がアギトの───翔介の脳内で反響する。

 思い浮かぶのは姉の雪菜、学園のクラスメイト達、イッセーや他の悪魔。

 

 そしてアーシア。

 

「………」

「!! イリナ」

「わかってるわゼノヴィア」

 

 アギトの変化に二人は───ゼノヴィアとイリナは認識を改めた。重く圧し深く突き刺さる様な威圧感をアギトから感じ取り、目前のΑGITΩの強さの判断を数段上げた。コカビエルの言葉通り手加減されていた事を認め、これからは違うのだと身構える。

 つぅ、と冷や汗が頬から流れ顎先から滴り落ちる

 

「そういえば、」

「……?」

 

 ゼノヴィアが口を開く。戦闘が始まる直前、或いは最中に言葉巧みに相手の弱点(ウィークポイント)を突き動揺を誘う。舌戦も歴とした戦略の一つだとイリナ以上に戦いに明け暮れていたゼノヴィアはよく識っている。相手の調子を崩し、此方の好機を作る。何度も行ってきたし、体験してきた過去からゼノヴィアが少しでも自身の優位な状況を形成する為に選択した作戦。

 だが、しかし、

 

「お前は、」

 

 今回ばかりは、

 

「教会を追放された元聖女の、」

 

 その行動は、

 

「魔女アーシア・アルジェントと徒ならぬ仲だった様だな」

「  」

 

 悪手であった。

 

「彼女を抱いたのか」

 

 ゼノヴィアがアーシアの名を口にした瞬間より彼の中でかちり、とスイッチの様なモノが入った。瞬間的に湧き起こる激情の荒波に呑まれぷつり、と途切れた。

 怒りや疑問、苛立ちや困惑、それら全ての感情が消え失せ。白紙のキャンパスが如く真っさらな心あるのは“ 目的 ”だけ。敵意も悪意も───殺気すらなくゼノヴィアが言葉を言い切るよりも速く、右足のつま先を地面に突き刺し、蹴り飛ばす。スコップで掬った様に地面の一部だった塊を足で投擲し、放たれた塊はゼノヴィアの聖剣の刀身に直撃した。

 ゼノヴィアの聖剣はこと威力に優れた破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)。コンクリートや土の塊に負ける事なく、返って接触した塊の方が粉砕されて剣自体は無傷。

 

「つっ…!」

 

 ()()、担い手であるゼノヴィアはそうはいかない。

 腕に掛かる衝撃、飛び散った破片が彼女を襲う。明確に身体、精神共に怯んだその隙に───隣のイリナが吹っ飛ぶ。

 

「───え?」

「はぁぁ」

「!? な…ぐぅ」

 

 重い呼吸から繰り出される腰の入った一撃。聖剣の腹で防げたのは偶然か、それとも敢えてそこを狙ったのか。

 地面を滑る様に後退するゼノヴィア。

 

「くっ、イリナぁぁ!!」

「ッッ、ゼノヴィア!!」

 

 ゼノヴィアとイリナがアギトを挟み込む形で強襲する。

 

「破ぁぁ!」

「ヤアァァ!」

 

 二人の刃、断罪の剣閃。

 旧世代の人間如きが捌けるものか!

 

「バカな!?」

「ぅっそでしょ!?」

 

 されど聖剣の刃をその腕で、強化皮膚(アーマードスキン)の10倍の強度の腕部装甲(アームドブロックシールド)で防がれる。

 

「くっ」

「だったら!」

 

 剣を引き、二人は連携攻撃で攻める事とした。

 まずはゼノヴィア、破壊の聖剣を振り被り大薙の一撃。アギトは迫る刀身の腹に掌を添えて押し上げる。続くイリナ、日本刀に形状に変化した擬態の聖剣を逆袈裟に切り上げる。が、ゼノヴィアの一撃に比べれば酷く軽く腕を振るって弾かれる。

 

「ちぃぃ…っ!」

「こんっのぉぉ!」

 

