仮面転生者ΑGITΩ 〜人類審査のオーヴァーロード〜 作:ただのファンだよ。
まだの方は前話からどうぞ。
オリ主SIDE
『ヴヴヴヴゥ゛ゥ゛…!』
「……、先走るなよ…?」
『ゥゥア゛ア゛ッ!!』
翔介とオースラスはΑGITΩとマシントルネイダーがそうであるように脳波が繋がっており、よってオースラスの意思はそのまま翔介に伝わる。これにより翔介は口で発しなくても猟犬へと指示する事が出来る。
が、肝心のオースラス自体が翔介の指示を聞くかどうかは別であり、敢えて口にした言葉も聞かずにオースラスは獲物に向かって駆けだしてしまった。
「先走るなって……」
嘆息一つ洩らしてから翔介も動きだした。
西遊記にて有名な初代孫悟空。
その子孫にして孫悟空が神仏へ至る以前、石猿と呼ばれる中国の妖怪を種とする男、美猴は頭髪を数本引き抜き息を吹きかける。すると髪の毛の一本一本が美猴へと変化した。初代も使用していた髪を利用した分身の術「
『グゥゥルアア!!』
殺到する身外身による美猴の分身達を腕の一振りで纏めて引き裂く。術の要となった頭髪が爪に裂かれて散り、美猴も思わず「ウソだろ!?」と驚きを露わにする。
時間稼ぎにすらならなかった分身を捨て置いてオースラスが腕を掲げ、振り下ろした。美猴と──嘗ては猫又の妖怪
常人の目には影すら捉えられないであろう獣の駿足から繰り出される
「おいおい、熱烈なアプローチだねぃ!」
オースラスの、
ガギンッ! と如意棒と猟犬の
「……!」
そんな二人の、美猴の背後でアギトが拳を振り被る。
オースラスと向かい合う美猴の隙を突いての強襲。が、拳が美猴に届く事はなかった。引き絞られて今にも打ち出される寸前の腕にナニカ、煙や霧状のものが纏わり付いて動きを阻害する。霧状の其れはとある方角から伸びており、辿った先には黒い妖婉の女。
「アンタのアイテはあ た し♡ にゃん」
「……チッ」
霧に腕を取られたアギトを他所に美猴とオースラスが移動する。猿の妖は鎧や重量など感じさせない軽々とした跳躍で飛び退き、逃げた獲物を追って猟犬が駆ける。
「助かったぜぃ黒歌! 来やがれ雲よ!!」
『ぐゔゔ…!』
速度ではオースラスに分がある事を悟った美猴は劣った機動力を補う為に呼び出したそれは人一人が乗れる程度のサイズの雲だった。身外身と同じく初代も扱っていた術の一つで西遊記の孫悟空で雲と言えば極めて有名な乗り物『
「行くぜ往くぜイくぜえぃ!!」
『ぐるぅ……!?』
劣っていたスピードは觔斗雲で補い、上空という安全圏を手に入れた。超重量の如意棒を叩き付けるだけで充分な威力はある。先とは一転してオースラスが不利となった。
場所を移した美猴とオースラスとは別、アギトと黒歌は変わらず同じ場で戦っていた。
「ふっ…!」
鋭い拳突。多くの“ はぐれ悪魔 ”を打ち砕いてきた拳、これまでと同じく目の前の
「にゃぁ…ん〜♪」
悪魔の社会……『冥界』から危険度
先から、オースラスと美猴が離れてアギトと黒歌が一対一になってからずっと黒歌はのらりくらりと掴みどころのない動きを続けていた。アギトの打撃は黒歌には当たらず、黒歌の攻撃は……いや、
「……」
互いにすぐに潰せる距離感。
初め、黒歌はアギトから術者かと思われていた。その考えは間違ってはいない、黒歌は近接戦のような泥臭い戦いを嫌っていた。只、逃亡者であった彼女は終わりのない刺客の襲撃から生き延びる為に様々な戦術を覚える必要があったのだ。
「にゃん」
「っ、……!」
黒歌の掌がアギトの身体に触れ、軽く撫でるだけに留まる。
アギトの振るった裏拳が空を切る。黒歌は接触を最低限に、ほんの僅かな一瞬のみに抑えて即時退散して徒手空拳の距離より離れる。
「チッ…」
クラッシャーの内側に舌打ちを溢し、今度はアギトから仕掛けた。
首を刈り取る上段蹴りを黒歌は姿勢を低くし滑り込むように潜り抜ける。空振りの蹴りを加速させての反転、黒歌へと振り向き……彼女の掌が頬を撫でる。優しく添えるだけの、男を誘う遊女のような手付き。そんな腕を掴む、戦士の腕とは到底思えない細腕をアギトの両手の指が噛みつく様に絡み、引く。黒歌の身体がアギトの力で引かれて姿勢が崩れたのを確認して右脚を僅かに振りかぶってから繰りだす。しかし、強く握っていた筈の彼女の腕がするりとアギトの指から抜けて回避行動に移る。
「っ!?」
瞬間、身体から力が抜けた。
「足元がお留守にゃん」
蹴りをやり過ごした黒歌は次に自身の脚でアギトの片足に絡めてから払った。黒歌にはアギトを転倒させられる力はない、かといって彼女には高度な武術を修めた経験もない。
ならば何故? ───そう、これこそが彼女の術だ。
『仙術』と呼ばれる
生命を持つ森羅万象が宿し、循環し、放出している『気』と呼ばれる力。オーラに近い力である気を扱う事こそが仙術の神髄である。自然から放出された気を摂取して己の糧にする。つまり他生物の生命力を得る事で不老に近い長寿を生きる者を仙人と呼ぶ。そして仙術は生命に関与する。高度な技術を持つ者なら他者の生命に触れる事すら可能だ。気の流れに触れて体調に影響させる、当然相手を不調にさせる事も出来るという事。
「──…ッ」
足から大地の感触が消え、全身を不確かな浮遊感が覆う。痺れとはまた異なる異様な脱力が広まり───全身を
「に、ぃぁッ!?」
両足揃えた、新体操の技のような蹴りが黒歌を捉え吹き飛ばす。コンクリートの地面を転がる黒色の着物に幾つも傷が付く。
「にゃ〜……あの状態から反撃してくるとかアンタって本当に人間? あ、いや
「……失礼だな、れっきとした純正の人間だ」
「ウッソにゃあ」
軽口を吐きながらも黒歌は強い焦りの感情を抱いていた。
(あんだけ“ 陰の気 ”を流してやっと気を乱せたと思ったのにどうやって動いたの? 無茶苦茶よ!!)
