仮面転生者ΑGITΩ 〜人類審査のオーヴァーロード〜 作:ただのファンだよ。
───アーシアと出会ってから数日後。
あれから毎晩アーシアから電話が掛かってくる事があった為、関係自体は繋がっているが出逢いには恵まれなかった。
あれからアーシアは翔介の他にも親切にしてくれる人物と出会ったらしく、嬉しそうにその人の事を話す声音は明るく、今の所だが
(あのレイナーレという女。絶対に何か企んでいる筈だ。それにアーシアが強く関わっている事は確実)
翔介とアーシアの前に現れたレイナーレが二人に向けた目。それは冷やかで、およそ同じ人間に向けるモノでは無かった。にも関わらずレイナーレはアーシアの身を案じていた。つまりレイナーレにとってアーシアに危険が及ぶ事は都合が悪いという事。ならば目的はアーシアのナニカ。当然人柄なんかではないだろう。それならもっと友好的な筈だ。
考えるが答えは出ない。こんな時、導き、助言する事はあっても答えを示す事はないテオスの
ふとその時だ。教会にいる筈のアーシアの気配が大きく移動している事、そしてアーシアを複数の気配が追っている事を感じ取った。その中にはあのレイナーレという女の気配も在った。翔介は慌てて家を飛び出し、姉のバイクに跨り走り出した。
「……ッ! 変身ッ」
気配を追って町を駆け、目的のアーシア、───それと拳銃を持った白髪の男を見つけ、翔介はすぐさまオルタリングを顕現させて変身した。
オルタリングに嵌め込まれた【賢者の石】が眩い閃光を放ち、翔介とバイクを光で呑み込み翔介の姿を覚醒者アギトに、そして跨っているバイクもアギトと同じ様に赤と金の鉄馬【マシントルネイダー】へと存在を換えた。
『い、イヤ……ケホッ、こ、来ないでください…っ』
「アーシアちゃんたらバカだなぁ。本気で逃げられると思ってんnドヒャァ!?」
『キャァ! ……え』
アギトは息を乱して倒れるアーシアにイヤらしい笑みを浮かべる前を開いた神父服を着た白髪の男にマシントルネイダーに乗ったままエンジン音を吹かして白髪の男に飛び掛かる。白髪の男は突然の襲撃に素っ頓狂な悲鳴を上げて飛び退く。そして頭から地面へと落下して俯けに倒れる。
「あ゛あ゛ァ!? 誰だよいきなり俺ちゃんの事轢き殺そうしたヤツはァアァ!!! 交通法守ろうネェ!! 天に座します神を信じ、敬い、命令に従う敬虔な神父『フリード・セルゼン』様に対する無礼、ユ゛ル゛せ゛ん゛!! ブッチKILLってやるゾッ!!」
「……」
「アア、あ、ァァア? ……ウソ、え…マジ? オイオイ、オイオイオイ!!」
『あ、…ぁぁ……そんなッ』
アギトの姿を視線に写したフリードと名乗った白髪の男と、背後のアーシアから信じられない者───
それは翔介にとっては覚悟していた対応であるし、慣れている反応でもある。
「な、何で! ッッ何でアギトが此処に居んだよぉぉお!!!」
フリードの叫びが森林内に木霊する。狂気を含んだフリードの心が大きく動揺する。翔介は知り得ないがこのフリード・セルゼンは凶人である。神を信じる教会勢力の先鋭として育てられた。だが、戦士として悪魔や其れに縁のある背徳者を討伐する日々で血に浸り、酔い、狂ったのか。──或いは元より狂気の側面を有していたのか──兎も角、彼は同じく教会に属する者からも異端者と判断され追放された人でなしだ。今では自身の愉悦を満たす為だけに悪魔を執拗以上に八つ裂きにし、気に入った女性が居れば立場年齢身分問わずに力で屈服させ身勝手にも己の精を叩き付けた。老若男女、人間も悪魔も関係無く──果てには嘗て自身の上位者たる天使にさえも──他者に悪意を振るい続けた。
「……っ」
アギトはそんなフリードの性質を気配から見抜き、その悪意がアーシアに降り掛かる事を畏れる。嘗て討ち滅ぼしてきた“ ヒトならざる者共 ”と同じ様に、けれど初めて純粋な人類を殺す事を決意する。仮面に隠れた双瞳に迷いや躊躇も無く、鉛色の決意と漆黒の殺意だけが存在していた。。既に己の手で命を奪う事に何の躊躇いも孕まない“ 完成された戦士 ”の精神性が映されていた。
