その翌日、授業を終え放課後になり、練習が開始された。本当であれば練習の最初はロードワークをする予定だったのだが、外が雨だったのでそれが削られる事となり、練習時間が余ってしまう結果となっていた。
「ちょうどいいわ。一年生対二年生でミニゲームしよっか!」
そんな状況を見越してか、リコは5on5のミニゲームを提案してくる。新入生の彼らの実力を見る上ではこれが一番うってつけであり、上級生たちの実力も示せる機会でもあるので、この提案は良案だろう。
「お兄ちゃん、これビブスね?ビブス貰ってない人はこっちに来てねー?」
「おう、サンキュ」
美南から渡されたビブスを着た累は、軽くこちらと先輩達の戦力の確認を行う。
「(先輩達は、去年の予選でベスト4って話だし、生半可なプレイじゃこちらが負けるな。火神の能力なら問題なく突破出来るかもだが・・・・・・)おい、火神」
「あ?何だよ?」
ゲームが始まる前に、一つ確認を入れたかった累はストレッチをしている火神に声をかけた。
「味方となった以上、お前のプレイに合わせてやるが、変に個人プレイだけをするのはやめろよ?お前一人で戦ってるわけじゃねーんだし、何よりこれはチームスポーツであって、たった一人の選手が”自己満足出来る遊び場”じゃねーんだから」
「は?んなの知るか。お前らが合わせられねーってんだったら俺は一人でプレイする。その方が点取れるしな」
「・・・・・・そうか。なら勝手にしろ」
火神のその返答にひどくガッカリした様子の累は、その場から離れていき自身もゲームに向けアップを始めだした。
「閻橙くん・・・・・・火神くんと何を話していたんですか?」
「いや、何でもない。とりあえず言えるのは、オレはあいつには絶対に”パスは出さない”。あんな自己中な野郎に出すくらいならお前や他の選手達に出した方がいいしな」
「・・・・・・」
あくまでも冷静なふうに喋っている累だったが内心ではかなり頭に来ていた。累は、火神のようないかにも弱者を見下したような態度をとってくる人物や、チームプレー精神のかけらも無いような人物を何より嫌う傾向があるので、火神と累は、言ってしまうと相性が最悪なのだ。
そんな何処かギスギスした空気が新入生側で漂う中で、ゲームが開始された。
一年生 PG 降旗光樹 PF 火神大我 SF 閻橙累 C 河原浩一 ?? 黒子テツヤ
二年生 PG 伊月俊 PF 土田聡史 F 小金井慎二 SG 日向順平 C 水戸部凛之助
「っ!しっ!行くぜっ!!」
ジャンプボールを制したのは一年生チーム。ボールを受け取った火神は味方も置き去るほど速攻で攻め上がり、景気の良いダンクを見せつけ先制点をもぎ取った。
「マジかよ・・・・・・何だ今のダンク。高校生のレベルじゃねーぞ?」
「こんなルーキーが入ってくれるだなんて・・・・・・嬉しいというか、恐ろしいと言うか・・・・・・」
荒削りでセンス任せのプレイをしている火神だが、その破壊力はかなりの物であり、日向達とは言えど、止めるのは至難の業だ。
「すごい・・・・・・やっぱりセンスで言えばキセキの世代と同等の物を・・・・・・」
「黒子、守備だ。切り替えろ」
「っ?はい・・・・・・!」
その圧倒的なプレイを見せた火神に驚いている周りとは対照的に、累は表情ひとつ変えずに守備へと戻っていた。
「さて、盛大なの貰ったわけだしこっちもお返しさせて貰うか!伊月、くれ!」
変わって今度は二年生チームの攻め。PGである伊月から日向へとボールが渡る。マークに付くのは累だった。
「胸を借りさせてもらいますよ?先輩・・・・・・!」
「おう!どんと借りてこいっ!・・・・・・ふっ!」
累がマークについたのもお構いなしに、日向は3Pシュートを放つ。綺麗なスピンのかかったボールはリングの中へと吸い込まれた。
「よっしゃあっ!!」
「すごい・・・・・・これが実力か。面白い!」
2-3とリードされた一年生組だが、ゲームはまだ始まったばかり。ここから巻き返せるチャンスは幾つでもある。そう心の中で鼓舞をした累は降旗からパスを受けると目の前にマークに来た日向に視線を向けた。
