仮面転生者ΑGITΩ 〜人類審査のオーヴァーロード〜 作:ただのファンだよ。
バイクが駆動する音がする。
エンジン音が吼えて、地面を駆る姿は名馬の様で。
『……本当に彼女を救う気、ですか?』
バイクを走らせている途中、頭の中で声がする。今の今まで沈黙していたテオスが問い掛けてきた。
(はい)
文句の一つも言いたい気持ちはあるが呑み込み、翔介はテオスの問いに答える。
『彼女は貴方の手を拒みました』
(…そうですね)
『
(はい)
『………』
翔介の想いは強く、テオスは再び沈黙する。
それも僅かな時だけだが。
『何故?」
(アーシアが友達だからですよ)
『その為に避けられる争いに身を投じるのですか…』
(……)
『翔一、貴方が戦う必要はないのです。貴方は“ 戦士として ”育った訳ではありません。人の子として産まれ、愛し子として望まれ、健やかな育ちを与えられた
(……)
『貴方がアギトなのは、貴方が
「──カミサマ。俺がなんて言うか
珍しく翔介が言葉で返した。
『………何故、そう思うのですか』
「わかりますよ。だって、カミサマ嬉しそうなんですもの」
『───』
テオスは絶句、しているのだろうか。言葉を失ったとばかりに返答が返ってこなかった。
だが、今度の沈黙は長く続く事はなく、
『……そうですか。なら私から言う事はありません。戦いたい様に戦い、救いたい者を救いなさい』
「はい」
それは激励だった。神から鼓舞され、その行いを肯定し、背中を押される想いで翔介は目的地へ急ぐ。
不思議な高揚感がある。『正しい道』を進んでいる、そんな確証のない確信が湧き上がる。
───
「……あ、翔介です」
「………」
町の外れの寂れた教会。その正門前でバイクを停める。ヘルメットを外してハンドルに掛けてから降りる。盗難対策に鍵を掛け、その鍵をズボンのポケットの奥に押し込む。
門に手を掛ければ、鍵がされておらず簡単に開いた。教会の敷地内にそのまま、入り口まで歩き扉に手を掛けようとして鍵を閉まったポケットとは別のポケットがブルブルと震えた。
ポケットから震えるケータイを取り出す。画面には『雪菜』の二文字。翔介の姉である。
『あ、もしもし翔介〜。今どこ〜?』
「姉さん」
雪菜に何も告げずに家を飛び出し、そのままバイクを借りて走り出した。夜に家を出る事はよくある為、雪菜も始めは余り気にしていなかったがいつもよりも時間が経過していたので心配になり電話を寄越したのだろう。
『もぉ、何してるの? 夜ご飯冷めちゃうよ」
「……ごめん、もう少し掛かりそう」
『ええー!? もう! 何してるの!!』
「友達を助けに」
『え? …ふぅン。そう、へぇ。友達を、ね〜。……うん、ならば良し! 許します! 帰ってきたら武勇伝聞かせてね』
「……了解しました姉上」
くすくすと電話越しに笑い声、「頑張れ!」と告げて電話が切れる。
相も変わらず
「ふぅ…往くか」
ぎぃ…、と軋む音を鳴らし扉が開く。
教会に入ってすぐに聖堂が広がっている。だが人の姿が一つとして見えない。こつこつこつ、古びた木の床を靴底が叩き、首の無いマリア像の前へ進む。知識の無い翔介にはわからないが少なくとも経年劣化で朽ちたのではなく意図的に頭を砕かれているのだろう。
「悪趣味な」
暫し首無し像を見つめていたが、目を背け怪しい箇所を調べる。