アーシアを守る様に位置取り
「……!」
「ちょちょぢょ!? やっぱりキますよねぇぇえええ!?!?」
アギトは早々と決着を付けるべくフリードと距離を詰め、先手で仕留めるべく頭部を撃ち抜く拳撃を放つ。
「アアアアアアッ!!! ゆるじでぇッ!? あぶっ!! 当たったら死んじゃうだろうがよ!!」
「……ッ!…!!」
拳を某悪魔憑きの少女の如きイナバウアーで避けられ、ならば足を潰そうと刈り取る下段蹴りを繰り出せば、両手で自身を支えたフリードが両足を地面から離して
「ちゅ〜……ッ! ワアァァ!!」
「……チッ」
逆立ち状態から腕に力を込めて跳び上がり、アギトの蹴りは空を穿つ。突拍子な行動ばかりで調子の狂い思わず舌打ちを溢す。
空中に浮かび上がったフリードが新体操選手もびっくりなアクロバティックな動きで身を捻って懐から取り出したやけに銃身が短く銃口が大きい拳銃を取り出し、地面に着地した直後にポーズを決めて拳銃の引き鉄を引いた。
「ヘェェルプぅぅ…… ミィィィッ!!」
ボシュ! と音を立てて天空に駆け上がる赤弾。直後、閃光と音がありありと主張する。
───
「……っ」
「ふっふっふっ」
信号弾に気を取られて空を見上げているアギトを前にニィ…、笑ったフリードが次に取った行動は、
「───すぅぅったこらさっさだゼェェッッ!!!」
「!? …くっ」
全力疾走による逃走であった。無駄に綺麗なフォームで、無駄に優れた身体能力を活用し、無駄のない走りから繰り出されるスピードを発揮してアギトから逃げる。アギトは逃げ出したフリードをアーシアを放って追う訳にもいかずに取り逃してしまう。
「……」
「『ひっ』」
完全に視界から消え、気配もどんどん離れていくフリードを諦めて背後に居るアーシアへ振り返る。けれど、アーシアからの反応は『怯え』や『拒絶』。アギトが一歩踏み出すだけでアーシアは両の瞳を潤わせ目尻に涙を溜めてアギトから距離を離そうと腰を付いたまま後退る。
「………」
『……ぅぅ…っ』
自身に怯え、震えているアーシアにアギトは困り果てた。助けた筈のアーシアの反応───ではなく次に取る行動に、だ。
怯えるアーシアに正体を晒すか? ───ダメだ。津上 翔介が
フリードは去った、この場を離れるか? ───ありえない。あの男はアーシアを追う為に遣わされた刺客にすぎない。それに先程信号弾を放った。すぐに奴の仲間、レイナーレの様な人外が来る。
「……」
決めた。
(…アーシア。今すぐに此処を離れないといけないんだ、怖いだろうけど我慢してくれ)
『い、いや! 来ないでください!!』
アギトは───翔介はアーシアを連れて此処から離れる事にした。マシントルネイダーの最高速度は凡そ時速450キロ。いかに翼を有する
後退るアーシアに向かって足を進めるアギト。腰が抜けているのか立ち上がる事なく這う様な速度しか出ない。
アギトが距離を詰めてアーシアに手を伸ばす。目前に迫る掌にアーシアは等々目を瞑って胸の前で両手を握り祈りの声を洩らす。
『助けて、ショースケさん』
「………ッ」
彼女が助けを求めたのは信仰する主でなく、大切な約束を契ってくれた初めての友達である“ 津上 翔介 ”だった、
アーシアの言葉についアギトの手が止まる。そして、そのアギトの動きが止まり、明確な隙が生まれた瞬間を闇夜の帷に潜んだ黒翼の者達が牙を剥いた。
「……がっ!?」
『……え?』
アギトの身体に火花が生じる。ぐらりと崩れるアギトに追撃が与えられ、その身体が転がった。
「……つッ」
「ほう。流石に丈夫だな」
現れたのは黒衣の男だった。背中の翼と似た黒に近い紺色のコートで身を覆い、コートと同じ色合いの中折れ帽子を被っている紳士然として振舞う