内心ではいつもの
黒歌にとって近接格闘戦は本命ではない。彼女が得意とするのは妖怪の妖術や悪魔の魔法に陰陽師の呪術、そして仙術。格闘戦は自身が最も活かせる戦術を一方的に叩き付けられるようにする為の布石なのだ。だがその仙術が通用しないとすれば、どうやって彼女の得意な
「……くっ」
仙術で身動きを封じてから様々な魔法攻撃という彼女の作戦が通じない現状で、勝つ為ではなく負けない為……つまりは死なない為には
(物量で圧し潰すしかない!!)
黒歌が勢いよく跳び上がる。アギトから距離を離しながら、自身の周囲に修得した術式を展開する。彼女の掌に光弾が作られ…放つ。砲丸程の大きさの魔術、妖術、呪術の三種の術で構築した魔法の光弾。当たれば肉体を破壊し、痛みは精神を蝕む。
「……」
防御する事が悪手となるように施したそれは容易く躱される。───そんな事は初めから想定済みだ。
黒歌の手から同様の光弾が連射される。マシンガンとまでは言わないがハンドガン程度の連射力で次々と撃ち出される光弾。一発の速度も決して遅くはない。
が、当たらない。
横へ走りながら避け続けるアギトを追って光弾を撃ち続ける黒歌の顔に苦悶の表情が浮かぶ。こうなる事がわかっていたから仙術で封じようとしたのだ。接触による気を乱す他に毒を含んだ魔霧を発生させる手もあったが人間用の毒がΑGITΩに効くか不明であり、そしてアギトのパワーなら霧を吹き飛ばしかねない。
このまま光弾を撃ち続けるようにも魔力等にも限りがある。アギトの体力が尽きるよりも黒歌の魔力が底をつくのが早いだろう。このままではジリ貧なのな明らかだった。
対してアギトも…津上 翔介も実は焦っていた。
黒歌の与えた仙術の影響がまだ身体に残っているのだ。今もこうして走り続けているが少しでも気を抜けば全身から力が抜けて転倒してしまいかねない。続ければ続ける程不利だと判断したのは黒歌だけではなく翔介も同様だった。
光弾から逃れるアギトは一本の木を裏を通過する。一瞬遅れて光弾が木の幹に直撃して爆散し、木片が派手に散る。
「──…あ!」
木の後方よりアギトが現れた様子はなかった、にも関わらずそこにアギトの姿はない。けれど黒歌は光弾を放つ腕を、標準する掌を横に流してしまった。結果として続く光弾は標的の居ない箇所に放たれる。
そして黒歌の目にはアギトの姿がはっきりと映っていた。防御壁代わりにした木が弾けた直後に跳躍、バラバラになった木の一部。中でも一際大きい木片を見定め───
つま先で掬い上げ、足の甲が木片に触れてから振り抜くといった足での投擲に近い蹴りを受けた木片が黒歌に急速に迫る。龍のような硬い鱗もなければ鍛え上げられた戦士の強靭な肉体もない、天然の鎧と呼べる身体を持たない黒歌がその身で受ければ下手すれば致命傷になりかねない。防御の術式を組む時間はない、黒歌は慌てて木片に向けて腕を振るう。掌に灯る光弾を半ば直接叩き付けるようにして間一髪迎撃に成功する。
「〜〜ッ…!」
光弾が内包していたエネルギーが爆ぜ、自身の腕を焼いた痛みに悶えながら、隙を晒してしまった事を速やかに察してアギトに目を向ける。
「え?」
彼女の予想外の事にアギトは向かって来ているなんて事はなかった。
アギトは爆散して株だけ残した木の近くに立ち、
「……?」
困惑する黒歌の頬を
嵐は、アギトの下腹部、ベルトのような
風を身を守る防御壁を展開して幾許かの余裕が生まれて漸く気付く、風だけではない。バックルの中心、青く染まった結晶体───【賢者の石】から青色の棒状のナニカが生えている。アギトはそのナニカを右腕で掴むと、一切の躊躇無く引き抜いた。そのまま右手に握る“ 其れ ”を前に翳す。そうすれば突如棒状の“ 其れ ”の柄が伸び、折り畳まれていた金色の刃が姿を現す。其れは、中国の大刀や薙刀のような刃を両側に展開する青と金の鉾槍。
