それから数分後、バスケ部の先輩であろう部員達が5人と、マネージャー(?)とも見える先程の女子生徒が体育館内に入ってくる。彼女の名は”相田リコ”という名であり、累や美南を含めた新入生全員が彼女のことをマネージャーだと認識していたが・・・・・・。
「よろしく!誠凛高校バスケ部
「・・・・・・は?」「え・・・・・・えっ!?」「まじっ!?女子高生がっ!?」
その事実に、新入生全員はかなり驚いていた。勿論、これは彼女が自称して名乗っているのではなく、学校からも正式に認可が降りた上で名乗っているので正真正銘、彼女はこのバスケ部の監督である。一応、このバスケ部には引率顧問として”武田健司”という顧問の先生がいるのだが、彼に至っては本当に形だけの顧問に過ぎず、バスケの知識も無いに等しいので、バスケの練習にはほとんど関与してこない。なので、事実上のバスケ部内でのトップは、この相田リコなのである。この監督に逆らった者には、その後何かしらの罰が降るとか降らないとか・・・・・・。
「そこっ!静かに!さて・・・・・・じゃあとりあえず、全員・・・・・・
「「「え、ええぇーーーっっ!!!??」」」
終いにはこんな意味不明なことまで言う始末。当然、これにも新入生達は驚いていたが、中にはそれを通り越して呆れている者さえいた・・・・・・。とは言え、従わざるを得なかった新入生達は渋々シャツを脱ぎ、上裸になった(美南はマネージャーなので回避)。
「ふむ、キミは中々にいい走力ね。50m6.8秒ってとこでしょ?」「キミは全体的に筋力が足りてないから、運動した後はプロテインとかタンパク質のある物とった方がいいわよ?」「キミは体が固い。お風呂に入った後に柔軟してね」
そして、上裸になった新入生達をリコはじっくりと観察すると、そこからはそれぞれに的確なるアドバイスをしていく。そのどれもが彼らにとって理に適った物であり、とても体だけを見ただけで出せるアドバイスでは無かった。火神の身体を見た際には、彼の
「先輩、これは一体・・・・・・」
「ああ、カントクのお父さんがトレーナーでな?データを取ってトレーニングメニューを作る。小さい頃からデータや肉体を見続け、観察をしたことでカントクはこんな特技を会得したんだと。簡単に言えば、カントクの
「へ〜・・・・・・そんな事が出来るんですね」
「凄いな〜。私もそんな能力持ちたい・・・・・・」
リコの特殊な眼・・・・・・『
「さて、次は・・・・・・閻橙くんね。キミは・・・・・・って、え・・・・・・?」
「ん?どうかしました?」
「い、いえ!ちょっと待ってね!えっと・・・・・・・・・・・・っ?(おかしい・・・・・・この子の数値が・・・・・・
首を傾げて惚ける累とは対照的に、リコはこの今までに経験したことのない事態に焦りを感じていた。これに至っては、累のとある体質・・・・・・というか、性質のせいであるのでリコの眼が誤作動を起こしている訳では無かった。
「カントク、オレにも何かアドバイスを下さい」
「え、あ・・・・・・うん。キミはね・・・・・・とにかく頑張って!それだけ!」
「それだけっすか!?もっと何か・・・・・・」
「はい次行きましょ、次!」
手抜き、とも言えるアドバイスを言われた事と、半ば強制的に話を終わらされた事に対して半ば不服そうな累だったが、根本的な原因は自分であるのでリコを責めるのはお門違いだとわかるべきだろう。
そしてその後、影が薄くて存在を忘れ去られていた、キセキの世代幻の
・・・・・・だが、その日はそれだけで終わる事はなかった。
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「よっ・・・・・・と。後何本行っておくかな・・・・・・」
放課後、辺りも若干薄暗くなり始めた頃、累は一人黙々と一つのストリートのバスケットコート内でシュート練習をこなしていた。先程部活で練習を行ったものの、あれでは物足りないと思った累は、美南を先に帰らせた後でこうして自主練の為にコートに赴いていたのだ。
「それにしても・・・・・・まさか、あのキセキの世代の黒子テツヤが同じチームにいるなんてな・・・・・・。あいつは身体能力はそうでもなかったが、特殊なプレイスタイルを持ってたし、一緒にやるとことなれば面白くなりそうだ」
黒子とプレイが出来る・・・・・・それにどこか嬉しさを感じた累はにやついた表情のまま3Pラインの外の位置から、シュートを放つ。ボールは綺麗な放物線を描き、リングにかすることも無くゴールに吸い込まれた。過去に帝光と試合をした累は、その時に黒子とも対決をした事があった。自身の影の薄さを
「それは僕も同じですよ?閻橙くん」