「“ ドーナシーク ”の
「なんだと…!」
「油断するな。個体差があるとはいえアギトは“ 神を越える ”と言われているんだぞ」
「……ふん」
「ちぇ〜」
ドーナシークと呼ばれた男の堕天使より遅れて二人。
金色の髪をツインテールに結んだ青い吊り目のゴスロリ風ドレスの少女。そして、抜群のプロポーションに胸元を大きく晒したボディコンスーツを素肌の上に着た氷の様に冷たい表情に藍色の長髪を靡かせる痴美女。
二人共、ドーナシークと同じ様に背中から黒い翼を広げて飛んでいる。
「……ちっ」
自分がもたもたしていた所為で現れた堕天使。それも三人。しかもその中にあのレイナーレという女は居なかった。つまりアーシアを狙う堕天使は最低でも四人存在しているという事実に舌打ち、身構える。
実力的にはそれ程高くはない、少しばかり時間が掛かるかもしれないが蹴散らせる程度の脅威だ。それに、どうやら
「───ドーナシーク、“ ミッテルト ”、“ カラワーナ ”」
黒い長髪に自身の体付きをこれでもかと晒したボンテージ姿の堕天使が苛立ちを隠す事なく表情に影響させた形相で現れた。
───レイナーレだ。
「「「レイナーレ様」」」
ドーナシーク、ミッテルト*1、カラワーナ*2の三人が其々似た事なる対応をレイナーレに示す。だが、そのどれもが目上の者に対する敬う姿勢をとっている。
(アイツがボスか)
状況から判断した翔介は今回の相談の首謀者に複眼越しに睨み付ける。レイナーレもそれに気付いたのかアギトに目を向けるとより一層忌々しいモノを見る嫌悪の目付きを向ける。
「【ΑGITΩ】…。噂には聞いてたけどホン…ットウに穢らわしいわね。悪魔でもないのにこれほどまでに嫌悪感を抱いた人間は初めてよ」
「………それは光栄だな」
「……貴方、話せたの」
「【人間】なんだから当たり前だろう。なんだ?
「……ッ! キサマぁ…!」
アギトの挑発はレイナーレを意図も容易く蝕み、怒りの沸点へと到達させた。嫌悪の表情に憤怒を足して本来美しいであろう貌を激情に歪めさせ鬼女の形相へ変えた。
そしてそれは他の三人の堕天使も同じであった。ドーナシークは紳士然とした振舞いを忘れて犬歯を剥き出しにし歯軋りをして、ミッテルトとは幼く可憐な少女の様な姿形からは信じられない程に怒気を振り撒き、カラワーナは目を異様に見開き今にも射殺してしまいそうな眼光を放ち下唇を噛む。
“ 怒髪天を突く ”とは正にこの事を云うのだろう。それ程までに翔介の言葉は彼女らにとって禁句であったのだ。偉大な神により造形された我等の肉体。神が造った身体には一切のミスもなく全てにおいて人類種を越えた肉体美を有する我等を、我等より後に造られ、我等よりも手を抜かれた───片手間の暇潰しで生み出された不出来な存在である人間を“ 真似た ”などと…!! 絶対の神が創り賜う上位者たる
この上ない侮辱! あってはならない冒涜!!
嗚呼、嘗て。ほんの20年前に白き翼の天使達が地上に現れし
───これは殺さねばならない、粛清など物足りない。天地冥、遍く地獄を味合わせてから魂そのものを焼却せねばならない。
「ドーナシークぅ! ミッテルトぉ! カラワーナぁ! アギトを殺すわよ!! 今ッ!!! 此処でぇッ!!!!」
「「「ハッ/了解っす/はい!!!!」」」
「……!」
堕ちた光で槍を象りアギトに襲い掛かる。迫り来る四人の堕天使にアギトも再び黙り迎え撃った。
『……うっ…はぁ……ッ』
場所は変わりアーシア・アルジェントの元へ。
腰が抜けて力の入らなかった脚にもまだ少しフラつくが立ち上がれるまでに回復したアーシアは森林の樹木に身を隠しながらもアギトが消えていた方角に足を進めていた。
恐る恐る、木陰から木陰に身を移しながらアギトを畏れる心身とは真逆にその足はアギトの元へ進んでいた。
(何故……私は……?)
