仮面転生者ΑGITΩ 〜人類審査のオーヴァーロード〜   作:ただのファンだよ。

6 / 40
目覚めろ! その赤龍!!

 

 

 男の話をしよう。

 

 男の名は『兵藤(ひょうどう) 一誠(いっせい)』。親しき者からは『イッセー』の愛称(ニックネーム)で呼ばれている。

 彼は此の町、【駒王町】の駒王学園に通う一般学生の一人で、つい先日までごく普通の、いや、こと女性の胸──特に巨乳──に対する執着が常人離れしたレベルで凄まじい事以外は至って普通のスケベ学生である。ただしそのスケベ性をオープンにしすぎている為学園内の評価は低い。表には出し難いアダルト本を机の上に広げ、大きな声で学園に持ってきたHなDVDに対して議論して貸し借りを行う。女生徒の覗き行為などしょっちゅうだ。

 だがそんな彼にも良い意味でも悪い意味でも転機が訪れた。翔介によりつい先程倒された堕天使レイナーレが変装した『天野(あまの) 夕麻(ゆうま)』により一度殺され、偶然か必然か死を拒んだ願いを駒王町に住み駒王学園に通う『リアス・グレモリー』と言う女悪魔に聞き届けられ、リアス・グレモリーの手により彼は人から悪魔へと転生させる事で生き延びた。より正確に言うのなら転生悪魔として“ 生き返った ”と云うべきだろうか。

 転生悪魔───他種族を悪魔に転生させるには、転生させた悪魔を主人とし、転生悪魔を眷属とする『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を使用する事が条件で、彼は悪魔に転生後にそれを知らされた。まぁ、それしか彼が生きる術はその場になく、尚且つ主人であるリアス・グレモリーが常人離れした美貌と自己主張の激しい豊かなおっぱいの持ち主であった為文句の一つもなく、逆に学園内でも高嶺の花扱いされるリアス・グレモリーと大きな接点を得た事に深い感謝をしていたが。

 

 そんな彼がアーシア・アルジェントにとって“ 二人目の ”友人である。この兵藤 一誠。おっぱい特化のスケベマンである事を除けば優れた人間である。情に厚く、他人の為に身を投げ出せる人間で、その胸に秘めている心根は善性の其れである。顔も素材自体は決して悪くない、寧ろ整っている分類だ。王子様系というよりはワイルド系のイケメンで、刺さる人間には深く刺さる顔立ちをしている。学力はそこまで高くはないが、それは頭が悪いと云うよりは勉強嫌いなだけで真面目に勉強をすれば高い点数を得られる。

 優れた点は多々あるものの、その最早犯罪者級で通報されれば一発でしょっ引かれそうな程のスケベさが致命的過ぎる、残念な少年である。

 

 彼がこの寂れた教会に来たのはアーシアを救う為である。事の始まりは一誠の死因である天野 夕麻の正体の判明によりリアスが堕天使の排除を決定して情報集めを行なっている時、負傷した二名の堕天使を発見したのだ。

 この二名の堕天使はアギトによって敗れたカラワーナとミッテルトの二人だ。リアスはカラワーナとミッテルトに尋問し、カラワーナは仲間のミッテルトの傷の治癒とこの町を出る為の安全の保護を条件に全ての情報をリアスに明け渡した。

 それにより、レイナーレの計画を知った一誠は激怒し、主人の忠告を聞き入れずして一人飛び出した。教会に向かう途中、一誠の身を案じたリアスは一誠と同じ己が眷属である転生悪魔の『木場(きば) 裕斗(ゆうと)』と『塔城(とうじょう) 小猫(こねこ)』の二人を遣わせて合流させ、自身は腹心の『姫島(ひめじま) 朱乃(あけの)』と共に堕天使の連行と上の者への連絡を行う為その場を後にした。

 

 かくして一誠率いるリアス・グレモリー眷属一行は突入の直前に堕天使の気配を感じないと伝えた木場の言葉に疑問を持ちつつも警戒を怠る事なく教会に乗り込んだ。が、実際扉を開けてみればアーシアは捕われておらずに居た。

 

「………?」

『……イッセーさん?』

 

 なら()()()()()()

 金色の角や胸板、赤い大きな両眼、人型の異形の怪物。

 

「……テッメェ……!」

 