教会に入る前───いや、バイクで向かっている時には既に連中の、レイナーレとアーシアの居場所は特定しつつあった。【ΑGITΩ】への進化する者に現れる兆し、超能力と呼ばれるそれを翔介も持っている。翔介の超能力である極めて優れた察知能力はこの町に居る全ての生命や性質、更には常識ではあり得ない超常の力をも把握し、掌握していた。そんな翔介の察知能力が座標は教会で間違いない。だが位置が明らかに下である事を感じ取っていた。
「みっけ」
翔介が手に掛けたのは祭壇。横から少し力を加えただけで簡単にスライドする。そして祭壇の下に、地下へと続く隠し階段が姿を現した。
一段一段、階段を降りて怪しげな絵画が描かれた扉の前へ。
「ふぅ……」
息を吐き、扉に両手を当てる。
扉の奥にレイナーレとアーシア、更には無数の気配が存在している。忙しなく動く無数の気配とイラつきを感じているレイナーレ。アーシアからは深い哀しみ。───後悔や諦め、それと僅かにながら、けれど確かに
「今、助けてやるアーシア……!」
翔介は力一杯に扉をこじ開けた。
「この……ッ、まだなの! 早くしろッ!!」
「は、はっ。申し訳ありません」
レイナーレは腹の中の苛立ちを隠す事なく表情として露わにし、胸の下で組んだ腕の先の指で腕を、そして爪先で儀式場の石床を叩いている。
レイナーレに怒声を浴びせられたのは黒い帽子とスカーフで顔を隠し、黒いコートで身形を覆う黒装束の集団。レイナーレにより金で雇われた“ はぐれ
(早く、早くしなさいよ…! 早くしないとヤツが。アギトが来ちゃうじゃない!)
レイナーレは焦燥感を感じていた。自分に賛同して付いて来てくれた三人の部下とは連絡が取れない。アギトを相手に時間稼ぎをしてくれた筈だが実力の差が開きすぎていた。とっくに決着はついているだろう。ならば死んだか。
だとしたら現在の戦力は自身と、この末端の
(くそ、くそ糞クソ……ッ!)
もうすぐなのだ、あと少しで長年の望みが叶うというのに。漸く、自身を馬鹿にしてきた奴等を見返し、更には彼女が至高と敬う者と同格の存在に成る事が出来るというのに……!!
中級堕天使である彼女は嘗て起きた大戦*1に参加していない。まだ天使だったのか、それとも既に堕天していたのかは不明だが当時は下級の扱いで戦力として不足していたのだ。それから1000年の時を経て、彼女は今や中級。或いは“ 未だ ”中級、か。上の者からは直接、下の者からは影で馬鹿にされてきたレイナーレは復讐を誓っていた。必ず自分を馬鹿にした堕天使共を抜き去り、トップであるグレゴリのメンバーに肩を並べて下となった堕天使共を見返してやると、そして自身が浴びてきた屈辱を返してやるのだと。
そしてアーシア・アルジェントという神器保有者を発見した。所属していた教会から追放された
即座にレイナーレはアーシアを狙いに入れた。元より天使、堕天使は完成した状態で
そして今、その計画の成功は目前へと迫っていた。
だが、
そして今回の計画の
(………嗚呼、主よ。これも、試練なのですか?)
こんな時でさえ神を想い、けれど押し寄せる不条理の数々に疑いを投げ掛ける。
(私は、どうすればよかったのですか?)
自身の一生を振り返る。親から捨てられ、教会に拾われ、教えを説かれ、神を信じ、敬い、祈り続け。物心付いた時には宿していた治癒の力が自身を聖女へと変えた。崇高な存在、神の寵愛を受けし巫女、癒し手の持ち主として親しい者を作る事を許されず、手を差し出すばかりで差し伸べてくれる者も居ない。それが力持つ者の役目だと、定めだと告げられ。けれど、一転して魔女と蔑まれ住んでいた場所を追われる。最後にはこうして力も、命も、全てを奪われ死に果てる。
(私が、悪いのですか? 私に、何か不徳があったのでしょうか?)