アーシアにも自分が何故此方に歩んでいるのか理解していなかった。本能的と云うべきか、無意識にと言うべきか。行かなくてはならないという彼女の根源───魂から強い衝動に突き動かされている。
彼女の心は知っているのかもしれない、彼女の魂は識っていたのかもしれない、彼女の命が“ 『彼』しか居ない ”と叫んだのかもしれない。この町で、彼女の祈りに、助けを求める声に、生きたいと云う生命の想いに応えてくれるのは聖女が信じ続けてきた主ではなく、魔女だと畏れた教会の同じ信者でもなく、アーシア・アルジェントを友達として受け入れてくれた『
音がする。激しい戦闘の音色だ。殺伐が奏でる戟の譜だ。破壊に次ぐ破壊、何の生産性もない相手を
ふと、アーシアのすぐ真横を流れ
悲鳴を上げて衝撃に倒れ伏す。癒す力しか持たず戦う術の無いか弱き少女に堪えられる筈もなく頬や衣服を土で汚し、拭う事なく空を見上げる。
「死ね! 死ねシね死ネェーッッ!!?!」
光の槍を両手に握り交互に投げる
地上より翔ける一条の閃光。レーザービームを連想させる赤い線はミッテルトの目に捉えられる事なく片翼を貫いた。ミッテルトの投げた光槍を掴み取り、逆に投げ返したのだ。
「■■■■■■っっ!!?!?」
言葉に成らない悲鳴を叫びミッテルトの小さな体躯が地上に墜落する。
落下した衝撃よりも翼を貫いた痛みに悶え視線を揺らし過呼吸になる。幸い翼を断たれた訳ではなくあくまで一部を抉る様に貫いただけで済んでいる為、治療さえ施せば再び空を飛ぶ事が出来るであろうが、今この時に限っては彼女は戦力にはならない。
堕天使ミッテルト、戦闘不能。
(───まずは一人)
複数の敵を相手取る場合、一人ずつ確実に無力化し、更に逃げる“ 脚 ”を奪う。トドメは全員無力化してから纏めて刺せばいい。
「おのれぇ!!」
「ミッテルトをよくも…ッ!」
ミッテルトを墜された事で激昂したドーナシークとカラワーナの二人が光槍を擲つのではなく、その手で握り突き立てる。獰猛な猟犬の牙の如く、畜生の命を刈る狩人の様に。
ただし、
───ガギィンッ!!
「なっ!?」
「バカなッ!!」
今この時をもって彼らは狩人から獲物へと堕ちる。
アギトは自身に迫る凶光の穂先を手の甲で叩き、隣に並ぶ仲間の槍にぶつけさせた。破壊のエネルギーを化した光同士の接触、それは互いの
「……ふッ!」
「がはァ!?」
「……はッ!」
「ぐぼぉ!?」
「……」
「くっ」
拳撃の衝撃で気を失ったドーナシークに覆い被られるカラワーナ。そして翼に損傷を受けて身動きが取れないミッテルト。アギトは最後に残ったレイナーレへと振り返る。赤い複眼越しの視線に射抜かれレイナーレの身体がゾクリと震え、一歩足を退がる。
(まさか、アギトがここまで強いだなんて。……ッ!? あそこに居るのは!!)
そして気付いた。───木陰から此方を覗くアーシア・アルジェントの姿を。
(きた、きた! きたキタ来たぁ!! チャンス、これはチャンスよ。チャンスが此処で訪れた!!)
