「1年D組、閻橙累!全てを蹴散らし、全国制覇をしてみせるっ!!」
月曜日の朝8時55分。後5分で朝礼という中で、既に生徒達は校庭に集まっていた。そんな時、高校の屋上から校庭に向かって累の怒号が響く。当然、それに驚いた生徒達や先生達は屋上へと視線を向けていた。
”ウチの部に入りたいのなら、それなりの覚悟をこの場で示してね?”
カントクであるリコから、突然この屋上に呼び出された直後に、このような爆弾発言をされ累達1年は非常に困惑した。彼女曰く、この場での宣言は日向達2年生も去年にやったとの事らしいので、バスケ部に入る上でこれは避けることは出来ないのだそう。
ちなみに、ここで宣言した事が達成できなかった場合は、”この場で全裸で好きな子に告る事”が決定しているので、それを知った皆はかなり辟易としていた。とはいえ、宣言しないと入部出来ないので先陣を切って累が先の様な宣言をしたのだ。
その後に火神が宣言をし、それに続けと言わんばかりに他の1年達も宣言しようとしたが、その間にこの騒ぎを聞きつけた先生達に止められた事もあって、それは出来ない事となった。それからは屋上は出入り禁止となってしまったので、仕方なしに部活動時間にひたすら声出しをさせられ、リコが認めたものだけが入部という形をとる事になった。
ちなみに黒子は、翌日に校庭にラインマーカーで大きく『日本一にします』という文字を堂々と書いた事もあって、その功績と度胸を買われ入部する事が決まった。
入部が決まった1年生は累、火神、黒子、福田、河原、降旗の6人。最初は20人程いた入部希望者だったが、ここまで減った事には日向達も驚いたらしい。ともあれ、これで新体制の誠凛高校バスケ部が誕生した事もあり、リコも日向達もこれまで以上に力を入れてバスケに臨むようになる。
・・・・・・とはいえ、リコは少々力を入れ過ぎてしまったようだが。
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「海常高校って・・・・・・全国常連の強豪校じゃねーかよ?」
「そうよ?そんなとこと練習試合なんて滅多に出来ないし、それにあそこにはキセキの世代の一人、黄瀬涼太が入学したって話よ?ますます楽しくなりそうじゃない?」
「楽しくなるって・・・・・・ボコされるイメージしか湧かねぇんだけど?」
リコの口から発せられた思いがけない練習試合の相手に、部員達は揃って表情を青くしていた。海常高校は神奈川県にある私立の高校で、全国大会に何度も出場経験のある強豪校だ。それを知るものからすれば、そのような反応になるのも頷ける。
「いいねぇ?早くもキセキの世代とやれるんだろ?テンション上がってしょうがないぜ!」
「それについてはオレも同感だな。全国制覇を目指す以上、キセキの世代と戦うのは避けられないわけだし・・・・・・あれからどんだけ成長したか見てみたい気持ちもあるからな」
火神と累に至っては、早くも訪れたキセキの世代との対決に、胸を膨らませていた。
「ほら、みんなも二人を見習って?弱気になってちゃ勝てる勝負も勝てなくなっちゃうわよ?じゃ、早速練習始めるわ!」
話も程々に、リコは練習を開始する合図として笛を鳴らす。二人に感化されたのか、他の皆も迫る海常との試合に向けていつも以上に練習に熱が入っていた。自分達に勝つ可能性が少ないのは分かっているが、それでも得られるものはあるので、その機会を無駄にしない為にも練習をおろそかにする訳にはいかない。
「来い!火神!」
「・・・・・・しっ!!」
ミニゲームにて、火神と伊月がマッチアップする。伊月に一年の長はあれど、身体能力的には火神が圧倒的に有利。火神は持ち前のスピードと柔軟性を活かし、高速スピンムーブで伊月を躱すとそのままの勢いのまま、ワンハンドダンクで豪快にネットに沈めた。
「へぇ?あんな動きもできたんだな?」
「あんなフルドライブから切り返せるなんて。流石は本場のアメリカで鍛えていただけのことはあるって事かな?」
休憩中の累が今の火神の動きに感心している隣で、美南もまた彼の動きに驚きを見せていた。
「お兄ちゃんだったら、今のは止められた?」
「やってみなくちゃ分からないが、多分いけるな。何せ、見てて思ったがあいつには・・・・・・っ?」
累がさらに口を開こうとしたその時、ある”1つの行列”が目に入りそれを止めた。体育館の入り口から中に至るまで多くの女子高生が色紙を片手に順番を待つ光景に、累だけでなく他の部員達も目を丸くしていた。
