仮面転生者ΑGITΩ 〜人類審査のオーヴァーロード〜   作:ただのファンだよ。

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オリ主side




吹き荒れろッ! その青嵐!!

 

 

 

 自分の手に目を向け、握ったり開いたりして具合を確かめる。

 うん、あの妙に力が抜ける感覚はない。

 

 仮面ライダーアギト───ΑGITΩ(アギト)の覚醒は魂を由来とする。変身するのにも魂を活性化させ、形態変化は()()()()()()()()()。細かな仕組みなどは知らない、それこそ奇跡や神の御技としか言えない。

 で、猫耳を生やした女は何かしらの術で魂に干渉し、俺の身体に不調を起こしていた。アギトの抵抗力を上回るのは素直に凄いと感心する。だけどそれもここまでだ。青のアギト───【超越精神の青(ストームフォーム)】は文字通り常識を逸脱した精神力を有する形態。同じ術は通用しない。

 

「さ、て…」

 

 初陣……という訳ではないが超越精神の青(ストームフォーム)に変身するのは久しぶりだ。以前変身した時は長物(ストームハルバード)や風の扱いに不慣れで返って不利になったからそれからは封印していたんだった。超越感覚の赤(フレイムフォーム)の時と違ってセンスに任せて戦えるなんて事はない。

 

「……父さんなら違ったんだろうけど」

 

 幸い、(いま)の俺なら不安で鈍るなんて事はない。

 だから形態変化(ちょうへんしん)の間に目の前で()()()()()()()()()()()()俺の心は一切揺るがない。

 

『『『ッッやああ!!』』』

 

 幾つもの声が重なりながら四方八方から青白い火が投げ放たれる。同時に、という事でもなく疎らに放たれた火球を冷静に……ストームハルバードの刃に風を巻かせてから纏めて切り祓う。

 

 ───…っ。

 

 どこかで息を呑むような(おと)がした。が、周りの猫耳女はどの顔も笑っている、少なくとも視界内の分身には本体はいないとみていい。

 本体はどこかに隠れているのか?

 疑っている合間にも(てき)の攻撃は続く。再び火球───だけでなく分身そのものも迫ってくる。手を伸ばす仕草から掴もうとしているのだと推測、またさっきの術を仕掛けようとしていると判断。恐らく…ではあるが通用しないが態々それを知らせる必要はない。このまま勘違いし続けてもらおう。

 向かってくる分身の身体にストームハルバードの矛先が刺し込み、そして滑り抜ける。刃が抜けた分身は全体が霧か湯気のように化して霧散する。

 

「……」

 

 次々と続く分身を刃で切り、飛来する火球を風で凪ぎながら思考を回す。分身を切る際に手応えというのがまるでない、空を切る感覚と完全に同じだ。

 三体の分身を一振りて薙ぎ、分身の背後から迫る火球群には片腕を差し向け、風を起こして軌道を逸らす。バラバラに、あらぬ方向へ飛び去る火球。

 その軌道上の一つから。

 

 ───きゃっ。

 

 ()()()()

 

「──…!」

 

 微かな声の方に向かって疾走。

 

 ───っ! しまっ

 

 慌てるような反応(こえ)に確信して鉾槍の柄を握る。風に背中を押させて加速、以前として姿は見えないが大体の居場所は掴んだ、後は逃げられないように即座に距離を詰めて大振りで薙ぎ払う!

 

「はああ!」

 

 空を滑り、大気を裂く刃は……

 

「なに…?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ───ザン、ッネン

 

 今度ははっきりと聴こえた女の声。

 声と同時に、隠されていた姿が露わになる。

 俺の予測は、()()()()()()()()()。間違っていたのは、()()()()()。範囲を広げる為に大振りしたのが、もしもの為に保険を掛けた、その影響でストームハルバードの刃が標的に当たるまでに猶予を与えてしまった。俺の放った鉾槍の刃は、上体を後方に倒した女の鼻先を通り過ぎて髪先を切る事しか出来なかった。

 

「シャアァァ!」

「ぐっ」

 

 倒れた姿勢からの女の蹴りを腹にくらう。さっきまでのと比べれば強いが、それでも重い一撃ではない。アーシアを助けた時の兵藤のパンチやグレモリー先輩と共に居る白髪の後輩の打撃の方が威力はある。

 

「ッッ、ぐ…ぁ…」

 

 だけどこの痛みは…っ、強化皮膚を突き抜けて腹の内側で爆ぜたような衝撃は…!? さっきまでのとは違う、薬を仕込んで蝕むようなものではなく爆薬を仕掛けて弾けさせたような、そんな衝撃。

 喉奥から苦悶の声が漏れ出る───としても止まる事はない!