レイナーレが勝利の道筋を、絶望の中で一欠片の希望を見つけ出した。
そして、その希望を掴み取る為の一手を打った。
「ハァァッ!!」
全力を込めて作り出した光の大槍をアギトに向けて擲つ。
「……」
デカく、速度もある。だがそれでもアギトからすれば遅く、尚、標準も甘い。
(これなら、簡単に躱せ──)
る)、とまで思い掛けた瞬間、光大槍が爆ぜた。閃光と熱と衝撃に晒されアギトの身体が転がる。
「がっ……!?」
一瞬、痛みに悶えるも戦士として一流を超えた超一流の翔介が跳び起きレイナーレの姿を探す。
「アハハハハッ!! 残念だったわねアギト!」
「!?」
空から降り掛かる声に見上げれば、レイナーレが気を失ったアーシアを抱えて飛翔している。
「……アー、シア…!」
「惜しいけれど、今の私達にはアンタを殺せない。なら先に目的を果たし、その後こそアンタの最後よ」
「……目的」
「ええ、そうよ。私の計画、折角だから教えてあげるわ。この子の
恍惚の表情を夜天に向ける。彼女の瞳には昏い空を通じて彼女が至高と評する者達の翼を連想しているのだろう。
「その為にもアンタには死んでもらう。治癒の能力さえ得られればアンタなんか怖くないわ。いくらアンタの実力が私を上回ろうと私は自分の受けた傷を回復出来る。そして私はあの方々にアギトの頸を献げる。きっと褒めて貰えるわ、もしかしたら伴侶になる事だって夢ではないかも」
「……人の力を奪って、その力で受け入れてもらう? 身勝手な事を言うな。そのチカラはアーシアの優しい想いそのものだ。お前なんかがどうにかしていいモノじゃない」
「───あぁ、そういう事、合点がいったわ。アンタ、“ あの時 ”の人間ね?」
「……っ」
アギトの───翔介の言葉にレイナーレはアギトの正体に辿り着く。
アーシアがこの町に来た時に共にいた人間の男。自分に生意気な口を効いた小僧。
「く、くく…ッ、アハハハハ!! 成る程ねぇ…! アンタ、アーシアに惚れたのね!! だからこうしてこの子の危機に現れた。まるで使い古された物語のヒーローみたいに……ぷふっ、でも残念! この子は教会で育った敬虔な信徒。それに対してアンタは神に仇なす背徳者、天が忌むべき存在。イダイなアルジサマが悪魔よりも嫌う“ ヒトデナシ ”。シスターがアギトと恋だなんて天使と悪魔の恋よりも禁断の行為よ。それとも何ぃ? 力づくでこの子を組み伏せて虜にでもする気だった……だったら
「………」
「アハハ…は……は、は……何よ、違うの?」
けれどアギトから返ってくる反応には何ら変化は無かった。先程と同じ様に唯々赤い複眼でレイナーレを見据えている。
「……ふん、つまらないわね。もういいわ、首を洗って待ってなさい。この子の
「───逃すと思ってるのか…!」
クロスホーン、展開!!
アギトの真の力が解放され、身体能力が底上げされる。それに応じてアギトから凄まじい威圧感が振る舞われる。
(嘘っ!? まだこんな力を隠して!?)
びりびりと全身を打ち付ける様な波動にレイナーレは翼を広げて即座に逃げ出そうするも、
「『う…ッ、うぅ…』」
「アーシア!? づッ、こんな時に…!!」
レイナーレに抱えられたアーシアが目を覚ます。レイナーレが長々と話していた事で彼女の眠りが薄れ、そこにアギトの波動を浴びた事で彼女の意識が半強制的に目覚めさせられたのだ。
「ッッ…アーシアッ! 手を伸ばせ!!」
「『ショースケ……さん……?』」
「っ!?」
アギトが大声でアーシアへと呼び掛ける。正体がバレる可能性があるというのに。アーシアもまだ意識が覚醒しきっておらず半ば無意識のまま“ 翔介の声 ”に手を伸ばした。
アギトの脚にぐっ、と力が込められる。クロスホーンの解放により力強さを増した脚力を全力で発揮して
レイナーレの反応を振り切る速度を出し、アーシアに向けて、アギトとしてではなく、彼女の友人である“ 津上 翔介 ”として手を伸ばす。
「『ゥ……ぁ?』」