 ゼノヴィアが左から、イリナが右からそれぞれの聖剣を振るう。狙うのは首、聖剣の刃で挟んで斬り落とすという作戦だろうが───

 

「……ふっ」

 

 ───屈めば簡単に回避する事ができ、

 

「ああっ!?」

「うわっ!!」

 

 目標を失った一閃はそのまま相棒の剣とぶつかり、聖剣の波動同士が反発して弾かれる。

 その隙に一歩前に出て両腕を広げる。両の手の甲が女戦士の鍛えられつつもしなやかな身体を捉える。

 

「ハァッ!!」

 

 横腹に打撃を受けて怯む二人を大振りの回し蹴りで追撃する。初めにイリナ、次にゼノヴィアと一撃で二人を攻撃しているにも関わらず二人共に同等のダメージを与えて後退させる。

 地面を転がり土で汚れるのも厭わず二人が飛び起きると即座に聖剣に意識を集中させて、嘗て王の聖剣だった破片を炉心として剣気を充満させ───解き放った。

 

「聖剣の切れ味、とくと味わえ! 破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)ッ!!

 

 ゼノヴィアは聖剣を大きく掲げ、振り下ろした。剣に満ちた聖の波動を破壊力に変換して光波として撃ち出す。

 

「変幻自在の刃に切り裂かれなさい! 擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)!!

 

 イリナは聖剣を、白色光を発する日本刀風の刀身が伸びて光の帯と化した刀身を操りアギトを狙って刺突する。

 

「はぁぁぁあ……!!」

 

 襲い迫る二振りの聖剣の力にアギトは腰を落として右腕を引き絞って身を捻る。頭部のクロスホーンが展開し、下腹部のオルタリングから発生したΑGITΩのチカラの源たるオルタフォースが過剰発生、胸の賢者の石碑(ワイズマン・モノリス)により右腕に供給、集束される。

 

【 ラ イ ダ ー パ ン チ 】

 

 溜め時間の問題により大地の紋章吸収という1工程(アクション)は省いた為に本来の威力には届かないが、それでも十分なパワーが注ぎ込まれた人越拳が繰り出された。

 

「──」

「  」

 

 絶句する二人。聖剣の一撃が只の拳の一発で掻き消されたのだ。

 

 

 

 

 

「………」

 

 上空にて召喚した浮遊する玉座に座り、観戦するコカビエルは益々膨れ上がる歓喜に胸が躍っている。コカビエルの視線の先には、

 

「ぐ、っくそ! アアっ!?」

「なんでっ、づっ、くぅ…!」

 

 掌底、手刀、拳打、裏拳。様々な拳の技をその身に受ける教会の戦士の姿が。反対に教会の戦士からの攻撃は勢い付く前に阻害し、攻撃が当たるより速い“ 後の先 ”を往く反撃を与えているΑGITΩの姿。教会の戦士二人を合わせた実力よりもΑGITΩ単体の方が圧倒的に勝っている。

 コカビエルも数多のΑGITΩを見てきたがこのΑGITΩよりも強く、巧く、賢いΑGITΩは見た事がない。それにΑGITΩが聖剣の能力に対抗した際に頭部の形が変わった事をコカビエルは見逃さなかった。

 

───あの様な現象は見た事がない……!

 

 今まで出会ってきたΑGITΩは皆変身した後、()()姿()()()()()()()。角が天使の翼の如く展開され、しかもその形態に変化した途端凄まじいエネルギーが発せられたのをコカビエルは垣間見た。

 未知だ。コカビエルにとって目の前のΑGITΩは未知なる存在であった。

 

「素晴らしい……」

 

 くつくつと笑うコカビエルの心境は彼自身にしかわからない。

 

 

 

 

 

 

「ふっ!」

「ぅあっ!」

 

 アギトの手刀がイリナの肩を打ち据え、

 

「……っ!」

「ぐぅぅ…ッ」

 

 アギトの掌底がゼノヴィアの右肩を強打する。

 

「ジィッ!!」

「かはぁ!」

 