 

「ぐ、ぁぁああ!」

「なにを…!?」

 

 超越精神は痛み程度じゃ止まらない!! 風を巻き起こす、激しく強く、それは俺と猫耳女を中心に直径5メートル程の小型竜巻となる。膨大で、精密な風の操作に頭痛がする、この姿(ストームフォーム)の精神力があってこそ持続させられる大業!

 

「これ…で、…づッ、逃げられ…ない!!」

「くっ…」

 

 腹に当たる足を引っ込め、同時に倒れたままの姿勢から身体を捻りながらの蹴り。側頭部を狙う蹴撃を腕を差し込んで防ぐ、蹴りの衝撃は軽いが直後に腕の筋肉がバラバラに弾けようとしているみたいな痛みが襲う。が、無視する。

 柄を握るだけで強い痛みが発せられる、筋肉痛を数倍酷くしたような感覚だが、片腕じゃ長物のストームハルバードを扱い切れない。精神力で我慢して振るう。小型竜巻(エリア)維持とは別にΑGITΩの力(オルタフォース)下腹部(バックル)の【賢者の石】から捻出、握り締めるストームハルバードに充填、一度空を裂いて滑る斬撃は、風の力場───真空刃として空間に置滞、俺の立つ場所を除いた小竜巻(エリア)内全域を真空刃で滅多斬りにした。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 竜巻が(ほど)ける。

 ガンガンと叩いていた頭痛が途端に潜め、吸った息が肺に流れる事にとても心地良く感じる。腕の痛みもオルタフォースを循環させた事で吹き飛んだ。

 竜巻と真空刃の疲労を除けば体調は万全に近い、というのに精神は穏やかではなかった。勿論、超越精神のおかげで動揺する……なんて事はないのだが。

 

「……っぅ」

 

 あの猫耳女が生きている、という事に酷く落胆した。着物は襤褸布同然で尚且つ傷だらけ、満身創痍ではあるが致命傷ではない。その事実に……自信を失いそうになる。

 

「……必殺、のつもりだったんだが」

「……っ」

 

 返事はない。

 防御に全身全霊を注ぎ込んだのか、起き上がる事どころか身動きすら碌に取れないといった様子で只、片目で俺を捉えている。反対の目が潰れたのではなく、単純に現在の体勢では片目でしか俺を見れないというだけだろう。呼吸は浅く、出血も酷い。このまま一晩放置しておくだけで死んでしまいそうだが。

 

「……敢えて苦しませるような悪趣味は持ち合わせていない」

 

 それと、仮に放置して……助かった場合報復されても困る。

 後顧の憂いは断つに限る。

 だから、

 

「トドメを刺してやる」

「……!」

 

 女の瞳が揺れた。

 逃げようとしているようだが、碌に動かない身体じゃ這う事すら出来ない。悪いとは思わない、恨むなら恨め。俺は、俺の為に(オマエ)を殺す。

 

「…っ……ぃ…ぁ……」

 

 ストームハルバードの穂先を女の眼前に突きつける。女だからといって躊躇はしない。恐怖で揺れる瞳と、逃げようとするも震える程度にしかならない仕草、洩れ出る言葉は無視して拾わない。慈悲とは言わないが、せめて一瞬で終わらせてやる。

 

 ストームハルバードの穂先を突き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させませんっよ!」

 

 それは可憐な少女の声だ。

 十代半ば程の成熟し切っていない鈴の音のような声と、黒歌にトドメを刺そうとするアギトに向けて尋常ではない数の魔法が仕掛けられた。

 