 怪人としか呼ぶ事が出来ない異形が、アーシアに手を伸ばしていた。その凶指をアーシア・アルジェントに差し向けていた。

 瞬間、一誠の意識が沸騰する。()()()()()()()()()()()、堕天使の事など頭から消え失せ、その事のみに没頭する。

 

「アーシアから離れろぉぉぉ!!」

 

 一誠は友の為、走り出していた。

 

 

 

 

 

「アーシアから離れろぉぉぉ!!」

 

 突然現れた三人組の内の一人、ツンツン髪で駒王学園生徒に支給される制服を着た男が駆け出し、拳を握った右腕を振り上げ向かってくる。

 

「……」

『…あ、ショーむっ』

「………」

 

 伸ばした手を引き戻し、向かってくる男に顔を向けたアギトをアーシアが呼び掛けようとしてその唇に人差し指を当てて止める。そしてアーシアの唇を押さえたまま首を左右に振る。この仕草でアーシアはアギトが自分の正体を隠している事を思い出した。

 

「ッッ!! 離れろッつってんだろがぁ!!」

「……!」

『あ!』

 

 怒りを露わにしたツンツン頭の男がアギトに殴り掛かる。拳が届く寸前でアギトは背後に退がりアーシアと距離を取る。

 

(なんだコイツら? …レイナーレ達の仲間……って訳じゃなさそうだが)

 

 アギトは来訪者達に意識を向ける。目の前の男は勿論、入り口を塞いでいる二人にも。いつの間にか剣を構えた金髪の男と、拳を握って固める小柄な白髪の少女。

 

(気配は……町によくいるバケモノに近いな。……ん?)

 

 入り口からツンツン頭の元に移動する二人をじっくりと観察していると一つ、気付いた事がある。

 

(木場と塔城、そういえばオカルト研究部の奴らは全員バケモノに似た気配だったな。……なるほど、コイツは新しい仲間か)

 

 前々に学園内複数の“ 人ならざる者 ”が居る事自体は把握していた。だが、特に悪さをしている様子はなかったので翔介も事を構える気はなかった。関わりを持とうとする気もなかったが。

 

「イッセー君、気を付けた方がいい」

「……この人…人? からは徒者(ただもの)じゃない気配がします」

「小猫ちゃん! それに木場」

 

 ツンツン頭──イッセーと呼ばれた男が白髪の少女──小猫とは違い金髪の男──裕斗に対する露骨な反応。裕斗自身は苦笑を浮かべている。小猫は無表情。

 

「けど負ける訳にはいかねぇんだ!」

 

 木場と塔城の間を抜けて前に出るイッセーがアギトに向けて右拳を突き出す。

 

「来やがれ! 『神器(セイクリッド・ギア)』!!」

 

 イッセーの叫びに呼応して突き出した右手の甲に宝玉が浮き出て、宝玉を中心に竜の鱗の様なパーツが次々と展開され左腕を肘まで覆う。翔介は知り得ないが其れは【龍の手(トゥワイス・タクティカル)】と呼ばれている神器(セイクリッド・ギア)だった。

 神器(セイクリッド・ギア)とは、聖書に記される神『聖四文字』がとある目的で創造した人類種にのみ発現する異能の力。神器(セイクリッド・ギア)は種類が多くあり、イッセーが発現させた【龍の手(トゥワイス・タクティカル)】の能力は使用者の力を倍化するという物。単純な筋力だけを上げる、なんて陳腐な代物ではなく。筋力に加えて俊敏性や耐久力などの身体能力に五感が研ぎ澄まされ、更には生命力や魔力といった常人には感知出来ない力をも倍の出力へと変える。この様な素晴らしいと呼べる神器(セイクリッド・ギア)でさえも、ありふれた物の一つで他の神器(セイクリッド・ギア)より特別優れた所のない品であると言う。

 アーシアの治癒の力も【聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)】と呼ばれる神器(セイクリッド・ギア)によるものだ。

 

「うおおおおっ!!!」

「……」

 

 右腕の神器(セイクリッド・ギア)から『Boost!』という音声が鳴ると同時にイッセーの力が倍化し、怖気付く事なくアギトに挑み掛かる。

 

「おりゃ!」

「……」

「なっ! げふっ!」

 