───たが、翔介の手が届く事はなかった。
『え? ───ヒッ!?』
「なっ!?」
次第に意識が鮮明化し、翔介ではないアギトの姿が目に入る。瞬間、アーシアの理性──“ 教え ”として刻み込まれた恐怖──が助けを求める本能を覆し、伸ばした手を引かせた。
翔介の手が空を切り、レイナーレの様な翼等の飛行手段を持たないアギトは重量という理に引き寄せられ落下する。
「……はは、ははハ! 何よ、驚かせてくれたけど無駄だったみたい!」
地に落ちるアギトを嘲笑いレイナーレは翼を
「……ッッ!」
今、飛び立つ。
その寸前で、
「うおおああっ!!」
「!?」
横から雄叫びをあげながらアギトの飛び掛かるドーナシーク。ガツンとアギトにぶつかり、腰に両腕を回してごろごろ、と組み付き転がる。
「…! 邪魔だ!」
「げぶっ」
「ハアァァァ!」
転がりながらもドーナシークの組み付きを振り解き、マウントポジションから顔面に一発。即刻レイナーレを逃さぬ為に空を見上げようとして光槍を握り締めたカラワーナが裂帛の叫びと共に向かってくる。
突き出される
「ッッ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っッ!!?」
潰された箇所のみにならず槍全体が淡い光の粒子と散り、無手となったカラワーナが喉が引き裂かんばかりに叫んでアギトに己の肢体を擲って拘束に掛かる。衣服が破けた上で更に無理な動きをした所為で晒された豊満な胸を押し付け、艶やかな肌に似合わない痣や傷を刻んだ脚を絡み付かせる。
「ぐっ、オオオオオオ!?!?」
カラワーナの拘束に、アギトの下で倒れていたドーナシークも続く。殴られ赤く腫れた頬と歯の欠けた口腔を噛み締め両脚を抱える様に掴み、意地でも放すものかと残った力を込める。
「レイナーレ様ぁぁ!! 今のうちに! 早くぅぅ…ッ!!!!」
「! よくやったわ貴方達!」
「ッ、待て! …くっ、このっ……離せ…ッ!!」
ドーナシークの叫びにレイナーレは飛び去ってゆく。二人の堕天使の決死の拘束が功を奏してレイナーレは瞬く間に見えない程遠くへ───奴等の根城である教会の方角へ飛び去って行く。
「……っぅ! 邪魔だァァ!!」
「ああっ!?」
「ぐわぁ!?!」
二人の拘束を跳ね退けて、カラワーナは投げ飛ばし、ドーナシークは腹部を踏みつける。
強く握り締めた拳が行き場のない激情に震えている。
「ぐ、ぐぅ…っ、死ィねぇぇ!」
右足の下のドーナシークがアギトの足を掴んで力を込めるが微動だにせず、ならばと残った
「ッ!! はあぁ!!」
逆転を狙った光槍はアギトの頭を貫く事なく空を切り、末には維持出来ずに夜の闇に解けて消えた。アギトは頬に光槍が掠めた傷を付けながら、左腕を振りかぶり足下のドーナシークへ向けて打ち下ろす。
(──レイナーレ様、どうか…!)
ドーナシークの視界がアギト。そしてアギトの拳で埋まり、逃れられない死を感じながら自身の上に立つレイナーレの成功を、勝利を祈り嗤う。確かな恐怖を含んだ歪んだ笑みをアギトの拳は粉砕した。コンクリートの地面に深く広い罅を刻み、その罅を血が辿る。
鮮血にて紅く染まった右手、べっとりと張り付く生々しい感触。命を奪う行為───“ 殺す ”という感覚はいつになっても慣れない、
いつも聴こえる
「ど、ドーナシーク……! くっ!」
僅かに感傷に浸るアギトと頭を失くしたドーナシーク。カラワーナはそんな光景に、たった今喪った仲間に背を向け、気絶したミッテルトを抱えて飛び立つ。
カラワーナの逃避に遅れて気付いたアギトが顔を向ける。今ならまだ間に合う。追って捕まえ仕留める事が出来る。
「………」
だが見逃した。
カラワーナやミッテルト如きでは敵じゃないのも有るが、二人が逃げた方角がレイナーレが逃げた教会とは別だったからだ。時間を無駄には出来ない。自分には
「アーシア。……今行くぞ」
一万文字越えは長ぇって!?