 ぐるりと回転してから繰り出したアギトの手刀がイリナの横腹を捉え、そのまま撫で切りにするかの如く薙ぐ。

 

「ハッ、ハァァ、ハアッ!!」

「いっ、うぶっ、ぐわぁ!?」

 

 ゼノヴィアの肩を狙って上段蹴り、足を引いて身体を捻ってから突き刺す様な蹴りを腹部に見舞い、僅かに距離を離して後ろ回し蹴り。

 蹴り飛ばされるゼノヴィアと崩れ落ちるイリナ。勝敗は誰の目から見ても明らかだ。

 

「くっ、これ程、とは…うぐ……」

「こ、んな…こと……て…」

「…………」

 

 倒れ伏す二人を見つめたまま微動だにしないアギト。静寂が場を支配して奇妙な緊張感で満ちる。戦いをただ傍観していただけの裕斗の頭に嫌な、不穏な考えが過ぎる。

 

───アギトは、二人にトドメを刺そうとしてるのではないか?

 

「ッッ!」

 

 改めて、冷静になって考えればアギトはこの二人が何者なのかよく知らない。この二人だけでなく上空のコカビエルに、何故自分が此処居るのか。彼は何も知らないのだ。

 

「ま、待っ」

 

 思わず声を掛けようとして身体が硬直した。凄まじい殺気が頭上から向けられる。コカビエルだ。コカビエルが玉座の上から「余計な事を言うな」と裕斗に釘を刺している。

 

「ーーーー」

 

 言葉が、出ない。指先すら動かない。

 脳から、理性から送られる指令を肉体が、本能が拒絶している。

 

「………」

 

 アギトの視線が裕斗に向けられる。

 ほんの僅かだが声を掛けられた事に反応したのだ。だが裕斗は続く言葉を発する事が出来ない。仮に、この場にイッセーやリアス達の様な仲間が居れば彼の心は恐怖に打ち勝ちコカビエルの意に反する事が出来ただろう。だが、現実は彼一人しかいない。

 

「……」

「  !」

 

 やがてアギトは裕斗から視線を外して再度足元の二人に向けられる。

 

「……どうした。その二人は最早何も出来ん、今後の為にも始末しておくべきだ」

「………」

 

 コカビエルの言葉にアギトの頭に様々な思念が巡る。

 確かにコカビエルの言う通りである、先の発言からこの二人を逃せば、身近な人の身に危険が降り掛かる可能性がある。ゆっくりとアギトの右腕が上がる。

 

「……ゼノ、ヴィア…!」

「……は……は……っ」

 

 まず狙うのはゼノヴィア。彼女はアーシアの名前を出した、尚更生かしてはおかない。命を奪う、殺すという行為は既に何度も行ってきた慣れている……つもりはないが嫌だからと拒む事はない。

 だけど、何故だろう。最後の一手を躊躇ってしまうのは。

 

───……ショースケさん。

 

 ふと、微かな……鈴の音の様に微かな声が脳裏に響く。

 

「……」

 

 嗚呼、そうか。()()()()()()

 上がった腕が───何も傷付ける事なく降ろされた。

 

「やめだ」

「……!!」

「………なに?」

 

 興味を失った様にアギトがゼノヴィアの側から離れる。勿論イリナに標的を変えた訳でもない。アギトが次に見据えたのはコカビエル。

 自身に二人の殺害を強要する堕天使こそ今最も討ち倒す必要がある相手だと判断したのだ。

 

「な、何故だ?」

「……ん?」

 

 ゼノヴィアがアギトに問う。

 

「何故、私達を見逃す? 私達はお前を……!」

「───アーシアは…」

 

 ゼノヴィアの言葉を遮ってアギトが言い放つ。

 

「……アーシアなら、お前らを許しただろうから」

「………」

 

 ゼノヴィアが言葉を失う。

 そして二人の会話を聞いたコカビエルが強く叫んだ。

 

「腰抜けが…! 失望したぞΑGITΩ!!」

「……それは光栄だ」

「ほざけ!!」

 