 倍化した事で身体能力は向上し、高校生どころかテレビに出る様な有名アスリートを超える速度で接近し、一流の空手家とも張り合えるだろう威力のパンチが放たれる。

 が、アギトからすれば所詮は一般人に毛が生えた程度の変化だ。オマケに素人感丸出しな喧嘩技、容易く左掌に納め間髪入れずにカウンターのボディブローを叩き込み、イッセーの腹部に重い衝撃が伝わる。吹き飛びそう衝撃、けれど右拳が捕らえられ離れる事を許されない。そのまま崩れ落ちる様に膝を突く。

 

「…おごっ、ガハッ…ごほっげほっ」

「……」

「させません…!」

「…!」

 

 殴られた腹部を押さえてえずくイッセーの顔面に膝を打ち込む為に右足が僅かに地から浮いた瞬間に小猫が飛び出しアギトに拳を繰り出す。ボクシングを連想させるジャブの連打を右手で防ぎ切る。

 

「…っ、だったら!」

 

 一度距離を取る。

 長椅子を足場として蹴って弾道跳びパンチを繰り出す。勢いとその小躯からは信じられないパワーはアギトに両腕を交差(クロス)して防御(ガード)させる威力を誇る。アギトにガードされるや即座に離脱、イッセーの背後に周り腕を回すとぶんっ、と振って後方に投げ飛ばす。

 

「……!」

「させないよ!」

「…えいっ!」

 

 背を向ける小猫の背中を狙うアギトを阻止すべく裕斗が手に持つ剣を薙ぐ。迫る刃をアギトは左腕のブレスレットの様な装甲板を3枚重ねた腕部外殻(アームドブロックシールド)で受け止める。ギャリギャリッ、と刀身と左腕が火花を散らす。

 

「っ!」

「なっ!?」

 

 速さはなかなか、鋭さも十分。けれど重さに欠ける一刀をアギトは左腕を巧みに操り裕斗の剣を装甲上を滑らせ、腕を振るって払う。

 

「くっ…!」

「…はっ」

 

 アギトの反撃を剣を挟んで盾代わりにして防御するも三人組の中で一番身軽で尚且つ体幹を崩された裕斗では受け切る事は出来ずに大きく後退させられる。

 

「やっ!」

 

 アギトが裕斗を相手にした合間に体勢を整えた小猫が名前にもある猫の様なしなやかな動きでアギトの身体をスルスルと登り、両脚を首に回して固める。

 

「……っ」

「えい…!」

『!? アギトさん!』

 

 アギトの腕力を持ってすれば簡単に拘束を外せる程度の力だが小猫の方が一瞬速かった。

 アギト共々後方へ倒れ、地面に手を着いてアギトだけを投げ飛ばす。

 

「…ッ、…く」

 

 開かれた教会の入り口からアギトが投げ出され、石畳の道に落ちるも受け身を取り、そこから腕の力のみで跳び上がり、宙で姿勢を整え着地する。

 アギトに追って裕斗が、次に小猫、最後にアーシアを横抱きに抱えたイッセーが飛び出す。

 

「イッセー君。君はその娘を連れて逃げてくれ」

「なっ!? 何言ってんだ木場!」

「ごめんね、だけど正直に言わせてもらうと()()()()()()()()戦える程余裕はないんだ」

「っ」

「…はっきり言うと邪魔です。早く行ってください」

 

 足手まとい、と二人から戦力外通告を受けたイッセーは俯いて歯噛みをし、悔しさで震える腕がアーシアにも伝わる。

 

『あ、あのイッセーさん』

「アーシアごめんな。怖い思いさせて、でももう大丈夫だから」

『え、いや、あのそうじゃなくて』

「木場! 小猫ちゃん! 後は頼む!!」

 

 アーシアを抱いたイッセーがアギトや仲間達に背を向けて駆け出した。

 

「……!」

(行かせるか…!)

「君の相手は!」

「私達です……!」

「…っ」

 

 後方より戦闘音が轟く。

 イッセーは振り返らなかった。仲間に対する信頼、庇ってもらった情けなさ、アーシアを守る使命感。色んな感情がごちゃ混ぜになって胸を渦巻く。彼の余裕のなさが腕の中の少女(アーシア)の言葉を聞き入れられない所以なのだろう。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……くっ」

 

 息も絶え絶えになり少しでも気を抜けば転んでしまいそうな程の疲労を抱え、なんとか駒王学園の敷地内まで辿り着く。

 あと少し。あと少しで、主人である部長(リアス)眷属(なかま)達が拠点としているオカルト研究部の部室へ。其処にさえ辿り着ければリアス・グレモリーに姫島 朱乃の二人と合流出来る。そうすればアーシアを安全な場所に保護して木場 裕斗や塔城 小猫を救って怪人を倒せる!