「さて、お手並み拝見と行こうか・・・・・・
「さっきは綺麗に決められちゃいましたからね。お返しはきちんと返させてもらいます!」
累は態勢を屈め、バックステップで日向との距離を取ると、そこからスリーを放った。先程の日向同様、綺麗なスピンのかかったボールはリングへと吸い込まれる。
「・・・・・・へぇ?良いシュート持ってんじゃねーか?相当練習を積んだな?」
「ええ。シュートは誰よりも練習したと思ってますので!」
これで5-3。再びリードした一年生チームは勢いに乗り、どんどんディフェンスでプレスをかけ出した。そして、伊月から小金井へのパスを累がカットすると一気に速攻で攻め上がった。
「よこせっ!」
「・・・・・・(ちらっ)河原!」
すでに前線には火神が上がっていて、累にパスを要求していたが、累はそれには従わず、隣で並走していた河原にパスを出した。速攻だった事もありフリーになった河原は難なくレイアップを決める。
「ナイス、河原!」
「ナイスパス閻橙!」
互いにハイタッチをした二人は揃って守備へと戻っていく。その光景を見た火神はひどく苛立ちを募らせていた・・・・・・。
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試合は滞りなく進み、現在のスコアは・・・・・・
24ー22
今の所ではあるが、一年生チームがリードしていた。主な得点パターンとしては、火神が個人プレイで点を取るか、累を筆頭に残りの4人で点を順当に取っていく・・・・・・と言う2パターンに分かれている。このまま行けば、勝つこともやぶさかでは無いのだが、そうはさせまいと二年生チームも作戦を変えてくる。
「火神にトリプルチームっ!?これじゃいくら何でも・・・・・・」
トリプルチーム・・・・・・つまり、火神相手に”3人”がかりでマークに付くと言う意味だ。しかも、ボールが無くとも常に二人のマークに逢う羽目となってしまった火神は実質的に、これ以降ボールに触れることはかなり難しくなっていた。
「いや、むしろ好都合だ。あいつにマークが多数入るってことは、誰かがフリーになる。そこをつくぞ?それと・・・・・・黒子?そろそろお前の力が必要になってくるんだが・・・・・・」
「もう少し待ってください。このチームの癖や動きの分析がもうすぐ済みますので」
「わかった。それまでの間は3人で攻めるから頼むぞ?」
「はい」
これを好都合と見た累は、黒子の準備が整うまでは彼以外で攻撃と守備を組み立てようとしていた。火神には常にマークが二人ついてる事もあって、火神を度外視することに決めた累は、降旗と河原を使ってゲームを組み立てていった。
・・・・・・とは言え、火神が全くボールを持たないと言う事はなく、時々ではあるが火神にパスが行ったりもするのだが、彼がボールを持てば・・・・・・。
「今だ!当たれっ!」
「「おうっ!!」」
「ぐっ・・・・・・ちぃ・・・・・・」
当然、トリプルチームでプレッシャーを与えにくるので、火神は太刀打ち出来ずにいた。
「火神!持ち過ぎだっ!こっちにパスよこせっ!」
「うっせ!テメェは黙ってろっ!こんなの俺一人で・・・・・・っ!」
「火神くん?ファールよ?」
火神のフォローをしに行った累を歯牙にもかけず、火神は強引に3人を突破しようと試みるが、強引すぎるあまり相手を倒してしまいファールを取られてしまう。
「火神!さっきから何処見てんだっ!いくら何でもさっきのプレイは無謀だってわかんねーのかよっ!?自己中も大概にしやがれっ!」
「テメェこそ!さっさと俺にパス寄越してりゃ良いんだよっ!パスくれりゃ、俺が決めてやるっつってんだからよ!」
「どの口が言ってるっ!さっきから何も出来てねーだろうがっ!それに、そんなにマークされてれば俺も他のみんなもパス出せるわけねーだろっ!・・・・・・ちっ、もういい。このゲームは、お前無しで組み立てる」
「・・・・・・何だと?もういっぺん言ってみろこらっ!!」
「二人とも落ち着けってっ!!」