 嘗てレイナーレにも言った軽口にコカビエルはレイナーレ同様に怒りの形相を浮かべ玉座から飛び立つ。

 

「ぬぅぅぅぅ……っっ!!!」

 

 両腕を天に翳し、光の槍を生成する。先までの光槍を遥かに上回る巨大な槍が月光を打ち消す程に強力な光を発している。

 

「……っ」

 

 上空にて輝く巨槍の威光にアギトの仮面の内側で冷や汗が流れる。

 チラリと背後のゼノヴィアとイリナを目を向け、動けない二人を見て覚悟を決める。

 

「すぅぅ……はぁぁ……」

 

 足幅を広げ、腰を落とし、両腕を広げる。

 今再び頭部のクロスホーンが展開され、ΑGITΩとしての潜在能力が解放される。常人には、否、超人にも不可能な超常現象を引き起こす。

 足下の地面にクロスホーンを展開したアギトの頭部の様な金色の紋章が浮かび上がる。其れこそがオーヴァー・ロード/テオスより創造された地球(ほし)の鼓動、雄大なる大地が織りなす生命の息吹。あらゆる神、怪物、超越生命体から大地の支配権を簒奪したΑGITΩの御業。

 

「ハァァァ……!」

 

 大地に、星に、世界に命じ、その力の一端を己の身を宿す。

 金色の力を灯した右足。

 

「死ねぇ、ΑGITΩぉぉお!!!!」

 

 コカビエルが光の槍を擲つ。ゼノヴィアを、イリナを、裕斗を、そしてアギトを消し飛ばす為に放たれた一条の流星じみた閃光が翔ける。

 

「ハァァァァ!!」

 

 対抗するはアギトの蹴撃。

 大地の超力という超越肉体故に耐えられる超質量エネルギーを内包した上段蹴り(ハイキック)

 

【 ラ イ ダ ー キ ッ ク 】

 

 二つの力がぶつかる。

 片や天使及び堕天使の固有能力の光の波動、もう片やΑGITΩによる金の大地の力。交わり、反発し、喰らい合う力と力の衝突は稲妻に近しい形で辺りに破壊を振り撒き、烈風が吹き荒れる。

 

「ぐ、ぐぅ……!」

 

 アギトの唸り声がゼノヴィアの耳に聴こえる。

 ゼノヴィアとイリナを圧倒したアギトですらコカビエルの相手は身に余るのか、一瞬湧き上がる諦念に呑まれそうになり、けれど!

 

「っ、ッッ……! ──ッッハァァァ!!?!?」

 

 アギトの───強き魂の輝きをゼノヴィアは視た、魅せられた。

 光槍に拮抗していた上段蹴り(ライダーキック)は瞬間的な爆発力を持って振り切られ、軌道を外す事に成功した。大地の力との衝突により光槍の内包したエネルギーを大きく消耗させ、結果として光を拡散する事なく爆発する程度に抑える事に成功した。

 

「うわっ!」

 

 その爆発の衝撃は裕斗の元にまで届き、彼の軽い身体など容易く吹き飛ばす。ゼノヴィア、そしてイリナも爆風に攫われその場より離れる。

 問題は光槍を直撃からすぐ隣の地面に外す程度に逸らしただけで爆発の衝撃に超至近距離に晒されたアギトだ。

 

「………」

 

 コカビエルは爆煙の晴れた地にて()()()()()()()()()()()()()事を確認して飛び去る。

 

「く、くぅ」

 

 痛む身体に鞭を打ち、裕斗が神器(セイクリッド・ギア)で創造した簡易的な魔剣を杖代わり立ち上がる。辺りを見渡すがゼノヴィアとイリナの姿は見えない。

 そして、

 

「彼は、アギトの彼は?」

 

 わからない。自身と同じ様に吹き飛ばされたのか、それとも無事に逃げ延びたのか。最悪の考えを無意識に避け、彼は一人足を進めた。

 

 

 

*1
オリジナル設定

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。