 イッセーの其れは根拠のない思い込み、自分に都合の良い妄想である。転生したばかりの下級悪魔の自分とは違い経験を積み常識では有り得ない実力を誇るグレモリー眷属が全員揃えば敵などいない。世界の広さを本当の意味では知らないイッセーが、なまじバケモノと呼べる相手を次々と屠ってきた姿しか見た事がないが故に感じた万能感。自分は兎も角、主や仲間達は最強なんだ、ファンタジー世界の住人なんだ、と。

 実際は屠ってきた相手が格下であっただけだ。一般人からしたら脅威だとしても裏世界側からすれば程度の低い───それこそチュートリアルで戦う様な雑魚に過ぎなかっただけ。それをイッセーは……兵藤 一誠は識らない。

 

「……くっ…はぁっ……、もう少し、で…!」

 

 仮初めの希望、ハリボテにすぎない其れに手が届くと期待したその時、ブォンッ!、と遠くからエンジンが吼える(こえ)がする。まさか、振り返る。

 

(ウソ…だろ…? だって、そんな、木場が…小猫ちゃんが…時間を稼いでくれてる筈なのに……!?)

 

 彼の視界には学園のグラウンドをバイクで駆ける怪人(アギト)の姿が。

 

(──ッ、くそっ!!)

 

 咄嗟に物陰に隠れる。駆動中のバイクを横向きに変え、スライドブレーキで停止して降りる。

 

「………っ」

『アギトさん…! 良かった…』

 

 アギトを凝視するイッセーにアーシアの声は届いていない。あるのは木場と小猫の安否と、アーシアを守る覚悟。

 

「……アーシア。此処に居てくれ」

『え? ……あ、あのイッセーさん』

「大丈夫。すぐにあんな奴やっつけて戻ってくるから」

『そうじゃなくて…! 話を、話を聞いてください!』

「全部片付いたらゆっくり聞かせてもらうよ。へへ、色んな事話そうぜ、これまでの事とか、これからの事とか。沢山、たーくさんだ! だから此処で待っててくれ!」

『あ! イッセーさん! 違います! 違うんですイッセーさん!!』

 

 アーシアが手を伸ばすが駆け出したイッセーには届く事なく、彼の背中はどんどんと離れていった。

 

 

 

 

 

「こっちだ怪物野郎!」

「……」

 

 物陰からイッセーが姿を現し、走り去っていく。何処かに誘き出すつもりか? と疑念を抱く。それとも、アーシアから俺を遠ざける為か。

 

(………わかった、乗ってやるよ)

 

 現状学園内に自分達以外に気配はない。いや、正確にはもう一つあるのだが微弱で長い間その場から動いていない為、問題にカウントしていないだけだ。

 さっきの二人も気絶させて置いてきた、時間の都合上トドメは刺さずにアーシアを追ってきたが。

 

「……」

(よし! 釣れた! このまま少しでもアーシアから引き剥がして!)

「……フッ!」

「…!? はやっ!」

 

 逃げるイッセーを標的に定めたであろうアギトに第一作戦の成功を確信したが、アギトが駆け出した途端瞬く間に距離を詰められ追い抜かれて前に立たれる。100メートルを5秒で走り切れる脚力は悪魔になったばかりのイッセー程度に負ける筈がない。

 

「くっ…チクショウ、神器(セイクリッド・ギア)!!」

『Boost!」

「……」

 

 出鼻を挫かれたイッセーは仕方なくその場を決戦の地として己の神器(セイクリッド・ギア)を起動させる。自身の力が倍になる。

 だが、

 

(足りねぇ…ッ、『倍』じゃ全然足りねぇ…!)