地下であるが天を見上げる。
(───ショースケ、さん)
力なく項垂れ、最後に思い至ったのは神に捧げてきた人生で唯一、自分自身の幸福と呼べる事象。初めて友達と言ってくれた人。
“ ツガミ ショースケ ”
優しい
翔介と友達になってからだ、自分の人生が変わり始めたのだと実感したのは。翔介と友達に成ってから、もう一人友人だと言ってくれる人に出会えた。ツンツン髪に少しイヤらしい目を向けてくるが、その瞳の奥には善性が秘められていた。悪い人ではないと、胸を張って友人だと呼べる人だと。
(………ふふ、二人も友達が出来ただけ、私は
再び顔を上げた時、彼女の瞳に
(……あ)
そういえば。
彼女は本当に、そんな風に、ふと思い出した様に其れを思い浮かべた。
【
神の天敵、神秘の簒奪者、神時代の大罪人。呼ばれ方は様々だがどれもが悪名だった。彼女もそう教えられ、そう信じてきた。
(だとしたら、何故手を伸ばしてくれたのでしょう……?)
自身が拒んだ手、自身が取らなかった手、自身が避けてしまった手。あの手は、間違いなく自身を救おうとしてくれた手だ。冷静に成って考えてみれば簡単に思い至った。
だって、違うのならフリード・セルゼンを前に庇う様に立つだろうか。四人の堕天使を相手に戦い続けるだろうか。あそこまで執拗に自分を抱えたレイナーレに飛び掛かっていくだろうか。
(あの手を取れば、何か、変わっていたのでしょうか?)
それがどれほど恐ろしい空想か、彼女はわかっていたが止められなかった。最大級の背徳者として扱われるアギトだ、そんな者に捕まれば神への怨みをぶつけられるかもしれない、神への冒涜の為だけに神の信者を穢して屈服させるかもしれない。惨い亡骸となった姿を見せ付ける様に晒されるかもしれない。
でも、アーシアにはそんな考えはカケラも思い浮かばなかった。何故か、あのアギトの姿が必死に助け出そうとしてくれるショースケのイメージと重なった。都合の良い妄想か? それでも良い。どうせ最期なのだ、幸せな
「ああもう! もうこれ以上は待てない! 儀式を始めるわよ!!」
「な、現状では失敗する可能性があります! あと少しだけ辛抱を!!」
「五月蝿い!」
「ぐわぁ!?」
レイナーレが物申した
アーシアに向かい合うレイナーレは儀式用のインクを手に取り指を浸してアーシアの胸元に陣を描く。神器を抜き取る為の
そうして自身の胸元にインクに濡れた指が触れたその時だ、地下室の入り口の扉が勢い良く音を立てて開いたのは。
「っ!?」
「何事だ!!」
物音にレイナーレはびくりと震え、
「………え?」
侵入者の姿に声が溢れる。それはレイナーレか、
否、アーシアだった。
「………」
『…ショースケ……さん…?』
儀式を邪魔する侵入者───津上 翔介に
「貴様、何しに来た。此処が何処で、今何をしているのかわかって入ってきたのガッ!?」
翔介に接近して胸ぐらを掴む勢いで腕を伸ばす
「何しに来たか、だと? ……決まってるだろ」
一発でノされた男から視線を外し、十字架に掛けられたアーシアに向けて指を差す。初めて会った時の眠たげな目付きとは異なり凛とした決意を宿した瞳がアーシアを向き、アーシアも初めて見た翔介の瞳から目を離せずにいる。
「『友達を助けに来たんだ…!』」
『!?』
アーシアが言葉を失う。きっと両腕が自由だったのなら両手で口元を覆っていただろう。目尻に涙が溜まり、視界が滲んでしまう。
『ショースケさん!!』
「……ッ忌々しい…っ」
アーシアは感涙を流しながら翔介の名を叫び、レイナーレは髪を掻き毟り指先に付いたインクで頬を汚す。