「な、なんでここに・・・・・・?」
その行列を作った張本人がいる体育館のステージ脇に目をやったリコは、冷や汗を浮かべながらそう呟く。
「・・・・・・お久しぶりです。黄瀬くん」
「うん、久しぶり。・・・・・・あと、これどうしたら良いんスかね?」
「自分で考えてください」
少し疲れたようにそのように言う人物こそ、かつての黒子のチームメイトでもあり今は海常高校に身を置いている、キセキの世代・・・・・・黄瀬涼太だった。黒子は、彼がなぜこの場にいるのかが理解出来ず少し困惑していた。
結局、サインは後で書くと言う事にして一旦時間を貰った黄瀬は改めてここに来た理由を説明した。
「今日はどうしてここに?」
「ん?いや、次の相手が黒子っちのいる高校だって聞いたんで、挨拶に来たんスよ。・・・・・・ちょっと遠かったっスけどね?ウチの高校は神奈川にあるし」
「・・・・・・今の時間帯は練習中の筈では?わざわざ抜けてきたんですか?」
「・・・・・・?最近、モデルの仕事もあって練習はいってないっスよ?それに、別に行かなくても俺が一番強いし、別に良いかなって?」
「・・・・・・変わっていませんね?中学の頃からまるで・・・・・・」
黄瀬のその発言に黒子は勿論だが、累もそれなりに怒りを覚えていた。二人ともバスケには全てを賭けているほどに思い入れが強く、練習を休むなど殆どない。ましてや、累に至ってはバスケがしたくても出来なかった悲しい時期を過ごしていた事もあって、今の黄瀬の『練習行ってない』発言は頭に血を昇らせるのには十分すぎるものだった。
そんな時、闘志を燃やした火神が黄瀬に声をかけた。
「おい。お前が黄瀬涼太か?キセキの世代とか言う」
「へ?誰っスか?」
「名前なんていいだろ?早速だが、俺と勝負しろよ?」
「急に言われても・・・・・・・・・・・・まぁ、いいか。”いいもん”見せてくれたし」
少し渋った黄瀬だったが、最終的には了承した事で火神と黄瀬の1on1が行われることとなった。
「準備はいいっスか?」
「おう!いつでも来い!」
意気込んだ火神だったが、勝敗はあっさりと決した。黄瀬はドリブルで持ち込むと、なんとさっき火神が見せた高速スピンからのワンハンドダンクを華麗に決めてみせた。そのキレもパワーも火神を上回っていて、火神も追い縋るのがやっとだった。
「あれ?意外と大したことないっスね?・・・・・・ちょっと拍子抜けかも」
「テ、テメェ・・・・・・今のはさっきの俺の・・・・・・」
自分の技を最も簡単に真似され、あまつさえ自分よりも精度の高いそれを見せつけられ、流石の火神も動揺していた。無論、それを見守っていた黒子達も同様に。
「へぇ〜?真似っこなのは相変わらずか・・・・・・」
「うん、そうみたいだけど以前に比べてみれば、技術もキレもパワーも格段に上がっているね。あの時はお兄ちゃんに一方的にやられてたから気付かなかったけど、やっぱりこの人も凄い才能を・・・・・・」
「へへ、こうでなくちゃな。またボロカスに負かしたところで面白くもなんとも無いし」
対して累と美南に至っては、以前の黄瀬に比べて格段にレベルが上がっている事を実感したのか、少し興味を唆られていた。
「(拍子抜けもいいとこっスね。こんなんじゃアレだし、黒子っちをウチの高校に誘って・・・・・・って、うん?)」
火神の実力に格付けが済み、落胆していた黄瀬だったが”ある人物”に気がつくと共に訝しげな表情を作る。
「・・・・・・ん?何だ?」
「ちょっと聞きたいんスけど・・・・・・もしかして、閻橙っち・・・・・・っスか?」
ある人物、もとい累に対してそう問いかける黄瀬は何処か目をキラキラとさせていた。そんな黄瀬に対して首を傾げた累は徐に口を開く。
「”っち”って何だよ?・・・・・・まぁ良いけど。久しぶりだな、黄瀬涼太。・・・・・・あれから練習したか?」
「やっぱ閻橙っちじゃないっスかっ!うわー・・・・・・その憎たらしい顔、未だに思い出せるっスよー!!」
過去で累と対戦した事を思い出したのか、恨み節を口にしながら薄ら笑いを浮かべる黄瀬。
「憎たらしい奴をよく覚えていたもんだな?最後にやったのかなり前の筈なのに?」
「あんな”トラウマ”を植え付けたアンタを忘れるわけ無いじゃないっスか〜?俺、メンバーの中で一番アンタにやられたんスよ?」
「まぁ、それは事実だが。とはいえ、試合には勝ったんだから良いんじゃねーのか?」
「全然良くないっス!て言うか、あの時出てたメンバーで勝ったからって試合内容に納得してる奴なんて誰もいなかったっスよ?いくら赤司っちを怪我で欠いて居たとはいえ・・・・・・あそこまで追い詰められたのなんて今まで無かったから」