 

 今のイッセーは一般人よりは多少上といった程度の強さ。技術に至っては只の学生に過ぎず訓練一つ積んでいないど素人。悪魔の武器である魔力もイッセーは元々が極端に少ないので倍になったとしても違いはない。強さに関する何もかもが足りない、

 それでも彼にとって武器となるもの、この最悪というべき状況を打開する方法がたった一つだけあった。イッセーは主人の教え、神器(セイクリッド・ギア)の特徴の一つを思い出した。

 

───神器(セイクリッド・ギア)は魂と直結した道具。魂が強い輝きを放てば放つ程、神器(セイクリッド・ギア)も比例して強くなる。即ち、神器(セイクリッド・ギア)は宿主の想いに応えてくれるのだ。

 

「……ッ! 一か八かだ!!」

「……?」

 

 イッセーは【龍の手(トゥワイス・タクティカル)】を胸の前に翳して目を閉じる。意識が集中して、邪魔な思考が省かれて、最後に残ったのは中途半端なものではなく純粋で強い、ありふれた単純(シンプル)な望みのみが強く発露する。

 覚悟完了! 闘志が胸の内を占め、尚且つ平常心が乱れる事はない。この時、彼は漸く“ 戦う者 ”の入り口に立った。

 

「力を寄越せ…! アーシアを…皆を…大切なもんを全部ひっくるめて護れる強さを俺に寄越せ!! 俺の想いに応えろよ神器(セイクリッド・ギア)ぁぁ!!!!」

 

 たった一つの望みを強く自覚した時、彼の魂は力強い輝きを、まるで爆発させるが如く解き放った。

 

Dragon(ドラゴン) Booster(ブースター)!!!!」

 

 【龍の手(トゥワイス・タクティカル)】から力強さを感じさせる音声が鳴り響く。否、最早それは従来の【龍の手(トゥワイス・タクティカル)】とは異なる神器(セイクリッド・ギア)であった。手の甲から腕全体を龍の腕を模した籠手に過ぎなかった神器(セイクリッド・ギア)が、指先までもを覆い尽くす。手の甲の宝玉は碧色の光を放ち、中に龍の頭部の赤い紋章が浮かび上がり、宝玉の周りにも碧色の紋様が描かれる。

 そして何よりもの変化が籠手全体の色だ。赤、鮮やか且つ強烈な焔の如き『赤』は主人であるリアスの深紅の長髪を連想させる。

 

「……へ、へへ。なんだよ、案外あっさり応えてくれるじゃんか」

『Boost!』

 

 神器(セイクリッド・ギア)から鳴る音声。宝玉に『II』と文字が浮かぶ。

 アギトにもイッセーの神器(セイクリッド・ギア)の変化に警戒して自身から攻めに出ずに様子を伺っている。

 

「………」

「………っ」

 

 互いに身構え、暫しの睨み合いが続く。イッセーの神器(セイクリッド・ギア)は確かに変化を遂げた、けれどどの様に変化したのかは彼には理解出来ていないのだ、焦る気持ちをなんとか制して主人や仲間達が駆け付けてくれるまで時間を稼ぐ、それがイッセーの作戦だ。

 

『Boost!』

「!?」

「……!」

 

 そして睨み合いが10秒程続いた時、再び神器(セイクリッド・ギア)が音声を鳴らして発動する。今度のはイッセー自身も意図していなかった為驚愕し、イッセーの様子からアギトはイッセーが自分自身の変化を把握出来ていない事を悟り、仕掛けた。

 

「……!」

「うわっ!?」

 

 イッセーが初撃を躱せたのは半ば幸運であった。先に仕掛けたもののアギト自身はまだ疑いを持っていた、何か隠しているのでは? わかっていない演技をしているのでは? と。故に打ち出した拳は様子見、小手調べレベルの軽い一発だった。

 アギトにとっては加減された緩やかなジャブ。故に運良く躱せた、いや、当たらなかったというべきか。

 

「ッ!? うおおお!」

Explosion(エクスプロージョン)!!』

 

 神器(セイクリッド・ギア)からまた異なる音声と眩い光を発する。光に照らされるイッセーの全身を力が溢れかえる。

 

「うおぉりゃぁぁぁ!!」

 

 裂帛の叫びと共に突進して神器(セイクリッド・ギア)に覆われた左腕で殴り掛かる。

 

「……っ」

(ぐっ、重いな)

 

 イッセーの拳を交差した両腕で受け止める。予想以上に力強い一撃の衝撃にアギトは僅かに後退する。

 

「うぉぉりゃりゃりゃりゃりゃぁ!!」

 

 防御されても果敢に攻め続けるイッセー。神器(セイクリッド・ギア)を纏う右腕だけでなく素手の左腕でもパンチを繰り出し、技力の無い腕を振り回すだけの様なラッシュは原始的な暴力として返ってアギトを困惑させる。

 

「……っ、…! っっ」

(む、無茶苦茶だ! 読み難い…!)