「そっか!やっぱお前もそう・・・・・・って、黒子っ!?いつの間にっ!?」
「俺もいるぜ?」
「っ?火神・・・・・・お前もいたのか・・・・・・」
そんな時、いきなり隣から件の黒子の声が聞こえてきたので累は驚きのあまり、咄嗟に距離を取った。こうしてわかる様に、黒子の影の薄さは本当に異常であり、集中をしてさえいても姿が確認できないと言った事もあるのが、恐ろしいところだ。そして、黒子の後ろからは不機嫌な顔をした火神がコート内に入ってきた。
「先程は挨拶が出来なかったので、改めて言わせてください。お久しぶりです、閻橙くん。中学2年の時に戦って以来ですね」
「ああ、久しぶり。それにしても、たった一回しか戦ってなかったってのに、よくオレのこと覚えてたな?・・・・・・まぁ、それはオレにも言えた話だが」
「”帝光史上最大の屈辱”を与えてくれた張本人のキミの事は、僕だけじゃなくてキセキの世代を始めとした帝光バスケ部内でも知れ渡ってる名でしたよ?」
「いや、屈辱って言われてもなぁ〜?その試合だって結局最後はそっちが勝ってるし、そう言われたところで嫌味にしか聞こえねーんだけど?」
「その当時の帝光・・・・・・キセキの世代にとっては、負け試合に等しい内容でしたからね。そう言われてもなんら不思議な事はないと思います。・・・・・・それにしても、何でその年の全中には姿を現さなかったんですか?僕たちは・・・・・・特に青峰くんはキミとの再戦を楽しみにしてましたよ?」
「あぁ・・・・・・それが・・・・・・」
「おい、俺を無視して話進めてんじゃねーよ。ってかお前、さっさとそこどけよ。今からこいつと俺で1on1すんだから」
黒子と累で昔話に話を咲かせていた所、蚊帳の外となっていた火神が苛立った様子で間に割って入ってくる。その態度に少しむかっときた累は、軽く火神を睨みつつ言葉を発する。
「先にコートを使っていたのはオレだ。1on1をするのは構わないが、やるんなら向こうのゴールを使えよ。・・・・・・ってか、お前・・・・・・黒子と1on1する気か?」
「おう。俺はただ、キセキの世代とか言う奴らがいたチームにいたこいつの実力を見極めようって思っててな。俺が求めてんのは日本のレベルの低い遊びのバスケじゃねーんだ。だから見してもらおうと思ってよ?キセキの世代ってのがどんなものなのか・・・・・・」
「・・・・・・なぁ、こいつはこう言ってるが黒子・・・・・・お前この勝負受けるのか?」
「はい。火神くんの強さを直で見て見たいので・・・・・・」
「・・・・・・」
率直で言えば、黒子は火神に瞬殺されるだろう。体格面でもそうだが、何より能力で明らかに差がある。そうなる事は必然であろう。黒子の能力を知らない火神とは対照的に、実力を知る累は苦い顔を浮かべた。
「・・・・・・まぁ、別に俺がどうこう言う資格はねーし、好きにしろよ。だが、こっちのゴールは俺が使ってるんだ。やるなら向こうでやれ」
「はい。すみませんでした。さて、やりましょうか、火神くん」
「ちっ、勘に触るヤローだ・・・・・・」
結果が分かりきってる勝負に興味のなかった累は、二人のことは無視して再びシューティング練習に精を出し始める。その間、反対側のコートでは黒子と火神が熱戦・・・・・・とは言い難い対決を行なっていた。・・・・・・御察しの通り、1on1は火神の圧勝で終わり、案の定黒子の実力を知った火神は、呆れを通り越して笑いたくなってしまっていた。
「(はぁ〜・・・・・・馬鹿らしい・・・・・・。こんな奴に勝負挑んだ俺も俺だったな・・・・・・)アホらし・・・・・・さっさと帰る・・・・・・っ?」
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・?火神くん?どうかしましたか?」
「いや、あの閻橙・・・・・・って奴、さっきからシュート何本も撃ってるが・・・・・・
火神は、黒子との1on1の間でも直々累の方へと視線を注いでいたのでそれが事実であることは間違いない。・・・・・・と言うか、事実であり、累は二人の1on1が始まってからどころか、自主練習を開始してから一度たりともシュートを落としていなかった。しかもその全部が3Pシュートであり、その数は”50”を越えようとしていた。当たり前のことだと思うが、ただのシュートでも撃てば撃つ程疲労は溜まるし、こなしていくうちにシュートの精度も落ちていく。それはプロの選手でもアマチュアの選手でも同じであり、50本ものシュートを打てば数回は外してしまうと言ったことも珍しくはない。
だが、累は一度も外していなければ、息を切らしている様子も無かった。・・・・・・それが現実である。
