仮面転生者ΑGITΩ 〜人類審査のオーヴァーロード〜 作:ただのファンだよ。
黒き羽根が舞い落ちる。
───嘗て、まだ穢れを知らない潔き天の使いの頃より命じらし使命を果たすべく黒き翼の者達が刃を掲げる。
───『ヒトは只、人であれば佳い』
───主が遺せし御言葉。ソレは天より離別した今でも貴き言霊。
───故に、死なねばならない。
───許されざる者よ。
───故に、消さねばならない。
───人ならざる者よ。
───人を越える可能性を孕みし者よ。
───
───その
───即刻頸を出せ。今すぐ
───赦しを乞え。創造主を御手から溢れし不浄の愚者よ我らが粛清を受け入れよ。
───我ら【
───主の言葉を求め、自らが主の為に動く事をしない軟弱な天使に代わり
───穢れに向き合う覚悟すらない白き翼の者に代わり、主に賜りし翼を黒く染めようとも主の為に刃を振るう覚悟を持った我らが。
───この地平線に続く彼方から最果てまでに在りし
───大罪人、禁忌の名は【
───
───
「……話が長い」
光を、刃を、翼を、悉くを人龍の暴威が蹂躙する。
“ 貴様達の赦しなど、元より求めてはいない ”
羽根が地に墜ちる。
私は、きっと魔女だったのです。
嗚呼、きっと主は身も心も堕ちた私を許す事はないでしょう。聖書に記されし神の慈悲を跳ね除け、偉大なる手より離れ、神から与えられし
【アギト】
私はずっと貴方様に祈りを捧げてきました。私はずっと貴方様を信じ続けてきました。私の手に宿る癒しの光こそ、主から与えられた愛の形なのだと信じて疑いませんでした。この
神父様は仰いました。
「神の子である我らを惑わす悪魔よりも、天から追放されし堕天使よりも悪しき者」
司祭様は仰いました。
「主は皆に等しく赦しを与えられるなか、世界で唯一、主が赦す事のない存在」
………ですが、私にはあの人が“ 悪い人 ”には見えません。あの人は、私に声を掛けてくださいました。手を差し伸べてくださいました。助けていただきました。教えていただきました。信じてくださいました。心配してくださいました。
約束してくださいました。
私と、“ 友達になってくれる ”と。
私は、背を向けるあの人に手を伸ばしました。
私は、離れていくあの人の足に縋りました。
私は、私を救ってくれたあの人の背中に向けて大きな声で呼び止めました。
振り返るあの人の赤い瞳が私を射貫きます。怖いです、怖くて怖くて仕方がない。
───
「
あの人の優しさを知っているから。あの人の強さを知っているから。
あの人は、私の、
「あ、ありがとうございます!」
「 」
返答は無い、その事が少しだけ寂しい。
それでも、私が言葉を止める事はありません。
「大丈夫、ですよ」
「……」
一歩、あの人に近付く。また一歩、あの人の元へ歩く。
半歩、あの人が後ろに下がった。
「大丈夫」
「……っ」
あの人がそれ以上退がる事はありませんでした。やがて、私とあの人との間にあった距離は無くなりました。
ゆっくりと、貴方の手へと私の手を伸ばします。私を救ってくれた手、私の為に戦ってくれた手に私の手が……触れます。
優しく包む様に貴方の手を握って、貴方の
貴方が差し伸べてくれた手を、私が拒む事は絶対にありません。
そして何度でも言います。貴方が救ってくれたのは私の命だけではありません。貴方はその手で私の心も救い取ってくださったのです。
「ありがとう、ございます」
例え貴方が大罪人だとしても、貴方が人ならざるヒトだとしても。
貴方が【アギト】だとしても。
「───翔介さん……!」
「………アー、シア」
嗚呼、申し訳ありません主よ。
私は今、私の意思で、貴方を裏切りました。
キーンコーンカーンコーン、と授業を終える
「………」
クラスメイトが授業と授業の合間の時間に友人と語る者、次の授業の準備をする者、授業が終わった事に気付かず眠り続ける者。三者三様の教室の中に彼───津上 翔介は居た。
相も変わらず眠そうな目付きと何処かボーっと、
「………はぁ」
小さく溜息一つ。ポケー、と黒板の上にある時計を眺め、次の授業開始まであと二分なんて事を考えながら時間が過ぎるのを待つ。
これが彼の学園での習慣だ。常に呆けた締まりのない表情が何を考えているのかわからない得体の知れなさを演出しているが、彼とクラスメイトとの中は至って良好であった。
眠そうな雰囲気とは裏腹に授業中に眠った事はたったの一度もなく、呆けている様に見えて話をしっかりと聴いている彼のノートは几帳面さを感じさせる出来となっている。秀逸な字を書き、文字自体に大小といったブレもなく、綺麗に横に並んだ文字列は見る者によっては美しいとすら想わせる。黒板の丸写しではなく教師の話のみから切り抜いた部分も丁寧に書記されている為、教師陣からの評価も高い。
ならばと運動をやらせてみせると、これもまたそつなく熟す。この前、男子テニス部のキャプテンであるクラスメイトと授業で試合をした時、数回行った試合でどれも惜しいと思わせる程にくらいつき、最後の一回はなんと白星をあげた。
授業外でも、その雰囲気とは裏腹に根がとても