 

 例えるなら熊や虎だ。持ち前の膂力だけで繰り出される野性の蛮撃、そしてイッセーの力は今や猛獣を超えている。重量級な動物の代表である象ですら殴って宙に浮かび上がらせそうだ。

 アギトも現状なんとか捌けているが、少しでも気を抜けばもろに攻撃をくらってしまう。すこしでも息を入れる必要がある。

 

「……くっ」

「うお! …っ逃すかぁ!」

「ぐぅ…っ」

 

 イッセーの一撃を流して体幹を崩し、その隙に距離を取る為バックステップでイッセーから離れようとするがイッセーは前へ前へ、アギトの腹部に向かって飛び込み、押し倒す。

 

「へへ、覚悟しろよ。おりゃ!」

「……ぐ」

「てりゃ!」

「……づ」

「ぜりゃ!」

「……が」

 

 馬乗りの状態(マウントポジション)を取って左手で肩を掴んで地面に押さえ付け、アギトの顔面に向けて何度も右拳を振り下ろす。執拗に何度も、何度も! 何度も!!

 アギトの仮面の下で翔介が吐血する。殴られた衝撃で口内を切り、再び殴られた衝撃で口内の血を吐き出され、そしてまた血が流れる。次第にアギトの仮面の口甲部(クラッシャー)から血が滲み、殴られる事で飛び散る。

 

「はあっ! …おらぁ!………おりゃ!」

「……っ、………ぅっ、……ぐ」

 

 アギトから反応が鎮まり、腕が左右に広げられて動かない。

 

「はぁ…はぁ……ッ」

「………………」

 

 イッセーは握り締めた右拳を見詰める。赤い籠手に覆われた拳を解き、開かれた掌は僅かに震え、生き物を滅多打ちに殴打する感覚が残っている。

 殴打が止んだ事でアギトにも反応が戻る。指先がぴくりと動いたのを見逃さなかった。

 イッセーが再び拳を握った。覚悟は決まっている、アーシアを狙い仲間を傷付けた。許してはおけないし、見逃す事は出来ない。一切の容赦を切り捨て拳を力一杯振り上げる。上半身を反らせる程に勢い付け、押さえていた左腕がアギトの肩から離れる。

 

「■■■ァッ!!

「なっ! がづっ!?」

 

 アギトの顔がイッセーを捉え、咆哮を上げて本気の拳打を顔面に見合わせた。イッセーの身体が曲線(アーチ)状に舞って地に堕ちる。

 

「ーーーっっ!?!?」

『Lost』

 

 拳を受けたイッセーが()()()()()()を押さえて身悶える。その場でバタバタと暴れていると神器(セイクリッド・ギア)から音声が鳴る。それは時間切れの合図、爆発的な高まった力が文字通り失われ(ロストし)た事を意味する。

 

「そ、そん、な……」

 

 ぐったりと全身から力が失われて、神器(セイクリッド・ギア)の能力の代償として途轍もない疲労感と倦怠感がイッセーを襲う。

 

「チク…ショウ…!」

はぁぁ…!!

「!?」

 

 最悪は続く。

 アギトが身構えていた、重心を下げて大地を強く踏む。金色の紋章が浮かび上がり、アギトの頭部のクロスホーンが展開していた。

 

「…ッ、ハッ!」

 

 金色の紋章は渦を描きながらアギトの双脚にへと集束し、跳び上がる。上空にてアギトの右足が金色の熾火に滾り、空中にてイッセーを討ち滅ぼすべく身構える。

 アギトの必殺の蹴技───

 

 

【 ラ イ ダ ー キ ッ ク 】

 

 

 仰向けに伏せて身動きが不可能なイッセーには見ている事しか出来ない。自身を打ち砕き、粉砕する確殺の飛び蹴り。

 

『ダメです! アギトさぁん!!』

「!?」

 

 叫ぶ様な大声にアギトが反応する。

 だが、時既に遅く。アギトの【ライダーキック】は繰り出されていた。

 