「……っ」

 

 声の主の姿を隠す程の多種多様、彩とりどりの光が満面の星空の如く夜天を充し、さながら流星群じみた一斉掃射。魔法による絨毯爆撃にアギトは回避を選択した。

 判断は即決、行動は直結。思考完了と同時にその場を退避、後方に向けて水平に強く跳躍。酷い時の雨の様に降り注ぐ魔法は広範囲を及び、このままでは黒歌をも巻き込む被害を起こすだろうと予感し───直後に驚愕に仮面の裏で目を見開いた。空から急降下してきた魔法が次々と弧を描きながら曲がったのだ。

 

「逃しませんよ、えい!」

 

 黒歌の頭上数メートル時点で完全に軌道が変換し終えてアギトに飛来する。夜の帷を切り裂く光の()、誘導魔法(マジック)ミサイルは跳躍の勢いを失ったアギトに瞬く間に追い付き──

 

「ふッ…!」

 

 ストームハルバードを地面に突き立てて位置を高めたアギトの下を通過した。

 

「うそ!?」

 

 逆立ち姿勢の為頭上を通り過ぎたも同然で頭部のクロスホーンの先端を掠めた魔法は標的を失ったまま虚空へ飛び去っていった。

 だが、それで終わりではない。

 難を逃れたのは第一波のみ、続く魔法は数えるも億劫になるくらいに続く。ストームハルバードから降り立ち、駆け出す。魔法がアギトの背を狙う。

 

「……っ、…ッ、………!」

 

 僅かな隙間を潜り抜け、紙一重の回避が続く。息を吸う……呼吸を挟む余地すらなく、立ち止まった暁には集中砲火をくらう。

 超越精神故の極限の集中の長期持続。だが精神のみではどうしようもない時もある。稼働し続ける肉体が限界を迎えつつあった。長く激しい無呼吸活動により酸素不足で肺が限界を激痛で訴えていた。

 

「……! ()ッづッ」

 

 ΑGITΩの肉体を持ってしても文字通り死ぬ程苦しい痛みを錬鉄の精神力のみで耐えては来たがついに……足が地面を踏み締める事なく滑った。

 

「ぐゥあアァぁッ!?!?」

 

 そして、そんなアギトを容赦のない魔法ミサイル着弾による魔力の爆波が襲う!

 悲鳴を掻き消す爆発音、着弾した魔法に込められた魔力が解き放たれてその場に留まる。

 さらに続く魔力ミサイルが残存魔力に向けて群がっていく。砂や土を盛り上げた山と同様に魔力が溜まっていく。

 

 爆撃は終わらない。

 さらに降り注ぐ。

 

 まだ終わらない。

 さらに降り注ぐ!

 

 まだ終わりそうにない。

 さらに降り注ぐ!!

 

 まだ終わりがこない。

 さらに降り注ぐ!!!

 

 まだ。さらに!

 まだ。さらに!!

 まだ。さらに!!!

 

 まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ。

 さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに! さらに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 

 

 

 魔法による爆撃は数分に及び、最後の一発が叩き込まれて膨大な魔力溜まりが圧縮、直後に解き放たれた。極光の柱、数百年は生きた大樹が如き極太の魔力光が天へ昇る。最果ての地にて現世と天界と冥界を繋ぐ神秘の塔であり錨、その投影とも取れる光景。

 

「はぁ…はぁ…うぅ、疲れました〜」

 

 ふらふら、と箒に跨った小柄な少女が降りてくる。

 少女の小柄な体躯に合っていない大きなとんがり帽子と全身を包み隠せそうなマント。どこかの学園の制服かと思われる様な衣服に身に付けた金髪の少女。

 ぺたんと地面に座り込んだ少女が深い息を吐く。大量の魔法の発動、行使に全ての体力を持っていかれたのだろう。

 

ルフェイ

「あ、黒歌さん。大丈夫でしたか? 一応被害が及ばないように細心の注意は払ったんですけど……?」

「……ええ、私は大丈夫…にゃん、でも……ルフェイってこんなこと出来たにゃん?」

 