苦い顔を浮かべ出す黄瀬。その試合、実は当時主将であった赤司征十郎は、先日の練習で足を軽く負傷してしまい、大事を取ってベンチに下がっていたのだ。その代わりとして黒子が起用された。とはいえ、黒子は試合時間フルで戦う事は出来ないので、前主将である虹村修造も試合に出ていた。
赤司を欠くとは言え、相手は無名の学校でありこちらは昨年の全中で優勝を成し遂げた名門校。苦戦を強いられる事もなく大差で勝てる・・・・・・と誰もが予想した中での”あの試合”である。
選手達は勿論の事、それを見守っていた監督やコーチ、周りのギャラリー達もこぞって絶句していたらしい。
「そうですね。僕も流石に当時は驚いていました」
「でしょ?やっぱり黒子っちもそう思う・・・・・・って、いつの間に隣に!?」
「さっきから居ましたよ?話に夢中で気づいていなかっただけでしょう?」
いつの間にか自分の隣にいた黒子に、黄瀬はかなり驚いていた。
「あーびっくりした・・・・・・。あれ?よく見たら、閻橙っちの妹さんもいるじゃ無いっスか?確か美南ちゃん・・・・・・だったっけ?」
「おう、こら?何、人様の妹を勝手に名前呼びしてんだ?お前、次の試合でまた前みたいにボロカスにされてーのか?」
「前みたいには行かねー・・・・・・い、いや何でも無いっス、すんません・・・・・・」
累の強い気迫に押されたのか、黄瀬は青い顔を浮かべながら言い淀む。シスコンである累の目の前で許可なしに美南を名前で呼んだりふしだらな行為をしようものなら、すぐさま累から制裁が入るらしい(by 元中学の同級生)。制裁がどの様なものかはあえて伏せておく。
「お兄ちゃんたら・・・・・・。兄がごめんなさい。久しぶり、黄瀬くん。前にバスケ雑誌であなたが載ってるのを見たよ?勿論、あなたが”海常で試合に出てるところ”もバッチリ見させて貰ってるから」
「マジっスか、みな・・・・・・閻橙さん。見てもらえて嬉しいな・・・・・・あれ、嫌な予感がするんスけど、もしかして既に
「ふふ・・・・・・どうでしょうね?それは次の試合でのお楽しみに・・・・・・と言うことで」
少し悪そうな笑みを浮かべる美南に対し、黄瀬の顔は引き攣っていた。あの試合において、自分達があれほど苦戦を強いられたのは、累は勿論だがこの美南にも要因があったと言うことは既に彼も知っている。だからこそ、恐怖を抱くのだろう・・・・・・帝光中に存在した”情報収集のスペシャリスト”にも引けを取らない程の情報収集力と分析力、想像力、発想力を兼ね揃えた・・・・・・この閻橙美南という人物に。
「お前が成長してるって事は分かったよ。・・・・・・だから、それを次の練習試合で見せてくれよ?リベンジするつもりなんだろ、オレに?」
「勿論っスよ。本当は黒子っちを持ち帰ろうかなって思ってたんスけど、これは思わぬ収穫っス!早速、笠松先輩達に話さないと!」
「黒子を持ち帰る?・・・・・・お前、男をお持ち帰りする趣味なんてあったのか?」
「なんか変な意味で捉えてないっスかっ!?そうじゃなくって俺が言ってるのは・・・・・・」
「黄瀬くん。僕にそっちの気は一切ないですよ?」
「黒子っちまでっ!?だからそうじゃ無いってば〜!!」
涙目になりながら必死に説得しようとする黄瀬に、その場から笑いが起こる。結局、その後1時間をかけて説得した黄瀬はげっそりとしながらその場を後にしていった。黄瀬が来るという緊急事態に最初は戸惑った彼らだったが、これをきっかけに練習試合までの期間をより気合を入れて練習をする様になった。
特に火神に至っては、黄瀬と戦った事で自分の実力を自覚したのでより一層、練習に力を込めていた。
海常高校との練習試合で、自分に得られるものを得るために・・・・・・。
次回はいよいよ海常戦です。本文にありましたが、累は赤司とは戦っていません。プロローグで美南が言っていた『5人』と言うのは赤司を除いたキセキの世代と黒子の事を言っています。もし赤司と戦っていたら6人と言ってます。
まぁ、赤司がいたらもっと試合を有利に進められたかも知れませんが、何となく累だったら対応してきそう。仮に、累とマッチアップして完敗したら原作よりも早く"僕司くん"が出てきてしまうかも知れませんね。
ちなみに、黄瀬が一番累にボコされたのは単にポジションが同じだったと言うだけです。当時はバスケを始めて間もなかったとはいえ、黄瀬は運が悪かったとしか言えない。