「アンタ達! その人間を殺せ!! 儀式の邪魔をさせるな!!」
「「「ハッ!!」」」
『!? レイナーレ様!? しょ、ショースケさん逃げて!!』
レイナーレの指示に
武器を構えて翔介に殺到する
「……っ! はっ! シッ! てやっ!」
一人、顔面に正拳を突き込んで撃破。
二人、光の剣を躱して懐に潜り鳩尾を強打。
三人、鳩尾を突いた男を蹴ってぶつける。
四人、後頭部に突き付けられ、至近距離で発砲された光の弾丸を直前で避けて回し蹴りで顎を踵で殴り付ける。
「ふぅ…」
「「「……っ!?」」」
瞬く間に四人を倒して残心。閉じた瞼が開かれた時、その瞳に
「……!」
その瞬間を翔介が突いた。
右腕を前へ差し伸ばしてから半身を右側に僅かに捻り、頭部の右隣で両の拳を強く握り締める。ぎりぎりと握力から軋む音がし、彼の腰部に光が発せられる。
『……え、…う、そ』
光は巻き付く様に左右に広がり輪状に連結し固形化、ベルトと化した。
【オルタリング】
バックルの部分に宿主に力の源『オルタフォース』を発生、全身に向けて駆け巡る様に供給する【賢者の石】が嵌め込まれたベルト。
アーシアにはそのベルト───【オルタリング】に見覚えがあった。そのデザインはかの神敵の戦士が身に付けていた其れと同一。
ならば、必然的に答えは導き出される。
握り締められた拳を解き、右手を左側斜め下に大地を突き刺さ勢いで繰り出し、その後拳にしてを右腰側部に添え同時に左腕で右斜め上へ空を切り裂く様に突き出す。
「───変ッ身…!」
【オルタリング】の左右に在るサイドバックルを両の掌で同時に叩き【賢者の石】から溢れる光が翔介の全身を瞬間的に覆う。
光が晴れた時、彼の姿は変わっていた。彼の放った言葉は文字通り彼を異形の戦士へと変身させた。
変 身 完 了 !!
覚醒者【
「なんだ、コイツ……?」
『ショースケさんが……アギト…?』
信じられない光景だった。親切にも手を差し伸べてくれた人が、友人だと言ってくれたヒトこそが天に座す主やその信徒が忌避する存在そのものだっただなんて。
口から出た言葉は自身に状況を、事実を呑み込ませる為に無意識に溢れた復唱だ。
「……ッ!」
アギトが駆動する。人龍の戦士は、その腕で、その脚で、五体を武装に換えて一般人に毛が生えた程度の
「ぐわぁー!?」
「がばっ!?」
「う、うわー!?!?」
「くるな…! 来るなぁ!!」
「聞いてないッ、こんなの聞いてないぞアバッ」
“ 蹂躙 ”。その一言のみが相応しい。
一方的で容赦が無く、唯一の慈悲は命まで取ってはいない事か。
敵意を向けた第一陣を迎撃し、錯乱した第二陣を薙ぎ払い、戦意を失った残兵を追撃す。出入り口がアギトの後方にしかなく逃げる事は決して赦されず、たった一人の例外を残さず敵となる者全員を討ち倒す。
「ぐっ……あがっ……!」
最後の一人の首を掴んでその身体を持ち上げる。掴まれた腕を叩き、地より離れた脚が暴れる。が、その様な抵抗は一切の意味を為さず、大きく振り被って砲丸代わりに擲つ。
「きゃっ!?」
投擲による超人力人間大砲は儀式場の高台にいるレイナーレを目掛けて放たれ、レイナーレも間一髪で回避に成功した。
「あ! あ、ああ、あああああ!?!?」
けれど、倒れる様に避けた弊害で手に持っていたインクが掌より離れ、そのまま高台下に落下。容器は粉々に割れて中のインクをぶちまけている。
あと少しだった、あと線一本書き足せば儀式の陣は完成したのだ。だが、完成しなかった。其れが結果! 其れが全て! 其れが現実!