そして何度も言うが、彼は表情さえ改めればイケメンと呼べる分類の人間だ。クラス内どころか学園中で彼の別の表情を妄想する女子が居るという。
そんな“ 目立たない完璧 ”、“ 影の人格者 ”、“ 眠気という服を着たMr.ポジティブ ”なんて密かに呼ばれている彼だが、実は理由が有った。
(……………眠い)
『翔一。次の授業が始まりますよ、次は数学です)
(………はい、カミサマ。あと、翔介です)
『いいですか? 貴方に教えを与える彼の言葉、しっかりと書き記しなさい。後から再び見て鮮明に思い出せる様に事細かに。それらの積み重ねがいずれ貴方に実りとなって祝福を与える事になるでしょう)
(ハイ、エエ、ソノトオリデス)
頭の中でありがた〜い言葉をいただき彼は虚空を眺め停止した思考で答える。闇の力───『オーヴァーロード/テオス』の言葉には“ ぐぅの音 ”も出ない正当性があり、彼は反乱どころか嫌な素振りすら見せる事が出来ない。だって彼、間違った事、言ってない。(五七五)
仮に反抗したり無視して逆上したテオスにナニか仕置きされるんじゃないかと恐れてる訳では断じてない。…ホントホント。
彼が眠気に負けて居眠りをしたりしないのは眠気に負けそうになる寸前でテオスにより一言掛けられ悪寒で一時的にだが眠気が吹き飛ぶ為。
彼が進んで人助けを行うのは我が
スポーツを含め様々な技能を卒なく熟せる事自体は翔介が生まれ持った
テオスの寵児には“ 先頭の景色しか許されない ”。余りの期待と試練の重さに翔介は初め「ウソだろ…?」と呟いた。
突然だが、話をしよう。
翔介には──テオスにより修得させられた──特技が多くある。そのうちの一つに『全ての言語を話せる』というのがある。
日本語は勿論、英語、ドイツ語、フランス語、エトセトラ。兎に角彼に理解出来ない言葉はない。彼は世界の破壊者にでも成るのだろうか?
「『あ、ありがとうございます!』」
時間はその日の学業を終えた夕方。意味もなくぶらぶらと町を歩き、意味もなく回り道をし、もはや半分散歩と化した帰路の途中で彼は
頭にヴェールを被りシスター服の少女が大きな鞄の取手を両手で持って「うんしょ、うんしょ」と懸命に運んでいる。余程鞄が重いのかふらふらと覚束無い足取りで今にも転けてしまいそうだと感じた翔介は少女へ手を貸そうと近寄り、少女が自分の足に足を引っ掛かけ前方へと倒れる。
『はわう!?』
「おっ、と」
『え?』
あわや少女が顔から地面に突っ伏してしまう前に翔介が腕を差し込む。それも彼女の身体に直接触れる事がない様に鞄を中間に挟んで。ただ、躓いた拍子に彼女のヴェールが落ちた。
溢れたヴェールの内に隠されていたのはブランドの金髪。突然の事に茫然とする年端のいかない可憐な少女のエメラルドの様な碧眼と目が合った。
「『───』」
「……ああ。ん、ンン。…ごほん、『大丈夫ですか?』」
『!! す、すみません!』
そして少女の礼へと繋がる。
少女の名は『アーシア・アルジェント』。どうやら彼女はドジ……少しばかり不器用な旅行者という訳ではなくこの町の教会に越してきた所だと言う。ただ、つい今しがたこの町に着いたばかりで故郷とは違う見慣れない町並みと慣れない地図を相手に睨めっこしながら町を彷徨っていたらしい。
『……翔一。彼女を教会まで送ってあげなさい、人を陥れるのが人なら、人を救い上げるのもまた人です』
(……? わかりました。……あと、翔介です)
テオスの物言いに少しばかり引っ掛かりを覚えたがすぐに切り替えてアーシアに「教会まで案内するよ」と告げるとアーシアは瞳を輝かせて翔介に再び礼を言う、ぺこぺこと頭を下げるアーシアの鞄を彼女の手が届くよりも早く手に取る。
困惑した様子のアーシアに重いだろうし代わり持つと伝えるとアーシアはそんな申し訳ないと両手を振って断ろうとして翔介の「これ持ってまた転んだりしない?」という一言で沈黙した。頬を赤く染めて恥ずかしそうにぱくぱくと口を開いた後、俯いて小さな声で「お願いしましゅ」と受け入れた。
「『───あのスーパー。教会から一番近い店だから困ったら取り敢えずあそこに行くといいよ』」
『な、なる…ほど』
途中、町の案内、施設の説明を行う。
「『……教会に荷物を置いたら一度行ってみようか』」
『え!? そ、そんな、こんな時間に』
「『ダメです、これは決定事項。それに君の信じる神様だって困ってる人を見て見ぬふりする人を良くは思わないんじゃない? ──えーと、“ 汝、隣人を愛せよ ”…だっけ? それみたいなものだよ』」
『その通りです。よく
(貴方じゃないです。…あと翔介です)
『えっと、それじゃあ……お願いします』
翔介の言葉にアーシアははにかむ様な笑い感謝の言葉を述べた。
そして翔介の申し出通りに教会に辿り着くとアーシアは鞄を受け取り教会内に入っていき、5分もしないうちにまた出てくる。
「『それじゃあ行こうか』」
『はい!』
なんかデートの待ち合わせみたいだな、なんて考えた翔介なのであった。
───その日、聖女と崇められ、魔女と罵られたか弱い少女が本当に欲しかったものが、誰でもない“