 襤褸布同然の着物を手繰り寄せ、殆ど両腕で身を隠している黒歌。未だ立ち上がる事は出来ず身体中の傷や血の跡が痛々しいが、仙術にて治癒力を高めて止血し、命に別状はない程度にまでは回復していた。

 

「えへへ、裏ワザを使いました」

 

 彼女が───『ルフェイ』と呼ばれた少女が掌を広げて見せてくる。彼女の手の中には宝石……の成れの果ての石が数個転がっていた。

 

「それって…?」

「魔力を蓄えた宝石電池(ジュエルバッテリー)です」

 

 それらは本来なら美しく煌めく高純度の宝石に特別な加工を加えて魔力が込められた使い捨ての魔石*1だった。ルフェイの掌の上のそれは中でも最高品質だ。それら一つに一般的な悪魔の魔力、その凡そ100倍の魔力量が蓄えられていた。それが数個、溜め込んだ魔力を失い只の石も同然に成り果てていた。

 彼女があれ程の大魔法を扱えたのもこの宝石のお陰だ。だとしてもあれ程の魔法の数々を一人で行えるのだから彼女の才覚は計り知れないものがあった。

 

「それにしても派手にやった……にゃん」

「予め異界化の結界を張っていたので気付かれてはいないと思いますよ?」

「いやそういう事じゃなくて、ま、いい……ぁ、にゃん」

 

 黒歌が目を向けた先には魔力の残滓が未だ色濃く光を放っている爆心地。

 自身を追い込んだアギトを()()()大魔法、その痕跡を。

 

「ねぇルフェイ、よかったの?」

「え?」

「“ 捕まえろ ”って言われてた筈だけれど」

「はい。ですから()()()()()()()()!」

 

 年相応の笑顔を浮かべる少女の言葉に───黒歌は耳を疑った。

 

「──…え……?」

「あの魔法には従来の術式に模擬試験なんかで使うような特別な式を加えていて、()()()()()()()()()()()()()()

 

 黒歌の脳裏に浮かぶ疑問。

 それはルフェイの言う不殺の性質を持つ魔法の有無……なんかではなく。それをくらったアギトの状態だった。普通に考えれば気を失っているだろう。死なないといっても痛みは変わらずある、あの数の魔法を浴びるようにくらった以上は無事でいられる筈がない。

 

 だが黒歌の心象は穏やかではない。

 ΑGITΩの各形態の特徴について黒歌は詳しくはないが、仙術使い故か青い姿のアギトが精神の強度に秀でた形態である事を感覚的に理解していた。黒歌、そしてもしこの場に美猴も入れば黒歌同様に察知していただろう。ルフェイだけが、才能こそあれど未だ幼く経験の足りない彼女だけが察せずにいた。そしてΑGITΩ以前に変身者である彼自身が強靭な精神力を携えている事を魔法使いの少女(ルフェイ)は知らない。

 

 少女は───ルフェイ・ペンドラゴンは才ある魔法使いだ、()()()()()()()()()()()

 

 故に少女は自身の感覚で測ってしまっていた。あの大魔法の直撃を受けてまだ戦える筈がないと。

 

 ───残光が、魔力の燐光が纏めて吹き飛ばされる。

 

 黒歌は青褪めた顔で、ルフェイは理解出来ずに茫然と其れに目を向けた。

 

「   」

 

 刃こぼれの激しい両刃の鉾槍を片手に、口元のクラッシャーからぼどぼどと血反吐を溢し、四肢からは誤魔化し切れない震えを発し、立っていられるどころか意識を保っていられるのが不自然な程に傷付いた───それでも決して崩れる事なく二本の足で立っている覚醒者の姿。

 

 ΑGITΩ(アギト)再起動(リブート)

 

 おお…! 仰ぎ見よ!!