「ウソ、うそウそ嘘ウソッ!?」
現実を受け入れられず、虚空に向けて掌を差し向ける。下へ、地面へ、奈落の沼の様に広がる
天から堕とされ翼を黒く染めた堕天使が高台から地面に落ちたインクに手を伸ばす。なんて皮肉な光景か。だが覚醒者にとってはどうでもいい事象である。
嘆きと悲しみで貌を歪ませたレイナーレの頬をゴウッ、と圧が撫でる。慌てて其方に顔を向けて更なる絶望に染めた。
腰を落として身構え、深く息を吐くアギト。頭部のクロスホーンは展開、解放され、足元の地面には金色の紋章が顕れていた。
「■■■■■■■ァァっ!?!?」
絶叫。言葉に成り得ない音でしかない声がレイナーレの喉が張り裂けんばかりに放たれ、顔中の穴という穴から体液を垂れ流す。腰が抜けて尻餅を付いたまま後退り、そして高台から手が溢れて虚空を撫で、逃げ場がない事を嫌でも叩き付けられる。恐怖で絶望に身が竦み翼を操る事すら満足に出来ない。じょわぁ…、と彼女の股元から湯気を放つ黄色の小湖が広がる。
「イヤ、嫌よ! ナンデ!! なんで私がこんな目にィィ…ッ! やめろ……ヤメロォ!? 私を誰だと思っているの!!! 私は堕天使レイナーレ、いずれ至高の御方に並ぶ選ばれた存在。そんな私に、こうして対面出来ただけでも光栄に思うべきなのよッ!! それなのにアンタは! 人間、下等で貧弱で品性も無い家畜の様に惨めでちっぽけな存在…! その中でも創造主である神に嫌われ、忌まれ、否定され、抹殺対象とされた出来損ないなのよ!! それなのに神によって直々に創造して戴いた我々に歯向かうなんてあってはならないのよ!! わかったら消えろォ! 今すぐ消えろ消エロキえろ!?!? きえろよぉ……イヤ……嫌、いやああぁぁぁ!?! オ゛、オダズゲぐだざいアザゼル様ァァ、ジェムハザ様ぁぁ、嗚呼、アアアッ!! 主ヨぉ、謝罪じます、戒めまずぅ、悔い改めまずう゛ぅ゛ぅ゛。堕天じた事もォ…欲を持っだごどもぉぉ…貴方様に背いた事も゛ぉ゛ォ゛!! すべでぇ…ずべて償いまずぅぅ! だがらおだすげをぉぉ……御慈悲ヲォォォ………ッ」
「───話が長い」
いつの間にか、高台にいるレイナーレが見上げる程の位置まで跳び上がっていたアギトは黄金の輝きを、大地の大力を灯した右足をレイナーレに標準する。
「イ、イイ、ッィィぃィイヤァァぁア゛ア゛ア゛!?!
ヤだヤダやダやだぁ!?!?」
───慈悲は無い
「がぶぅ……!?」
アギトの【ライダーキック】がレイナーレの胸の中心を蹴り抜く。
蹴りを受けた胸を───豊満なおっぱいが潰れて無惨に破裂し、胸の中心に至っては陥没しているレイナーレが高台から突き落とされ、空を舞う。口から血塊を吐き、眼球が外れそうな程見開き、絶望に満ちた形相は元の美貌を見る影もない程に醜く化えている。
肉体は生きているのか死んでいるのか不明だが、確実に精神は生き絶えたレイナーレの頭上に光の渦が顕れる。ぐるぐると光の極彩色はまるで天使の輪っかの様にも見えなくもない。その光の渦が欠ける。ぐにゃりと歪みバリバリと裂け、並行してレイナーレの肉体も蹴りを受けた胸元から全身へ向けて無数の深い罅が拡散している。
光の渦の裂け目が中心地にて繋がり、肉体の方の裂け目が顔まで達した瞬間。レイナーレの身体が爆裂した。
「きゃっ!」
天使の光ではなく、爆発による炎の光でもない。アギトの
十字架に磔にされたアーシアを十字架越しに爆裂の衝撃が伝う。レイナーレの最期はアーシアにとっては見えない位置で繰り広げられていたが、その末路はアーシアにも理解出来た。
『レイナーレ……様……』
レイナーレの最後の言葉。きっと彼女にも悲しみがあり、悩みがあり、心に巣食う闇が在ったのだろう。最後には自分自身を追放した神に向けて慈悲を乞う言葉が頭から離れない。
せめて、彼女の魂が天上の主の元へ向かい、迎え入れられる事を祈ろう。死者への弔いの祈りは決して何者であろうと拒めるモノではないから。