累のこの態度には我慢の限界だったのか、すごい勢いで火神は累に掴みかかる。それに周りの選手達は必死になって止めに入るが、火神の怒りは収まりそうになかった。
「そんな馬鹿の一つ覚えみたいな個人プレイとダンクで今後の試合、勝てると思ってるのか?別にオレはお前に個人プレイをやめろって言ってるわけじゃない。個人プレイでも打開出来る場面は多くあるしな。だが、それだけで勝てる程、バスケは甘くはねーんだよ。だからこそ、臨機応変にその場その場でプレイを変えろって言ってんだよ。そんなプレイじゃ、今後お前のバスケは一切通用しなくなるぞ?」
「っ・・・・・・」
「お前が何を考えてるのかは大体検討はつくが、お前がその考えを持つ限り、オレはお前にパスを出さないし、頼る事もしないし、信用もしない。それを肝に銘じておけ」
火神の手を強引に離すと、さっさとその場を離れていった累。これが、いま累が火神に抱いてる印象であり、印象で言えば最悪と言って良いかもしれない。先程の火神のプレイをはじめとした一度も味方を頼らない個人プレイの数々、こちらを見下してるかのような傲慢なる態度・・・・・・それらすべてが累にとってはマイナスとなっているのだ。
「火神くん、ちょっと良いですか?」
「・・・・・・何だよ?」
そんな火神に、黒子が声を掛けにくる。
「火神くんはバカそうですし、今の閻橙くんの話はよく理解できなかったと思いますが・・・・・・」
「おいっ!?」
「少なくとも、彼は火神くんを思って・・・・・・期待をしてくれて言ってくれたのだと思っています。そうで無ければ、あんなに真剣に怒りはしなかった筈です」
「・・・・・・」
「今すぐに・・・・・・とは言いません。ですが、ちょっとずつで良いので閻橙くんや他のみんなのことも信用していただければ嬉しいです。彼らだって、キミが信用してくれたら嬉しいと思いますので。もちろん、それは僕も同じです」
黒子のその言葉に、火神はしばし何かを考え込むように俯いた。火神も別に好き好んでこのように振る舞っている訳ではなく、自分が信用できると判断した人物には共に協力し、勝ちたいとも考えてることだろう。実際、彼がアメリカでバスケに打ち込んでいた頃にはそう言った人物が数多くいた。ただ、アメリカよりもバスケレベルの落ちる日本に来てから、そう言った自分の信用できる人物と出会えなかった事もあって、今のように自分1人でプレイするようになってしまっただけなのだ。
・・・・・・だが、もしもこの場で、そんな選手に出会えたら・・・・・・?
「・・・・・・わかったよ。なら見極めさせて貰おうじゃねーか。この試合でお前らが信用に足る選手かどうかをよ。信用できねーってわかったら、俺はもう今後一切お前らのことは信用しねーからな。わかったか?」
「はい。それで構いません。僕達も精一杯頑張りますので」
「つか、偉そうなこと言ってる割に、お前は何もしてねぇし、ミスばっかじゃねぇかよ?本当にキセキの世代の奴らと一緒に戦ってたのかよ?」
「それはすみません。ですが・・・・・・もう準備は整いました。火神くん、この試合中ボールから目を離さないでください」
「はっ?どう言う意味だよ?」
「僕は影だ。・・・・・・点を取る光は、火神くんなので」
「・・・・・・?」
黒子の静かながらどこか熱いその言葉を聞いた火神は、内心ではまだ理解が追い付いてはいないものの、とりあえずはゲームに集中することとするのだった・・・・・・。
「さて、身体もあったまったし、そろそろギアを上げるか・・・・・・」
累が火神に対して厳しいですが、彼も火神の秘めたる潜在能力のことは認めていますし、実力も認めていますので黒子も言ったように期待を込めての発言であるとわかってください。
ちなみにスコアに関しては殆どの点に(火神の点は除く)累は絡んでいます。主にアシストや3Pでですが。次回で、累の本当の実力が明らかになるかも・・・・・・です。
累があまり目立っていませんが、まだ序盤なので今後どんどん明らかになっていく累の能力と実力にご期待ください!