「(あいつは、会った時からこの黒子同様に”匂い”が一切しなかった。だから、こいつの事は特段気にしない事にしてた。実際、同じ匂いが感じられなかった黒子はこんなしょぼい奴だったわけだし・・・・・・気にするだけ無駄だと思ってた・・・・・・だが、なんだ?無性にあいつとやり合って見てぇ・・・・・・!)」
火神はバスケをする選手の強さを匂いで判断できるらしく、本人の話だと累も黒子も匂いが無臭であり、強さの格付けが出来なかったらしい。だからこそ、火神は黒子に勝負を挑んだのだが、その黒子がまさかこんな弱さだと思わず、『黒子が強いかも?』なんて一瞬でも思ってしまった自分が馬鹿らしくなってしまったようだ。
黒子の場合は、影の薄さと非力さもあってこう言った匂い・・・・・・空気が出なくなってしまっているのだが、累に至っては少し話が違ってきてしまう。先程のリコの眼の能力を妨害したように、このバスケ選手独特の空気もある理由故に出なくなってしまっているのだ。その累の異様さと不気味さに異常に興味を持ち始めた火神は、それとなく累に近づいていった。
「おい、お前!」
「・・・・・・何だ?勝負はもう終わったのか?」
「・・・・・・ってりめーだ。俺の圧勝だったよ」
「まぁ、だろうな。・・・・・・で?何の用だ?」
勝負の結果は分かりきっていたので、累は特に結果を知らされても驚く事は無かった。
「俺と1on1しろ。お前の強さ、確かめてやるからよ?」
「・・・・・・はぁ?いきなりなんだよ?オレとお前が1on1?・・・・・・断る」
「おい!やれったらやれよっ!・・・・・・それとも何だ?俺とやるのがこえーのか?」
「オレは無駄な戦いはしない。変に体力を消耗したくないしな。それに、挑発のつもりなんだろうが、そんな安い挑発に乗る程、オレは馬鹿じゃねーぞ?」
「確かに、先程の挑発は随分と安っぽかったですね?火神くんって、そう言った事は下手なんですか?」
「てめーまでなんだよっ!?いいから勝負しろってんだよっ!!」
いつまで経っても勝負に応じようとしない累に痺れを切らした火神は、累の持つバスケットボールを奪おうと急速に累に接近する。・・・・・・だが。
「ちっ・・・・・・めんどくせーな・・・・・・」
苛立ちを募らせつつも、咄嗟にボールをビハインドに持ち替えた事によってボールをスティールされる事は回避した累は、前に回り込んできた火神を強く睨む。
「さぁ、さっさとやろうぜ?テメェの力、見せて見ろよ!」
「はぁ・・・・・・やってられるか・・・・・・」
勝負に熱くなり始める火神とは対照的に、かなり冷めつつある累。火神は早速ボールを取るべくプレッシャーをかけに寄ってくるが、累は未だにボールを体の後ろで持ったままだった。
「おらおら!!そろそろ5秒経つぞ?ドリブルすんならさっさと・・・・・・」
「さっきからどこ見てんだ?ドリブルも何も、オレの手元には
「はっ?何言って・・・・・・っ!?」
累の言ってる事が信じられなかった火神はさっと累の手元を見てみるが、彼の言うように手元にはボールは影も形もなかった。その事実に火神は混乱するが・・・・・・では、ボールは何処に・・・・・・と言う事になる。確かに彼はボールをビハインドで持って、ドリブルも何もしていなかった事から、手元にある事は確実なのだ。では、何故手元からボールが消えたのか・・・・・・?
「ボールが・・・・・・ねぇ?何処に・・・・・・」
「じゃあな?
「ふざけんなっ!そんな嘘で俺を騙そうったってそうは・・・・・・」
「火神くん、後ろを見てください」
「後ろ?後ろに何が・・・・・・なっ・・・・・・嘘だろ?」
不機嫌な様子で帰っていった累を呼び止めるべく動こうとする火神に、黒子が冷静に止めに入る。そして、黒子の言うようにゆっくりと自分の後ろ・・・・・・ゴールへと視線を向けてみると・・・・・・。
”ゴールの真下で転々と転がるボール”が火神の目に焼きついた。これの指し示す結果は・・・・・・火神の敗北である。
「・・・・・・どう言うことだ?あいつがシュートを撃った様子なんて無かったぞっ?」
「僕にも分かりません。横目で見てましたが、彼がビハインドでボールを持った・・・・・・っと持ったら、既にゴールが決まっていましたので・・・・・・」
「何なんだよ・・・・・・あの野郎は・・・・・・」
不可思議な自分の敗北と、閻橙累と言う男の異質さと不気味さに困惑した火神は、しばらくその場を動くとこが出来なかった。黒子もまた、改めて再確認した、彼の恐ろしさに辟易するのだった・・・・・・。
何故、ボールが消え、いつの間にか勝負は決していたのか・・・・・・。
それが判明するのはそう遠く無い未来かもしれません。
ちなみに累はこれっぽちも実力を出してません。