「……」
「あっ!」
アーシアがレイナーレに向けて祈りを捧げていると突然、彼女を縛る拘束が解かれ、投げ出される彼女の体躯を堅くも僅かに暖かさを感じる身体で受け止められる。
胸にアーシアが寄り掛かり、そのまま左右の腕で彼女を支え横抱きにし高台から一歩一歩降りる。彼女を抱いた高台から降って、呻き声を上げて気絶している
「………」
「………」
階段を抜けてそこは聖堂。
教会に来訪した者が祈りを捧げる長椅子に彼女を預ける。
「………」
『……………』
「……………………」
『………ショー、スケ…さん…?』
「………『ああ』」
暫しの沈黙の後、恐る恐るアーシアが問い掛け、翔介が返答する。
『ショースケさんが、アギトだったの、ですか…?』
「……『そうだよ』」
『じゃあ、今日、助けに来てくれたのは』
「……『つい数時間前の事を言っているなら、俺、だね』」
『……っ、そう、ですか』
そうじゃないっ、もっと他に言うべき事が在るだろう!
アーシアは自分自身に憤慨する。感謝の言葉を翔介に言いたいのに、身体が震えて、口が思う通りに動いてくれない。
「………ふっ」
片膝を突き視界を合わせてくれていた
「『もう、俺には関わらない方がいい』」
『……え? しょ、ショースケさん?』
「『君を狙う奴らの親玉は倒した。その部下だった奴らも一人は倒したし、残りも小さくない怪我をしているから早々何か仕掛けてくる事はないだろう。そう遠くに逃げられもしないだろうからこっちから探し出して方は付けておく。そうすればアーシアを狙う奴らは誰も居ない』」
それは一方的な言葉だった。アーシアを安心させる為に、また、言い聞かせる様に、目を合わせず虚空を眺めて今後の事を告げる。彼女の返答は最初から求めていなかった。
「『最初は大変かもしれないけど君の人柄ならすぐに友達が沢山出来るよ。困った時はもう一人の友達に頼ればいい。君が信用出来る相手なら無碍にはしないさ。君の信じる人なら俺も信じられる。落ち着いたら学園に通うのもいいかもしれない。同年代の人と関係を広げるならうってつけの場所だ。君は真面目だから日本語もすぐに覚えられるよ』」
『ショースケ…さん……っ、ま、待って』
「『最後に……ありがとう。君に会えて良かった。それとごめんな、色々。アギトである事を黙ってて。お陰で怖い思いさせたよな……あはは』」
『い、いやです。……そ、そんなお別れの言葉……みたいな……!』
翔介はアーシアとの繋がりを断とうとしている。アーシアを名前で呼ばず「君」と呼んでいるのが最たる例だ。
一歩、また一歩。翔介がアーシアから離れる。
アーシアは長椅子の背凭れに手を掛けて立ち上がり翔介の前に立つ。今、此処で翔介を止めないと、今後一生翔介とは会う事が出来ないと直感で理解した。
「……『無理しなくていい。怖いんだろ? 足、震えてるよ』」
『で、でも……そんなの……』
「『別れを惜しんでくれるのは正直に言って……嬉しいよ。けどさ、やっぱり離れた方がいいよ。俺も、君に怯えられてまで一緒に居たいなんて事言えないしさ』」
『わ、私は…いやです。折角、友達に成ってくれたのに……!』
「…………」
『ショースケさんだけだったんです。私の友達に成ってくれたのは、初めて……だったんです……っ』
「………」
『私……頑張ります。アギトを……ショースケさんを怖がらない様に努力……します。しますから、私から離れないで……!』
懇願だった。泣きながら、涙を零しながら少女は懇願した。
アギトは───翔介はそれに応えて一歩だけ歩み寄った。
『……っ!?』
そして足を止めた。アーシアが小さな躰がまたも反応する。だが良き反応とは言えなかった。
「『ほらね。やっぱりやめておいた方いいよ。君が無理する事はないんだ。さっきも言ったけど君ならきっと沢山の友達が出来る。
『───ッ』
───今、彼はなんて言った?