嵐を呼び起こす双刃、銘をストームハルバード。
更にはアギトの姿にも変化が起きていた。いつまにかストームハルバードを握る右腕は一回り厚く、腕全体を、いや、腕から胸板に至るまでの装甲が青く染まり、全くの別の形に変異し丸みを帯びたショルダーブロッカーと先までと同じくアームドブロッカーには金が為されている。
これこそが津上 翔介という名のΑGITΩ、その第三の
【
駒王町の上空を雲に乗った美猴が翔ける。
自動車やバイクなんかとは比べものにならない速度を出す觔斗雲。其れにくらいつくのは地を駆けるアギトの猟犬オースラス・プロケッロースス。赤金の装甲を纏い野生の狩人の如き柔軟さと強靭さを両立させた四肢を使い四足の獣の様な超前傾姿勢でコンクリートの道路を駆けていたかと思えば次の瞬間には屋根や電柱の上に飛び移る。
「……?」
すると、突如として自分を追っていた猟犬の姿が消えた。美猴は周辺に目を向けて姿を探る事に気が向く。故にこの時、明確に觔斗雲の動きが減速した。
その次の瞬間!
「ヴァア゛ア゛ッ!」
どこから現れたのか姿を隠していた猟犬が仕掛けてきた。音を置き去りに空を裂いて飛来したオースラスの一撃、鋭利な五指を突き立てた掌撃は神珍鉄製の如意金箍棒により火花を散らしながらも凌がれた。
「──…っ、あっぶねぇぜぃ!」
如意棒でオースラスを押し退け、そのまま反撃に振るう。觔斗雲という足場がある美猴とは違い空中に身を投げ出された地上の猟犬、避けられる筈がない状況で迫る金箍が嵌められた棍に猟犬は蹴撃をぶつけて弾いた。
「ウ゛ウ゛ッ…!」
「へっ、棒よ伸びろぃ!!」
美猴の指示に応えるように如意棒が倍近い長さへ伸びた。不意を突くかの如く長短の変化した棒術を猟犬は獣の勘を働かせて初見で
驚愕しつつも追撃の手を弛める事なく美猴が如意棒を操る。伸縮を繰り返して長柄の長所であるリーチを発揮し、短所である振り回し難さを縮めて解消する。こうして繰り出されるのは妙技の棒術、幻術か妖術の類かと見間違う乱打。真っ当な戦士であれば搦手に近しい美猴の絶技によりめった打ちにされ
相手が獣でなければ。
獣に常識は通じない。
猟犬は迫る如意棒を次々と避け続ける。それも空中で、だ。
妙技には妙技で応える。否、猟犬のそれは本能から為される。決して技ではない。
飼い主であるアギトですら不可能な自然の法則を無視する神秘の業。1秒足らずの瞬間で七つの響音を奏でる。美猴の觔斗雲は停止した訳ではない、あくまで減速したに過ぎない。このまま美猴が通り過ぎ、今度こそ猟犬が地上へ落ちる。
最後の一撃を弾き猟犬の襲撃を凌ぎ切った、そう確信して美猴の気が弛む。初めはヒヤリとさせられたし、空を舞う様は感嘆を洩らしたが無事に難を逃れたのだ、仕切り直しといこう。
そこまで考え、そして
「ヴヴ……ッッ」
猟犬の執拗深さを見誤った。
「ゥヴア゛アア゛ッ!」
「ッッ!? しまっ──」
空を蹴り猟犬が跳んだ。
足元で爆裂した炎、爆発したかの様に燃えるのはΑGITΩの力の根源、
觔斗雲を突き破りオースラスの手が美猴の足首を掴んだ。中華風の赤銅の臑当を突き破って肉に食い込む猟犬の
地に落ちて砂塵が舞い、黄塵の中から美猴が飛び出る。
大きく後退する様に跳躍、如意棒を構えながら待ち受ける。
ザッ、と猟犬が美猴の降り立つ。だらりと垂らした両腕と前へ傾いた上半身、何故だか装甲に覆われてる筈のおっぱいがたゆんと揺れた。
すぐさま仕掛けてこないのは獲物の具合を確認しているからだ。オースラスは戦士でも兵士でもない、野生の狩人である。逃さず、休ませず、正確に確実に、弱らせてから一気に首元を喰い千切る。
其れは美猴が修行時代なんども相手にしてきた獣の狩りそのものだ。
「へっ、面白れぇ。どっちが狩られるか勝負だぜぃ!」
犬と猿。
犬猿の争いはまだ暫し続く。