 これなるは霊長たる人間の進化種ΑGITΩ。その中でも宇宙の創造主に見初められし者の威容だ。

 

「──」

「……っ」

「あ、……あぅ…え…」

 

 持ち前のそれに加え、青のΑGITΩ(ストームフォーム)の特性により増大化した強固な精神力がそのまま殺意に変換されて二人に圧し掛かる。生体装甲と強化皮膚に覆われた肉体から醸し出される威に気圧された。

 鳥肌が立って、総毛立つ。未だ嘗て感じたことのない戦慄……いいや。畏怖を覚え、逃げろと大警鐘を鳴らす本能に反して足がすくんで動かない。

 ルフェイは完全に腰が抜けて……失禁していた。がちがちと歯を鳴らして恐怖に歪めた表情を浮かべていた。

 

「──…はぁぁっ!!

 

 突如鉾槍を両手で握り、距離が離れているのにも関わらずその場で回し始めた。アギトの行動を疑う? ───そのような余裕がある筈もなく、同時に無意味な行動に起こす訳もない。間違いない、これは自分達を殺す為の行為であると。

 そしてアギトの行動の意味をすぐさま知る事となる。風を操る力、それは変異した片腕と、握って繋がったストームハルバードに備わった能力。

 

「くっ」

「うぅ…っ」

 

 吹き荒れる青嵐。

 横向きの竜巻となった風が顎門を広げて呪い師と魔法使いの女二人を呑み込み、体幹を崩し、外から圧す。暴風の檻に捕らわれ脱出どころかまともな身動きすら出来ない様を確認してから、流れるような動作で回転から溜めに姿勢を変えた。

 

「……ッッ」

 

 ストームハルバードの穂に風が集う。

 周りから芳流を吸い上げ、巻き取り、渦を描いて重積される烈風。風で刃が形成された其れはまるで大剣の如し。アギトの全長を超えてまだ余りある刀身の(けん)の柄を両手で強く握り締め、大きく振り被る。全身より夥しい剣気が放たれ、獲物を咥えた竜巻の龍がアギトへ向かう。

 

「───ッはあああ!」

 

 解き放たれるは“ 超越精神 ”の青いアギト(ストームフォーム)の必殺技!

 

【 ハ ル バ ー ド ス ピ

 

 

 

 

 

 

 

 

「──…ぅ…───がッ───!?

 

 瞬間、()()()()()

 ストームハルバードの風の刀身は勿論、黒歌とルフェイを捕らえて放さなかった竜巻も。アギトの支配権が及んだ全ての風がその場で解けて霧散した。空中にて投げ出されて地面を転がる二人の女術者にも何が起きたのか理解出来ずにいる。

 からん、と地面を叩く音がした。

 

「ーー」

 

 アギトの手からストームハルバードが落ちた音だった。「あっ」とか「うっ」とか呻く声を洩らし、前に後ろに暫くふらつき、果てに前方へ倒れ……───

 

『───がう!!』

 

 ───刹那、飛び込むように現れたオースラスに抱き止められた。

 

「な、なにが……?」

「わか、りま…せん」

 

 項垂れたアギトを背負って威嚇するオースラスに困惑する黒歌とルフェイの二人。

 

「おいおい、これはどういう状況だぜぃ? なんて姿してんだい黒歌……ってルフェイまでいるじゃねぇか!?」

「美猴」

「…び、こう…さん…?」

 

 オースラスより数秒程遅れて駆け付けた美猴に目を向ける。赤銅の鎧はもはや右肩の肩当てを残して全損、裸体を晒す上半身には無数の爪痕や咬み痕のような傷が無数に刻まれていた。顔面には右目を中心に腫れあがった青痣という化粧がされていた。

 

「あの犬っころ、戦ってる途中にいきなり足を止めたと思ったらすっ飛んでいきやがってよ。追いかけたら此処に着いたんだが…」

 

 美猴の言葉通りオースラスは戦闘中に突如あらぬ方向に顔を向け、その直後に慌てた様子で駆け出したのだ。そしてそれはアギトがルフェイの大魔法の直撃を受けた時と同時。オースラスは飼い主(アギト)の危機を機敏に感じ取り、救出する為に美猴の相手を中断して急行した。

 オースラスは背負ったアギト……翔介の意識が途切れかけているのを供給されるオルタフォースの減少から察知する。その証拠にΑGITΩの変身が解けかけており、ノイズ或いはモザイクのように部分的に元の人の姿に戻りつつあった。