代わり? 誰が……? 誰の……?
じりっ、アーシアの意識が沸騰する。急激に膨れ上がるこの激情はなんだ? アーシアにとって初めての感覚、未知の感情。
……嗚呼、そっか。知らなかった。人って、こんなにも
(ッッふざけないで、ください……!)
「『それじゃあ俺は出るよ。別れは早い方がいい、あっさりしてる方が案外簡単に切り替えが出来るから』」
(まだ、そんな事を言うんですか…!?)
「……『それじゃあ、さようなら』」
よぉーくわかりました。
“ いつか ”じゃダメなんですね。“ 今 ”じゃないと貴方は離れていってしまうのですね……?
───
『……っ!』
想いが前に進む力をくれる。激情が身体の震えを抑えてくれる。覚悟がやめろと叫ぶ理性を破ってくれる。
気付けば足が前に出ていた。走り出していた、全力だった。逃してなるかと無我夢中だった。そして背中を向ける
「………!」
これでは逆だ。アーシアが一歩歩み寄れば、アギトが一歩後退する。
『
「………!?」
まずは自身の想いを伝える。
『あ、ありがとうございます!』
「 」
次に胸の中の数え切れない感謝の念を告げる。
『大丈夫、ですよ』
「……」
次に自身の覚悟を示す。
両腕を広げて迎え入れる姿勢を見せる。
『大丈夫』
「……っ」
そしてもう一度。しっかりと言葉と態度で翔介に教えて歩む。
今度、彼は退がらなかった。
距離を詰め、アーシアが再び両手で翔介の手を取る。優しく慈しむ様に、けれど決して離しはしないと強く、強く。
『ありがとう、ございます』
再び、感謝を告げる。
さっきのは助けてくれた事に関して。救ってくれた事に関して。友達に成ってくれた事に関して。
今度は、自分の事を想って身を引こうとしてくれた事に関して、礼を言う。けれど、これは余計な御世話だ。翔介はアーシアの強さを───肉体的なものでなく、精神的な強さを見誤った。
例え、信じた神に疎まれるとしても。本当の魔女として命を狙われる事になっても。全世界中の人々を敵に回すとしても、彼女は
『───ショースケ、さん…!』
「……アー、シア」
彼女は
「アーシアぁ! 助けに来たぞ……ってあれ?」
その時だった。教会の門を開けて三人の男女が現れたのは。
『───嗚呼、翔一。
それは闇の力。全能にして万物を産み落とした世界神の独白であった。
神の視線は他とは逸枠にある。神の本心は神自身にか判らないのだ。
津上 翔介
変身ポーズがブラックっぽい
戦士として完璧な心理状態のオリ主。多分変身するライダーが別だった場合凄まじい戦士に変身出来てる。
うちに宿る
アーシア・アルジェント
元祭り上げられボッチ系聖女、現アギトに見染められ系魔女っ娘シスター。
敬虔な信者でありながら悪魔も受け入れられる寛大が過ぎる心の持ち主、つまりヤベー奴(褒め言葉)
彼女ならΑGITΩも受け入れられる(確信)
これには沢木 哲也もニッコリ。
『
翔介とアーシアの行動にとても御満悦な黒神様。
最後にかの御方が指す『翔一』が翔介を指すのか、或いは別の誰かを指しているのかは神のみぞ知る。
まだまだ謎の多い存在。
三人組。
なんだ…? テメェら
◆翔介、