「……ハッ…ハッ……え?」

 

 しかしイッセーは生きていた。アギトの蹴りはイッセーの頭部、そのすぐ隣の地面を捉え踏み締めていた。一瞬、遅れて凄まじい衝撃がグラウンドを伝い、大地から抽出した大力が大地へと還元された。

 

「………」

「……は? アーシア…? ど、どういう事だよぉ…」

 

 既に放たれた蹴りを止める事は出来ない。出来ないが標準を外す事なら可能だった。

 アギトはイッセーの頭部隣から足を離すと背を向けて歩き出す。アーシアに向かって。

 

「! ぐっ、待ちやがれ! アーシアに何するつもりだ……あ?」

 

 少し時間が経過して僅かに、上半身を起き上がらせられる程度には回復したイッセーが顔を上げて、アーシアの方からアギトに歩み寄る姿が見えた。

 

『うっ、けほこほ、ぅ、ぅぅ…あ、アギトさん……その人は悪い人じゃない、です…?!』

「……」

 

 息切れを起こしながらアギトに駆け寄りイッセーの弁解をするアーシアの姿にイッセーが困惑する

 

『あ、あの人はイッセーさんって言いまして、以前電話した時に説明した私の友達です』

「! ……」

 

 アーシアの言葉に驚いたのかアギトがイッセーに顔を向ける。

 息がだいぶ整いアーシアはアギトに向かって両手を差し出して、アギトを制止する。困惑するアーシアにアギトは未だ立ち上がる事の出来ないイッセーを指差し、アギトの意図に気付いたアーシアがこくりと頷き小走りでイッセーに近寄り両手をイッセーの身体に翳す。

 淡い碧色の光がアーシアの両手から、両方の手の中指に付けた左右で対となる指輪からイッセーの身体を優しく照らし、その傷や疲労を癒していく。

 

「あ、アーシア…?」

『はい、大丈夫ですか?』

「あ、うん。身体はアーシアのお陰ですごく楽になったけど…」

 

 チラチラとアギトとアーシアを視線が行き来する。

 

「……もしかして知り合い?」

『!! はい!』

 

 輝く様な笑みを浮かべるアーシア。

 あ、やっべー、とイッセーはこの時漸く自身の勘違いに察する事が出来たのだった。

 

「───貴方、私の下僕に何をしているの」

 

 ぶわり、とイッセーの背筋を撫でる妖しげな気配。悪魔が苦手とする光とは別でじりじりと焼く様な魔の波動による微かな痛みを肌で感じ、発生源が居るだろう背後に振り返る。

 艶のある紅の長髪を自身が発する魔力で揺らし、豊満な巨───いや、最早爆乳と呼べるおっぱいを組んだ左腕で支え、右手を口元で遊ばせる駒王学園女生徒の制服に身を包む美女、イッセーの主人たるリアス・グレモリーその人が怒気を含んだ笑みを浮かべて立っていた。




津上 翔介
某未確認系ハリネズミ種怪人の気持ちを少しだけ味わったオリ主。三重倍化したイッセーは上級悪魔レベルらしい(レイナーレ談)
まだ今の段階ではオリ主アギトもそこまで強くない。イッセーを警戒してたのと殺す気はなかった(重要)心の隙を疲れてボコられ、逆上して必殺キックぶちかまそうする辺りまだまだ未成熟。
黒神様判定『notチート原作一巻主人公に負けるなんてあり得ません、【D-】です』

兵藤 一誠
善人で熱血漢、土壇場で感情爆発して覚醒というちょっと古めのラノベ主人公の王道(?)を突き進む男。ただ、気に入らない事象等に反発しがちな年相応な面も有る。ハーメルンSSではその性質が災いして割と酷い間に合う作品も多い。正直好き嫌いの別れるキャラクター。
赤い……ちょっと古い主人公……アギト世界クロスオーバー……閃いた!!(地雷)

リアス・グレモリー
( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!
最後にチョロっと出演した下僕に対する慈愛が人一倍強い事定評のある原作二巻堕ちメインヒロインお姉さん。貴女、男性眷属の扱いに明確な差がある気がする。…ない?あ、そう。
険悪な雰囲気ですが御安心を次話で早々に和解します(ネタバレ)

アーシア・アルジェント
天使。いっぱいちゅき♡
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。