 翔介が完全に意識を失えばオースラスも現在の姿を維持出来ずに仔犬同然の姿に変わってしまう。そうなればお終いだ。だったら選択肢は一つしかない。

 

 ───撤退だ。

 

「ワウッ!」

 

 ヒト型の戦闘形態(ファイティングフォルム)よりケモノ型の歩行形態(ハンティングフォルム)に瞬間変形───からのスタートダッシュ。美猴や黒歌、腰を抜かしたルフェイの意表を突いての全力疾走。最高速度はバイク型の駆動形態(ライディングフォルム)よりは劣るが山路や森林地帯等では機動力を発揮する姿を取り、森に紛れるようにして逃走する。

 

「あ、おい!?」

「………逃げられたわね。ま、こっちもルフェイを置いてはいけないし丁度良いじゃない?」

「……ちぇ」

「す、すみません」

 

 如意棒を担いで面白くないといった表情をありありと浮かべる美猴に申し訳なさそうに俯くルフェイ。

 

「ド阿呆」

「イッてぇ!? なにしやがる黒歌!」

「あのバカ猿は放って帰るにゃん、肩貸してくれないルフェイ」

「え? …あ、あの、その…」

「うん?」

 

 黒歌からのゲンコツ……と呼べる程の力は出せないので仙術にて気を弾けさせた制裁にギャーギャーと騒ぎ立てる美猴を無視してルフェイに呼び掛ける。が、ルフェイはもじもじと身悶えはするものの立ち上がる様子は見れず、頬を赤く染めたまま恐る恐るといった感じで告げた。

 

「あ、足に力が入らなくて……、そ、それと……その……うぅっ」

 

 地面に座り込んだままスカートをきゅっと握り、その姿と言い辛そうにする態度から黒歌は一つ、思い出した事があった。

 あ、あーあ! そういえばこの子さっき……

 

「そ、そうね。あんなヤツ相手にしたんだからそりゃ立てなくてもしょうがな」

「ん? どうした……ってこの匂いは」

「ちょ、美猴…!」

 

 同じ女性として気を使った黒歌が止める間もなく、

 

「なんだルフェイ! お前漏らしたのか」

 

 美猴(バカ)が言い放ってしまった。

 

「シャーッ!」

「ギャアァァ!?」

「ううう……ッ」

 

 怒りの形相で女の矜持ともいうべき活力が黒歌に力を与えて美猴の顔を引っ掻く、顔面に五本の筋を付けられた美猴が倒れて悶え、耳含めて顔全体を赤く染めたルフェイが羞恥のあまりに顔を隠す。

 

「デリカシーの無いクソ猿ぅ!!」

「何しやがんだ! このビッチが!?」

「もう、お嫁にいけません……」

 

 

*1
ゲブロンではない




津上 翔介
ストームフォーム初披露でまさかの黒星になった系オリ主。
3人に勝てるわけないだろ!?
決め手になったのは魔法による物量攻め。超越肉体(グランドフォーム)なら魔法の雨に晒されても耐え切った、だが継戦出来る余裕はなかった。超越感覚(フレイムフォーム)なら事前に察知して対処に動けた、が対処し切れたかは別問題だ。実際、超越精神(フレイムフォーム)だからこそ困惑や驚愕を押し除けて第一波の回避動作に移れたし、ダメージを受けようとも無視して動けた。
敗因は一つ、相手が悪かった。

美猴
襲撃者その1。
目的の人物そっちのけで猟犬オースラスと遊んでた。実はコイツがオースラスをアギトから離してなかったらオリ主を抱き抱えたまま魔法避け切ってたり範囲外に逃げられたりしたので影のMVPだったりする。まぁ、その後いたいけな魔女っ娘に大恥かかせたのでプラマイZERO、寧ろマイナスONE。よって顔面引っ掻きの刑に処された。

黒歌
襲撃者その2。
ルフェイ来なかったら死んでた(無慈悲)
一切躊躇なく女堕天使(レイナーレ)に飛び蹴りかまして爆散させる男に美女だからって敵見逃したりとかないて。
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